「花丘さんは指導室まで来るように」
教頭が穏やかな表情で言った。
「は、はい」
叱られるのだろうか。イサミは暗澹たる気分に襲われながらもうなずいた。
クラスメートたちの同情の視線を浴びながら、教頭の後について歩いてゆく。
指導室は校舎の一階のどんづまりにあった。別名「監獄」ともいう。ここで正座させられ、教師の説教を食らった生徒は数多い。そのヌシと呼ばれているのが教頭だった。
その部屋は六畳間ほどで、面談用のソファと椅子がある。いずれも年期が入ったものだ。壁に沿って置かれたスチール棚には、これ見よがしに竹刀が立て掛けられている。
教頭はイサミを中に招じ入れると扉を後ろ手に閉めた。カチャリと掛け金がおりる音がする。
「花丘さん、座りなさい」
「はい……」
不安感にさいなまれつつ、イサミはソファに腰をおろした。
「どうして呼び出されたのか、わかりますか」
教頭がイサミを見下ろしながら訊いてくる。
イサミは首を横に振った。
教頭の顔が曇る。
「今朝がたからあなたの行動には落ち着きがありません。一時間目の授業にも集中できていなかったし、体育の時間にも遅れましたね。ふだん、まじめなよい生徒だと高木先生から聞いていたのに、いったい、これはどういうことですか」
「すみません」
イサミはうなだれる。教頭に叱られているからだけでなく、高木はるか先生の期待を裏切った形になってしまったことが、なおのこと悲しい。
「あなたの集中を妨げている理由はなんですか?」
教頭の質問に、イサミはソファの上でちぢこまる。まさか、ノーパンのアソコがムズムズするから、とは言えない。
押し黙っているイサミに、教頭は困ったものだと言いたげな表情を浮かべる。
「言えないのですか? では、私が言ってあげましょう。花丘さん、今日、下着はどうしたのです?」
ばれてる!
イサミは心臓がドキドキ跳ね回るのを自覚した。両膝をつかんで、ぎゅっと股を絞る。
「隠してもむだですよ。身体の線がくっきりとでているのですから」
「そ……そんな……ことは……」
ありません、と言おうとして、言葉につまった。教頭の細い目がイサミを見据えている。
「どうして、下着を着けずに学校に来たのですか」
「それは……おかあさんが全部洗濯してしまって」
ほんとうのことだ。イサミはもとより意識してウソをつける性格ではない。
だが、教頭は怖い顔をした。
「そんな言い訳は通じませんよ。花丘さん、あなた、一時間目、シャープペンシルをつかって、身体のどこかをこすっていましたね? いったい、何をしていたんです?」
教頭のさらなる追求に、イサミの目の前が暗くなる。
「ご、ごめんなさい」
「あやまってもだめですよ。授業中に、何をしていたのか、きちんと説明するまでは」
「それは……」
言えるわけがない。自分でも、なぜそんなことをしたのかわからないのに。
「言いなさい」
教頭は厳粛な声で命じた。
「シャ、シャーペンで……」
「どこをこすっていたのです?」
「あ、脚の間を……」
「もっと具体的に!」
「お……」
イサミの声は震えていた。
「おしっこの……出る……ところを……」
ぞくぅっ!
イサミの身体に電撃にも似た戦慄が走った。無意識に内股を締めて、手で押さえつける。そうしないと、そこからなにかがほとばしりそうな――
恥ずかしい秘密を告白する刹那の快感に、イサミは打ちのめされていた。すでに、教頭の質問が教育者のそれを逸脱していることにも気づかない。いや、気づけない。
「花丘さん、それは、自慰行為といって、いけないことなのですよ?」
「ご、ごめんなさい……」
「だめです」
きっぱりと教頭は言った。
「どのようにして授業中に自慰をしていたのか、ここでやってみせなさい」
「そ……そんな」
イサミはうろたえながらも、その部分を固いペンの軸で刺激したときの快美感を想像して身体の芯が熱くなった。
「で、できません……」
「やるんです、さあ!」
教頭は、ポケットから三色ボールペンを取り出して、イサミに突きつけた。軸が透明なプラスチックでできた、軸太のタイプである。
イサミは、そのペンから目が離せなくなった。すでにそれは筆記具ではなく、いやらしい器具にしか見えなくなっている。
「はやく!」
教頭にせかされて、イサミはペンを受け取った。それはすなわち、教頭の目の前で自慰をすることに同意した、ということである。
「どんなふうにしたのです? 見せてみなさい」
教頭の目があやしく光る。
イサミは羞恥に顔を真っ赤にしながらも、脚を軽く開き、股間にペン軸をはさんだ。
「こうやって、脚の間におしつけて……あっ」
じんじんと火照っているその部分は、イサミの想像を超えて過敏になっていた。
思わぬ刺激の強さに、イサミは陶然となる。
ワレメにプラスチック製の異物をめり込ませ、ぐりぐりと動かすだけで、エッチな衝動が突き上げてくる――もっと、つよく、奥のほうまでかきまわしたい!
「花丘さん、それではよく見えませんよ。脚を広げて、どこをどうしているのか、わかるようにしなさい」
教頭の言葉はいまのイサミにとっては絶対だ。
ソファの上で脚を広げて、股間をさらした。スパッツをはいているとはいうものの、その極薄のナイロン生地は、イサミの秘められた部分がいまどうなっているか、完全に暴露してしまっている。
ぐっしょり、というより、ぐちょぐちょになっている股間の染みは、すでに陰裂のみならず肛門のあたりまで拡大していた。
「靴を脱いで、ソファに足をのせて、そう――」
教頭はイサミを操り、股間がより見えやすくなるよう姿勢を変えさせる。両の脚でアルファベットのMを描く、いわゆる「M字開脚」のポーズだ。
「それで、やってみなさい」
「は、はい……」
イサミの声が潤んでいる。もう、とまらない。
ボールペンを肉の合わせ目にこじ入れて、敏感な部分を圧迫する。
ワレメの奥に隠された肉芽のふくらみがペン軸によって押し潰され、形をかえるさまが、透明プラスチックごしに見て取れる。
「うあっ……! あくっ!」
「ほほう、そのあたりが気持ちよいのですか?」
教頭がイサミの股間をのぞき込みながら質問する。
「うぁっ……は、はい……」
教頭の視線、そして吐息を感じながら、イサミは強烈な快感にさいなまれていた。
「よいことを教えてあげましょう。その部分はクリトリスといって、女性の身体でも、特に敏感な場所なのです」
「くりとりす……?」
「そうです。まあ、子供のうちは、クリちゃんと呼ぶ方がよろしいでしょう。復唱して」
「く、クリちゃん……っ」
「質問しますよ。気持ちいいのはどこですか?」
「クリちゃん……です……っ!」
「それはどこですか? 場所をしめしなさい」
「ここ……ここですっ」
イサミはペン先で突起を指し示す。ふるふる震える先端がその部分を小刻みに刺激する。
「ほう? そこですか? ならば、そこを重点的にこすってよろしい」
教頭先生のお許しが出たとたん、イサミはタガが外れたように、その部分を、その部分だけを刺激しはじめる。ペン先を押し当て、快感を生み出すボタンを乱打する。
「うあああああっ!」
教頭の言うとおりだった。ピンポイントに性感の中心を揺さぶられて、イサミは動物じみた声をあげた。
「教頭先生、ここっ、すごいです……」
夢中で感じる場所をいじり続けるイサミ。もはや、羞恥心はぶっ飛んでしまい、教頭の前で股を開いて、オナニーに没頭する。
ボールペンの先端をワレメに入れて、上下に動かす。引っ掻くように、えぐるように。
もう、ほとんどサル状態だ。
「気持ちいい! 気持ちいいん! んくっ。ふあああっ!」
「ふっふっ、そろそろよさそうですね」
教頭はつぶやくと、書架を開いて、DVカメラと三脚を取り出してセッティングする。
液晶ファインダーを覗いて、イサミの必死なオナニーシーンがフレームにおさまるように調節する。
「こういうビデオは高く売れますからね……いやはや、黒天狗党の活動資金を稼ぐのもたいへんですよ」
教頭がふっ、とつぶやいた。その瞬間だけ、疲労した初老の男の顔になる。だが、すぐに峻厳な教育者の態度を取り戻す。
理科の実験の準備でもするように、さまざまな道具を書架の引き出しから取り出しはじめる。
大小さまざまなバイブ、潅腸用の注射器や洗面器、荒縄、むやみに太くて赤いキャンドル、ギャングボールなどなどのSMグッズが満載である。
「今日はどれを指導してあげましょうかねえ」
教頭は色とりどりのアダルト・トイを見渡した。いずれも、小学校の授業では使うはずのない「凶材」だ。