それは、ピンク色のプラスチックでできた丸っこい物体だった。そこから細いコードが伸びて、コントローラーにつながっている。
弾む息を整えながらイサミが思ったことは、「可愛いかも」ということだった。むろん、そのモノの正体をイサミは解っていない。
「花丘さん、これは、ピンクローターといいましてね、初心者用のヴァイブレイターです。ヴァイブ……リピートアフターミー、ヴァイブ」
「ば、ばいぶ」
イサミはたどたどしく繰り返した。もともと帰国子女であるイサミのほうが発音そのものはよいはずなのだが、言い慣れぬ語彙だけに、どうしてもぎこちなさがぬけない。
「グード。では、これの使い方を教えてあげましょうね」
満足そうにうなずくと、教頭はローターをイサミの股間に押し当てた。スイッチを入れる。
ビィィィィィィィ……
くぐもったモーター音とともに、小刻みな振動がイサミの官能を揺さぶった。
「あ!? ああ! うそぉ……」
自分の指では絶対に不可能な高速バイブレーション。それが、興奮さめやらぬイサミのクリトリスを直撃し、振動させる。
「おっ、あっ、う……くぅ……!」
イサミは身もだえする。何かに掴まろうとして、虚空に手を差し伸べる。
「どうです? 気持ちいいでしょう?」
「う……はぁ……なに、これぇ」
「これがハイテクというものですよ。文明の利器ですね。これがあれば、腕がだるくなったり、肩が凝ったりすることなく、女性を悦ばせることができるのです」
教頭が黄色い歯を見せて笑いかけてくる。
だが、いまのイサミには、ピンクローターの振動がすべてだ。凝集した神経に送り込まれる快の情報――それが桃色の世界にイサミをいざなっていく。
「び、びりびりするぅ……」
ただでさえたっぷりと自慰に興じて高ぶったイサミの肉芽だ。機械のもたらす律動をすんなり受け入れ、さらに興奮度を高めていく。
振幅そのものが快感のパルスに変換されていくようだ。イサミは夢中になり、教頭の手にあるローターに自らの肉芯をこすりつけていく。
「ほう? また、ぬるぬるしたものがしみだしてきましたよ?」
スパッツの色も変わってきていた。さっきまでとは比較にならない量の愛液が布地を通じてわき出して、ほとんどお漏らししたかのようだ。
教頭はローターを動かして、イサミの潤った入口付近を愛撫する。柔肉にはさまれて負荷がかかったのか、モーター音がくぐもった。
振動が身体のなかまで届く気がして、イサミは小さな身体を引き絞る。
異物がイサミの中をうかがっている。
スパッツが阻んでいなければ、このまま、つるん、と入ってしまいそうだ。
「せんせ、い、入れて……」
思わず口走ってから、イサミは自分で驚いた。
そんな欲求が自分のなかにあったなんて、思いもしなかった。
イサミだって、今時の子供だから、セックスというものは知っている。それをすることで赤ちゃんが生まれるということだって、当然わかっている。
だが、もちろん、自分がそれをするのはもっとずっと先――未来のことだと思っていた。
興味はあるけれど、まだまだ無縁な行為――そう思っていた。
それが、違っていた。スパッツ直穿きによって目覚めたなにかが、教頭によって強引に開花させられようとしていた。花開いてみれば、散るところまで全うしたくなる、というのが本能なのかもしれない。
「なにを、入れてほしいのです?」
ローターをイサミの奥に押し当てながら、教頭が問いかける。
「わ、わかんない……けど」
イサミは混乱しつつ、懇願した。
「して……ほしい」
「なにをですか?」
教頭がさらに問う。
「わたしに、なにを、してほしいのですか?」
迫りくる教頭の声とともにローターの回転が高まる。教頭がスイッチを強に切り替えたのだ。
「あうぅっ……あああぁっ!」
イサミは股間を襲うバイブレーションに喜悦の声をあげる。ローターがスパッツ越しの柔襞にめりこみ、粘膜を刺激する。
気が遠くなりそうだ。
だが、それだけでは足りない。薄皮一枚隔てた愛撫では、突き抜けることができない。
決定的な何かが必要だ。
ほころんだつぼみの奥を引き裂く、なにか固くて大きなモノがほしいのだ。
「もっと……せんせい……して……」
「してほしいことを、はっきり言いなさい」
「せ……せっくす」
イサミはその言葉を発していた。単語としては知っていても、発音するのはたぶん初めてのことだろう。
「セックス、教えて、教頭先生」
「答えにたどり着きましたね、花丘さん」
教頭はニッコリと微笑んだ。
問答こそギリシャ・ローマの時代から教育の基本だ。教師は生徒に問いを発し続ける。生徒が正答に達するまでそれを続ける。
『ただ、問題の解き方を教え、答えを教えるだけが教育ではありません。生徒に課題を与え、みずから考えるように仕向けること――それこそ、あるべき教育者の姿なのです』
それがこの教頭の長年のモットーなのだ。
「よいでしょう。花丘さん、教えてあげましょう。おとなになるためには、だれしも体験しなければならないことです。あなたの場合、それがちょっと早まるだけなのですから」
教頭は言い、ズボンを脱いだ。下着もだ。
毛ずねをあらわにし、下半身は靴下とサンダルだけの姿となる。
イサミの目は、当然教頭の股間に吸い寄せられる。
父親のそれは知らない――幼すぎてあまりよく覚えていない。
同居している祖父のものと比べようにも、状態が違う。教頭のそれは首をもたげ、大きく膨らんで、猛っている。
初めて見る、おとなの男の臨戦体勢であった。
むかしテレビで見たエイリアンの幼生みたいだと思う。グロテスクだ。人間の身体にどうしてこんな形と色の器官が存在できるのだろう?
「おとなのペニスは初めてですか?」
あまりにまじまじ見ていたからだろう、教頭は苦笑をうかべた。もしかしたら、少し照れていたのかもしれない。
イサミは頬を熱くしてうなずいた。
「さわってもいいですよ」
教頭の言葉に促されて、イサミはおずおずと手をのばす。
指が触れそうになったとき、棒状の器官がぴくんと動いて、イサミはおもわず手を引っ込めた。
「ははは、花丘さんにしごいてもらえると思って、期待をしてしまいました。気にせず、さわってみなさい」
「はい……」
気をとりなおし――というほどには明晰ではない意識のままに、イサミは男の生殖器官に手をそえた。
生暖かくて、やわらかいようなかたいような、不思議な感触だ。亀頭は赤黒く紫色に近く、笠が張り出している。お伽話でお姫様があやまって食べてしまう毒キノコのようだ。
「にぎって、上下に、しごくようにして――もっと大きく、固くなるように」
「もっと大きくなるの?」
イサミは驚いて目を丸くする。教頭は重々しくうなずく。
「もちろんです。まだこんなのは七分――いや五分程度ですよ」
「きょ、教頭先生……すごい……」
イサミは崇拝の視線で教頭をみあげた。目がとろんとしてくる。
「さあ、しごいて」
「はい」
小さな子供の手が教頭のペニスをしごきはじめる。
「ああ、固いよう、大きいよう……それにドキドキ脈打ってるみたい」
たしかに、教頭のモノはサイズと硬度を増していた。自己申告したとおりの五割増しとまではいかなかったが、イサミからすれば、両手でも扱いかねる巨根であることはまちがいない。
「ふふ。舐めさせてもよいのですが……それは別の授業に譲りましょう。わたしも、もう辛抱できませんしね」
お気に入りのオモチャを見つけた子供のように教頭のペニスに指をからめるイサミを見下ろしながら、教頭はつぶやいた。
と。教頭はイサミの手から玩具を取りあげた。すなわち、腰を引いて、イサミの肩をつかむ。
「さあ、下を脱いで、脚を開いて」
「は、はい……」
さすがに緊張してか、イサミの声がうわずった。
改まると恥ずかしさがわいてくるのか、後ろ向きでスパッツをずりおろす。あらわになった子供の白い尻を見て、教頭が目を細めた。
イサミがソファの上で脚をひろげる。顔が興奮と羞恥で真っ赤だ。広げられた白い股間の中心に、鮮やかなピンク色の亀裂が見える。その部分は、愛液に濡れそぼり、ふるふると震えているようにさえ見える。
教頭は自分のペニスをひとしごきすると、イサミの粘膜に近づける。
「さあ、それでは、いよいよ花丘さんの処女をいただきましょうかね……」