うたかたの天使たち 第七話

まふゆのファンタジスタ
真冬の幻奏者

気恵編

 会場はもはや乱交パーティさながらだった。

 観客たちはほとんど例外なくたがいにむつみあっていた。女子社員は男子社員に貫かれ、あぶれた男たちは宴会コンパニオンに挑みかかっていた。ドリエモンも、複数の秘書たちと奮戦中だ。

 この空気のなかでは、リング上の情景もあながち異常ではないと思えてくるから不思議だ。

 高くかかげさせた気恵くんのおしりを、HHHHが左右に大きく広げる。

 中出し精液でべとべとの気恵くんの性器が広げられる。

「まるみえだぜ」

 HHHHが笑い声をもらすほど、無防備なおしりだ。性器ばかりではなく、肛門までも――あらゆる粘膜をさらすはめになる。

「あああ……広げられてる……すぅすぅする……」

 気恵くんが朦朧とした意識のなかで声をもらす。

「い、入れられちゃう……」

 そうだ。外人ペニスが嬉々として反り返りつつ、気恵くんのワレメをさぐっている。

 半ば開いたままの入口に亀頭をもぐりこませる。

「うっ……あ……だめぇ」

 異物感に身をすくませる気恵くん。いやいやするようにおしりを動かすが、HHHHとアンダーファッカーが二人がかりで動きを封じる。

「なんだよ、さっきは自分から腰を振っていたくせに、今度はダメなんて、ひどいぜ」

 HHHHがせせらわらう

「だって……それは……ゆういちが……」

「彼氏はぶったおれたままだ。もう足腰も立たないようだぜ?」

 くやしいが、その通りだ。ふだんから運動不足だってのに、アンダーファッカーみたいなでっかいレスラーとやりあえるはずもない。

 気恵くんがおれを見る。さっきみたいな欲望に満ちた目ではなく、絶望に彩られた、弱々しい視線だ。

「ごめ……ゆうい……ちっ!」

 気恵くんの声が苦鳴にかわる。後ろから、外人の巨根が気恵くんを貫こうとしている。

 だが、大きなペニスは容易には入らない。膣口をとらえきれず、二度三度、亀頭がすべった。

「ふああっ!」 

 でも、それが気持ちいいのだ。気恵くんはのけぞり、声をはなった。

 次こそは――

 手をそえて挿入をはかる外人のペニス。

 ぬぷっ……

 ペニスが気恵くんの体内に消えかけた、その時――

「やめろぉっ!」

 おれは全身の力を振り絞って起き上がると、ペニスを露出させているマクガバン会長に体当たりをかました。

「オウッ!」

 ぐらつくマッチョなマクガバン会長。

「きさま!」

「まだ動けるのか!」

 HHHHとアンダーファッカーが怒声とともに、おれに向き直った。気恵くんを放すと、おれに襲いかかる。

 2メートルを超える巨人ふたり――おれは決死の思いで両腕を突き出した。

 ぐにっ、と柔らかい感触が掌に伝わる。さすが、身長2メートル。バストも1メートル以上ありそうだぜ。

「きゃーっ!」

「ホワーッツ!?」

 HHHHとアンダーファッカーはそれまでのドスのきいた声とはかけはなれた、甲高い声をだした。

 気恵くんとおれにさんざんセクハラしまくったわりに、意外な反応だな。だが、胸は女子レスラーの急所ってのは本当らしい。

 は? HHHHとアンダーファッカーが女だったことに文句があるのか?

 だけど、おれは一度だって、HHHHとアンダーファッカーが男だなんて言ってないぞ。

 ほんとだって。

 読み返してみろよ。

 だいたい、気恵くんが、男子レスラーとの戦いをすんなりオッケーするわけないだろ? そんなのは本格派レスラーを目指す気恵くんのスタイルではない。

 XYZの女子レスラーのトップ、HHHHとアンダーファッカーだから、戦うことを承諾したのだ。

 つまるところ、HHHHとアンダーファッカーは巨大な女子レスラーであって、チンチンは持っていない。

 じゃあ、気恵くんに中出しした男ってのは――

 リング上には二人の男がいた。おれとマクガバン会長だ。気恵くんに迫った二本のペニスの持ち主も、当然この二人しかありえない。

 ――むろん、おれの場合は自分の意志ではなく、アンダーファッカーにボコられて、操られていたんだが。

 気恵くんが二本のペニスのうち、「小さい方」を選んだ理由もこれで明らかだろう――くそっ。

 それにしても、マクガバン会長が大張り切りで気恵くんに挑みかかったのは意外だったな。紳士ぶりやがって、スケベじじいめ!

 ともかくも、人畜無害なはずのおれの突然の反撃に外人軍団は混乱している。チャンスだ。

「気恵っ! いまだっ!」

 朦朧としていた気恵くんの顔に闘志がもどった。これがレスラーの本能か。

 天性のバネを解放し、HHHHにショルダータックルをぶちかます。巨体がバランスを崩した瞬間、太い首根っこをつかんで自分の身体ごとマットにたたきつける。スタナーってやつだ。

 派手に転がるHHHH。軽量の気恵くんの攻撃とはいえ、自重も含めたの衝撃がかかるから、さしものHHHHも起き上がれない。

「ファック!」

 わめきながらアンダーファッカーが気恵くんに突進する。おれを無視して、目の前を通り過ぎようとする。まあ、いちおう女性だから、殴りはしないけど、ちょっぴり仕返しの意味もこめて、おれはその足を払った。

「オウッ」

 たたらを踏むアンダーファッカーに気恵くんは掌底で下からカチあげる。のけぞったすきに首に腕をまわし、今度はコーナーポストに駆けのぼる。アンダーファッカーの首をつかんだまま、コーナーポストの頂上で背面宙返りを敢行――アンダーファッカーは後頭部からマットにたたきつけられる。これは、シラヌイって技だな。身体が小さく敏捷だからこそ初めて可能な必殺技だ。

 戦闘不能に陥るHHHHとアンダーファッカー。

 いつしか、観客もエロ行為をやめて、リング上の戦いに見入っている。

 キエ、キエ、キエ!

 キエコールまで起こってるぞ。どういうことだ。

 おれは戸惑ったが、それ以上にアタフタしていたのはマクガバン会長だった。股間からだらりとしたものを露出させたまま、激しく肩をすぼめて、敵意のないことを示そうとしている。

 が、気恵くんはちらりとおれを見やり、簡潔に訊く。

「ゆういち、いい?」

「かまわんぞ」

 おれは答えた。いくら相手が2メートル級のレスラーだからといって、女とは戦えない。だが、オッサン相手なら話は別だ。

「ふ、二人がかりはフェアじゃないぞ!」

 マクガバン会長の主張を華麗にスルーすると、おれは相手にしがみついた。

「おれごと、刈れぇっ!」

 おれの叫びにうなずいた気恵くんは、マクガバン会長とおれを変形の大外刈り――いわゆるスペース・トルネード・ウタカタ――STUでマットにたたきつけた。むろん、背中からまともにいったのはマクガバン会長の方だ。

 気恵くんはマクガバン会長をフォールした。そこに、レフェリー姿のオッサンが駆け込んできて――あとから聞いた話だと反社長派の副社長らしい――カウントを取り始めた。

 ワーン、ツーゥ……

 一瞬の間。

 スリー!

 マクガバン会長はレスラーじゃなかったんだが、なぜかノリでスリーカウント入ってしまい、ゴングが打ち鳴らされた。

 観客は総立ち、座布団が舞うなか、気恵くんとおれは勝ち名乗りをあげた。

 そこに――

「おもしろいよ! すごいね!」

 ドリエモンが昂奮しつつ、リングに上がってきた。気恵くんの手を握り、ぶんぶんとふりまわす。

「ぼくはプロレス団体を作りたくてね。XYZを今回呼んだのも、提携の計画があったからなんだよ。ぼくが作る団体のエースにきみをスカウトしたい! 契約金は5000万――いや億でもいいかな。カネなんて株を刷ればいくらでも作れるんだから……」

 早口に言い立てるドリエモンだが、やっぱり股間からナニが露出していて、しかも、ビンビンに立っている。

 気恵くんの額に青筋が立ち――

「いいかげんにしろおっ!」

 ドリエモンをマットにたたきつけた。

蛇足

 そんな感じで気恵くんのデビュー2戦目は終わったわけだが、その直後、ドリエモンは逮捕され、エニウェア・ドアは倒産――そこからの支援を受けられなくなったXYZも大幅に規模を縮小せざるを得なくなり、ライバル団体に買収されてしまったそうだ。諸行無常ってやつだな。

 その顛末がどう世間に伝わったのか――謎の少女レスラー、キエ・ウタカタがエニウェア・ドアとXYZを潰したという噂がたち、気恵のもとにはさまざまな団体からのオファーが殺到するようになってしまった。

 だが、気恵くんとしては、

「いまは受験!」

 なのだそうだ。

おしまい