「ああ、やっと終わった」
ルイズは大きく伸びをする。サイトが留守だとすることがなくてヒマなので、珍しく部屋の掃除を自分でしてみたのだ。ふだんろくに掃除など しない貴族だけに、一通り作業を終えるのにずいぶん時間がかかってしまった。シエスタがいれば一瞬で終える仕事だったろうが。
「今夜にはサイトが帰ってくるもんね」
ベッドもシーツも綺麗にしておきたい。
部屋を掃除し、準備を整える行為自体、新居で夫の帰りを待つ妻のようで気分がウキウキした。
あれから3日。
マリコルヌとは言葉も交わしていない。水精霊騎士隊の連中ともだ。もう、あれは終わったこと――秘密はおたがいに守る――幸い、先日生理 があったことでわかる通り、妊娠はしていない――あの日もマリコルヌとは口とおしりでしかしていないし――それで安心するのはどうなのか、と いう問題はあるけれど。
生理も終わって体調もいい。我ながらお肌のコンディションも髪の色つやも最高だ。ただでさえ美少女なのに、今ならまちがいなく、トリス ティン最高の、という枕詞がつくだろう。なんてことを思いたくなるくらいに絶好調だった。
その、ノックの音があるまでは。
「サイト!?」
子犬のように迎えに出たルイズは、開きかけたドアを途中で止めて固まった。
そこにいたのはマリコルヌだった。
ニヤニヤ笑いが腹立たしい。
「――何の用? ここ、女子寮よ」
「知ってるさ。隊務だからね。特別に入ることを許可されたのさ――っていっても、どうせいま寮にいるのは君だけだけど」
「隊務って?」
マルコルヌは手にした書類をひらひらさせる。
「これだよ。開けてくれないかな、ルイズ」
「――手紙? それならそこで読みなさいよ。レ、レディの部屋にそう簡単に入れると思わないで」
ここはルイズの城だ。残された数少ない――それでも。
サイトが帰るまで、ルイズがここを守るしかない。
「レディねぇ……ま、いっか」
引っかかる言い方をしつつ、マリコルヌは書類を開き読み上げる。
「ルイズへ――実験が長引いて帰りが遅れる。夜中になりそうだから、先に寝ておいてくれ――サイト」
「え――」
「伝書鳩――じゃないか、伝書竜(イルククウ)が送ってよこしたのさ。残念だったね、サイトの帰りが遅れて」
マリコルヌの笑みが歪む。
「――あ、そ。サイトの帰りが遅くなったって、べつに平気よ。伝言どうも。さよなら」
余裕をみせ、ドアを閉めようとする試みるルイズ――だが。
「イルククウに返事を托そうと思うんだけど、サイトに送る記録水晶、どっちがいいと思う?」
マリコルヌの掌に光る水晶塊がいくつも――
「やっぱり、遠征の時の初乱交がいいかな? それともこの前の方かな。シラフでやりまくってる方が雌犬(ビッチ)のルイズらしくていいか も」
「やめて!」
マリコルヌの声をさえぎる。
「でも、イルククウは研究所に戻る準備をしてるから、すぐに決めないと」
「――い、言うこときくから」
ルイズは屈した。
「へえ? ほんとかな?」
「な、なんでもするから――サイトに、それ、見せたりしないで」
声が震える。
「じゃあ、部屋に入れてくれるかな?」「わ、わかったわ」
ドアを押さえていた手を緩める。
マリコルヌの太い身体が入ってくる。そして、騎士隊の少年達がぞろぞろと。全員、ルイズと身体を合わせたことのある少年たちだ。
「み、みんな、いたの」
「そりゃあ、そうさ。ぼくらは一心同体――だろ?」
ニヤニヤ笑いをマリコルヌはやめない。
「じゃ、イルククウには、ルイズからの伝言を伝えておくよ」
マルコルヌは指を鳴らす。
意を受けた伝令役らしい少年が一目散に走っていく。
「な……なにを伝える気……?」
「大丈夫だよ。サイトが喜ぶようなことさ」
『サイトへ……寝ないで待ってる……ベッドで……わかるでしょ? メイドはうまく実家に寄らせてね……ルイズ』
その伝言をイルククウから受け取ったサイトがおおいに興奮し、そしてあらゆる手管をつかってシエスタを実家(研究所の近くにある)で一泊 するように説得し、そのためにシエスタのお願いをきかされたのは、また別のお話。
「ど、どうする気?」
ルイズは十人もの少年たちに圧迫される形で、ベッドに腰を落としていた。そうする以外どうしようもなかった。
「そのベッドで、サイトと毎晩寝てるんだ?」
マリコルヌが鼻の下をのばす。
ルイズがサイトと同棲しているのはみんな知っている。最初は使い魔として、床に寝かせていたのだが、いつのまにか同じベッドで眠るように なった。今では、サイトのぬくもりと寝息を感じないと安眠できない――それくらい馴染んでしまっている。
「べ、べつに二人きりじゃな、ないし――」
そうなのだ。ここのところは、シエスタも同衾するようになっている。あのメイドはルイズとサイトが夜、二人きりにならないように牽制して いるのだ。
「へ、へえ、ルイズとシエスタの二人、両手に花でいいよな、サ、サイトのやつ」
マリコルヌの顔がどす黒く染まっていく。他の少年たちも同様だ。
「そ、そのベッドで、ルイズとシエスタ、ふたりにイロイロしてるんだろうな……」
「し、してないわ! ただ寝てるだけ!」
実際その通りなのだが、マリコルヌたちが信じるはずがない。
「へえええ、そうなのかあああ、じゃあ、サイトはインポなのかなあああ?」
愛する人をインポと呼ばれてはルイズは耐えられない。それはルイズ自身に魅力がないということにもつながる。
「サイトはイ、そんなんじゃないわ! あ、あんたたちなんかより、ずっとずっとたくましくて、じょ、上手なんだから!」
思わず叫んでしまっていた。少年達の表情がひくつく。ルイズを犯して自信を持ったとしても、しょせんは女性に愛されたことのない恋愛童貞 の集まり。強烈な劣等感はぬぐえない。
「へえ、じゃあ、やっぱり、このベッドで、ヤッてるんだ?」
「し、してるわ! ま、毎晩! サイトったらすごいんだから! わたしとシエスタ二人とも、一晩中寝かせてくれないの! 強くておっきく て、い、い、い、いっぱい出してくれるの!」
ついつい話を広げてしまう。シエスタを巻き込んだのはいかがなものかと思うが、この際、仕方ない。
(シエスタとも……)
(あの乳を……)
(平民だけど、可愛くて大好きだったのに……)
(俺たちのアイドルをことごとく……!)
(サイトのやつ……)
(怨、怨、怨、怨……)
昏いオーラが少年たちの輪郭を歪ませる。
「……だよねえ。これで、ぼくらも遠慮する必要はなくなったね。じゃあ、始めるとしようか。さ、ルイズ、これを着るんだ」
マリコルヌは純白のドレスをルイズに渡した。
「え……これって……」
「手紙と一緒にイルククウが届けてきたのさ。サイトからの贈り物だってさ」
ウェディングドレスだ。ルイズを驚かせるためのプレゼント。
「これを着たルイズに早く会いたい……だってさ」
メッセージカードを手で弄びながらマリコルヌが嗤う。
「でも、これを着たルイズを最初に見るのはぼくたちさ。ちゃんとサイズが合ってるか、見てあげるよ」
「い……いやよ! こ、こんな大切な……いちばん大事なドレスを……あんたたちのためになんか着てやるもんですか!」
ルイズはドレスを抱きしめながら叫んだ。
「そんなこと言っても、いいのかなあ?」
マリコルヌたちはニヤニヤ笑っている。
「うっ……」
ルイズは言葉につまる。少年たちの手に記録水晶があるかぎり、ルイズに選択枝はない。
「……わかったわよ、き、着ればいいんでしょ、着れば!」
ルイズは顔を真っ赤にしながら叫んだ。
「やっと物わかりがよくなったね。さ、早く着るんだ」
「ちょ、あんたたち、出てってよ! レディが着替えるのに……っ」
少年達はニヤニヤ笑ったまま、部屋から出て行こうとしない。
「みんなルイズの裸なんか見慣れてるんだ。ここで着替えなよ」
「そ……そんな……」
屈辱だった。
ルイズは少年たちが見守るなか、服を脱いだ。
そうしたのはこれが最初ではない。あの天幕でも同じように裸になった。その後も、記録水晶と引き替えに少年たちの前に裸身をさらした。
だが、今回は最初からシラフで、催淫魔法の力も借りず、促されたとはいえ、自分の意志で脱いだのだ。
パンティは目を閉じながら引き下ろした。少年たちが拍手をし、口笛を吹く。
そして、全裸の上に直接ウェディングドレスを着た。
その姿は――どんなに恥辱にまみれていても、いや、だからこそか――美しかった。
シルクの生地がほっそりしたルイズの身体に貼りつき、レースで彩られたスカートが花開く。
おおきく開いた胸ぐりから覗くミルクホワイトの肌は輝いている。
マリコルヌたちもその可憐さ、愛らしさに言葉を失った。
「す――すごいな……こんなにきれいだなんて」
「ほんとだ――女神みたいだ」
「あ、あんたたちに、ほめられたって、全然うれしくないわ!」
抗議の声をあげるルイズだが、耳が熱い。
少年たちの賛美の視線が、面はゆい。矛盾した気持ちだが、恥ずかしさや悔しさのほかに、わずかな誇らしさも感じている。
「いゃあ、ルイズがこんなに綺麗な花嫁さんになるとはね」
マリコルヌが手を叩き、それから、すうっと息を吸う。
そして、宣言する。
「第一回チキチキルイズ孕ませレースぅ!」
「なにそれえええええ!?」
マリコルヌの宣言に思わず突っ込んでしまうルイズ。
「ルールはかんたん! ぼくたち水精霊騎士団の精鋭十名余りが順番にルイズに中出しをする!」
「はあああ!? 何いってんの、気は確か!?」
ルイズは状況も忘れて叫ぶ。
マリコルヌは、しかし澄ましたものだ。
「ルイズを孕ませた者がぼくらの中で一位だ」
「何を勝手に! わたし、は、はらんだりなんか、しないもん!」
ルイズは声を張り上げる。恐怖を超えた恥ずかしさで顔が火照っている。
「でも、ルイズ、きみ、この前まで生理だったよね?」
「え?」
なんでそれを――って、知っていて当然か。でも、それが、いったい――
「ぼくらも保健体育の授業は受けてるんだよ、てゆうか、むしろ大得意科目さ!」
マリコルヌ以下、全員がうんうんとうなずく。保健体育の教科書でオナニーするのがデフォルトの猛者どもだ。
「女の子は生理明け数日で、排卵、するんだろ?」
マリコルヌたちの視線が、ルイズのほっそりとした腰に集まる。
「それって、だいたい、今日、くらいじゃないのかな?」
ぞくっとする。ルイズの背筋がだ。いまのは身体が――女の身体が「その通り」と答えた――としか思えない。
「じゃ、ぼくから」
マリコルヌがルイズに迫る。
ルイズは杖を探る。魔法を使ってでもここを切り抜けないと――ほんとに妊娠させられてしまう。
「むりだよ。ぼくたちだってメイジなんだよ。いくらきみが虚無の使い手でも、全員を倒せはしないさ。いや、もしかしたら本気を出せばできる のかもしれないけど……今までもそのチャンスはあったのにそうしなかったのは、きみ自身、そんなことは望んでいないから……だろ?」
ルイズの杖を手に――いつのまにか奪われていた――マリコルヌが言う。
「きみは魔法でぼくたちを倒せるのにそうしない。ぼくたちだってそうさ。きみに乱暴はしたくない。ルイズ、自分でベッドに行くんだ」
まっすぐルイズを見つめてマリコルヌは言う。
なんでよ――なんで、格好いいこと言ってるみたいな感じで言うわけ?
と、ルイズは釈然としないが、しかし、その言葉にあらがえないのもまた事実、だった。