満足した葉月が眠りに落ちるのを見守ってから、おれは葉月の部屋を出た。
小さくあくびをする。
まだ夜は続く。ひと風呂あびて、おれも寝ることにしよう。
と。廊下の端に赤い光が浮かんでいた。微妙な低さだ。
「こうへい」
無機質な声がおれの名を呼んだ。
アルトだった。
アルテミスのアルト。月の女神の名を持つルナの妹。
光をほのかに放つ繊細な髪、雪のように白い肌にバラ色の頬、赤い月を思わせる瞳――年頃になれば、もしかしたら葉月よりも美しくなるかもしれない。
だが、まだ子供だ。人間だったら、まちがいなくランドセルをしょっている年代だ。
「な、なんだ、アルト、まだ起きてたのか」
言いつつ、愚問であることを悟る。葉月とちがってアルトはデイウォーカーではない。いまこそがアルトにとっての活動時間なのだ。
「さっき、葉月となにしてたの」
アルトが訊いてくる。やっぱり、見られていたか……
「ええと、あれは、その……」
返事にこまる。吸血鬼とはいえ思春期の女の子だ。うかつなことをいえば心を傷つけかねない。なにしろ葉月は腹違いとはいえ姉なのだから――
「し、新型の健康体操……っ、ほ、ほら、葉月、意外に身体かたいから」
「裸で?」
「うっ」
「あんなに声をだして?」
「く……」
ややあって、アルトはいった。
「えっち」
おれは打ちのめされてのけぞった。
し、知ってたのか……あなどれん、いまどきの小学生は……って、アルトは学校行ってなさそうだが。
「どうして、葉月とえっちするの?」
アルトが追求してくる。どうしてって言われても、やりたいから、としか言いようがないが。強いていいわけすとなると、やっぱこれかな。
「うーん、葉月の吸血癖を治すためかな。血を吸わなくてもいいように」
「血を? どうして、血を吸っちゃだめなの?」
そんな基本的なことを問い返されるとは思わなかった。だが、吸血鬼にとっては、吸血はむしろ自然な行為だもんな。
「それはさ……葉月は人間の世界で生きていくから。人間は血なんか吸われたくない。血を吸って生きているやつがいたら、正直こわい、と思う。仲良くなれない。だから、さ」
「こわい? 血を吸う子は、こうへい、きらい?」
アルトが不安そうな表情になる。そういえば、アルトも満月の夜は血を吸う――おれの血を。なぜから、おれ以外の人間の血を吸うと、その人間はアルトの下僕になってしまうからだ。
エルフリーデさんは大人だから、外でうまく下僕を調達しているらしいが、アルトはそうはいかない。子供だけに、下僕をめちゃくちゃに扱いかねない。平気で命だって奪うだろう。だから、アルトには下僕を持つことを禁じて、おれが血を吸わせている。
そういや、今夜はまだ血を吸わせていなかったな。それで、おれをさがして――葉月の寝室まで来たのだろう。
「悪かったな、ほったらかしにして。吸いたいんだろ」
おれはアルトの側にしゃがんで、首筋をさらした。
アルトがつばを呑みこんだ。
だが、いつものようにカプッ、とは来ない。どうした?
「……葉月がすわないのなら、私もすわない」
アルトは言い張った。
「わたしも葉月とおんなじようにする……」
うわわ、これは、まずいぞ。
アルトは、いちど言い出すとぜったいに退かないんだ。
いくらなんでもアルトとエッチするわけにはいかない。葉月にバレたら殺される。つーか、普通に犯罪だ。
なんとかごまかせ、耕平、うまいこと言って血をすわせて寝かしつけろ。
「葉月みたいに……って、それは無理だよ、アルトはまだ小さいんだから」
言ってから、失敗に気づいた。
アルトの顔が悲しげにゆがんでいる。
「わたしは……だめなの? 要らないの?」
拒絶されたと思ったんだ。なにしろ経緯が経緯だから、ちょっとした言葉にも傷ついてしまう。
おれはアルトのそばにしゃがみこんだ。
アルトの髪をなでてやる。シルクのようなてざわり。
そばに寄ると、アルトの甘い匂いがたちのぼってくる。せっけんの匂いじゃない。新陳代謝のはやい子供の匂いだ。
「アルト――お風呂はいった?」
「まだ」
ふだんならエルフリーデさんか葉月がいっしょに風呂に入るのだが、今夜は満月だ。エルフリーデさんは狩りに出ているし、葉月は夕方からおれとエッチしまくりで、だれもアルトの面倒をみていなかったとみえる。
「――いっしょに入るか?」
なんの気なしに言った。笑ってくれればそれでよし。
だが。
「入る」
アルトがまじめな顔でうなずいた。
幸か不幸か、アルトにはまだ羞恥心だとか、そういうのはないのだった。
自分から誘った手前、「冗談だった」とは言えない。そんなことしたら、さらにアルトを傷つけてしまう。
家人に見つからないように――っていっても葉月もじいさん寝入っているし、エルフリーデさんは留守だ――おれはアルトを風呂場に連れ込んだ。
脱衣所でアルトを裸にする。なにしろ姫さま育ちのために、自分で服を脱ぐ習慣がないのだ。
それにしてもきれいな肌だ。葉月と比べても遜色ない。すべすべで、しみやほくろがまるでない。
胸にはわずかに脂肪がついている。乳首はほとんど肌色。ぷっくりふくらんだ突起の先端がちょいピンクがかっているくらい。
パンツもおれの手で脱がす。
おしりは小さめで、きゅんっと上を向いている感じ。脚はびっくりするほど長い。さすが白人体型。
ワレメは切れ込みが深い。むろん、つんつるてんだ。
こ、こんな、お子ちゃまな身体に、お、おれは反応なんかしないからな。
「こうへい、テント、テント」
アルトがおれの股間を指さした。うわ。ブリーフの前突っ張ってるし。
――おれって、いったい…… _ト ̄|◯
落ち込んでるひまはない。アルトを洗ってやって、血を吸わせて、寝かしつける。それをしないと、おれも眠れない。
相手は子供だ、すーはーすーはー。
言い聞かせて、おれはブリーフを脱ぐ。アルトがおれの股間をじっと見つめている。
「ソーセージ?」
いや、聞かれても。
アルトの身体お湯をかけてやり、いっしょに湯船に入った。
「あったかい……」
色白なアルトだけに、お湯につかるとてきめん上気してピンクっぽくなる。
アルトは風呂好きだ。女の子はたいていそうなのだろうが……
「こうへい、だっこ」
お湯のなかでアルトがおれの腿におしりをのせて、体重をあずけてきた。
「お……おい」
あわてて胴を抱く。細い。
「ちっちゃいとき、バルガスもこうしてくれた」
おれの胸元に頬を寄せながら、アルトは言った。
バルガスっていうのは、かつてのアルトの守り役だ。おれたちとの戦いのなかで命を失った。手をかけたのはおれたちではないにせよ――おれには気安く慰めを口にする資格はない。
「ちょっと大きくなったら、いっしょにお風呂に入ってくれなくなった」
ちょっと――か。女の子の、ちょっと、は、男にとっては大きいんだよな。
ほんのちょっと胸がふくらんだだけで――おしりがまるくなっただけで――触れてはいけないような気がしてしまう。
「こうへい」
アルトがおれを見上げていた。
「からだ、洗って」
アルトの肌は繊細だ。タオルなんかでこすったら、たちまち真っ赤に腫れてしまう――とエルフリーデさんから聞いたことがある。たっぷりボディソープを泡立てて、素手で洗って差し上げる、のだそうだ。
エルフリーデさんなら嬉々としてやりそうだな。
アルトもそうしてほしいというので、おれもそれにならった。
小さな背中に泡をぬりつけて、掌でこする。
つるつるのすべすべ――ほんのちょっと前まで、この世のものとは思えない葉月の肌を堪能したばかりだというのに――それにまさるともおとらない美肌に触れている。
葉月よりも痩せていて、骨っぽいが、やっはり女の子だ。肌の下に、やわらかな脂肪の手触りを感じる。
続いて、肩を、腕を、洗ってやる。首筋を洗うとき、アルトはくすぐったそうに首を縮めたが、声はださなかった。
上半身が終わると無言でアルトが立ったので、おしりも洗ってやった。
泡立てた両手で、おしりの肉を包み洗いにする。
ふにふにだ。た、たまらない。こらえようとしても、股間に血が集まってしまう。
おしりの山のあいだを念入りに洗いたいのをぐっとこらえ、太もも、ふくらはぎとおざなりにこすってやる。
お湯をばしゃっ、とかける。
「さ、おしまいだ」
これ以上はおれのほうがやばい。
「もうおしまい?」
不審そうにアルトが振り向く。
「前、ぜんぜん洗ってない」
「ま、前は自分で洗えるだろ……」
「むかし、バルガスはぜんぶ洗ってくれたよ」
「それは、おまえがもっと子供だったから……わ、こっち向くな」
アルトが正面を向いていた。向こうは立っていて、こっちはしゃがんでいるから、なんだ、ワレメがほとんど目の前にある。
お湯のせいで赤らんだ土手のはざまから、ちっこいクリトリスの包皮が覗いて見えている。ぐわ、ひえ、ごおお……
「こうへい、おなか痛いの?」
前をおさえてうずくまったおれにアルトが無機質に訊いてくる。口調は冷徹だが、それなりに心配しているのだ、ということは、最近わかった。
「だ、だいじょうぶ……」
「じゃ、洗って」
おれの目の前で椅子に座る。ごく自然に脚を広げている。ワレメが、左右に開いて、中身が――
「はやく」
「わ……わかった……」
おれは覚悟をきめて、手に泡をつけた。