「は……入っちゃった」
トシはうろたえた。これは……これって……セックスってやつじゃあ……
「ごっ、ごめんっ!」
あわてて身体を離そうとする。そのトシの腰にイサミの脚がからみついた。
「わわっ!」
密着度が高まり、あわてるトシ。なんなんだ、この感触――柔らかくて、熱くて、ぬるぬるしてて――
「トシ、どう? 気持ちいい?」
イサミが下からトシに笑いかけてくる。脚でトシの身体を離さないように固定している。そして――
ぎゅむ……ぎゅむ……
「うわっ!? 動いた?」
トシは股間を包む感触が変化することに驚愕の声をあげた。
「ん……んっ……」
イサミが眉根を寄せながら、呼吸をはずませている。
「締めてるの……わかる? わたしはわかるよ。トシのオチンチン、さっきより大きくなってきた……」
「イサミ……こんなの……ヘンだって」
惑乱しながらトシはうめく。ペニスが勝手に熱くなっていく。イサミの中で、はち切れそうなほどに大きく張り詰めていく。
「ヘンじゃないよ、トシ。こんなのアメリカだったら普通だよ? 好きな者どうし、身体で気持ちを確かめあうのは」
イサミの悪戯っぽい声に、トシはさらにショックを受ける。
「じゃ、じゃあ……イサミ……おまえ、アメリカで……他の誰かと……」
「気になる?」
イサミはまだ笑っている。トシは、目の前にある裸の少女の肉体に、外人の少年がのしかかっているイメージを思い浮かべた。
白人の――あるいは黒人の――さまざまな肌の色の少年たちと身体を重ねるイサミ――あえいで――いやらしく笑って――
「うそだ!」
トシはイメージをかき消すかのように頭を振った。
「そんなこと、イサミがするはずがない!」
乱暴にのしかかる。
「イサミぃっ!」
白い少女の薄い胸に顔をうずめた。頭に浮かんだ映像を打ち消すにはそれしかない。
「ああっ、トシ……いいよ……もっと激しく……して……」
訳がわからなかった。イサミを壊してしまいたかった。凶暴な思いが胸をかきむしり、下半身に力をみなぎらせた。
イサミの膣の奥深くまで突き入れる。
「う……あ……」
イサミが抱きついてくる。トシの首に腕を巻きつけ、うるんだ瞳でトシをみあげる。いつもの生意気なイサミでも、さっきまでの妖艶なイサミでもない。見たことのない、しおらしい表情のイサミだ。
「トシの……凄くなってる……壊れちゃいそう……」
「壊してやるさ! このぉっ!」
トシはめちゃくちゃに腰を動かした。相手を感じさせようだとか、自分が気持ちよくなろうだとか、そんな考えはなかった。ただ、イサミを突いて、突いて、突きまくる。
「はあっ! いた……ぃ……くはっ!」
苦痛か、快感か、イサミが身をよじり、吐息をもらす。だが、トシとの密着度をさらに求めるかのように、腕も脚もトシにからみつかせて、離さない。
「アメリカで……何人とヤッたんだ!?」
そんなことを訊いてもしょうがない。答えを知っても傷つくだけだ。だが、訊かずにはいられない。自分は何番めなのか、知らずにはいられない。
「言えよ、イサミ! おれの前に、何人とこんなことをした!?」
「あ……あ……トシ……ひどいよ……」
質問のさなかにも突かれまくって、イサミの声は震えていた。
「言えよ! でないとやめるぞ!」
「やぁ……やめないで……」
イサミが半べそでトシに抱きつく。
「よ……四人……だけ……」
「四人もかよ!? 何年の時だ!?」
「最初は……三年生……のとき」
「誰と!?」
「ベ、ベビーシッターの大学生……」
「それから!」
「四年のときに……クラスメートと……あんっ!」
「三人とつきあったのか!?」
「だって……みんな、してるんだもん……」
イサミから告白を引きずり出しながら、トシの脳は真っ赤に灼熱していた。
このヴァギナには、外人のペニスが出入りしているのだ。黒人のベビーシッター、そして、白人やメキシカンやコリアンの同級生――
「だから、おれも誘ったのか!? 今度は日本人を試してみようってか?」
トシはイサミの内部を掻き回しながら声を荒げた。
イサミは身体から力が抜けたのか、脚はだらしなく開き、腕もトシの背中にゆるく回されているだけだ。トシに突かれるままになっている。
「日本人を舐めるなあッ!」
ぐんぐんぐんっ!
槍のように尖ったペニスでイサミを責めたてる。
「あっ……ああ……トシの……トシのが一番すごいよぉ……」
イサミは朦朧としている。粘膜という粘膜に血が集まっているのか、乳首が赤く充血している。生クリームたっぷりのケーキに愛らしいイチゴが盛られているかのような眺めだ。
「トシの……好き……いちばん……好き」
甘いつぶやき。
トシは泣きたくなる。
「おれだって好きだよ! でも、なんで、おれが最初じゃないんだ!」
柔らかい身体を抱きしめ、髪の匂いをかぐ。よく知ってるイサミの匂いと、初めて知る、発情した女の匂いが混ざりあった、えもいわれぬ芳香。
衝きあげてくるものに身をまかせ、トシは自分の突端をイサミの一番深い場所にこすりつける。
「あっ!」
未知の快感に頭がしびれ、背筋が硬直する。
すべてが解き放たれる。イサミの中で、トシの最初の精のかたまりが放出される。
「トシ……トシのが……おなかの中に……とくとく……とくとくって……」
イサミの感極まったような声を出した。目尻に涙が光っている。
トシは我にかえった。嫉妬におかしくなったとはいえ、なんてことをしてしまったのだろう。
「ご、ごめん、イサミ……あっ」
イサミとの結合部を見て、トシは絶句した。
シーツが赤く汚れている。それは紛れもなく、血のいろだ。
「これって……もしかしたら……」
そういう方面にうといトシでも、その手のシーンのあるマンガや小説などを目にしたことがないわけではない。混乱した。
「だって、ああでも言わなかったら、トシ、尻込みしてたでしょ」
イサミが姿勢をかえて、トシの目から裸身を隠すようにする。恥じらいが戻ったかのように、うつむき加減になる。
「恥ずかしかったんだから……エッチな女の子を演じるのって……。トシのバカ」
「なっ、なんで……そんな……」
トシは完全にパニック状態だ。と、同時に、物凄い歓喜がたちのぼってくる。
「トシが一番なんだからね」
イサミが涙を指でぬぐいながら、ニコッと笑った。
「最初で、一番、なんだから」
その愛しい笑顔を間近で確かめたくて、トシは少女を抱きしめるための腕をひろげ――
「イ、イサミぃっ!」
ガバッと起きなおったトシは、ベッドの側にいた人物にしゃにむに抱きついた。
相手の驚きと困惑の声が聞こえ、同時に激しい抵抗がはじまる。
その人物はトシをはねのけて、声を荒げた。
「なにするんだよ、トシ! 寝ぼけてるのか!?」
「え……?」
ぼんやりしていたトシの視界がハッキリする。
そこにいるのは、迷惑そうな顔をしたソウシだ。
「まったく、体育の時間に鼻血を吹いて倒れたと思ったら、すっかり元気みたいじゃないか。心配して損しちゃったな」
トシに抱きつかれた時に乱れたヘアスタイルを手で直しながら、ソウシが唇をとがらせる。
「ソウシ……? イサミは……?」
トシはあたりを見回した。衝立の向こうでは保健医が机について仕事をしている。グラウンドからは、生徒の歓声が聞こえてくる。体育の授業がおこなわれているのだろう。いつもの保健室のたたずまいだ。
「イサミちゃん? イサミちゃんなら、教頭先生に呼ばれて指導室に行ったよ。ほら、今日のイサミちゃん、ちょっと変だったろ? だから説教をくらう羽目になっちゃったみたいだね。そのかわり、幼なじみのぼくがトシの様子を見にきたあげたってわけ」
トシは呆然とする。
「じ、じゃあ、さっきまでここにいたイサミは……?」
「イサミちゃんがここに来てたって? それはないと思うけど。夢でもみたんじゃないの?」
ソウシが肩をすくめる。
トシの頭のなかにイサミの痴態の数々が駆けめぐる。
あまりにリアルな女性器の感触――あれが夢であるはずがない。
だが、いま、それがどんな形や色だったのかというと――思い出せない。
「そんな……」
トシは打ちのめされてうつろな目になる。
(夢だったのか……ぜんぶ)
「どうしたっていうのさ。そんなにイサミちゃんに会いたいのなら、指導室へ行ってみたら?」
ソウシがからかい口調で言ったのをトシはまともに受けた。考えるより行動だ。
「そうだ! イサミに聞いて確かめなくちゃ……!」
トシはベッドから飛び降り、上履きをつっかけながら廊下に飛び出した。
「おい、トシ! どこ行くんだよ!? いちおう、まだ授業中だぞ!」
ソウシの声を背後に振り切って、トシは廊下を駆けだした。
「やれやれ……青春だねえ……」
後に残されたソウシは肩をすくめて苦笑した。