イサミのスパッツ大作戦

 

〜3時間め 保健室〜

 

 甘い夢をみていたような気がする。あるいは、まだ、夢の続きなのかもしれない。

 トシは薬っぽい匂いのするシーツの硬い感触を心地よく味わいながら、まぶたを動かした。

「気がついた、トシ?」

 耳元で、ほっとしたような声が言った。

 いつまでも反芻していたいほどの愛らしい響きのある声である。

「驚いちゃった、だって、いきなり倒れちゃうんだもん」

 イサミだ。体操服姿のまま、ベッドに手をついて、トシの顔をのぞき込んでいる。

「な、なんだ、なんだ、 あんまり近づくなよ!」

「なによ、せっかくひとが心配してあげてるってのに」

 不満そうに唇をとがらせる。まるで咲きたての花びらだ。なにもつけないのに、鮮やかで、清潔で、つやつやしている。

「おおきなお世話だ!」

 イサミの顔を直視することもできなくて、トシは虚勢をはる。鼻の穴に詰まっていた脱脂綿をフンフンッと飛ばすのが精一杯だ。

「授業は、いいのか?」

 ふと気になってトシはきいた。なんだか、校舎が静まっている。休み時間ではないようだ。

「うん――自習だって。だけど、トシが心配だったから」

 含むものがあるのかないのか、イサミはさらりと言った。トシは呼吸が詰まって、目の前が急に狭くなる。

「そ、それって……どういう……」

 顔を上げたトシは、自分を見つめている少女のいたずらっぽい視線にからめとられて、言葉を失った。

「どうして鼻血出したの?」

 イサミが訊いてくる。

「どうしてって……」

 トシは答えられない。イサミが妖精のように笑った。

「見たんでしょ」

「な、なにを」

「わたしの……アソコ」

「おいっ!」

 トシが声を荒げた。イサミはくすくす笑いながら後ろを向いて、体を折る。さっきの、体育の時間と、同じ姿勢をとる。

「ほら、こうしたら、見えるでしょう?」見てぇ、イサミの……

 イサミの手が両側からヒップの山にかかって、左右に広げるようにする。

 スパッツごしに、柔らかな尻肉の起伏が見て取れる。そして、広げられた秘部の形状も。

「わたし、知ってたのよ、トシがココをじいっと見てたこと」

 トシはイサミの行動に混乱しつつも、同級生の女の子が開示してくれている秘密の領域から目が離せない。さっきよりも大胆に広げられたイサミの性器は、ナイロン地との密着度をさらに高めて、襞の形状はおろか、その奥に開いた穴の存在さえも知らしめている。

「見えてる……イサミのが……」

 トシの喉がひりつく。顔中が充血して、視界がバラ色に染まっている感じ。いつ鼻血を噴いてもおかしくない。

「わたしの……なにが見えてるの?」

 イサミが訊いてくる。

「言って。自分ではわからないもの」

「イ、イサミの、お、おまんこ……」

 トシはかすれ声で言った。その言葉を自ら発したことで、頭のなかで小爆発が起きていた。

「やん!」

 イサミが、きゅっと内股を締める。ナイロンでコーティングされた股間の部位も収縮したようだ。と同時に、染みが広がっていく――じゅん!と音が聞こえそうなほどだ。

 淫語に反応して、イサミが愛液を漏らしたのだ――とはトシにはわからない。

「もお、トシのエッチ!」

 イサミがさっと姿勢を改める。顔が真っ赤だ。だが、それは単なる羞恥ではない。もっと、刺激的ななにかだ。トシにその手の経験があればすぐにそうと悟っただろう。イサミは発情している、と。

「お返し!」

 言いつつ、イサミがベッドに乗ってくる。トシの体操ズボンに手をかける。

「お、おい、イサミ、やめろ」

「トシばっかり見て、ずるい! わたしもトシの、見るんだもん!」

「だ、だめだって、いま、やばいんだって」

 ベッドの上でトシは逃げ惑った。だが、イサミによってズボンをパンツごとずりおろされてしまった。

「ひえっ」

 トシは悲鳴をあげた。

 つるつるの股間から、ツクシのようなペニスが屹立している。丸出し状態だ。

「へえ、男の子って、ほんとうにボッキするんだ」

 イサミが物珍しそうに観察する。

「み、見るなよお!」

 トシは股間を手で隠した。

「おれ、直接みてねえだろ! 不公平だ!」 

「そっか……そうだね」

 イサミはすこし思案顔になり、それからうなずいた。

「じゃ、トシ、見せっこしよう」

 言うなり、スパッツを脱ぎ始める。

「お、おい」

 止める暇もなく、イサミは大胆にスパッツを降ろしていく。

 ワレメが現れる。やっぱりノーパンだったんだ、とトシはぼんやり考える。生まれて初めて女の子のあそこを直接見ているという衝撃に、まともな思考ができずにいるのだ。

 イサミの性器とナイロン地が離れる瞬間、透明な糸が橋をつくったのを見ても、トシのオーバーフローした頭ではなにも感じることはできなかった。

「脱いだよ、ほら」

 イサミがスパッツをまるめて後ろに投げる。下半身を誇示するように膝立ちになって、体をかるくそらす。

 ワレメの奥にトシの視線は向かった。

 真っ白な縦割れの狭間に、赤いピラピラしたものが顔をのぞかせている。

「ほら、トシも、手をどけて」

「あ、ああ……」

 こうなってはしかたがない。覚悟をきめて、トシは股間を覆っていた手をどける。

 白く皮をかぶったペニスが、痛いほど勃起して、ひくついている。おしっこの出る穴がむずむずしてたまらない感じだ。

「へええ……」

 心底興味ぶかそうにイサミがそれを凝視する。ややあって、言った。

「ねえ、触って、いい?」

 その形状には、もしかしたら、女の子にとって、どうしても触ってみたくなる魔力が宿っているのかもしれない。

「いいぜ、そのかわり、イサミのもいじらせろよ」

 トシは半ばヤケになって言った。

 イサミはかわいい顔を上気させて、こくりと喉を動かした。ややあって、決意を固めたようにうなずく。

「い、いいよ」

 

 

「まず、わたしの番だよ」

 イサミがトシの股間にタッチする。

「わあ、おもしろぉい、変な感触ぅ」

 茎の部分を指でつまんで、きゃっきゃと笑う。

「お、おい、イサミ……」

 初めて性器を他人に――しかも同級生の女の子に触られたトシはうろたえた声を出した。

「かったぁ〜い! コチコチになってるよ?」

 イサミは茎を握ったり離したりしつつ、そのものの感触を楽しんでいる。

「すごいすごい、不思議〜」

 笑いつつ、手を上下させる。

「おわっ! よせ、イサミ」

「男の子って、こうすると気持ちいいんでしょ?」

 どこから得た知識なのか、イサミが白い歯を見せていった。

 包皮ごしにイサミの指の動きを感じる

 自分で触るのとはまったく違う――もどかしくも心地よい感覚。

「なんか、ここ、ぷにぷにしてる」

 イサミの指が亀頭のくびれ部分をいじり始める。亀頭とそうでない部分の感触の違いを確かめるように。

「あ……あ」

 トシは口を開いてただ声をあげていた。わけのわからない快楽。

「気持ちいいの? トシ」

 いつもよりずっと意地悪なイサミがそこにいる。そのイサミは、いつもよりずっと愛らしくてエッチだ。

「ここ、こうしたら、どう?」

 包皮をかるく向いて、亀頭の先端を露出させる。あらわになった尿道口のあたりを指でそっとなでる。

「わっ!」

 トシはたまらず体を痙攣させる。たしかに、電気がそこから尾てい骨に向かって走った。

「いいんだ」

 勝ち誇ったようにイサミは言い、やや強く指を動かした。

 尿道口がぱくぱくと魚の口のように動いて、尿道の粘膜があらわになる。

「おいしそう」

 イサミが舌なめずりした。あきらかに食欲を刺激されたようだ。

「ね、なめてあげようか」

 いくらなんでもそれはありえない、そんなことが起こっていいはずがない。トシは抵抗しようとした。

 だが。

 ――ぺろ。

「うあっ」

 トシはイサミの舌の感触に屈した。

 ぺろ、ぺろ、ぺろ。

 獲物の味見をする猫科の動物のように、イサミは舌を動かしている。

 信じられない思いでトシはその光景を見た。

(イサミが……おれの……おれのチンチン、なめてる……)

 たまらない、たまらない、たまらないっ!

 急速に駆け上がっていく快楽をトシは制御できない。

 イサミが、ぱくっ、とトシのペニスをくわえた。まぶたを閉じて、味わうように舌をからみつかせてくる。

 少女の熱い口腔の感触を楽しむ余裕さえなかった。

「あ、イサミっ! なんか、出るっ!」

 叫んだ瞬間には、もう飛び出してしまっている。

 びゅっ! びゅびゅっ!

 イサミの口のなかで行われているのは、トシにとっての初めての射精だった。これまで、睾丸のなかで生産されてはいたが、外界に排出されることなく体内に吸収されていた精子が、ようやく外に出ることを許されたのだ。

「ご、ごめん、イサミ……おれ……」

 快感の余韻に浸るいとまもなく、混乱のさなかに投げ込まれたトシは震え声を出すのがやっとだ。

 イサミは黙っている。トシのペニスから口を離すと、手に口のなかにたまったものを吐き出した。

 白い、ねっとりとした体液だ。

「にが……」

 ちょっと顔をしかめるが、イサミの瞳は好奇心で輝いている。

「おしっことは違うね。ほら」

 手に受けたものを、トシに見せる。

「これが精子なんだよね。これを――」

 イサミは自分の下半身に目を落とす。

「――したら、赤ちゃんができるかもしれないんだよね」

 まるで性教育の実習だ。

「してみる?」

 イサミがトシを見つめている。

 ありえない。

 こんなのイサミじゃない。

 だけど――

 こくん。

 トシは首を縦に振った。

続くかも……っ!