姫ちゃんのリボン b-side(1)


 その日、オリジナルの姫子の方はといえば、まなみと一緒に屋内プールに遊びに出かけていた。いま話題の大型ドームプールである。

 いっちゃんも誘ったのだが、家の手伝いとかでどうしても出てこれなかったため、二人だけだ。

 姫子は赤白ストライプのワンピース。まなみはひらひらがいっぱいついたセパレートだ。

 水遊びに興じているうち、姫子の体調に変化があらわれた。

 脈拍が速くなり、身体が熱くなった。

 そんなに激しい運動をしているわけではない。だが、背筋がぞくぞくと震え、膝が震えた。

 風邪の悪寒ではない。まったく異質なものだ。気分が悪くなる、というわけではない。変なカンジ――としか言えない。

 むろん、姫子には、この瞬間、自分の分身が男に犯されていることがわかろうはずがない。さらに、分身姫子と自分がシンクロしていることなど、想像さえできない。

 (どうしちゃったんだろう、あたし……)

 股間の芽が熱く充血し、見えない指でいじくられているかのように、むずむずが止まらない。

 触りたい。むずむずしている部分をこりこり擦ってみたくてたまらない。

 だが、人前でそんなことができるはずがない。

 「どうしたの、姫ちゃん、顔が赤いよ?」

 まなみが顔を近づけてきた。

 可愛いまなみはプールでもモテていた。彼女の側には、少年が三人も群がっている。つい今しがた、知り合ったらしい。

 「んん、なんでもないよ」

 姫子は努めて平静を装ったが、水の中では膝を擦りあわせていた。そうすることで、ワレメに密着した水着の布地が動き、むずがゆさをわずかに軽減することができる。

 だが、そうするうちに、ますます欲求が強まっていく。

 何もしないのにアソコがぬるんでいくのがわかる。水の中だからいいが、これが外なら、みるみる股間が濡れていくさまが見えただろう。

 「あ、あたし、あっちで一人で泳いで来るね」

 姫子は顔を赤くしながら、移動しようとした。その腕をまなみにすがりつく。

 「ええーっ!? 姫ちゃんも一緒に遊ぼうよ!」

 「で、でもさ、まなみ……」

 なんとか笑みを浮かべようとする姫子にまなみはささやきかける。

 「この人たち、この近くの高校生なんだって。一人にされたら、困るよぉ」

 姫子は、逃げそこねた。

 

 ユキオ、タカオ、シンジ、と少年たちは名乗った。

 茶髪にシルバーのアクセ、いかにも遊びなれた感じの高校生たちだ。

 「へえ、きみ、姫ちゃんっていうんだ。かわいい名前だね」

 ユキオと名乗った長身の少年が、姫子の側に寄った。

 普段なら、こんなへにゃへにゃした男は大っ嫌いだ。ビンタのひとつでもかまして、まなみを連れて立ち去るというのがいつものパターンなのだが、今の姫子は裸の男によられただけで胸の奥―――というよりお腹のあたりがズーンと来てしまう。

 動けない。声も出せない。顔も赤くなっているはずだ。

「姫ちゃんって、おとなしいんだなー」

 タカオが姫子の肩になれなれしく触れる。

 ピクン――姫子の身体が反応する。こみ上げてくる疼きに姫子は混乱した。

 そんな姫子をシンジがじっと見つめている。

 「ねえ、ビーチボールで遊ぼうよ」

 お調子者っぽいタカオが提案してくる。

 「やるやる!」

 まなみが賛成する。ハイになっているらしく、ノリがいい。

 遊びのルールはシンジがテキパキと決めていく。

 「じゃあ、さ、二組に分かれてボールをとりっこしようよ。チーム分けは――」

 まなみと姫子、シンジが同じチームになった。ユキオ、タカオが敵方だ。

 「よおし、負けないわよ! ね、姫ちゃん!」

 まなみが張り切った。姫子は曖昧に笑う。

 ゲームが始まる。ボールを取ったまなみが水の中を苦労して移動する。

 ディフェンスよろしくユキオとタカオがまなみを取り囲む。

 「やだっ」

 まなみが嬌声をあげる。

 少年たちがまなみに身体を寄せていく。どうやら、こうやって接触するのが少年たちの狙いらしい。

 水中カメラがあれば、ユキオの手がまなみの胸を水着の上から握り、タカオが水にもぐってまなみの太股に抱きついたのが撮影できたはずだ。

 まなみはボールを取られまいとして必死で、少年たちの意図には気付かない。それをいいことに、タカオなどはまなみの水着の股間の布をひっぱり、裸のおしりを覗いてさえいた。

 「姫ちゃん、パス!」

 まなみがボールを投げてくる。

 姫子の手にボールがおさまる。

 ふだんなら、こういう遊びは大好きだ。男の子にけっして負けない自信もある。だが、今は――

 笑いながら少年たちが殺到する。いかにもゲームを楽しんでいるように見えて、目は笑っていない。

 何本もの腕が伸びる。

 「姫ちゃん、しっかりー!」

 まなみが声援を送る。その視線をブロックするように、少年たちは三人がかりで姫子を包囲する。

 タカオは姫子の背後に回り、胸をつかんだ。

 「あっ」

 姫子は動揺する。

 「な、なにすんのっ……」

 嫌悪感がこみあげる。だが、いつものような力が出てこない。

 むしろ、身体から力が抜けてしまう。

 タカオもそれに気づいた。抵抗されないと悟ると、大胆に揉みはじめた。大きくはない姫子の胸だが、つぼみのようなふくらみはある。それを握りしめる。

 「やだ……ぁっ」

 水着の上から乳首の位置を探ってくる。すぐに発見され、摘みとられる。姫子の背筋に電流が走った。

 「ひっ!」

 シンジは横から姫子のヒップを触る。抵抗しないことを覚ると、これまた大胆にふるまう。姫子のおしりの谷間に指を入れる。水着の上からアヌスのあたりを撫で、より奥を探ってくる。

 姫子は思わずおしりを突き出し、膝をぐらつかせる。

 前をふさぐユキオにもたれかかる格好になる。

 シンジはタカオに、そしてユキオに目配せした。

 ――こいつ、感じてる。

 少年たちは姫子の陶然とした表情に、一様にニヤけた笑みを浮かべた。

 いかにもボールを取り合ってじゃれついているように見せかけながら、水面下では姫子の身体をまさぐりはじめる。

 タカオは姫子の乳房を執拗に愛撫し、シンジはヒップに手をこじ入れる。

 そして、ユキオは前面から姫子に身体を押しつけ、股間を触ってくる。

 「そっ……そこだめっ」

 姫子が全身を震わせる。抵抗できない。ずっと触りたかったのだ。

 ユキオの指が姫子の脚の間の亀裂に這う。

 シンジの指も、おしりに侵入している。

 二人の指が連動するように動き、姫子のポイントを探ってくる。

 「くぁ……ぅ」

 ふだんの生活ならば、そこは何重もの防備で護られている。下着で、衣服で、そして社会通念というルールで。

 だが、プールのなかでは、たった一枚の布が覆うだけだ。そして、異性と身体を接触していても、遊んでいるのだと思われれば、見とがめられることはない。

 さらに、水着の防壁なども、一瞬で破られる。

 くいっ、と布地を引っ張れば、もう――

 少年たちの指が、直接、姫子の秘部を触りはじめる。

 「あっ」

 姫子の手からボールが落ちた。

 ユキオの指先がクリトリスを探り当てていた。

 「姫ちゃんのクリ、コリコリじゃん」

 指で包皮を剥かれる。付け根から、撫であげられるように――

 「ひぁっ! うくぅっ」

 続いて、シンジの指が後ろの穴をまさぐり――

 「姫ちゃんのアナルに指入れちゃお」

 ぬぐっ!

 「あ……あ……ぅ」

 半ば水没しそうになりながら、姫子は全身を震わせた。

 目の前で、主を失ったビーチボールがぷかぷか浮いている。

 「姫ちゃんの乳首もビンビンだぜ」

 タカオの指も姫子の水着にもぐりこみ、じかに乳首をまさぐっている。

 少年たちの指が勝手気ままに動いて、姫子の性感帯を蹂躙していく。乳首も、クリトリスも、おしりの穴も。

 姫子は、もう、何もわからない。頭のなかがピンク色に染まって、どこかが常に爆発しているような――

 「ほら、触ってみろよ」

 シンジがささやく。姫子の手首をつかみ、水中に導く。

 姫子の掌が少年の股間に押し当てられる。

 「あ……」

 硬い感触だ。そして熱い。

 意志に反して指が動いた。その手触りを掌が味わおうとする。

 シンジの口元が歪んだ。先端がスイムパンツからはみ出している。その不思議に柔らかな感触を姫子は指先に感じた。

 「おっと。いただき!」

 ユキオの声が姫子の意識を現実に引き戻した。

 少年が何食わぬ顔で、姫子が落としたボールを拾い上げていた。

 「先取点、いただき!」

 ユキオがガッツポーズをして見せる。

 事情を察知しないままに、まなみがくやしがった。

 「あーん! くやしい! 姫ちゃん、つぎは頑張ろうね!」

 「あ……うん」

 姫子はぼんやりとうなずいた。

 今の感覚はいったい何だったのか――真っ白な世界に吹き飛ばされたような――

 少年たちに触れられた部分がまだじんじんと疼き、遊び興じる少年たちに怒りさえ湧いてこない。

 というより、さっの体験そのものがまるで夢のなかの出来事のようで、現実味がない。

 「ごめん、まなみ。あたし、ちょっと調子悪いみたなんだ。やっぱり休んでくるよ」

 姫子は力なく微笑んだ。まなみの目が丸くなる。

 「ほんと!? だいじょうぶ?」

 まなみが姫子の肩を心配そうに抱きかかえる。

 「なんか、熱っぽいね。あたしもついててあげる」

 「いいよ、まなみ。みんなと遊んでなよ」

 まなみは力いっぱい首を横に振った。

 「だめ、だめ! ほっておけないよ!」

 「どうしたんだい、まなみちゃん」

 ユキオが近づいてくる。屈託のない笑みだ。

 「姫ちゃん、具合が悪いらしいの。休ませてあげたいんだけど」

 「ああ、それなら」

 ユキオはタカオとシンジにすばやく目配せをした。

 「シンジんちがここのすぐそばなんだ」

 「ほんと?」

 「ああ。五分も歩かないで着くよ」