あずまんが大王 #リロード

冬、再会。

よみとも#2

  

「おー、きたきた」

 ラメ入りピンクのバスタブの中で智が手をたたいた。

「あいかわらずダイナマイツなボデーですなあ」

「ほっとけ」

 タオルで胸を覆いながら暦は言った。メガネが曇る。

 手桶で湯をすくい、メガネを洗った。それから、かけ湯をする。

「場所あけて」

「ほーい」

 智が浴槽の隅に寄る。さすがはカップル向けだけあって、大きめサイズだ。暦はそろそろと湯に浸かった。智らしく、ややぬるめの湯温だ。暦の好みはもっと熱いが、しかたない。

「ふー」

 それでも酔った身体に湯がしみて、気持ちいい。

 そんな暦を智が見ている。

「なんだよ」

「いや、よみのおっぱいでかいなー、と思ってさ」

「るさいな。どうせ、また太ったって言いたいんだろう」

 ブラのカップは高校時代よりも大きくなっている。他人からはうらやましがられるが、正直なところ、大きな胸のメリットはあまり感じない。

「だって、ほら、お湯に浮いてるし」

 智の手が暦の乳房を下から持ち上げるようにする。

「ばか、なにす……」

「すげー、たぷたぷいってるよ」

「やめて!」

 思わず声をあげていた。

 いつもの智の悪ふざけだ、それはわかっていた。でも――

 胸をかかえ、かすかだが目をうるませた暦に、智も表情をあらためた。

「ごめん……つい」

 智はあっさりあやまった。

「ほら、私、よみみたいな胸、うらやましかったから」

「うそだ」

「うそじゃないって、この前だって、胸のことでばかにされてさあ」

 智が自分のバストをさわりたくる。

「小さいのは、触り心地がどうとかー、はさめないからつまんねえとかー」

 暦の鼓動がはやまる。

「そ、それ……彼氏と?」

「んーカレシってか、私の持ち駒のひとつかな」

 そういえば、三つ股をかけているという話だった。

 ――智ちゃん、悪女や

 大阪の言葉が記憶によみがえった。

「そ……そうか……よ、よかったじゃないか」

 暦はかみそうになるのを必死でこらえていた。

「うーん、そうでもないよ。ケータイとかメールとか、たまにうざい」

「そ、そんなものなのか?」

「うん、男ってのはバカだね。女は乳と顔が命だってさ」

「そ、それは難儀だな……」

 暦は口ごもった。答えつつ、上の空だった。こんなことなら、中学のあのとき、OKするんだった。高校のときだって、完全にノーチャンスだったわけではなかったのに。だが、友達と遊ぶのが楽しくて――そのなかには一応智もふくまれている――彼氏を作る気にならなかったのだ。そのあげくが、このシチュエーションか……

「その点、よみはいいよなあ、胸おおきいし、スタイルいいもんな」

「べつに、よくない」

 ぼそっと言った暦に智が身体を自然に寄せてくる。

 胸が――たしかに大きくはないが柔らかい――智の胸が腕に当たる。

「なにムスッとしてるんだ、よみ」

 智の腕が暦の肩を抱いて、乳房に触れた。

「やめろよ、もう」

「なあ、よみって、エッチしたことないだろ?」

 智が囁きかける。

「なっ! なに、ば、ばかなこと……!」

 暦は声をあげた。

「私が教えてあげようか」

 いつもの智の声とはちがう。落ち着いた、年上めいた声――

「ふざけてるのか? 私たちはおんな……」

 智が唇を寄せてきていた。

 逃げられない。

 そして、逃げたくもなかった。

 これ以上、差をつけられたくない。智から子供あつかいされるのは、たまらなく、いやだ。

 唇を合わせた。

 女の子同士でふざけてキスする――なんてことがこれまで皆無だったわけではない。でも、このキスは、そんな遊びのキスではなく――

 智の舌が入ってくる。息がつまった。

 ねろねろと熱い舌がうごめく。ものすごい圧迫感、なんだこれ、他人の舌ってどうしてこんな――と思った時には、舌と舌がからまっていた。

 頭がしびれる。これはすごいな、と冷静な暦が感想を述べる。舌にはたくさんの神経が通っているからだろうけど。そう思いつつ、頭はしびれている。

 じゅるじゅると唾がたくさん出る。飲み下したい衝動にかられるが、智の唾液もまざっている。そんなの飲んでもいいのだろうか。健康面での心配ではなく、その――マナーとして。

 けっきょく、口の端からこぼれるにまかせた。どうせお風呂のなかだし。

 でも、こんな、いやらしい。よだれをたらしながらキスするなんて。

 暦の身体に電流が流れた。智の指が暦の乳首を触っていた。指の腹でさするようにしている。

 他人にその部分を触れられたのは、初めてだった。

 自分でさわるのとはちがう。他人の指につままれて、ひっぱられて――すごい眺めだ――こんなに伸びるのか。

 痛みはあまり感じなかった。酔いが残っているのか、あるいはそんな余裕もないのか。たぶん、両方だ。

「すげー、よみの乳首、コリコリしてる」

「うるさいな、いやなら触るな」

「やじゃないからもっと触る」

 ともの中指が動いた。乳首を強めに転がす。びり、びり、びり、と鋭い感覚が襲い、どうしようもなく充血してゆく。

 どうしてそんなにうまいんだ……

 暦はなぜだか悲しい。と、同時に、身をゆだねてしまいたい衝動に駆られる。

「よみ、こっち」

 智が暦の肩を抱き、ゆっくりと振り向かせた。裸の智。向かい合うと恥ずかしい。

「立って」

 従った。たぶん、踊れと命じられていたとしても、その通りにしていたろう。

 湯が肌の上を流れ落ち、陰毛からしずくがたれた。

 智が見上げている。

「きれいじゃん」

「どっ、どこが」

「よみのあそこ。想像してたより、ずっときれい」

「ど、どんな想像してたんだ」

 手で前をおさえた。

「だって、よみ、私より生えるの早かったろ? 頼んでも見せてくれなかったし」

「見せるわけないだろ、そんなとこ」

「だから、想像してた。よみのあそこって、私のと違うのかなって……」

 智がじっと暦を見ている。そんな目つきは小学生のときと変わらない。奇妙にひたむきな表情。その顔が一瞬後に笑顔になるか泣き顔になるか、予測もつかない。

「よみのあそこ、もっと、ちゃんと見たい」

「ば、ばか……」

「みして」

「だ、だめだろ、ふつう」

「脚開いて」

「だめだって、これ以上は……」

 うろたえつつ、暦は脚を閉ざそうとする。

「お願い」

「だから、こんなことしたら、私たち――」

「よみ」

 智が暦のふとももに触れる。びりびりと痺れる。まるで電子錠が開いたかのように、暦の脚が開く。

「あ……っ」

 まじまじと智がみている。

「ピンク色だ――色白だからかな。花びらみたいにきれい」

「ば、ばか……」

「さわるね」

 智が指をのばす。

 違和感が襲ってくる。智のまじめな顔と、指の動き。その動きに連動して、暦の股間が摩擦熱を帯びる。

(智に……あそこみられて、いじくられて……っ)

 なにかが突き上げて、侵入の深度を高めてゆく。

「と、智……っ」

 暦はかがんで、智の頭を抱きかかえた。なにかに掴まらないと、こらえられない。

 胸のふくらみを智の顔におしつけた。

「わぷ、よみ、苦しいって」

「だって、智が、へんなとこ触るから……っ」

「へんなとこじゃないって、ここは」

 智が暦の中をさわる。

 広げてゆく。

「智ぉ……」

「ん」

 智は顔をずらし、暦のふくらみの先端を口にふくんだ。

 とがった部分を吸い上げられる。

「あっ……あああっ」

 暦は声を高めた。

 自分を制動する力はもう出てこない。智の指の動きが、舌の柔らかさが、暦の意識を蕩かしてゆく。

 智は右手で暦の下半身を責めながら、左手で背中をさする。そして、両の乳首を交互に舌でなぶった。

「よみ、濡れてる」

 智が右手の指をぬいて、暦に見せた。

「お湯じゃないよ、ほらネバネバ」

 指と指の間に糸のように橋がかかる。

「だって、智が――」

「きもちかった?」

 暦は、いつものようには返せなかった。身体の中で、自分でも知らないスイッチが入ってしまったようだった。

「ベッドいこうよ、よみ」

 智に言われて、ただ、うなずいた。

つづく