「おー、きたきた」
ラメ入りピンクのバスタブの中で智が手をたたいた。
「あいかわらずダイナマイツなボデーですなあ」
「ほっとけ」
タオルで胸を覆いながら暦は言った。メガネが曇る。
手桶で湯をすくい、メガネを洗った。それから、かけ湯をする。
「場所あけて」
「ほーい」
智が浴槽の隅に寄る。さすがはカップル向けだけあって、大きめサイズだ。暦はそろそろと湯に浸かった。智らしく、ややぬるめの湯温だ。暦の好みはもっと熱いが、しかたない。
「ふー」
それでも酔った身体に湯がしみて、気持ちいい。
そんな暦を智が見ている。
「なんだよ」
「いや、よみのおっぱいでかいなー、と思ってさ」
「るさいな。どうせ、また太ったって言いたいんだろう」
ブラのカップは高校時代よりも大きくなっている。他人からはうらやましがられるが、正直なところ、大きな胸のメリットはあまり感じない。
「だって、ほら、お湯に浮いてるし」
智の手が暦の乳房を下から持ち上げるようにする。
「ばか、なにす……」
「すげー、たぷたぷいってるよ」
「やめて!」
思わず声をあげていた。
いつもの智の悪ふざけだ、それはわかっていた。でも――
胸をかかえ、かすかだが目をうるませた暦に、智も表情をあらためた。
「ごめん……つい」
智はあっさりあやまった。
「ほら、私、よみみたいな胸、うらやましかったから」
「うそだ」
「うそじゃないって、この前だって、胸のことでばかにされてさあ」
智が自分のバストをさわりたくる。
「小さいのは、触り心地がどうとかー、はさめないからつまんねえとかー」
暦の鼓動がはやまる。
「そ、それ……彼氏と?」
「んーカレシってか、私の持ち駒のひとつかな」
そういえば、三つ股をかけているという話だった。
――智ちゃん、悪女や
大阪の言葉が記憶によみがえった。
「そ……そうか……よ、よかったじゃないか」
暦はかみそうになるのを必死でこらえていた。
「うーん、そうでもないよ。ケータイとかメールとか、たまにうざい」
「そ、そんなものなのか?」
「うん、男ってのはバカだね。女は乳と顔が命だってさ」
「そ、それは難儀だな……」
暦は口ごもった。答えつつ、上の空だった。こんなことなら、中学のあのとき、OKするんだった。高校のときだって、完全にノーチャンスだったわけではなかったのに。だが、友達と遊ぶのが楽しくて――そのなかには一応智もふくまれている――彼氏を作る気にならなかったのだ。そのあげくが、このシチュエーションか……
「その点、よみはいいよなあ、胸おおきいし、スタイルいいもんな」
「べつに、よくない」
ぼそっと言った暦に智が身体を自然に寄せてくる。
胸が――たしかに大きくはないが柔らかい――智の胸が腕に当たる。
「なにムスッとしてるんだ、よみ」
智の腕が暦の肩を抱いて、乳房に触れた。
「やめろよ、もう」
「なあ、よみって、エッチしたことないだろ?」
智が囁きかける。
「なっ! なに、ば、ばかなこと……!」
暦は声をあげた。
「私が教えてあげようか」
いつもの智の声とはちがう。落ち着いた、年上めいた声――
「ふざけてるのか? 私たちはおんな……」
智が唇を寄せてきていた。
逃げられない。
そして、逃げたくもなかった。
これ以上、差をつけられたくない。智から子供あつかいされるのは、たまらなく、いやだ。
唇を合わせた。
女の子同士でふざけてキスする――なんてことがこれまで皆無だったわけではない。でも、このキスは、そんな遊びのキスではなく――
智の舌が入ってくる。息がつまった。
ねろねろと熱い舌がうごめく。ものすごい圧迫感、なんだこれ、他人の舌ってどうしてこんな――と思った時には、舌と舌がからまっていた。
頭がしびれる。これはすごいな、と冷静な暦が感想を述べる。舌にはたくさんの神経が通っているからだろうけど。そう思いつつ、頭はしびれている。
じゅるじゅると唾がたくさん出る。飲み下したい衝動にかられるが、智の唾液もまざっている。そんなの飲んでもいいのだろうか。健康面での心配ではなく、その――マナーとして。
けっきょく、口の端からこぼれるにまかせた。どうせお風呂のなかだし。
でも、こんな、いやらしい。よだれをたらしながらキスするなんて。
暦の身体に電流が流れた。智の指が暦の乳首を触っていた。指の腹でさするようにしている。
他人にその部分を触れられたのは、初めてだった。
自分でさわるのとはちがう。他人の指につままれて、ひっぱられて――すごい眺めだ――こんなに伸びるのか。
痛みはあまり感じなかった。酔いが残っているのか、あるいはそんな余裕もないのか。たぶん、両方だ。
「すげー、よみの乳首、コリコリしてる」
「うるさいな、いやなら触るな」
「やじゃないからもっと触る」
ともの中指が動いた。乳首を強めに転がす。びり、びり、びり、と鋭い感覚が襲い、どうしようもなく充血してゆく。
どうしてそんなにうまいんだ……
暦はなぜだか悲しい。と、同時に、身をゆだねてしまいたい衝動に駆られる。
「よみ、こっち」
智が暦の肩を抱き、ゆっくりと振り向かせた。裸の智。向かい合うと恥ずかしい。
「立って」
従った。たぶん、踊れと命じられていたとしても、その通りにしていたろう。
湯が肌の上を流れ落ち、陰毛からしずくがたれた。
智が見上げている。
「きれいじゃん」
「どっ、どこが」
「よみのあそこ。想像してたより、ずっときれい」
「ど、どんな想像してたんだ」
手で前をおさえた。
「だって、よみ、私より生えるの早かったろ? 頼んでも見せてくれなかったし」
「見せるわけないだろ、そんなとこ」
「だから、想像してた。よみのあそこって、私のと違うのかなって……」
智がじっと暦を見ている。そんな目つきは小学生のときと変わらない。奇妙にひたむきな表情。その顔が一瞬後に笑顔になるか泣き顔になるか、予測もつかない。
「よみのあそこ、もっと、ちゃんと見たい」
「ば、ばか……」
「みして」
「だ、だめだろ、ふつう」
「脚開いて」
「だめだって、これ以上は……」
うろたえつつ、暦は脚を閉ざそうとする。
「お願い」
「だから、こんなことしたら、私たち――」
「よみ」
智が暦のふとももに触れる。びりびりと痺れる。まるで電子錠が開いたかのように、暦の脚が開く。
「あ……っ」
まじまじと智がみている。
「ピンク色だ――色白だからかな。花びらみたいにきれい」
「ば、ばか……」
「さわるね」
智が指をのばす。
違和感が襲ってくる。智のまじめな顔と、指の動き。その動きに連動して、暦の股間が摩擦熱を帯びる。
(智に……あそこみられて、いじくられて……っ)
なにかが突き上げて、侵入の深度を高めてゆく。
「と、智……っ」
暦はかがんで、智の頭を抱きかかえた。なにかに掴まらないと、こらえられない。
胸のふくらみを智の顔におしつけた。
「わぷ、よみ、苦しいって」
「だって、智が、へんなとこ触るから……っ」
「へんなとこじゃないって、ここは」
智が暦の中をさわる。
広げてゆく。
「智ぉ……」
「ん」
智は顔をずらし、暦のふくらみの先端を口にふくんだ。
とがった部分を吸い上げられる。
「あっ……あああっ」
暦は声を高めた。
自分を制動する力はもう出てこない。智の指の動きが、舌の柔らかさが、暦の意識を蕩かしてゆく。
智は右手で暦の下半身を責めながら、左手で背中をさする。そして、両の乳首を交互に舌でなぶった。
「よみ、濡れてる」
智が右手の指をぬいて、暦に見せた。
「お湯じゃないよ、ほらネバネバ」
指と指の間に糸のように橋がかかる。
「だって、智が――」
「きもちかった?」
暦は、いつものようには返せなかった。身体の中で、自分でも知らないスイッチが入ってしまったようだった。
「ベッドいこうよ、よみ」
智に言われて、ただ、うなずいた。