「四人ともなかなか上玉じゃないか。特にあの黒髪の子、人気出るぞ」
「そう、ベースの子ですよね、秋山澪」
スーツの男と呉竹は桜高軽音部の演奏そのものよりも、演奏者のプロフィールの確認にいそしんでいた。
「ボーカルは、澪って子と唯って子が半分ずつか? 唯って子は頭が悪そうだが、その手の客には受けそうだな」
「平沢唯ですね。ちょっと、胸は発育不良ぎみですが」
呉竹は手元で携帯を操作して、動画を再生していた。そこには、唯たちの楽屋でのはしゃぎっぷりが映し出されていた。隠し撮りの映像だ。
「あのキーボードの子もいいな。いい乳をしておる」
「社長、もうお楽しみの算段ですか? じゃあ、オレは田井中ちゃんで」
呉竹がひっひっひっと嗤う。
「で、ちゃんと仕込んであるんだろうな? いつものヤツ」
「もちろん。楽屋の飲み物に、たっぷりと。全員、口にしているのは隠しカメラでも確認済みです」
「しかも、全員、特製下着まで着けてくれて、完璧だな」
「性感増強剤入りの飲み物に、興奮剤を生地にしみこませた下着――そろそろ成分が全身に、特に性器にまわってくるころです」
「演奏による興奮と錯覚しているんだろうなぁ、みんな、イキそうな表情をしておるぞ」
ライブハウスのオーナー、というよりはこの街のピンク業界のドンとも言うべき悪徳社長は四角い顔を歪めた。
「ヤバ、なんか、すごく調子イイかも」
律は曲間の小休止に、荒い息をはいた。
頬がポッポッと上気して、熱いくらいだ。全身がぞくぞくしている。体調が悪いというよりは、良すぎる感じ。
「ほんとだよ、あたしたち、すごくうまくなった?」
唯も顔が赤く、目がうるんでいる。ライトのせいもあるが汗の玉を顔に浮かべている。
「音響や機材のせいか、音もとてもいい感じ」
見た目変わっていない紬だが、彼女も興奮していることが、胸元のポッチで見て取れる。乳首が勃起しているのだ。
それを見て、注意しようとした澪だが、自分もさっきから乳首が痛いくらいに硬くなっていることに気づいた。エロプラなので、露出した乳首が生地にこすれてしまうのだ。フリルがあるから、ポッチが見えることはないのだが。
何かヘンだ……という感覚は澪にもあった。だが、演奏が気持ちよすぎて、その理由を考えることもできなかった。
「実はさぁ……あたし……ちょっと濡れてる」
小声で律が大胆にも告白する。もちろん、観客には聞こえないようにだ。
「わたしも……さっきから……」
紬も恥ずかしそうに膝をもじもじさせる。
「あ、あたしもだよ、下着ヌルヌルして、気持ち悪い」
唯があっけらかんと言う。
「唯、マイク!」
澪が慌てて注意する。唯はメインボーカルだからスタンドマイクに近い。
かく言う澪も事情は同じだった。かつて経験ないほどの濡れかたをしていた。
「ねえ、律、そろそろ終わりに」
「じゃ、次の曲やろっか。新曲いこ!」
澪が止めるより前に、律がリズムを取り始めてしまう。澪は仕方なくベースを持ち直す。ドスン! バスドラムの音が下腹に響く。自分でも自覚しないうちに、きゅっと締め上げ――どこを?――澪は演奏に入り込んでいく。
思い通りに指が動き、自ら奏でた音がPAで増幅され、空気の振動となって全身を包む。
唯の音が食い込んでくる。特訓したリフだ。うまくなっている。股間に音が刺さるような感覚にぞくぞくする。
紬のメロディが背筋をなでる。優しく、怪しく、上下に行き来する。まるで紬の手が這い回っているようだ。
唯のボーカル。歌詞は間違いだらけだ。だが、もうそんなことはどうでもいい。唯のファニーボイスが脳を痺れさせる。唯も楽しそうに歌っている。
ライトが白熱度を高める。暑い。いや、熱い。だが、心地の良い熱さだ。
前から、後ろから、上から、下から。
ライトに射貫かれて、紬の身体のシルエットがあらわになる。澪は一瞬、目の錯覚かと思った。豊かな胸も、大きめの乳輪も、その真ん中の突起も、見て取れたのだ。それだけではない。くびれたウェストから腰にかけてのラインも裸のそれのようになまめかしく見えた。
唯もだ。ドレスの生地が透けて、幼児体型のシルエットがわかる。子供っぽいくせにエッチっぽい丸いヒップが、曲の振りに合わせて左右に揺れる。Tバックなのがわかる。
律は。ドラムセットに隠れてよく見えない――かと思いきや、ステージのバックのモニターがいつの間にかオンになっていて、律の姿を映している。しかも、演奏のためにひろげた脚の間をねらっている。白い太股とその奥の黒い下着がばっちり見えている。
画面が切り替わる。自分だ。澪は自分の着ているものが、ライトの透過によってほとんどスケスケになってしまうことに初めて気づいた。胸が――ブラジャーの上半分がないデザインのせいで、乳首も丸見えだ。
「ひ」
羞恥のあまり、しゃがみこみそうになる。だが、演奏は続いている。最高の演奏だ。唯も、紬も、律もトランス状態。それを壊したくない。澪はベースを抱えるようにして演奏だけは続けながら、律の方に近づいていった。もちろん、演奏を中止して、撤収するためだ。このステージは明らかに異常だ。おもえば、澪の体調の変化もおかしい。いくら最高の演奏ができても、こんなふうになるはずがない……こんなに気持ちよくなるはずが……
サビだ。唯が声を張り上げる。澪はコーラスだ。合わせなきゃ、と思ってしまう。だが、ステージで身体をさらせば、裸を見られるのと同じだ。
唯が澪を振り返る。来て、と目が言っている。最高に幸せそうな表情だ。紬も、律も澪をうながすように視線を向ける。
その一体感に、澪の心がとろけ、羞恥を喜悦が押し流した。
唯のスタンドマイクに駆け寄り、声を合わせる。
観客席に目をやる。男たちは夢中で手を叩き、飛びはね、演奏に熱狂している。いや、熱狂しているのは澪たちの身体に対してだ。熱っぽい視線と歓声。
ライトが全身を貫く。澪は、ほとんど全裸をさらしている自分を自覚する。見られている。
頭の中が真っ白になる。澪は音と光の中で、達してしまう。
唯の声が途絶えた。そのかわり、柔らかくて温かいものが肩によりかかってくる。唯だ。幸福そうな顔をしている。
「澪ちゃん……あたし……いま……いっちゃった……」
「ちょっ、唯」
と同時に。
観客席の男たちが奇声とともにステージに駆け上がってきた!