GOSICK

-囚われの雛鳥は名も識らぬ卵を抱えて眠る-

6. ぎしき 3

 妹の甘い声が聞こえてきた。新聞を持つ手の指に思わぬ力が入る。

 見ないようにしてきたが、つい寝台の方に目をやってしまう。

 ヴィクトリカは寝台に固定され、脚を大きく広げさせられている。分娩台のかわりにもなる寝台だ。もし、ヴィクトリカが懐妊すれば、あの寝台で次なる灰色狼を産み落とすことになるのかもしれない。

 乳房への責めによって、すでに性器も愛液で濡れていたようだ。男たちは「こんなことは初めてだ」「これなら、ローションなしで挿入できるな」と悦んだ。

 だが、彼らはすぐには挿入する気はないらしく、クリトリスや小陰唇を指で刺激しはじめた。

 それが、十分以上、続いている。

 これまで前戯らしい前戯をされたことがないヴィクトリカが、あのねちっこい責めに耐えられるとは思えない。

「あ……ああ……なぜ、そんなとこばかり……いやだ……いやあああ」

 ヴィクトリカの混乱した声。

「クリトリスがこんなにおおきくなって……ヴィクトリカさまはエッチですなあ」

「子供みたいなまんこがヌルヌルですぞ」

「やあっ! はあ……指ぃ……そんなとこ、い、れる、な……あああああッ」

 男に指がヴィクトリカの中に入り、ゆっくり抜き差しされている。

 とうに処女膜を失った膣穴だが、そこは幼女のそれのように小作りで、粘膜もピンク色だった。もともと恐ろしいくらい色白の肌だ。充血した部分が花びらのように見える。その花びらをかきわけて、太い男の指が出たり、入ったり。

「いやあ、今までは手間を惜しんですぐに突っ込んでいましたが、もったいないことをしていましたな」

「まったくですな。まんこの中のツプツプの感触、指を締め付けてくる圧迫感とか、これはこれで」

「うっ! うあっ! ああああっ!」

 腰をくねらせるヴィクトリカ。人形のように整った顔が、いまは切なくゆがめられている。

 指で膣をいじくられて、感じているのだ。寝台の上で腰が上下に動いている。無意識の動きだろう。

「くそっ」

 グレヴィールは立ち上がり、寝台の方に一、二歩、近づいた。

「おや、グレヴィール警部」

「これは珍しい、参加されますか?」

 男たちが振り返って声をかけてくる。

 ちっ、おもしろがっていやがる――グレヴィールは腹立たしさに音をたてぬように舌打ちをする。

 警察官としてはグレヴィールの部下ということになっているこの二人だが、オカルト省の序列では彼らの方が上なのだ。グレヴィールが父の名代として権力の一部でもふるえるようになれば話は別だが――

 ブロア家の嫡子であるゆえ、オカルト省所属の高級司祭であるこの二人も、グレヴィールに無礼な態度をとることはないが、内心は見下しているのだろう。灰色狼の妹よりも非才な凡人だと。

 たしかに、警察官としてのグレヴィールは決して有能ではない。世間では名警部と持ち上げられているが、実際に事件の謎を解いているのはヴィクトリカだ。

 当然だ。ヴィクトリカは知恵の泉を支配する、真正の天才なのだ。データさえ集めれば、完全に無謬な推理を構築してみせる。その思考能力こそ灰色狼たるヴィクトリカの才能だ。その才能は、あらゆる分野で世界を揺るがす脅威になりうる。政治、経済、軍事、外交――世界は混沌に満ち、正しい道を見いだすのは容易ではないが、灰色狼たるヴィクトリカは、絶対に正しい答えをはじき出すのだ。もしも、質問を打ち込むだけで100%正しい答えを教えてくれる電算機があったとすれば、それを持つ国は、他国を圧して有利な立場を手に入れるだろう――それを仮にスーパーコンピューターと呼ぶとすれば、ヴィクトリカがまさにそれなのだ。

 その、国家戦略の要ともいうべき少女が――オカルト狂いの中年男二人にいいようにされている。

「そろそろヴィクトリカさんの気持ちいいところがわかってきましたよ?」

 指で少女の膣を探査しつつ、男が笑う。

「ほら? このへん擦るとイイでしょう?」

「そこ」を刺激されたのだろう、ヴィクトリカがびくんびくん痙攣する。しゃっくりのような短い声をあげながら、股間から愛液を噴出させる。

「潮吹きまでするようになりましたか、さすがは灰色狼、覚えが早い」

「……ゆるして……もう……おねがい……」

 性器に加えられた過剰な愛撫にたえかね、ヴィクトリカが懇願する。いつも生意気な声音は消え失せ、ほとんど泣き声にちかい。

 莫迦なやつだ……グレヴィールは思う。最後には必ず負けるのに、我を張るからよけいに傷つく。相手はブロア侯爵なのだ。この国を――いやヨーロッパ諸国の動向をも支配する、怪物なのだ。

 だが、最近のヴィクトリカは何か変わった。おそらく、あの東洋人の少年――久城一弥と知り合ってからだ。ブロア侯爵の意向にさえ逆らう気概をみせた。所詮は掌の上で転がされているだけのことにせよ、何もせず、すべてをあきらめて受け入れた自分とは違う。

 ――まったく、ひどい見世物だ。

 唾棄すべき怪物、忌避すべき魔物であるはずの灰色狼が嬲られているさまが、なぜ、こんなにも心に刺さるのか――