うたかたの天使たち 外伝
美耶子のお仕事シリーズ Part7

 「男優のおしごと」

PART 1 いきなり!? 美耶子とホンバン!(前編)

 


0.プロローグ

 子役ブームが席巻する芸能界。

 子役による濡れ場の演技が、今や映画・ドラマの華となった。

 かつてのキスシーンのような位置づけで、初潮前の少女の性器挿入シーンが使われている。

 初潮前の少女への膣内射精は「生殖行為ではない」。したがって、「猥褻ではない」。という論理が成立している。嘘のようだがそれが事実だ。

 こういった「理屈」はこの国ではよく編み出される。

 この国の法律では賭博を禁じている。だが、パチンコという「遊戯」で勝つと特殊な景品と交換できる。その特殊な景品は日常生活では何の役にもた たない。貴金属としての価値もない。

 だが、その景品を欲している店が、偶然、パチンコ店のすぐ近くにあって、買い取ってくれるのだ。全国にあるすべての パチンコ店で、この「偶然」が起こっている。

 賭博を禁止する法律があるなかで、警察はこれを「合法」としている。それによってパチンコという 巨大産業は回り続けている。

 ソープランドもだ。この国ではやはり売春を禁止する法律があり、風俗営業店でも本番行為は禁止されている。

 でも、客と嬢が個室で「恋に落ちたら」セックスしてもいいじゃん。その恋が九〇分とか一二〇分で終わったんならしょうがないじゃん。

 そういう理屈がいくらでも成立する国なのだ。もちろん、警察は時々、ソープランドなど風俗店にガサ入れをすることがあるが、それはちょっと したガス抜き、「野放しにしてはいませんよ」というアピールのためだ。地下カジノの取り締まりにいたっては「商売敵」を潰すための行動にしか 見えない。

 芸能界にいたっていえば、こういった建前のオンパレードだ。

 数十年前にも少女ヌードのブームはあった。アンダーヘアがご禁制だった時代だ。陰毛のない子供の性器は、いやらしくない、という理由で、お おっぴらに写真集が発売され、テレビにも子役の少女のワレメがごく普通に映っていた。

 そこから少し時間がたつと、逆に無毛のワレメのほうがいやらしい、ということになった。すると、今度はヘアヌードが大ブームとなった。

 禁止の基準が「猥褻」という、曖昧な、絶対的な基準がないものだけに、時代の状況によってまるで変わってしまうのだ。

 ポルノ映画にせよ、ある時期までは「前貼り」をして性器を隠した上で、絡む「ふり」をしていたのが、アダルトビデオ全盛になるとホンバンが 当たり前になった。「モザイクで隠していれば本当にセックスしているかどうかわからないので問題ない」という理屈だ。

 法律も、猥褻の解釈も、「どうにでも変えられる」ものになってしまったのだ。

 要は時代が何を求めているか、なのだ。

 現代のトレンドは「少女の性」だ。

 むろん、少女との性行為は違法だ。合意があっても、十二歳以下の少女との性交は強姦として裁かれるのは言うまでもない。

 少女との性交が許されるのは、あくまで「虚構」の世界でのことだ。

「殺人」はもちろん犯罪だが、映画やドラマで描かれる「殺人」は犯罪ではない。それと同じように、「フィクション」をまとえば、少女とのセッ クスシーンだって表現可能なのだ。

 そして、それが虚構として描かれる限り、撮影現場で何が起こっているかは問題ではない。

 この少女の性描写が爆発的にウケた。もう誰も想像できないレベルでそれは浸透した。

 この時代、十二歳以下の子役の少女たちが、それまでの人気女優たちを駆逐する勢いで露出を加速させている。

 テレビをつければ、あたりまえのように少女の裸が映る。恋愛系のドラマでは、子役のカラミが一度もない方がまれだ。

 プリキュアに憧れていた幼女たちは、今やテレビでセックスしてみせる人気子役たちを崇めている。

「美耶子ちゃんみたいになりたい」というのが今時の幼女たちの夢なのだ。

 子役のオーディションにはどんな端役でも応募が殺到するという。

 むしろ親のほうが必死らしいとも聞く。

 だが、ここに皮肉な現実がある。

 子役ブームを支えているのは、実のところ、子役としっかり絡むことができる男優なのだ。

 子役との絡みは決して簡単な仕事ではない。

 未成熟な肉体を傷つけないように扱わなければいけないし、大半の子役は知識もテクニックも乏しい。つまり、ヤッてさほど気持ちの良い相手で はない。

 トップクラスの子役たちは大人の女性をはるかに上回るテクニックを持っているとされるが、誰もが「宇多方美耶子」や「芦多愛菜」や「奔田望 結」になれるわけではない。

 文字通り、経験の乏しい、小便臭い小娘とカメラの前で絡まなければいけないのだ。

 正直、こうした仕事を完璧にこなせる男優は多くはない。

 そのため、一部の役者に仕事が集中する。

 たとえばおれのような――




 永瀬一朗、それがおれの芸名だ。本名も同じだけれどもな。

 だが、この名前を映画やドラマのスタッフロールで見かけることはほとんどないはずだ。せいぜい、セリフがひとつかふたつかしかない役くらいしか あてがわれることがない、典型的な「売れない役者」だからだ。

 役者では食えず、アルバイトを掛け持ちしながら、なんとか続けてきた。

 芝居が好きだった。演じることに取り憑かれていたといっていい。

 そのためには家庭さえ顧みなかった。その結果、女房にも逃げられた。おれの先輩の売れっ子役者とデキて、出て行ってしまったのだ。

 定職にも就かず、劇団から劇団を渡り歩きながら、いっこうに芽が出なかったのだから、見限られてもしかたないだろう。

 女房は同時におれの宝物を奪っていった。

 娘だ。

 名前は香利奈。今年9歳になる。

 おかっぱ頭で、派手なところはないが、女房の目鼻立ちを受け継いで、少したれ目がちだが、くりっとした眼をして、たいへん可愛い。このへんは親 の欲目もあるだろうが――おれに見た目が似なかったのは幸いだった。(おれは演技派の役者だからな……見た目はたいしたことない)

 不倫をしたのは女房の方だったのに、娘の親権はおれには残らなかった。おれの収入が不安定だったせいだ。

 面会権を確保するのがやっとだった。そのかわり慰謝料も何もかも諦めた。表面上はおれがDV亭主で家にカネを入れないために女房が娘を連れ て逃げ出し、かねてから相談に乗ってもらっていたおれの先輩役者に保護を求めた――そんなふうになった。

 先輩の役者はそれなりの人気者で、カネも持っていたから、優秀な弁護士を使ってきたのだ。

 逢えるのはひと月に一度。女房側の弁護士立ち会いの元でだ。制限が厳しく、自由に遊びに行くこともできない。

 寂しい思いをさせているが、それでも香利奈に逢える日はおれにとって最高の幸せだ。香利奈もおれと逢う日を心待ちにしているらしく、面会時には おれから離れない。

 気の利いたお土産ひとつ買ってやることさえできない情けない父親のおれの話に、眼をキラキラさせながら聞き入っている。

 役者の現場のこと、有名な芸能人と競演した――というか本当は現場で目撃しただけだが――時のこと。アイドルや人気子役の話などにはことに興味 があるようで、食いつき気味に質問してくる。

 おれはそれに適当に(盛って)答えてやるのだが、そうすると、香利奈は熱っぽくおれを見つめて言うのだ。

「すごいね! おとうさんはすごいんだね! そんな有名な人たちといっしょにお芝居して――出番は少なくても、ずっとおとうさんのほうがお芝 居うまいもんね!」

 香利奈はおれがたまに出たテレビや映画は欠かさずに見ているそうだ。元女房は「そんな三文役者の芝居など見るな」と言ってくるのだそうだが ――

「ぷろでゅーさー?って、偉いひとたち、見る目ないよね。あの人より、おとうさんのほうがお芝居うまいのに――」

 あの人、というのは元女房の現在の夫――売れっ子役者になったおれの先輩のことだ。いちおう、家では「パパ」と呼ばさせられているようだ。

「でも大丈夫、『パパ』ともうまくやってるよ。ちゃんと、それっぽく振る舞うし――うん、お芝居だけど。だって、おとうさんの娘だもん」

 そして、香利奈は唇を尖らせて言うのだ。

「香利奈が大きくなったら、女優さんになって、おとうさんと競演してあげる。そうしたら、みんなおとうさんのお芝居にびっくりするよ、ぜった い!」

 そんなふうに会話をしたのは香利奈が7歳の頃くらいだろうか――そして、おれは香利奈との面会権も失った。香利奈が正式に先輩と養子縁組し て――香利奈自身がおれとの面会を拒むようになったからだ。おれの口座には手切れ金として500万円が振り込まれ――情けないことにそれを切り崩しながら 暮らす生活が続いていた。


 その間に芸能界はすっかり様変わりした。

 空前の子役ブームの到来だ。

 そのあおりで大人の役者の役割も変わってしまった。いかにメインの子役を輝かせられるかが求められている。なにしろ、視聴率を持っているの は彼ら子役だし、劇場映画の客入りやその後の映像ソフト、グッズの売れ行きも、子役人気に頼っているのが現状だ。

 今や、どの作品でも、女児との絡みはあたりまえだ。

 絡みというのは、そのままの意味だ。

 ベッドシーン、もっとはっきり言えば、セックスシーンだ。

 子役と性交することを、今の役者は求められているのだ。

 それまで家庭的な雰囲気で人気だった男優が、カメラの前で少女をレイプする役を演じて、さらに売れっ子になった例もある。逆に、ワイルドな イメージで売っていた男優が、子役とのホンバンを拒否して干されたという話もある。

 子役とヤれなければ生きていけない。それが今の芸能界だ。

 おれのような仕事を選べない役者は、それこそ何でもやらなければいけないところだが、子役とのカラミはどうにも無理で、話があっても断って きた。

 香利奈の存在だ。

 子役には香利奈と同じ年頃の子供も多い。そんな子供相手とカラミはできない。それが演技だとしてもだ。

「いっちゃんもさあ、スタンドマンだったらいくらでも声かかんだろ? ガタイいいし、いいブツぶらさげてんじゃーん」

 親しくさせてもらっているAD(アシスタントディレクター)からはそんな風にも言われた。「いいブツ」って言われてもな。まあ、これまで裸 になる仕事はいくつもあったから――カラミじゃなくて銭湯に入っている客の役とかだが――見られていても不思議はないんだろうが。

 それにしても、今の子役ブームにあって、男優不足というのが不思議だった。そういうことをしたい連中ならいくらでもいるんじゃないか?

「子役とヤリたいだけのバイトならいくらでも集まるけどな、芝居ができるやつなんざほとんどいないよ。しかも、肝心な時になると縮こまっちま うヤツばかりだ。マジ、人手がたりねーよ」

 そう言われれば納得できなくもない。カメラの前で演技するというのは――それができるというのは、やはりひとつの才能だ。ましてや、自分の 肉体をあるがままカメラやスタッフの前でさらすっていうのは、理屈じゃなく、役になりきらないとできたもんじゃない。その人物になり、芝居の 時間と空間にはまりこんで、その人物が自然に為すであろうことを為す――それが性行為であれば、それを仕遂げる――それができるのは、やはり 役者という生き物だけだ。

 それでも、おれには無理だ。おれには香利奈がいるから――その顔が思い出されてしまった時、同年代の少女に対して性的な行為をすることはで きないだろう。いくら脚本にそう書かれていたとしても。

 だが、いち役者として、子役の演技力には興味があった。なぜ、ここまで短期間で人々の心を掴んだのか。

「だったら、一度、現場見に来なよ、テレビドラマなんだけどさ。エキストラの仕事もあげるから」

 ADがそう誘ってくれた。

「このドラマの主演女優は見ておいたほうがいいと思うよ。今の子役ブームの震源地にして最先端、宇多方美耶子だからな」


「はい、じゃあ、リハおねがいしまーす」

 撮影現場の空気は、ゆるやかなようで、しかしピンと張りつめている。

 スケジュールや予算に余裕があるプロジェクトなんて本当に希だ。どこでも時間もカネも切迫している のだ。

「美耶子ちゃん、じゃあ、カメラリハだけど、きつかったら言ってね」

「あ、大丈夫でーす」

 バスローブを羽織った子役がベッドの上に座って元気よく手をあげる。

 宇多方美耶子、かのAD氏が言ったとおり、現在の子役ブームを牽引する、断然トップの子役だ。

 まだ十歳の小学四年生。ちょっと癖のある長い髪をカールさせ、今日はおでこを出している。

 絶世の美少女というほどではないが、クラスでならいちばん可愛い子かな、という絶妙なバランス。そ して、よく動く表情に、笑うと覗く八重歯――彼女の出演するドラマを見ると、その役柄にかかわらず、いつのまにかファンになってしまっている といわれる、不思議な魅力の持ち主だ。

 その体当たり演技はいつも世間の話題を集め、子役の表現の限界をつねに押し広げている。言い換える と、いま、日本の芸能界、映画界の表現は、この少女が「どこまでやるか」にかかっているといっていい。

「じゃあ、連続ドラマ『LINEで恋しよ♪』の第一話、ヒロインが行きずりの男相手に処女を捨てる シーンのリハいきまーす」

 子役の濡れ場はドラマの見せ場だから、緊張感がいやます。

 おれは、通行人Aの役で出演(といえるほどではないが)した後、知り合いのADの厚意で見学させて もらっていた。基本、濡れ場は部外者立ち入り禁止だから、これは件のADが、おれをスタンドマンの世界に誘う手だと承知していたが、飛ぶ鳥を 落とす勢いの宇多方美耶子の芝居を直に見てみたいという欲求には勝てなかった。

「男優さんもスタンバイオッケイでーす」

 おれと同年代――三十代の役者がバスローブ姿でセットに入ってくる。

 顔は現場で見かけたことはあるが、名前は知らない。おれと同程度の格の大部屋役者だ。おれとの違い は、先方は子役相手の濡れ場がこなせる、ということだろう。

 その一点で、おれは「通行人A」で、向こうは「主演女優の相手役」となる。テロップにも名前が載る だろうし、宇多方美耶子の相手を務めたとなれば、他の子役の相手役にも指名されるだろう。

 子役相手の役者にもやはり「格」というものがあるようで、宇多方美耶子のようなトップ子役とヤッ た、というだけでその後のギャラも跳ね上がるらしい。

「じゃあ、リハ始めまーす」

 美耶子と男優がベッドに腰掛ける。

 ここまでの話はこんな感じだ。

 母の再婚で義父ができた小学生の美耶子(役名も美耶子)だが、その義父とお風呂に入っているとき、 怪 しい雰囲気になってしまう。その際はセックスには至らなかったが、それがきっかけで都は性に目覚めてしまう。自慰を繰り返し、学校でもガマン できず、授業中まで下着に指を這わせる始末。そんな都の変化に気づいた同級生あやかは「LINEで相手を見つけたらいいんだよ」と援交をそそ のかす。誘いに乗ってしまった都はLINEで処女を散らす相手を募る――という展開だ。

 タイトルが軽い割に内容はシリアスだ――

「――ほんとに小学生なんだね、びっくりしたよ」

 セリフのやりとりが始まる。リハだがカメラも回している。

 ラブホテルの一室を模したセットで、数台のカメラが二人を追う。

 予算がふんだんに使われていることがわかる。セットの作りもしっかりしているし、スタッフの数も多 い。高視聴率が約束されている宇多方美耶子主演ドラマならではだ。

 おれの胸の奥がちくりと痛む。二十年近く業界にしがみついているのに、ここではおれはただの通行人 Aだ。あんな数のカメラに追われたことなんかない。これだけの数のスタッフに凝視されることも、ましては数百万、いや数千万人もの視聴者に演 技を見てもらえることなんか――

「うん、四年生だよ――ちっちゃくてごめんね?」

「へっへっ、おじちゃんにはそっちの方がありがたいよぉ」

 男は変態っぽく笑った。ロリコンおやじという設定だからだろう。だが、軽薄さが鼻をつく。

「おじさん、ちっちゃい子、好きなの?」

「そりゃあ、好きさ。なにせ、都ちゃんみたいに肌がぷにぷにで触り心地いいからねぇ」

 言いながら、男は美耶子のバスローブをはだける。その下は全裸だ。

 ちいさな膨らみがあらわになる。男は乳房とはいえないようなささやかな隆起を指でつまみ、揉みしだ く。

「んっ……いたっ」

 顔をしかめる美耶子。成長期の乳首は敏感なのだ。

「ああ、ごめん、ごめん――ぺろぺろして直してあげる」

 男は美耶子をベッドに押し倒し、ローブを完全に脱がして、美耶子を生まれたままの姿にすると、真っ 平らな胸に舌を這わせはじめる。

 ピンと立った、だが子供サイズの豆粒のような乳首を男が音をたてて吸いあげる。かなりがっついた印 象だが、そういう演技プランなのだろう。だが、リハでもここまでするんだな。

 美耶子は困ったようなくすぐったそうな表情だ。

 男はそれに気づかず、美耶子の乳首を口に含み、強く吸い上げる。

「あーっと、キスマークはつけちゃだめよぉ……本番までとっといてよぉ……」

 オカマっぽいおっさんの声が入ってくる。このドラマの総合ディレクターの桃山園氏だ。宇多方美耶子 とのコンビでこれまで数え切れないほどのヒット作を生み出している。子役業界では今や押しも押されぬ巨匠だ。

「す、すみません、つい」

 男は唇を離し、おびえたようにわびる。

「いいけど。リハでもちゃんと美耶子を感じさせないとだめよ。そうやって信頼関係を築かないと、本番 でもいい絵にはならないわ」

 さすが巨匠。なんだかすごくいいことを言っている感じがする――やらせている内容はアレだが。

「はいっ! 美耶子ちゃん、よ、よろしくね」

「あ、大丈夫でーす。あの、このシーン、都、まだ何も知らない設定なので、じっとしてますけど、とっ ても気持ちいいので、もっとしてくださいね」

 男優のテンパり具合に比べて、宇多方美耶子の落ち着きようはどうだ。男優に自信をつけさせることも 忘れていない。

「マジで!? うれしいなー、この撮影、決まった時から、すごく楽しみにしてたんだ」

 どうやら、男優は普通に美耶子ファンだったようだな。そりゃあ、がっつくだろう。

 

  
 


 リハが再開される。

 やることは大まかには決まっていて、台詞もそこにはさまるようになっているが、実際の行為の流れは 役者に任されているらしい。これは、リハと本番で違うことをやってしまいかねないが――それだけ役者に任されているというのはやりがいがある な……

 男優は嬉しそうに美耶子の唇を奪い、舌をからめた。初めてディープキスを体験した時の困惑と忍耐を 美耶子は表情と吐息で表現する。ロマンチックな前振りもなく、いきなり臭い唾液を流し込まれて――それでも性の奔流に揺らいで、わずかに陶酔 しているという微妙な表情だ。思ったより細かい演技もできるらしい。意外だな。子役というからてっきり大げさな「泣き」の演技くらいしかでき ないかと思っていた。偏見かな。

 男優のほうは、その美耶子の演技を受けて返すという余裕はなく、ひたすらに性行為にのめりこんでい るようだった。

 美耶子の股を広げさせ、性器をいじくる。指を差し入れ、抜き差しする。おいおい、処女設定、忘れて ないか?

「い、いたっ……!」

 美耶子が身をよじる。美耶子は忘れていなかったようだが――

「濡れる……濡れてきた……美耶子ちゃんのおまんこ、ヌルヌルしてきたよ」

 男優は指についたぬめりを美耶子に見せつける。

「やぁ……おじさん、はずかしいよぉ……」

 手で顔を覆う美耶子。

「あはは、美耶子ちゃんのおまんこ、おいしいなぁ」

 男優はぬめりのついた指を舐めると、今度は美耶子の股に顔を埋めた。

 しゃぶりつくようにして、美耶子の性器を吸いあげる。

「あぅっ!」

 腰をはねあげる美耶子。いやいやするように腰をゆする。

 かまわず、性器を舐め、吸う男優。

「ああああっ! だめぇ! おじさぁん!」

 脚本の流れ的には、ここで美耶子がクンニでイカされるのはそれで正しいのだが、どうにも男優の責め が一方的で、美耶子の初々しい反応や戸惑いを拾えていない気がする。そのため、いきなり美耶子がイッてしっまたような不自然さが残る。実際、 美耶子のアクメは演技だろう。非常に巧みではあるが、本物の切迫感はなかった。

「イッちゃったねえ……美耶子ちゃん、おじさんのテクニックすごいだろぉ? じゃあ、オチンチンでオ トナの女にしてあげるからねぇ……」

 男優は屹立したペニスをしごきながら、セリフを読み上げる。これも脚本通りなのだ。

 これが地上波のドラマだというのだから、隔世の感があるな……まあ、今は人気番組の大半がこんな感じなのだが。

「総監督、リハですけど、いいっすか? この役者、入れちゃいそうですけど」

 ADが桃山園に確認する。おれを現場に入れてくれた知り合いのADだ。桃山園組でけっこうういい位置にいるっていう話は本当だったんだな。

 桃山園はサングラスに手をやり、一瞬考え込んだようだが、

「まあ、いいんじゃない? 美耶子のおまんこの感触にちょっとは慣れてもらわないと――このままじゃ本番が悲惨なことになりそうだし」

 おいおい、リハーサルから挿入解禁か……しかもノースキンで。桃山園ドラマはガチ、というのは本当なんだな。ふつうは、役者の体力などを考 えて、挿入はできるだけ本番まで温存するもんだがな――スキンなしというのも驚きだ――よく美耶子サイドが承知したな――まあ、子役業界にそ んなに詳しいわけじゃないが。

「み、美耶子ちゃん、入れるよ、入れちゃうよ……!」

 男優はすっかり理性を失っているようで、生ペニスを美耶子の性器に押しつけて、入口を探っている。

 美耶子は芝居の流れの中でごく自然に桃山園の方に視線を飛ばした。桃山園は黙って拳を突き出した。親指が人差し指と中指の間から覗いてい る。美耶子はヤレヤレというように目を閉じると、すぐに演技に戻った。

「お、おじさん……い、入れちゃうの……? せ、セックス、しちゃうの……?」

「するよ! オチンチンを今ぶちこんであげるから……! おっ。おやっ!?」

 美耶子の膣口を探して男優が亀頭を押しつけるが、中に入れないようだ。女優とはいえ、美耶子はまだ小学生四年生――そこは年相応のサイズな のだろう。

 と――美耶子が少し腰を動かす。

「おっ! あああっ! は、入ったぁ!」

 ぬるん、と、男優のペニスが美耶子の膣内に侵入する――というか、美耶子が導いていたな、明らかに――

 子役にベテランという言葉は似つかわしくないが、明らかに場数を踏んでいないとできない腰使いだった。

 おそるべし、宇多方美耶子。あれでおれの娘とほとんど歳が変わらないんだからな……

 

  
 

 リハーサルだが、本番になった。ややこしいな。リハーサルだが、実際にセックスを始めた、と言った方が正確だが、いずれにせよ破天荒だ。ス タッフも役者もどうかしてる。

 だが、これがこの現場――桃山組でのルールなのだろう。

「うっ! くぅうう……っ!」

 男優にがっつり挿入された美耶子は、眉根を寄せて、顔を紅潮させる。小鼻が開くとともに、小さく口をあける。犬歯が覗いたかと思うと、きゅっと 唇を噛む。涙がつぅっと頬を流れる。破瓜の痛みに耐えている演技だ――ほんとうに、純潔を失ったかのような、痛みと絶望――そして 快楽へのおびえが見て取れる。

 これまで、宇多方美耶子の演技をおれは全然評価していなかった。しょせんはついこの間までド素人だった駆け出しの子役で、セリフまわしも棒読 み、身体の動きも稚拙。リアルな小学生らしいといえばその通りだが、それ以上でも以下でもない――そんなふうに思っていた。だが、違った。 美耶子は援交での初体験という異常なシチュエーションを自然に演じきっている。

 一方の男優は、夢中で腰を動かしていた。

「すっげ、美耶子ちゃんのおまんこ、狭くてキツキツ! さすがは十歳……小四……おおっ! 奥にすぐ当たる! まじちっちぇえのに、気持ち、いい いいっ!」

 もはやセりフは吹っ飛んで、単なる感想だな。しかし、よく聞く話だが、ほんとなのだろうか?

 宇多方美耶子とヤると、もうほかの女ではイケなくなるーー

 事実なら恐ろしい話だ。

「うっ! はぅ! うくっ!」

 美耶子の方は初めての性交で乱暴に挿入、ピストンされている十歳の少女としてはリアルな苦鳴だが、その声に少しずつ艶が乗りはじめる。

「うぅ……いやぁ……やぁっ あっ、あっ、あっ……」

 息が荒くなり、時折、とろんとした表情が混ざる。

 美耶子の役どころでは、初体験の前に義父とセックス直前までいっており、その後オナニーにハマっている。性的にはかなり開発されており、初体験 でも感じる素養はあるのだ。

「みゃ、美耶子ちゃん! 気持ちいい? おじさんのチンポ、気持ちいい?」

 美耶子に覆い被さり、腰を打ちつけながら男優が声をうわずらせる。

 カメラマンが男優の後ろに回り込み、男優の尻ごしに、ペニスが出入りするところをアップでとらえる。

 ぶっとい大人ペニスが、小さな子供ヴァギナを張り裂けんばかりに拡張しながら、鉄杭さながらに打ち込まれていく。

 奥に押し込まれるごとに少女の秘肉もめりこみ、抜かれるさいにはピンクの粘膜が引きずり出される。

 圧倒的な迫力だ。

 美耶子のアナルも、膣内の異物の動きにともない、すぼんだり開いたりを繰り返す。

 こんなシーンをお茶の間で流したら、さすがに気まずいどころじゃすまなさそうだ。おそらくは、ビデオソフトの特典映像などに使われるのだろうが ――

「あっあっあっ……! おくっ! おくにあたって……あっあっ……! なにこれ……ぇ?」

 涙とよだれで顔をトロトロにして、美耶子が初めての中イキに達しそうだ。

 ほんとうにセックスしながらだから、演技なのかマジイキなおかわかりづらい。だが、よくよく見れば、ギリギリで性感をコントロールして、演技し ているのがわかる。想像だが、美耶子が本当にイクときはこんな感じじゃないのだろう、という気がする。この子は女優だ。女優は容易に本当 の顔はさらさないものだ。

 いっぽう、男優の方は演技もへったくれもなく、ただただ快楽に溺れている。

「美耶子ちゃんのおまんこっ! 具合が変わって……! きゅんきゅん締めつけながら、チンポをしゃぶってくるぅっ! すごいっ! 最高の子供まん こだぁ!」

 食レポならぬ膣レポだな。これはこれで需要ありそうだが――

 美耶子の腰をかかえて、男優がピストンを早める。結合部から白濁した本気汁がほとばしり、美耶子の薄い胸がヤバイくらいに上下する。贅肉のほと んどない少女の肋骨の影が浮かび上がる。

「ひぃっ! ひっ! あ、ああああああっ! おじさんっ! おじ……っ! いくっ! 美耶子、いくっ!」

「おじさんもいくっ あーいくっ! だだだ、出すからね! 中でいっぱい精液、出してあげるからね!」

 男優は射精に至る細かく速いピストンに移行する。

「――まだこの後、本番の撮影あるんだけど、あの男優大丈夫なの?」

 桃山園がモニターをチェックしながらADに訊く。そのADは首をかしげる。

「んー、大丈夫だと思いますけど。半月オナ禁させてますし」

「でも、さっき、シャワーでのフェラシーンでもリハと本番でそれぞれ出してませんでした? あの男優さん」

 メイク係らしい女性が口をはさむ。

 このシーンの撮影に入る前、前哨戦があったみたいだな。シャワールームでフェラ、その後ベッドで本番、というのは確かにありがちな流れではあ る。

「あ、でも、あいつ、精液タンクってあだ名があるくらいですから、大丈夫っすよ、たぶん」

 ADがかばうような発言をするが断言まではできないらしい。

「うーん、大丈夫じゃなきゃ困るけど、念のため、ね」

 桃山園は首をめぐらせる、大きな声をあげた。

「はーい、ストップ! ストップよ! 出しちゃ駄目! 本番にとっといてね!」

 だが、遅すぎた。男優はもう指示が聞こえないくらいに高まっていた。それに、声が届いたとして、もう止まれるものではない。

「出すっ! 美耶子ちゃんのまんこの中にっ! しょ、小学生にナマで中出しっ! 精液、ぶちまけるっ! おおおっ!」

「あっ、ちょっ、おじさん――リハで出しちゃだめって、ももちーが……」

 演技から抜けた美耶子は男優をとどめようとしたが、腰をかかえられて半分以上持ち上げられている。ジタバタもできないし、もうできることはひと つしかない。

「しょーがないなー、えい!」
 きゅっと膣を締めたようだ。男優のペニスの動きが止まる。なんという膣圧だろう。

 ギチギチとペニスを締め上げて射精を止めようとしたようだったが――だが、それがむしろ最後のトドメになったようだ。

「お……絞ら……れ……る……おっおおおおおっおっ! おおおおおおおおおっ!」

 腰をカクカクさせる。美耶子の膣内で、せばまった尿道から精液が勢いよく出ているのが見えるようだ。

 射精時の快感の大きさは、精液が尿道を駆けのぼる速度とその持続時間で決まる。

 最後、締め上げられたために、男優は凄絶なほどの快感にさらされたのだろう。

「あー、もう、すっごくいっぱい出てるよお、おじさん……おーい、おじさーん?」

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおお」

 目を白くむいて、ただ、腰の痙攣的な動きは止まらない。出し続けているらしい。

 十を数えるのに近い秒数、男優は射精を続け、力尽きた。

「あああああ……もう、死んでもいい……」

 天国にのぼった聖人のような安らかな表情で、男優は呟いた。

「まあ、出しちゃったもんは仕方ないわ。はーい、ちゃんと中出し精液おさえといてよ。NG集とかには使えるでしょ」

 桃山園は肩をすくめると、カメラマンと美耶子に指示を出した。

 美耶子は指示どおりに肢を広げ、膣から零れおちる精液がよく見えるようにポーズをとる。

 指で入口を広げると、本当に大量に射精されたらしく、濃ゆい白濁液が後から後からこぼれだしてき た。

「うわーすごーい! 美耶子に生理きてたら絶対ニンシンしてると思う……すっごく気持ちよかったし。本番の撮影、楽しみだよぅ! がんばるから ね!」

 メイキング映像用だろう、リハの感想をコメントをして、ダブルピースサインでにっこり。

つづく

 


外伝6-2