■5
「じゃ、次は遊園地ね」
「え、終わりじゃないんですか?」
桃山園は鼻で笑った。
「あんなの、使えてもせいぜい1分くらいよ。あんたのコーナーで15分もたせなきゃいけないのよ? 今日は一日、その格好でいてもらうんだからね」
「そんな……ぁ」
さしもの美耶子もへこんだようだ。恥ずかしさを我慢して裸で頑張ったのに、ほとんど使いどころがないと言われたのだ。
「だいたい、インパクトがないのよ。まわりの人も、驚くよりも『可哀想な子』を見るような感じだったし」
「うっ……」
それは美耶子も感じていたのだろう。
「ま、もう嫌だっていうなら別にいいけど? あんたにはまだ荷が重かったのよね」
「や……やります! やらせてください!」
負けん気がまた首をもたげてきたらしい。おれが口を出しても無駄だな、こりゃ……
しかたねーな。
「どっきりそのに〜! 小学生が裸で遊園地あそびぃ〜!」
今度はあまりひねりがない。
「最初っから自然にね。裸であることに違和感を持たせないで」
「はい」
黄色い帽子とポシェットを身につけ、あとは靴だけのすっぽんぽんの美耶子はうなずいた。
ポシェットを持っているのは、お財布など小物を入れるため。帽子は小学生っぽさを出すのと、遠くからでも居場所がわかるようにするためだ。
今回は一箇所だけではなく、園内を移動するため、スタッフとはぐれないようにする必要がある。
「いってきまーす」
努めて明るく美耶子は言い、園内に入っていく。驚きの声があちことであがる。まあ、全裸の小学生が自然を装いつつ突然入ってきたらビックリするよな。
園内のスタッフにはテレビ局から話が通っているのだろう。裸の美耶子が切符を買うために窓口にならんでも普通に対応してくれる。
それがシュールといえばシュールだ。
人々の好奇の視線にさらされながら、美耶子は次々とアトラクションに挑戦していく。
メリーゴーラウンド。
なんか木馬責めをされているような絵面だ。木馬の背にワレメをおしつける。後ろの木馬に乗っている五、六歳くらいの男の子が目を丸くする。美耶子の白いおしりが動くのにあわせて顔を上下させている。この体験がもしかしたら彼の性の目覚めになるかもしれない――
美耶子が降りた後、その木馬に乗る権利をなぜか大人の男たちが争った。
勝ち取った男は、美耶子のワレメが当たっていたとおぼしい場所の写真を撮り、鼻を近づけてクンカクンカしていた。
ジェットコースター。
美耶子は普段からジェットコースターが大好きだ。遊びで行ったときなどは一日中ジェットコースターに乗っていたいとさえ言う。
仕事でも、全裸でも、それは変わらないらしく、園内一番人気のコースターの行列に並びつつ、ウキウキしている様子が見て取れた。一方、美耶子の前後に並んでいた一般客は非常に居づらそうだった。まあ、そうだろうな。
順番が回ってきて、コースターの座席に乗った美耶子――もっとも、乗る場所はテレビ的に決まっていて、カメラが仕込まれた最前列の席だ――カメラは顔のアップ用と、下半身まで映る角度の2種類ある。
地上波で使われる映像だから、ワレメの中身までくぱっと見えるのはまずいが、チラチラ程度なら使う――それが桃山園クオリティだ。だから、下半身も撮っておく。ある意味、プロだ。
コースターがスタートし、斜路をのぼりはじめると美耶子のテンションはたちまちあがっていく。
振動がゴンゴンと伝わるごとに表情が期待に緩んでいく。
「あ……あん……なんか、おなかに響くぅ」
座席の上で膝をゆるめる。もちろん股間丸出しで、肉芽がワレメから顔を覗かせている状態。興奮しているのは明らかだ。
コースターが頂上に到着し、一気に落下を始める。
「きゃあああああああああっ!」
きゃーきゃー言いながら明らかに悦んでいる美耶子。
横Gで身体を押しつけられ、勃起乳首がバーから見え隠れ。前後の動きで揺さぶられると、カメラに股間が迫ってくる。その部分が明らかに湿っているように見えるのは錯覚だろうか。この映像が地上波で流されたら、お茶の間には気まずい空気が流れること間違いナシだ。
「うっきゃああああああ! いひぃいいいいい!」
大喜びの美耶子。
ようやくコースターが一周し終えて戻ってくると、
「はあ……はぁ……いきそう……なっちゃった」
とテレビ的には問題発言。
降りて、ふらつく美耶子の内股は、愛液でヌルヌルになっていた。
お化け屋敷。
桃山園の指示にもかかわらず美耶子は頑として入るのを拒否。
双子の妹の珠子なら、むしろそこに住んでいても不思議はないくらいなのだが、美耶子は幽霊の類がからっきしなのだ。
『あんた、それでもプロ?』
「プロでもお化けは別! ぜったい、や!」
『……5分以内にお化け屋敷を制覇できたら、この後のロケではパンツくらい穿かせてあげてもいいかな〜って思ったんだけど』
「やります」
パンツが恐怖に勝ったらしい。
ただし、この遊園地のお化け屋敷は機械仕掛けの幽霊ではなく、特殊メイクをしたスタッフがおどかす仕組みでそうとう怖いのだ。そこまでの予備知識がないまま美耶子は挑戦したわけだが……
『みゃああああああああっ!』
マイクが拾うのは美耶子の絶叫、絶叫、絶叫。
『やあああああああ! こわいいいいいいい!』
『こっち、こなっ、こなっ……こないでえええええええ!』
『ぴぎゃあああああ! なんかおしりさわったああああああああ!?』
『うわあああああああああん! やっ、やだあああああああああああ!』
『ここ、ここどこおおおお!? わ、わかんな……いっひいいいいいいい!』
幽霊に追いかけられてパニックを起こしているらしい。スタッフも追いつけなくて、映像も送られてこないから、桃山園も指示の出しようない。
『やっ……や……も、もれちゃ……』
泣きそうな美耶子の声が聞こえてきたかと思うと、ちょぽちょぽという水音が――
結局、美耶子が出口に現れたのは30分後のことで、目は泣きはらし、髪もぐしゃぐしゃ、ひざもすりむいていた。後から聞いた話では、中で転んですりむいたあげく、ショックでおしっこを漏らしてしまったそうだ。
「幽霊の人たちにティッシュで拭いてもらった……」
らしい。
親切な幽霊たちだ。
お化け屋敷の後、メイクをやり直し、ロケ再開。
5分での制覇ができなかったため、パンツ支給はなし。ただし、膝小僧にバンドエイドを貼ってもらい、素肌の露出はわずかに減った――
■6
「どっきりそのさん〜! 小学生が裸でフィールドアスレチックぅ〜!」
と言いつつ移動したのは、遊園地に隣接したフィールドアスレチックだった。無料ということもあり、近辺の小学生にとっては格好の遊び場になっている。
「で、フィールドアスレチックはいいとして、なんでランドセルなんです?」
美耶子は全裸に赤いランドセルを背負いつつ言った。もう桃山園やスタッフの前で裸でいることには慣れてしまったようだ。女の子としてはどうかと思うが、そうでもしないと精神的にやっていけないというのはわからないでもない。
「なんていうかね、ここまで絵的におもしろさがないのよね、あんたリアクション地味だし。お化け屋敷はちょっとおもしろかったけど、絵がないから使えないし」
桃山園がつまらなさそうに言う。美耶子は顔を伏せる。お化け屋敷での失敗がトラウマになっているのかもしれない。
「なので、インパクトのあるアイテムを追加するしかないじゃない? 裸ランドセルならわかりやすいし」
「でも、これだと動きにくいよ……」
小柄な美耶子は、小学三、四年生といっても通る稚なさだ。ランドセルが大きく見える。
ランドセルにはご丁寧にリコーダーまで刺さっている。リコーダー自体は小道具として用意されたものだが、実際に美耶子に数曲吹かせて唾液をつけさせているという凝りっぷり。映像的には意味がないが、その部分については、「コイツ解ってる」と言わざるをえない。桃山園を褒める日が来るとは思わなかったぜ、くそ。
「まあ、ここでの絵はバックショットが多いからね、ランドセルががしゃがしゃ動くことでらしさが出るのよ」
「うう……」
それなりの演出論に裏付けられた桃山園の指示を論破できない美耶子。
「じゃ、まずはネット登りよ」
「は……い」
ネット登りというのは名の通り、壁のように張られたネットをのぼっていくアトラクションだ。高度差が5メートルもあるから、見た目よりもたいへんだ。むろん落ちた時にケガをしないよう、下にも安全ネットが張られている。
地元の子供たちが壁ネットを上ったり、下の安全ネットをトランポリンのようにして遊んでいるなかに、裸ランドセルの美耶子が登場すると、周囲がざわっとした。
だが、こういうリアクションには今日一日だけでもさんざん晒された美耶子である。何食わぬ顔で、ごく自然に――見た目は不自然きわまりないが――ネットを登り始めた。
だが、この絵は――
下の方から撮ると、赤いランドセルがしなやかな腕を生やし自らの意志を持って壁をのぼっていくように見える。そして、白くて小さな尻。細くて長い脚。
そこに宇多方美耶子という少女の存在はなく、ランドセルと、腕と、尻と、脚の見事な連携だけがある。その美しいコンビネーションに絶句する。
『ふん、まあまあじゃない?』
その日、初めて桃山園が満足げな声を出すのを聞いた。機材を積んだ車両の中のモニターで確認しているのだろう。おれはこの男を見くびっていたのかもしれない。
「わー、あいつ、まんこ丸見え!」
「ほんとだ、すっげー!」
美耶子と変わらない年齢の子供たちがネットを見上げながらはやしたてる。
『くっ……』
悔しそうな美耶子の声をマイクが拾う。裸を見られることに耐性ができていたはずの美耶子だが、同世代の男子に見られるのはまた違う恥ずかしさがあるのだろう。
と、他のアトラクションで遊んでいた小学生のグループがネット登りのところにやってきて、美耶子に気づいたのか次々に声をあげる。
「お!? あれ、宇多方じゃね?」
「ほんとだ、宇多方の姉貴の方だ」
「なんで? あいつ、今日休みだろ?」
「つーか、なんで裸なんだよ?」
なに? こいつら、タレントの美耶子ではなく、同級生として美耶子を知ってるのか?
くいくいと袖を引かれておれは気づく。
すぐ側に、ロングヘアの少女――西洋人形のような整った顔だちの小学生がいた。
「珠子!?」
「……(こく)」
宇多方家の末っ子、珠子だ。美耶子とは双子だから同い年で同じクラスである。
「なんで、ここに!? 美耶子の撮影を見に来たのか?」
「……(ふるふる)」
基本、珠子はひどく口数が少ない。
「うーん、じゃあ、なんでここにいるんだ?」
「……(これ)」
無言で珠子は「学校からのお知らせ」のプリントを見せる。
そこには「課外学習・フィールドアスレチック」と書かれている。あ、そうか。今日は美耶子と珠子のクラスは課外学習としてこのフィールドアスレチックに来ることになっていたのだ。美耶子は仕事を優先してそれを休むことにしたんだった。学校を休むことには反対の、長女にして宇多方家の家長である一子ちゃんも、「課外授業」を休むことに関しては目をつぶってくれたのだ。それは、「仕事」も、「学校外で学ぶ」という意味において「課外授業」と同格、という一子ちゃんの考え方によるものだ。
その課外授業の場所がロケ地と重なるとはなんたる偶然。
「偶然じゃないけどね、うふふ。これぞどっきりよ」
そこに桃山園がやってきて、嬉しげに言う。な、なんだと!?
「まだわかんない? このどっきりの対象は、仕掛け人の美耶子よ。お仕事だと思ってたら、学校の同級生にすっごく恥ずかしいところを見られちゃうの。そのときの美耶子の反応を視聴者にお見せするの、いい趣向でしょ?」
お、鬼か、てめえ。
「ふん、別にいいでしょ? あんたの出した条件ものんであげたんだし」
■7
「マジで宇多方じゃん……おーい、宇多方あ!」
聞き慣れた男子の声に、ビクッとなる美耶子。
下を見て、顔見知りの同級生の存在にようやく気づく。
「え? えええ? うそっ!? なんで田中が?」
慌てたために、ネットから片足が外れ、落ちかける。とっさに足をかけ直し、事なきを得るが、その結果、通常より大きく脚を広げることになってしまう。
「おおおお! すげーぜ、みんな見てみろよ、宇多方のまんこ、あんなに広がってるぞ!」
「ほんとだ! しんじらんねー、いつもお姫様みたいに気取ってる宇多方姉が……」
「っつーか、なんで素っ裸でこんなとこにいんの? 裸ランドセルとか、わけわかんねー!
男子は興奮しつつ、美耶子の真下に集まってくる。
美耶子の現在の高度は全体の半分、すなわち2.5メートルほどだから、真下からなら局部がかなりはっきり見える。
「こらああ、田中、鈴木、宮田ぁ、あとそれから……みんな、見るな! 見るなあ!」
美耶子が顔を真っ赤にして怒鳴る。学校でまとっているお嬢様キャラはどこかへうっちゃっていた。
「おわ、こええ、宇多方って、あんな声も出るんだ!」
「いつもは、……よくってよ、とかだもんな!」
「でも、すげーな、尻がプクってして、アソコまで真っ白だぜ?」
「こんな角度で女子のまんこ見たの、おれ初めて」
「おっぱいも見えるぜ。乳首がピンってなってら」
壁ネットは、所詮ネットだから、反対側から美耶子の顔や胸、股間を透かし見ることができる。
「くっ……後でボコボコにして記憶なくさせる」
涙をにじませながらつぶやく美耶子――いや、おまえにそんな能力ないから。
「そうだ、窪塚にも見せてやろうぜ」
「だな、あいつ宇多方姉の方が好きって言ってたしな」
その声はもちろん美耶子にも聞こえている。
「えっ!? 窪塚くんもいるの!?」
「そりゃいるだろ、うちのクラスで休んだの、おまえだけだもん」
田中くんがこともなげに言う。
「そんな……っ」
美耶子が明らかに動揺する。同級生に裸を見られたのも痛手だったが、窪塚くんに見られるのは異質らしい。
窪塚くんというのは窪塚プロデューサーの息子だ。これは偶然でもなんでもなく、窪塚プロデューサーが息子の同級生である美耶子に目をつけて芸能界にスカウトしたのだ。
「なんだよ……そんな急に……ネット登りはもうやったのに……」
「いいから、こいよ! おもしろいもん見せてやっから」
同級生に引っ張られるようにしてやってきたのはその窪塚くんだ。おおお、相変わらずサラサラヘアーで育ちのよさそうな爽やか美少年だこと。
「だから、宇多方がさ」
「え? 宇多方さん? 珠子さんのこと?」
「いや、姉貴の方がさ、すっげーぜ、おまえも見せてもらえよ」
「み、美耶子ちゃん!? き、きてるの!?」
窪塚くんの声のトーンが明らかに変わる。走る速度が上がる。
「や、やば……」
美耶子は必死でネットを登り始める。登り切れば、次のアトラクションへの連絡通路に逃げ込める。
たしか美耶子のやつ、窪塚くんに告白されて「ごめんなさい」したはずだが、自分のことを好きな男子の前では格好をつけたいのかもしれん。女心は複雑だ――つか普通に恥ずかしいよな。
美耶子は手足を大胆に動かしていた。なりふりかまっちゃいられないのであろう。
そのため、下の男子たちには大サービスをすることになった。
「すっげ、宇多方のまんこもケツの穴も、ま、まる見えだ!」
「学校一のお嬢の……まんこが、ぱくぱくしてる……っ!」
「なんか、垂れてるぞ? まんこからよだれみたいのが……」
あせりと興奮がごっちゃになって、美耶子の膣から愛液がこぼれだしていた。
「あっ! あん……っ!」
しかもネットが乳首にこすれ、さらには股間も擦過する。敏感な部分にネットのロープが食い込み、一瞬意識が飛びそうになる美耶子。
アソコはもう大洪水だ。
「しんじらんねえ……女のアソコって、あんなに真っ赤になんのかよ……」
「めちゃくちゃ濡れてるよな? 女って気持ちいいと濡れるっていうぜ?」
「さっきから、宇多方のやつ、めっちゃ可愛い声出してる……っ」
男子の一人ががまんできなくなったのかネットに飛びついた。
「もっと見たい……てか、さわりてえよ!」
「おれも!」
「ぼくもぉ!」
次々と男子が続く。小学生さえも発情させるとは、美耶子のやつめ、どんなフェロモン出してやがる。