うたかたの天使たち 第七話

まふゆのファンタジスタ
真冬の幻奏者

苑子編

エピローグ

 

「ど、どうかな、おにいちゃん」

 浴衣姿の苑子が採点を待つ小学生のように――じっさいに小学生だが――おれを見上げた。

 おれは手にしたノート(なんかファンシーなやつ)を丸めて、苑子の頭をポコリとやった。

「あたっ」

「なんだこのオチは。これではおれが寝取られた情けない男みたいじゃないか」

「で、でも、おにいちゃんがそんなふうに書け……って」

 おでこをさすりながら苑子がおずおずクレームをつける。

「確かに、電車で隣り合わせになったオッサンをとりあえずパピーのオヤジにして、寝取られっぽいやつを書け、とは命じた。単なる紀行文では売れないからな」

「だ、だから……」

「だからといって、おれがかっこよくないのは却下だ。それに、執拗におれのモノのサイズをコケにしやがって。おまえはアレか? ほかの男と比べたことあんのか、ああ?」

「今日……露天風呂で」

 苑子が唇をとがらせる。あー、くそ、混浴に無理矢理連れ込んだの、まだ根に持ってやがるな。

 実際のところ、温泉旅行に苑子と来たのは本当だし、電車のなかでフェラさせたり、露天風呂の中でイタズラしたり、家族風呂で苑子が間違えて隣の風呂に行ってしまったりしたのも事実だ。

「待ち合わせ場所まちがえたの、おにいちゃんだよ」

 るせ。おかげで、後から入ってきた家族連れと鉢合わせで大変恥ずかしい思いをしたりしたのだ。

 ともかく、おおむね事実の通りだが、パピーのオヤジのくだりはすべて創作だ。だいたいにして、パピーのオヤジはとっくに警察にタイーホされている。あのプールで、その後も、ほかの小学生の女の子にイタズラしようとしたらしい。当然だ。日本は法治国家だ。年端もいかない少女相手に性欲を満たそうなんて輩は死刑になってもいいくらいだ。

「おにいちゃんが言うと説得力ないよね」

 それは同意だ。

「ともかく、これはダメだ。書き直せ」

 おれはノートを苑子につきつけた。苑子はそれを押し頂くように受け取った。ん?

「うん。書き直す。わたしも、こんなお話、いやだもん。おにいちゃん以外の人とは……お話のなかでもしたくない」

 目をきらきらさせながら言う。

 まあな……

 おれもだよ。

 まさか、読んでるだけでこうも滾っちまうとはな。

「えいや」

「はにゃ」

 おれは苑子を布団の上に押し倒した。メガネがちょっとズレた苑子に顔を近づける。

「オチはやっぱラブラブのほうがいいよな?」

 おれ専属の官能作家に、一応確認する。

「……うん」

 

 で、まあ、その後、えっちになったわけだけどもな。

 当然、べろちゅーしながらガンガンですよ。作中でオヤジが苑子にやったことは全部やらないと気がすまねえ。

 つか、してほしいことを書いたろ、おまえ。

「あ……ばれた?」

 おれの下で、苑子が舌を出す。それをさらに吸う。つばをまぜあわせる。苑子が溶ける。

 性器は深くつながっている。苑子の中に入り込んだおれが熱を持ち、張り詰めて、爆発しそうになる。

「お……おにいちゃん……い……いきそう」

「おれもだ……中で出すぞっ」

「あ……い……いい……けど……よくない……かも」

 よくないのは解ってる。でも、ガマンできねえ。作り事とはいえ、この小さなお腹の中によその男の――ぐわぁっ――出すっ!

 もう、出しまくりですよ。気持ちいいのなんの。

 で、終わった後のピロートークで、訊ねてみた。

「中出し、特にやばい理由、なんかあったのか? まあ、そりゃあやばいに決まってるけど」

 おれの腕枕のなかで目を細めつつ、苑子は寝入りそうな声で答えた。

「温泉の効能――子宝の湯――だって」

 ……。

 十ヶ月後が楽しみだ。

 

おしまい