四日目(The forth day)

 夕食の席で、まゆが楽しげに学校でできた友達のことを話していた。

「でも、あゆみちゃんって子といっしょに帰ったんだよ。あと、さなえちゃん。ふたりとも、この近所なの。すごく気があうんだよ」

 まゆの話によると、クラス委員もしている優等生があゆみという名前で、その親友がさなえというらしい。その二人が、転校したてのまゆの面倒をみてくれているようだ。

「そうか、よかったな」

 正直なところ、まゆに友達ができてほっとしていた。

 おれには、まゆが喜ぶ話題はわからないし、まゆもおれに合わせるのは難しいだろう。まゆの孤独を埋めるのは、きっと同年代の友達との交友関係だ。

 おれは、まゆが困ったとき、苦しいときに、手をさしのべてあげられる存在でいればいい。

「ね、おにいちゃん……今度、あゆみちゃんたちをうちに呼んでいい?」

 まゆがおもねるように訊いてくる。おれは鷹揚にうなずいた。

「もちろん、いいとも。おれは夜まで帰れないから、好きにゲームでもなんでもしてろよ」

「えー、おにいちゃんもいてよお」

 まゆが唇をとがらせる。

「だって、あゆみちゃんとさなえちゃんに自慢しちゃったんだもん、おにいちゃんとのこと」

「自慢? なんだって?」

 おれは目を白黒させた。

「おにいちゃんとドーセイしてる、って言ったら、『すっごーい、彼氏紹介してよ』って頼まれたの。興味あるんだって、ふたりとも」

「おいおい、へんなことをしゃべるなよ、誤解されるだろ?」

「誤解……?」

 まゆの唇がとがる。なんとなく不満そうだ。

「誤解じゃないもん。まゆ、おにいちゃんの恋人だもん。そうでしょ?」

「う……まあ……な」

「恋人同士がいっしょに住むのってドーセイっていうんでしょ?」

「どこからそんな言葉を仕入れてくるんだ、ったく……」

 おれはあきれ顔を装って、むりやり食事を再開したが、内心は動揺していた。

 せっかくの決意が揺るぎそうだった。

 **

「へへっ、おふろ、ひとりで平気だったよ」

 まゆが風呂あがりの火照った頬をおれの手に押しつけるようにする。

 あまえてきている。

「おー、えらい、えらい」

 おれはまゆの頬を手の甲でかるくたたき、それから頭をなでた。

「むふ」

 うれしそうに目を細めるまゆは、まったくの子供だ。おれの自制心がよみがえる。

「さあ、寝よっか。明日はまだ金曜だしな」

「こんどの土曜って学校休みなんだよ。ね、どこか連れてって」

「いいよ。遊園地にでも行くか」

「ほんと!?」

 まゆが目を輝かせる。

 おれとしては、それにともなう出費を予測して、ちょっとびくつく部分もあったが、まゆの笑顔にはかえられない。

「うれしいな。遊園地なんて、まゆ、はじめて」

「え、うそだろ?」

「だって、おとうさんとおかあさんは、乗馬とか、テニスのほうが好きだったんだもん。遊園地は行列がいやだから、行かないって。だから、遊園地って、行ったことないの」

「へえ……金持ちならではの発想だなあ」

 下々と一緒に並ぶのはいやだってことか。などと、まゆの両親を批判するような言葉は口にしない。彼らはもはやこの世の人ではないのだ。それに、まゆが喜ぶのなら、しみったれた遊園地で行列するのもオツなもんじゃないか。

「ね、ね、ジェットコースター乗ろうね。まゆでも乗れるよね」

「さあな。まゆはちびだから、身長制限にひっかかるかもな」

「おにいちゃんの意地わるっ!」

 まゆがむくれる。そんな顔もかわいい。

「いいもん。メリーゴランドとか、コーヒーカップとか、いろいろあるもん」

 そっぽをむくまゆの肩を押して、おれは言った。

「でも、明日は学校だからな。さ、はやく寝た、寝た」

「うん、おやすみ、おにいちゃん」

 まゆが隣の部屋に消える。

 おれも寝よう。まゆの夢でもみながら。

 **

「おにいちゃん……」

 軽く、ゆり動かされたような気がして、おれは目をさました。

「ん……」

「おにいちゃん、ごめん。ごめんね」

 部屋は暗いが、夜目で枕許にまゆが腰を浮かせるようにして膝立ちで座っているのがわかる。

「どうした……? こわい夢でもみたのか?」

「あの……あの、ね、怒らない?」

 まゆのおずおずとした物言いに、ピンとくるものがあった。そういえば、なんとなく匂いがする。

「オネショ、したのか?」

 図星だったらしく、まゆはうつむいた。しゃくりあげかけている。

 おれは無言で起きあがり、隣の部屋に移動した。まゆがうなだれてついてくる。

 まゆが寝ていた敷きふとんを触ってみる。冷たい感触。けっこう量がある。これでは乾くまでずいぶんかかるだろう。替えのふとんはもうない。

「ご、ごめん……なさい……」

 えっ、えっ、と嗚咽しながらまゆがあやまる。

「気にするな。まだ小さいんだから。な」

 おれはまゆの頭をなでた。むろん、布団をさわったのとは別のほうの手でだ。

「下着は替えたのか? パジャマは?」

「着替え、ないの……」

 うかつだった。まゆと暮らすようになって四日目だが、もとよりまゆはそんなに衣服を持ってきていないのだ。おれに女の子の下着を買いおく知恵がはたらくはずもなく、洗濯も今まで週一回と決めていたから、まゆの着替えが底をついてもおかしくない。

「パンツはあるよ。あしたはこうと思ってたのが。だけど……」

 それを今はいてしまうと、明日困る、ということか。今から洗濯しても、朝までに乾かないだろうし、コンビニには子供の下着なんて売ってない。

「じゃあ、今夜はノーパンで寝ろよ。一晩くらい、平気だろ」

 と、言ってから気づいた。まゆのふとんはびしょびしょだ。

「……おれのふとんで一緒に寝るか……?」

「いいの……?」

「うん……」

 おれの声は情けないほどうわずっていた。

 ひとつのふとんのなかに、まゆとふたり。

 しかも、まゆの下半身はなにも着けていない。

 手を伸ばせばすぐにふれるところに、まゆの……

 心臓がはげしく鳴っている。

 まゆの寝息が聞こえていた。すでに寝入っているようだ。

 寝返りをうち、おれの腕に抱きついてくる。

 手の甲に、やわらかい、あたたかいものが当たる。ぴたっ、と吸い付くような感触。

 まゆが、股でおれをはさんでいるのだ。

 心なしか、湿っているような感じがする。

 理性が弾けとびそうだ。まゆの体温をじかに感じて、もう、どうしようもなく血がたぎっている。

 おれは、まゆから腕を離そうと努力した。まゆを起こさないようになんとか抜け出し、トイレで一本抜いておかないと、もう自制力に自信が持てなくなる。

 ずっ、と動かした拍子に、手の甲がまゆのワレメをなぞった。骨のとびだした部分が、まゆのやわらかな領域を擦りあげた時、まゆがびくっ、と動いた。

 耳元にまゆの息がかかる。

「おにいちゃんの、エッチ……」

 くぐもってはいるが、底に笑いをふくんだような声。

「まゆ、おまえ、タヌキ寝入りしてたな?」

「うとうとはしてたよ。でも、おにいちゃんの腕、すごく太くて、あったかいね」

 そして、あからさまに股間をこすりつけてくる。

「いいかげんにしろ。そんなことしてると、まゆのアソコ、本気で触っちゃうぞ」

 おれは冗談めかして言った。だが、まゆは真顔だった。

「いいよ……おにいちゃんだったら……」

 かけぶとんが、なかばめくれてしまっている。

 夜目にも、まゆの白い肌がわかる。

「……よおし、まゆのアソコ、観察してやるからな……」

 おれは唾をのみこみ、部屋の補助灯をつけた。黄色い淡い光が部屋のなかを照らし出す。

 まゆのおなかに手をのばし、なめらかな丘をなでる。

 これは遊びなのだ、と自分に言い聞かせていた。お医者さんごっこのようなものだ。

 まゆにも子供ながらに性への興味やエネルギーはあるのだろう。それを適度に発散させるために子供は子供なりにエッチな遊びをする。

 それにつきあっているだけなのだ、と。

 だが、まゆの太股を押し広げるときには、さすがに手が震えた。

 まゆは黙っておれのするようにさせていた。かぱっ、と脚を開いている。 

「これがまゆか……」

 おれは指でまゆのワレメを開いた。

 ……甘い濃密な匂いがたちのぼってくる。まゆの匂いだ。不快ではない。

「おにいちゃんだから、恥ずかしくないよ……」

 まゆは顔を真っ赤にしながら、つとめて平静を装った声で言う。

「まゆ、おにいちゃんの恋人なんだから……ぜんぶ見せても平気だよ」

「ありがとう、まゆ。すごくきれいだ」

 心からの言葉だった。ぷっくりとふくらんだクリトリスも、ほんの萌芽でしかなく、複雑な襞で隠された膣口も、指一本さえ受け入れるのがきつそうなほどだ。

 まるで至上の芸術家によって掘り出された彫刻のような、すばらしい造形美だった。さらに、この芸術には体温があり、そして香しい匂いもある。さらに、変化さえする。

 きらきらと光るものが、襞の合間からにじみ出ている。

 まゆの愛液だ。まゆも濡れるのだ。おとなの女と同じように。

 そこに口をつけて、舐めとりたい衝動におれはかられた。

 だが、それをすれば、おれはまゆを犯してしまうところまで走ってしまうだろう。まゆの心と身体は傷つく。

 お医者さんごっこではすまなくなる。

 いまはこうして、まゆのワレメを間近で見て、そして、指でいたずらするだけでいい。

「おにいちゃん、くすぐったいよ、きゃはっ」

 指先でワレメの内側を軽くなぞると、まゆは身をよじった。

「ふふふ、まゆのおまんこに触っちゃったぞォ、どうする?」

「ダメ、触るのはダメ。ケッコンするまでは、見るだけ!」

「ちぇっ、きびしいなあ」

 おれは口をとがらせながら手を引っ込めた。指先にまゆの分泌したものがからみついているのを感じていた。

「おにいちゃんって、やっぱりエッチだね」

「くそ、誘惑したくせに!」

 おれはまゆをだきしめた。笑いながらまゆが身をよじる。

 ――思えば、無邪気で、それでいてあまやかな夜だった。

 バラ色に思えたまゆとの生活の、それがピークだったのかもしれない。