いくら親戚だからといって、いきなり女の子を預かれ、と言われても困る。
しかも、何年も前に一度か二度顔を合わせたかどうか、今回連絡を受けて、ようやく思い出した、そんな程度の「遠い親戚」だ。
「なんでしたら、こちらで引き取らせていただいてもようござんす。まゆチャンのご両親の財産は……まあすずめの涙程度ですが、管理一切となるとやはり専門家でないとなにかとたいへんですし、まゆチャンにもよい環境を与えてあげないとねえ。あなたは、失礼ですが独身で、収入も充分ではない……まあ、わたしはどちらでもいいんですけどね」
脂ぎった顔の弁護士は、いかにも「あなたのためだよ」と言っているようだった。
その子はと見れば、少し離れた椅子に腰掛け、遊ぶでもなく、じっとしている。
年齢相応なのかどうかわからないが、小柄な感じのする子だった。髪は肩までで切りそろえている。目が大きくて、人形を思わせる顔だちだ。いや、それはたんに整っているとかそういうことだけではなく、表情がないせいだ。むりもない。いきなり両親を失ったのだ。おれの場合はすでに独り立ちしていたからなんとか乗り越えられたが、彼女はまだ子供だ。
彼女はひとりぼっちなのだ。身寄りといえば……まだ社会人になってそう間もないおれだけ。
どうすればいいのだろう。弁護士の言うとおり、彼に任せたほうがよいのだろうか、それとも……。
おれの視線に気づいたのか、少女が顔をこちらに向けた。
澄んだ瞳だった。無垢で、無防備で、あまりにも弱々しい。
生まれたての子犬のように震えながら、おれの顔を一瞥すると、まるで声をかけられることを恐れるかのように顔をふせた。
彼女はいま、独りなのだ。
そのとき、おれの心は決まった。