一日目(The first day)

 まゆとの生活がはじまった。

 わたしは本宅のほかに、いくつかマンションを持っている。たいていは愛人のために買ってやったものだ。むろん、これらの愛人は飽きが来しだい処分するので、使わずに置いてあるマンションもあるわけだ。そんなマンションのひとつをまゆ用にした。

 まゆを引き取るにあたっての手続きは容易だった。わたしは弁護士だし、まゆの身寄りといえばしがない独身サラリーマンがひとり。そんなものをまるめこむのは簡単なことだった。

 まゆの両親の財産の処分はわたしの相棒に任せた。相棒は、この財産に執着していた。一戸建の家にしろ、逗子の別荘にしろ、バブルのころならともかく、今となってはさほどうまみはないのに、だ。というより、彼としては、まゆの両親を殺し、その財産を手中にすることで、若い頃の恨みを晴らしているつもりなのだろう。

 だからといって、ヨットに爆発物を仕掛けたり、過激な男だ。

 まあ、わたしとしても、彼の犯行を糊塗する手伝いはしたわけだが、その代償として類まれな美少女が手に入ったのだからよしとしなければなるまい。

 まゆの写真をはじめて見た時には心が躍った。ランドセルをしょって微笑む彼女の姿は神々しくさえあった。この子をもらうという条件で、あいつの申し出に乗ったのだ。

 まゆの父親に取り入り、信頼をかちえ、そしていくつかの工作をほどこして……まあ、罪の告白はこのへんにしておこう。いずれにせよ、殺したのはわたしではない。罪の意識などない。

「さあ、まゆちゃん、ここが新しいおうちだよ」

 おどおどしているまゆをマンションを引っ張りあげ、あちこちを案内して回った。

 このマンションは3LDKだが二百平米ある。リビングは五十畳以上、浴室にはジャクジーもある。調度類もイタリア製で統一している。

 まゆの口がぽかんとあいていた。まゆの家もかなり豊かだったはずだが、さすがにこれほどの豪邸は初めて見たのだろう、「お城みたい」を連呼していた。

「ここは全部まゆちゃんのものなんだよ」

「でも……」

「だいじょうぶ。料理や洗濯や掃除は通いのお手伝いさんがするからね。まゆちゃんは、ここでお姫さまのようにしていればいいんだ」

「……やっぱり、あたし、うちに帰ります」

 まゆが言った。なかなか毅然とした子供だ。

「それはね、でも、できないんだよ」

 わたしはゆっくりと言った。

「まゆちゃんのおうちも別荘も、もうほかの人のものになってしまったんだよ。お父さんの借金を返すのにね、売るしかなかったんだよ。だから、まゆちゃんは家なしなんだ。おかねもまったく持っていないしね。ほら、ホームレスとかいるだろ? ああいう人たちといっしょで、公園や、駅で寝ないといけないんだ」

 わたしの言葉にまゆの表情がゆがんだ。怖いらしい。

「まゆちゃん、いやだろ? 外で寝たり、ゴミ箱をあさったりするのは」

 まゆはうなずいた。

「だよね。だからおじさんがこのおうちをあげようと言ってるんだ。それもタダだよ」

「あ……ありがとう……ございます」

 おずおずとまゆが礼を言う。

「いい子だね。お礼がちゃんと言えるんだ。でもね、それだけじゃあだめだよ」

 え、というようにまゆがこちらを見上げる。

「おじさんの言うことはなんでもきく、と約束するんだ。おじさんはまゆちゃんの保護者だからね。まゆちゃんのことは何でも知らなければならないし、まゆちゃんも、おじさんの命令は絶対に守ること。いいね」

 いずれにせよ、まゆに選択肢はないのだ。

「……はい」

 まゆの返事にわたしは満足した。

「じゃあ、さっそく命令するよ。いま着ているものを脱いで、おじさんの用意した服に着替えるんだ」

 わたしは包みを渡した。これから、まゆを自分色に染め上げていくための第一歩だ。今後、まゆはわたしの好みの服を着、好みの匂いをさせ、好みの声を漏らすようになる。

「着替えるって、ここで……?」

「そうだよ。ここにはおじさんとまゆちゃんしかいない。おじさんはまゆちゃんの保護者だ。つまり、問題ないってことさ」

 まださほど羞恥心がないせいか、まゆはすんなりということをきいた。

 シャツを脱ぎ、スカートをおろす。むろん、ブラなどはつけていない。

 かんたんな手続きで上半身裸になれるのはよいことだ。

 さすがにパンツは抵抗があったらしく、用意したものに替えようとはしなかった。

「だめだ。それも替えなさい」

 わたしは命じた。最初がかんじんだ。まゆには、わたしの命令は絶対服従しなければならないことを教えこまなければならない。

 まゆは観念したのか、パンツをするりと脱ぎ、うしろ向きに下着を取りかえた。

 小さなヒップだ。だが、なんともいろっぽい。

 このかわいい尻が、もうわたしのモノになったも同然なのだ。

 わたしは、これからの生活の楽しい予感に久々に胸が躍るのを感じた。