二日目(The second day)

「まゆ? なんだ、風呂に入らなかったのか?」

 鏡のまえで髪の毛をとかしているまゆにおれは訊いた。

「うん」

 と答えたものの、まゆの横顔は不機嫌そうだ。

「なぜだ? 昨夜も入らなかったよな。今朝も朝シャンすればって言ったら、『いい』って言ったよな。遠慮してるのか? それともかぜでもひいているのか?」

「いやなんだもん」

「おいおい、ちゃんと風呂は掃除しているぞ。汚くなんかないぞ」

「そうじゃないのっ」

 まゆが怒ったような表情をこちらに向ける。おれは肩をすくめる。

「なあ、まゆ、今日もけっこう汗をかいたろ? ちゃんと風呂にはいらないといけないんじゃないか?」

「……」

 まゆは黙った。腕を鼻にあてて、くんくんかいでいる。

「あたし、くさいかな」

 近づいてきて、不安そうに訊く。

「どら」

 おれはまゆのTシャツの胸に顔を近づけて息を吸った。

 すでに二日近く洗っていない肌からは、汗の匂いがかすかにした。不快ではないが、子供の新陳代謝は早いので、ちゃんと風呂に入れたほうがいい。

「くさっ、あーくさっ」

 おれは大袈裟に鼻をつまんでのけぞってみせた。

「もう鼻が溶けそうに臭いぞ。はやく風呂に入らなきゃあ」

「うそっ……」

 まゆはショックを受けたようだ。自分でしきりに匂いを確かめはじめる。

「でも、ちゃんと服とか下着は替えているんだよ。そんなにくさいはず、ないよ」

「とかなんとか言って、パンツとか黄ばんでいるんじゃないか?」

「そんなことないもん! ちゃんと今朝替えたもん!」

 まゆが自分でスカートをまくりあげた。真っ白なパンツが視界いっぱいにひろがる。

「おいおい、自分から見せるかあ?」

「だって、おにいちゃんが意地悪いうんだもん。ちゃんと、確かめて」

「確かめるって、なにを」

「くさくないって、確かめてよ」

 やれやれ、という表情を無理に作りながら、おれは、まゆのパンツに顔をちかづけた。

 白地に淡く熊のプリントがされているデザインだ。肌にぴっちりはりついて、すこし汗で湿っている感じがする。

 ワレメのあたりの生地がなんとも微妙に食い込んでいる。そこを指でなぞりたいのを必死でがまんする。

 くんくん、とかいでみるが、においは特にしない。そんなはずは、と思い、さらに鼻をちかづける。

 ほとんど触れるほどに近づくと、まゆの体温とともに甘酸っぱい匂いが鼻腔にとどいた。

 汗とおしっこの匂いもあるのだろうが、それよりもなによりも身体をかきまわすようなこの馥郁たる香りはなんなのだろう。思わずしゃぶりつきたくなる心をおさえ、何度もその匂いを吸いこんだ。

「……どう?」

 不安そうなまゆの声が頭上から降ってくる。

 おれは名残惜しい香りと別れを告げて、頭を引いた。

「やっぱりすこし匂うぞ。風呂に入らなきゃだめだ」

「……でも」

 まゆの顔がくもった。ほとんど泣き出しそうだ。

「こわいの……お風呂」

 その声で、ようやくおれは思い出した。まゆの両親の死の経緯を……。

 まゆの一家は逗子に別荘があり、ちいさいものだがヨットも所有していた。まゆの父親はヨットマンだったのだ。

 そして、その悲劇は起こった。

 まゆの両親とまゆは、ヨットで近くの海を周遊していた。だが、なんらかの事故で、ヨットは転覆、沈没した。海に投げ出されたまゆだけが奇跡的に救出されたが、両親は遺体さえ発見されなかった。

 まゆは半日近くも海を漂っていたのだ。両親を空しく呼びながら、ずっと。

 こんな経験をしたのでは水への恐怖が芽生えてもしょうがない。

 だが、水を病的に怖がるようになってしまっては、日常の生活にもさしつかえる。

「まゆ、いっしょにお風呂にはいろう」

 その言葉がすっと出た。

「え?」

「おれがいっしょに入ってやる。そしたら怖くないだろ」

「……でも」

 まゆはためらっているようだ。恥ずかしい、という気持ちがそんなにはないことは、先程からの行動からでもわかる。

「でも、なんだ?」

「おとうさんがね、自分以外の男と風呂に入ったらいけないんだぞって、いつも言ってたから」

「おとうさんとよく入ってたのか?」

「うん、いつも」

 最近の女の子は小学生のころから父親とはお風呂に入らなくなると聞いたことがあるから、まゆのようなケースはめずらしい。それが父親の躾だとしたら、あなどれない。

「おれはおとうさんの代理だ。なら、いいだろ」

「……ん」

 まゆはうなずいた。ほっぺがすこし赤い。

 おれも裸になることについては、ちょっと不安はあったが、股間に念を送っておとなしくさせ、なんとか浴室に入った。

 まゆも服をあっさりと脱ぐ。パンツを下までおろし、ダンダンと踏みつける。おしりにはぜい肉というものがなく、ラインはなめらかでいながらシャープ。子供から少女への移行期にあるらしく、わずかにまるみが出はじめているのがなんとも愛らしい。

 こちらを向いた。はじめて見る全裸だ。やっぱり、胸がドキンとする。

 どうしても眼はあそこに行ってしまう。真っ白なおなか。そしておへそ。それから……

 ワレメの部分はぴったり合わさっていて、亀裂はけっこう深い感じ。もちろん、発毛はまだ。ツルツルだ。

 おれはまゆの身体にかけ湯をしてやった。震えている。

「水、こわいか?」

「ん……平気」

「じゃ、入れ」

「おにいちゃんも」

「えっ、浴槽せまいぞ」

「いっしょに入ってくれるって言ったじゃない」

 まゆが唇をとがらせる。

「わかった、わかった」

 やばいよお、と内心思いつつ、まゆに手をひかれるままに浴槽につかる。

 ユニットバスだから、浴槽はほんとうにせまい。

 同じ向きに入ると、おれのあそこがまゆに当たらずにはすまないので、向かい合わせになるようにした。さすがに、「なんかかたいのがおしりに当たってる」と言われるのはつらい。

「わー、ちょっとあついよう」

 まゆが頬に血をのぼらせながら、華やいだ声をだした。大人と一緒なら、水への恐怖は起きないらしい。

 すんだお湯の向こうに、リラックスしたまゆの身体がゆらめいている。

 脚をかるく開いてすわっているので、股間さえも見えてしまう。

 それでも、あそこはぴったりと閉じているのだ。その扉を開くには、指でむりやりこじあけなくてはならないのだろうか。

 ――だめだ、そんなことを考えちゃ。

 だが、おれの股間はもうどうしようもなかった。タオルで隠しているが、ジンジンしびれるほど固くなっている。

「いーち、にーい、さーん……」

 まゆが数をかぞえはじめた。

「し、ご、ろく、なな、はち、じゅうっ」

 後半、たたみかけるようにカウントし、立ちあがった。

「あつーい、のぼせちゃうよう」

 浴槽をまたいで、出ようとする。

 そうやってかがんだところを至近距離で見てしまった。

 おしりの穴が見えた。

 ほんとのピンクだった。おれがさらに浴槽から出られなくなったのは言うまでもない。