「とにかく――お疲れさん」
「うん、ありがとう」
カチン、とグラス同士が鳴る。
良明は発泡酒、まゆはジュースで乾杯だ。
アパートの六畳間で、まゆは良明と向き合っていた。テーブルがわりのこたつの上には、鳥のからあげやポテトフライなど、比較的豪勢な食べ物がならんでいる。実は特別にデザートにはケーキが用意してあったりもする。
「でも……ごめんね。ほんとだったら、バレンタインデーで、まゆがご馳走してあげるべきなのに。チョコだって全然凝れなかったし……」
受験で慌ただしくて、手作りチョコなどに手を出す余裕がまったくなく、出来合いの――それも安いの――にちっちゃなリボンをつけるのが精一杯だったのだ。
「ばかだな。そんなの当たり前だろ。受験生だったんだから、まゆは」
「でも、それも終わったよ。まゆも中学生になるのです!」
「二か月も先だけどな」
「あーまちどおしい」
まゆは指を組んで、その隙間を覗いた。そこに、二か月先の光景が映し出されてでもいるように。
「こんなチビすけが中学生か……おれが歳をとるわけだよな」
良明は嘆息する。複雑な表情をうかべている。
「チビすけじゃないもん。けっこうこれでたいしたもんなのよ?」
まゆは胸を突きだして見せる。たしかにふくらみは大きくなりつつあるが、でも、まだブラなしでも困らないサイズだ。
「そういうことを言っているうちはまだまだ子供だよ」
「もう! ちがうってば」
まゆはちょっぴり業を煮やして、良明の隣に移動する。
「ほんとうに大きくなってきたんだよ。おにいちゃん、しばらく触ってないでしょ? だから、わかんないの」
まゆは良明の手を取って、自分の胸元に当てた。
「おい、まだ、メシの途中……」
「ね、いいでしょ。受験終わったし、ごほうび」
まゆは良明に身体をすりつけて、唇をとがらせる。
良明はしかつめらしい表情を浮かべようとして失敗する。ようするに眉尻が下がってしまう。
「し……しかた……ないなァ……」
「じゃ、おふとん敷くぅ!」
まゆがはしゃいで、押し入れにダッシュする。
「ケーキ、どうすんだよ……」
「一回してから、食べよ。そして、それから続きね」
「おいおい……おれ、明日、早いんだけどなあ……」
まゆは良明の繰り言を無視してふとんを敷くと、自分もくりくりと服を脱ぎだす。
身体のラインは確かに女性っぽさを感じさせるようになってきている。特に骨盤の張りだし、ヒップのまるみは顕著だ。それでも、同年代の女の子に比べて、全然スレンダーなのだが。
「ね、おっきくなったでしょ?」
自分で乳房に触れながら、良明に迫ってくる。
「ばーか、まだまだ小学生サイズのくせに」
良明も服を脱ぎはじめる。軽口は叩いているが、まゆの裸身はまぶしくて直視できないのだ。毎日毎日、目をみはるくらいに変化しつづけている。自分の年齢を感じてしまう、というさっきの冗談は、実のところ本音だ。
「ふぅむ……言われてみれば」
まゆは自らのバストトップに指で触れてみる。
「でも、小学生のまゆはあと二か月だけだよ。価値があると思わない?」
屈託なく笑う全裸の少女は、トランクス一枚になった良明に抱きついた。