満たされた毒牙


「ほうら、もっと唇をすぼめて。くびれのところを唇でしめつけるようにするんだよ」

「んむう……むう」

 まゆは弁護士の命じるままに、彼のペニスを口に受け入れていた。

 抵抗がなかったわけではない。罪悪感もあった。良明に対して、いけないことをしているという意識はあった。

 だが、自分が性的に幼いために、良明の興味をひかなくなってしまったのだ、というおびえがあった。そして、今日見せられたビデオの数々は、テレビで喧伝されている女子高生、女子中学生の奔放な性が、まゆの年代でも同様に蔓延していることを納得させた。

 見知らぬ男とあいさつ感覚でエッチする、それがふつう、あたりまえのこと。かっこいいことでさえある、という価値観。そして、エッチが巧い女の子であれば、良明を満足させられるのではないか、という期待。そういったものがまゆを衝き動かしていた。

 まゆには名づけられないこの衝動――それはきっと欠落感なのだ。自分にはなにかが欠けている。大事な何かが足りない。自分は完全じゃない――だから愛されない――

 その欠けている部分が手にはいるよと耳元でささやかれ、クスリの効果やアダルトビデオの刺激なども加わって、まゆはその坂を知らず転げ落ちはじめていたのだ。

「そうそう、まゆチャンは吸い込みが――いや、飲み込みがなかなかはやいよ。ほら、ビデオのあの女の子よりも上手なんじゃないかい?」

 テレビ画面には、無修正のアダルトビデオが映っていた。まゆと同じくらいの年齢の少女が、男のペニスをくわえている。弁護士は、まゆの技量を確認するかのように、リモコンで画面を切り替えて、カメラからのライブ映像とアダルトビデオを交互に映写する。

 まゆにしてみれば、現実とビデオのなかの出来事がいっしょくたになってしまっている。グロテスクな弁護士のペニスも、それが放つ異臭も、すでに作り物めいたものになっている。

 もっと言えば、まゆの身体そのものもまるで他人のもののように感じられた。弁護士の指でこねられて、大きくふくらんだ乳首は、かるくさわられるだけで叫びだしたいほどに敏感になっているし、たっぷりと愛撫された性器のまわりは、自分でも驚くくらいにベトベトに濡れてしまっている。

「そう、さきっちょのところを舌でレロレロと……うおっ、おおっ」

 まゆの舌に尿道口を刺激されて、弁護士はうめき声をあげた。

「いいよ、まゆチャン、それを沢くんにやってみなさい。きっとよろこんでくれるよ」

「ほんと?」

 まゆは目を輝かせて弁護士を見あげる。鷹揚にうなずく中年男が、まゆの目にはやさしくて親切なおじさんに映っているのだ。

「じゃあ、男の人がもっとよろこぶ方法を教えてあげようか」

「うん、教えて」

「まゆチャンはおしりの穴を舐めてもらったことがあるかい?」

 ずけり、弁護士は質問する。

「え……」

 さすがにまゆも答えにつまる。

「いいんだよ、みんなやっているんだよ。恥ずかしがることはないよ」

「……ある」

 赤くなりながらまゆは答える。

「まゆチャンはおしりの穴を舐められたり、いじられたりするのは好き?」

「……ちょっと、だけ」

 まゆはうそをついた。ほんとうはまゆはおしりがすごく感じるのだ。良明の指や舌がそこに侵入してくることを想像するだけで、身体がふるえてくる。最近おぼえたオナニーでも、おしりの穴をいじることが多い。さすがに自分で指を入れることはせず、周辺をなでるだけだが、それだけでもエクスタシーを感じることがあるくらいだ。

「ふぅん……ちょっとだけかあ」

 弁護士が考えこむふりをする。もしかしたら、おしりを舐めてもらえるのではないか、という期待が一瞬まゆの心にきざす。だが、いくらなんでもそこまでは、というためらいが、その意識をぬりつぶす。

「男の人もね、オチンチンだけじゃなくて、タマタマの袋のところや、おしりの穴まで舐めてもらうとすごく気持ちいいんだよ。知ってた?」

 弁護士の指摘に、まゆはすなおに納得した。自分がしてもらって気持ちいいことは、おとなの男の人も気持ちいいんだ、という発見である。

「そうなんだ……」

「でも、まゆチャンは沢くんのタマ袋やおしりの穴を舐めたことがないだろ」

「うん……おにいちゃん、そういうのしてって言ったことがないから」

「それは、まゆチャンが子供だと思って遠慮しているんだよ。それに、いきなりやってもうまくできるはずがないしね」

「できるよ、まゆだって」

「でも、おしりの穴とか、舐められるかい?」

 意地悪そうに、肥満中年男が笑う。

「なめれるよ」

 ら抜き言葉はまゆの年代ではまったく普通の言葉だ。

「じゃあ、おじさんので練習してみるかい。舐めれるか、どうか」

 弁護士も、あえて「ら」をぬいて挑発してくる。

 まゆはうなずいた。

 ソファの上によつんばいになった弁護士の姿はぶざまというよりも奇っ怪だった。その白くたるんだ尻に顔を近づけていく少女は、かるい緊張を表情ににじませながら、まるでテストにのぞむ受験生のようだ。

 脂肪がたれさがった尻の山のあいだに、茶色い肛門と、その下にだらりとさがった睾丸の袋がある。

「まず、タマ袋を口にふくんで、舌でマッサージしてごらん」

 まゆは白いものがまざった陰毛が生えている睾丸の表面を舌でなめた。そして、大福餅をほおばるように、睾丸を口腔におさめる。

「ああ、あったかいよ、まゆチャンの口のなか。アメを舐める感じで、そう、その調子だよ」

 左右の睾丸を交互に、まゆは口に含んだ。弁護士は細かい注文をつけてきた。それにひとつひとつ答えた。練習だと、ほんとうに思っているのだ。

「さあ、次はおしりの穴だよ。ふふ、舐められるかなあ」

「ん……」

 弁護士の老廃物の出口を、さすがに直視できなくて、まゆはまぶたをとじた。

 ねぷ。

 舌が、その部分に届いた。周囲にはえている毛を感じる。

「ベロが動いていないぞぉ、それじゃあ、沢くんも喜ばないよ」

 苦みが舌にひろがり、まゆはえずきそうになる。

 だが、こらえて、舌の筋肉を動かしはじめる。唾液をなるだけだして、この強烈な匂いと味をうすめようとする。

「ベロだけ動かしてもだめだよ。うんとベロを突きだして、舌べらでこするようにしてごらん。首を動かすんだよ」

 口調はやわらかいが、弁護士の顔には完全に征服者の表情が浮かんでいる。

 まゆが言われたとおりにすると、弁護士は唇をゆがませた。

「そうだ、もっと奥をえぐるようにすると、気持ちいいんだ。ああ……あはあ」

 中年男があえぎはじめた。喜悦に充血した赤黒い舌を見せる。

「指は、タマ袋をもむんだ。竿を――オチンチンもしごくんだ。舌はやすめちゃだめだ。いいぞ、まゆチャン、もっと舌を」

 まゆは、弁護士のまたぐらに腕にさしこんで、ペニスをにぎり、前後にこすりながら、もう一方の手で睾丸をもんだ。そして、舌は男の肛門をえぐるようにしている。

「ああ、ああ、いい、いいよ、ああ」

 気持ちいいんだ、とまゆは思った。これをしてあげれば、良明も喜んでくれるにちがいない、と思った。

「おああ、おっ、おうっ、おううっ」

 弁護士の声がせわしなくなり、身体が小刻みにゆれはじめる。

 いきそうなんだ、とまゆは思った。弁護士のおじさまが、いま、まゆの舌と指の責めに陥落しようとしている。まゆの心にいたずら心がうかぶ。

 まゆは、どうしますか?

 いかさないで、じらしちゃえ。

 だめ、せっかくいろいろ教えてくれたんだから、最後までしてあげよう。