満たされた毒牙


 弁護士は内心で舌なめずりをしながら、まゆをソファに座らせ、キャビネットの裏に隠してあったビデオテープをデッキにセットした。

 まゆがジュースを飲み干すのを横目に見ながらスタートボタンを押す。

 内容は仔猫が遊んでいる光景が脈絡なく流れるものだった。弁護士は、まゆの隣に席をしめ、その肩に手をまわす。ちょっとだけ抵抗を示したまゆだが、画面への興味にかまけてそのままにした。弁護士は、暖房のせいですこしだけ汗ばんでいる少女の身体の感触をトレーナーごしに感じてほくそえむ。

 と、画面がかわった。というより、今までの画面がダミーだったのだ。

「あっ……」

 まゆが声をあげた。それはそうだろう。そこには、まゆが今まで見たことがない光景が映しだされていたのだ。

 それは、若い女が男とからんでいるシーンだった。マンションの一室らしく、照明も稚拙で、いかにも裏ビデオという感じがする。むろん、局部もモロに映っている。

「なに、これ、おじさま」

 さすがに不安そうな声をまゆはだす。その肩を弁護士は包みこむようにしてささやく。

「これが、大人の女の人がしていることだよ。授業だと思って見なさい。なに、見るだけだったら、沢くんも怒らないよ。だれでも、これくらいのビデオは見ているんだから」

「そう……なの?」

「そうだとも」

 笑いをこらえて弁護士はしかつめらしくうなずく。

「そうなんだ……しらなかった」

 つぶやいて、まゆは画面に視線をもどす。女が、男のペニスをくわえているシーンだった。亀頭を唇ではさんで、左右に首をふっている。男がうめいている。

「ほら、ああして男の人を気持ちよくさせるんだよ」

「へえ……すごいや」

 まゆは両ひざをこすりあわせた。

 ディープスロートをして、ペニスを喉まで吸いこむシーンでは、まゆは自分も苦しそうに顔をしかめた。

 そして、男に組み敷かれ、挿入されるシーンになった。

「あの女の人と男の人って、結婚してるんでしょ?」

「ちがうよ」

 弁護士は笑った。

「たぶんあの二人は、撮影した日に初めて会ったんだよ。で、撮影が終わったら二度と会わないんだよ」

「えっ、どうして?」

 まゆにはそれはショックだったようだ。集中していた画面から目をはなし、弁護士をみあげた。

「好き同士でもないのに、エッチするの?」

「大人の女の人は、そうするものなんだよ」

「どうして? まゆはいやだ、そんなの」

「いやだと言ってもしょうがないよ。みんなそうしているんだから」

「……知らない人とエッチなんか、まゆだったらできないよ」

 弁護士はここを先途とたたみかけるように言葉を続ける。むろん、あくまでもトーンはやわらかくだ。

「あのね、大人にとってはエッチはあいさつのようなものなんだよ。特に若い女の人にとってはね。いろいろな男の人とエッチをして、さっきみたいにお口でするのがうまくなったりすると、恋人になった人をすごく喜ばせることができるだろ?」

「……そうなのかなあ」

「ほら、画面がかわったよ」

 次は、まゆよりも少し年上くらいの少女が、男ふたりとセックスしているビデオだった。

 幼い顔をしていながら、この少女はすごく積極的で、ひとりのペニスをくわえながら、もう一人の男にまたがって、自分から腰を振っていた。しかも、受け入れているのはアナルだ。

「ほうら、この子もそうだよ。エッチがうまくなるように練習をしているのさ。おしりの穴に入れるのは男の人にとってもすごく気持ちいいんだ。でも、こういうことは経験を重ねないとね」

「……うん」

 まゆはもう画面から目が離せなくなっている。両手の拳をぎゅっとにぎり、ひざの上においているが、その手が小刻みに揺れている。

 体温もあがっているし、汗もかいていることをてのひらを通じて感じている弁護士は、いかにも楽しそうだ。

 画面は次々とかわった。まゆと同じくらいの女の子、まゆよりも年下らしい女の子もいた。彼女たちは例外なく、会ったばかり男に裸をさらし、セックスをしているのだった。

「さっきは大人の女の人といったけど、訂正しなければならないね。まゆチャンくらいの歳の子でもみんな、していることだったんだね」

「……うん」

 まゆの返事はくぐもっている。ひざを窮屈そうにこすりあわせ、顔を赤くしている。

 弁護士は、頃はよしとみたのか、まゆの肩にまわした腕に力を入れ、自分のほうに抱き寄せた。

 まゆは抵抗らしい抵抗もなく、弁護士の胸のなかにおさまった。

 まだ、画面を見ている。まゆに少し似た感じの少女が、背後から薄い胸を愛撫されてあえいでいる。股間には器具が挿入されていて、おさない亀裂が広げられている。

「まゆチャンも練習してみるかい?」

 弁護士はまゆの小さな耳にささやいた。ジュースに仕込んだ媚薬の効き目もそろそろ出てくるころだ。

「……やだ」

 まゆはかすれ声で答える。だが、強い拒絶ではない。

「でも、みんなしているのに……」

 耳に息を吹きかけつつ、弁護士はまゆのわきの下から掌を入れて、胸元をさわる。

 ブラジャーをまだつけていない、なまの感触だ。トレーナーとシャツを通じてもふわふわとしてふくらみの感触がつたわってくる。

「……だめ」

「エッチがうまくなったら、沢くんも喜ぶよ。きっと、もうまゆチャンを子供扱いはしないと思うよ」

「……ほんと?」

 反応があった。弁護士はここぞとばかりにうなずく。

「沢くんには内緒でおじさんが練習台になってあげるよ。もちろん、最後まではしない。練習だけだよ……どうだい?」

「……」

 まゆは黙った。さすがにためらっている。

「それともやめてうちに帰るかい?」

 意地悪な一言だった。まゆは帰ればひとりきりだ。こんな状態で、だれもいない部屋に帰る自分のみじめさを、少女の心でも感じるにちがいない、と読み切っての一言だった。

「……ほんとうに練習だけ?」

「ああ。だって、まゆチャンは沢くんが好きなんだろ? わたしはきみたちを応援しているんだよ。うまくいってほしいんだ」

 にっこりと微笑む。そうしながら、まゆの胸元やふとももに置いた手をどかすことはしない。

「最後までしないんなら……」

「練習、するんだね?」

 たたみかけるように弁護士は確認する。

 まゆは無言でうなずき、弁護士は今度こそ会心の笑みを浮かべた。

つづく