アシャンティは丸まって眠っている。コタツもないのに、あったかそうだ。
「むにゃにゃ……かーしゃん」
シルヴァイラの夢を見てるのか。手をもぞもぞさせているのは、母親のおっぱいを揉むしぐさだな。子猫に戻った夢でもみてるんだろう。
夢――か。
だが、夢をみられるやつは、それゆえに強い。
こいつなら、次に目を覚ました時、おれがいないことを知ったとしても、「まあしょうがないにゃ」と言ってひとつ伸びをして、歩きだすだろう。自分の足で。そしてうまくやっていくだろう。自分の才覚で。
おれは眠るアシャンティをべつの部屋に移した。マモンの力の残りを使って、結界を張ったから、雑魚にはまずみつかるまい。
あばよ、ねこすけ。
縁があったら、またヤろう。
おれは階段をのぼり始める。
最初からわかっていることだが、空間がねじってある。螺旋階段がいつまでも続く。トラップもしかけてある。へたをすれば別の空間にほうり出される。
だが、今のおれにはそんなものは意味はない。
少々体力を使い過ぎでめまいがするが――異界とつながった数秒間がきつかった――マモンの力の残りで、魔法を中和できる。つまり、のぼってりゃ、いつかはたどり着ける。
だから――
やつが待っていた。
階段の途上の、踊り場で。
まるで、門番のように――
「ここまで、よく来れたな、ジャリン」
黒いフードの魔道士。ディーだ。
「だが、ここまでだ。ザシューバさまの邪魔はさせぬ」
「よお、さっきおれのチンポしゃぶった魔道士さんじゃねえか。舌使いはうまくなったか?」
「う……うるさい!」
声が裏返る。
「さっきは不覚をとったが、今度はそうはいかん。この場所では――」
「無駄だ」
おれはだるさを隠さずに言う。いや、マジでだりー。
「おめーら人間の魔法ごときじゃ、いまのおれには通用しない」
魔神の力を借りてるからな。
もっとも、身体の方は限界なんだが、そっちは内緒にしとこう。
「だまれ! 炎の刃、氷の飛礫よ!」
攻撃魔法だ。お得意のミックス戦法。あらかじめ、呪文を仕込んでいたのだろう。立ち上がりが早い。だが。
おれは指先をちょいと動かすだけで相手の呪文を無効化した。
「な……なぜ?」
「言ったろ。おまえ程度の力じゃ、おれに傷ひとつつけられねえ」
もう少し元気だったら、「無駄無駄無駄ァ!」とみえをきってるとこだぜ。
「ば……ばかな」
ディーがうろたえる。
「ここはザシューバさまの構造呪文のただ中だというのに……」
「だからさ。構造呪文ってのは、定型のフォーマット、いわば、聖魔が残したレシピのそのまま複製(コピー)だ。コピーがオリジナルに勝てる道理がねえのさ」
「オリジナル……だと?」
ディーの表情が驚愕にゆがむ。こいつも一応は魔道を修める者のはしくれだけあって、おれの言葉の意味を悟ったようだ。
「まさか聖魔の――? だが、聖魔の力を使うなど、ふつうの人間にできるはずが――魔神の力を借りることができたとしても、これは……」
「借りたんじゃねえ――返してもらったんだ」
おれはディーにすっと近づくと、無造作に腕をつかんで抱き寄せた。
「ひ!?」
ディーからしてみれば、前触れもなくおれの姿が消えて、とつぜん抱き締められたように感じられたろう。
疲労がどんどん深く重くなってゆく。それと反比例するように、おれの中の魔力が大きくなっていく。蓋が、あいたかのように。
くそ。だりい。やべえな……いつまで意識を保っていられるか……
「ジャリン――きさま――何者だ」
おれはディーのおっぱいをもんだ。ああ、いい手触りだ。女の乳はいい。こんなものがあるから、世界は捨てたもんじゃない。少し意識がすっきりする。
ローブをひきちぎるようにして脱がす。やっぱりローブの下は裸だ。
「や……やめろ……」
ディーの抵抗はまるで紙のようだ。まるで手ごたえがない。
乳首をつまんで引っ張る。ゆがむディーの顔。その頬に舌をはわせる。
でも、まあ、認める。自分でも淡泊な責めだ。それでも。
「ああ……や、めて」
邪掌からほとばしる波動だけで、ディーのやつ、よがってる。異界からの波動が、だだ漏れだ。エロパワーもすごいが、それだけ、「おれ」という存在もおびやかされている。
触れるまでもなく、ディーのまんこは濡れているわけさ。
自分から脚をひらき、腰を浮かしている。
立ったままでも、入れやすいように。
全部無意識だ。邪掌にやられた女はだれでもそうなる。まして、フルパワーだ。堕ちない女はいない。もしもいたら、そいつには速攻でプロポーズだな。茶番をそれで終わらせられる。
おれは、ディーと、つながった。
「ああっ! ふぁああっ!」
ディーがおれにしがみつく。深いところから、声をはなった。
せまいな。
たしかにエメロンと感じは似ている。だが、やっぱりちょっとちがう。不思議なものだ。肉体は同一でも、人格が違えば、アソコの味もかわっちまうとは。
「あっ……あ……こ、これが……男……?」
ぼうぜんとディーが感想をもらす。
「し、しんじられ……な……中で、こんな……ひうっ!」
なんだ、初めてかよ。処女膜はねーけど、それはエミィの身体だからしょうがねーな。意識のうえで、男とセックスするのは初めてってことか。あれ、でも、たしか――
「ザシューバさま……おゆるしを……」
ディーがすすり泣く。
そうだ。ザシューバとディーはデキてたんじゃなかったのかよ?
まさか……?
いや、あり、える。
おれに声をかけ、ここまで導いて来た理由――それが、「そういうこと」だったとしたら。だが、それはあまりにも――
ディーの反応は完全な処女とはちがう。感じ方はわかっている。
「あは……っ、あ……っ、き……きもち……いいっ」
身体はこなれている。それなりに。だが、男の肉棒だけはしらないのだ。
おれはディーの大きな尻をつかんでもみたくりながら、奥をえぐった。
天井に当たる。エミィの絶品のザラザラの感触。子宮への入口部分の複雑な形状。そこを直接突きあげる。
「あ……くぁ……なに……?」
「そろそろ、でてこいよ」
扉をこじあける。
子宮の入口の、この部分で感じるようになるには、それなりの躾がいる。エミィの肉体にはたっぷりそれを仕込んである。
ディーには創造もつかない感覚のはずだ。それをいきなり味わわせている。
「やあっ! だめえ! いひっ!」
ディーが痙攣する。意識より先に肉体が感じてしまっているのだ。
「ああああああっ! わたし、もお……はあっ! たえらんな……ふあっ……」
衝動に翻弄されるように髪を振り乱しながら、ディーは絶頂をむかえる。暴走する性感に、振り回されている。
「はあああっ! イヤあああ、だっ、だめっ! だっ――! ぅいいいいいっ……いっ、う……」
気を遣る。気を喪なう。気を飛ばす。なんと言ってもいい。ディーの意識は快楽の突風に吹き飛ばされ、散り散りになり、そして――
まぬけそうな表情を浮かべていた。
のほほんとした――
なにがあっても笑ってそうな――
それでも――こいつくらい泣きむしなやつをおれは知らない。
「えっとぉ――ジャリンさぁん……おひさですぅ」
おれの腕のなかで姿勢を変えないままで――おしりを突き出して壁に手をついたままで――そいつは言った。