身軽になったおれは、塔への道を走り続けた。
塔は行く手にそびえ立っている。だが、いっかな近づいてはこない。
距離感がまるでつかめない。近づくと逃げる。遠ざかると消える。消えたかと思うと、思わぬ方角に出現する。堂々巡りだ。
ダンジョンなんかでよくある探索者よけだ。古代の遺跡なんかではわりとポピュラーなトラップである。人間でこれを作れるというのはめずらしいが、古代の技術が残っていればなんとかなるだろう。なにしろ相手は魔導博士の学位を持っていることになっているし。
だが、ポピュラーであるということは、その対策も当然研究されているということだ。一定の手順を踏めば解除できる。
つまり――
「出番だ、万能鍵開け」
おれは鯉口を切って、刀身に告げる。
刀が消えて、中空に幼女が出現する。いつものとおり、先のとんがった帽子にブーツと手袋、それ以外はなにも身につけていない。幼女の外見を持っているが、実は齢数百歳だかの魔神、マモンである。黒い羽根にしっぽがその証拠だ。
「さあ、仕事をしろ。時間がない」
だが、マモンは微妙に視線を外して黙っている。
なんだ?
「早くしろ、急いでるんだ」
「――ずるい」
「はあ?」
マモンは唇をとがらせて目を伏せている。
「おれの前でかわいこぶってもしょーがねえだろ、なんだってんだ」
「あの女ばっかり、ずるいよ」
「ぬな?」
マモンがはじめて顔をあげて、おれを見た。
「どうしてボクにやらせなかったのさ! あんなやつら皆殺しにすればよかったのに! 以前のジャリンだったら、一気に片をつけてたよ!」
めずらしいな、昂奮してやがる。まさか、怒ってるのか?
「それだけじゃない! あんな女、抱いてやる必要もなかったのに! 力を分けてやったでしょ! ほっときゃ衰弱して死んでたのに」
まあな。キースのやつはヴュルガーを使うのに、なけなしの力を使い果たしていたからな。
邪掌を通じて生命力を送りつつ、とどめにスペルマを流し込んだ。おれのスペシャルザーメンは、直腸からキースの全身にエネルギーを行き渡らせたはずだ。腸はなんつっも栄養を吸収する器官だからな。ヒットポイントでいうと200くらいは回復しているはずだ。
「甘くなったよ、ジャリンは。前は女なんか道具と割り切ってたじゃないか! 役に立たなくなったら捨てる――そうしてきたろ!? 三巫女のせい!? それとも、あの――」
マモンは言葉をのんだ。べつにおれが睨みつけたからではない。
言ってはならないことを口にしかけたことに気づいたのだ。
おれはゆっくりと言った。
「よかったな。それ以上身体が小さくならなくて。卵子にまで戻ってるところだったぜ」
マモンが凍りつく。瞳孔がすぼまって、おびえをたたえた表情になる。
そうだ。マモンは歳をとらないのではない。力を奪われて、拘束されて、それで幼女の姿を取っているだけだ。これ以上、力を制限されたら、こちらの世界に出現する時には虫のようなサイズか、半透明の精霊のような形になるだろう。
だが、マモンは、ただおびえているだけではなかったらしい。陶酔したような、おぼろな表情に変化した。
「ジャリン――その顔だよ――髪も――」
髪か。強烈に立ってるな。ヘディングしたら、ボーリングのボールでも砕けそうなほど。たぶん、目もつりあがってるだろう。
われながら凶相だ。
「それが、ジャリンのほんとの顔――」
「ほんとに今日は言葉が過ぎるな。道具屋に売るぞ」
おれはかるく凄んだ。マモンが完全に萎縮する。しっぽがたれる。
「おしおきだ、マモン、ケツをだせ」
「はい、ご主人さま」
うなだれてマモンがおれに小さな尻をむける。はいてないから、こういう時は便利だ。
羽根をぱたつかせて高さを調節。おれが入れやすいように姿勢をとる。
よしよし。
「おまえの力、貸してもらうぜ」
前戯なし。
でも、すでにマモンの膣は濡れていた。言葉責めに弱かったとはな。
おれもギンギンだ。ちっと頭に来たからかもな。怒張っていうくらいだし。
挿入。
「うぎゃあっ!」
裂けそうなくらい広がって、マモンが悲鳴をあげる。
だが、問題ない。人間じゃない。実体というわけでもない。裂けてもすぐに治る。
それにしても――めちゃくちゃキツくてヒダがものすごい。無数の触手にいじられているような感触だ。
ふつうの男なら、数秒ともたないだろう。死ぬまで射精をし続けることになる。だが、今日すでに二発出しているおれは余裕をもって責められる。
うりゃ、うり、うらあ!
すぐに天井に当たりそうなのに、奥が深い。思いきり挿入してもまだ先がある。
さすが、人外。魔物だけはある。
「ああ、ジャリンのオチンチンがおまんこに……ぃ……っ」
マモンが泣きながらよがり声をあげる。
「う、うれしい……よぉ」
そうか。久しぶりだからな。
「あれ以来……っ、守ってたんだから……っ」
うそつけ。
つーか、おまえ、その間も禁欲なんてしてねーだろが。
「ココではしてないもん! 口とかおしりとか手だけだもんっ!」
あー、はいはい。
貞淑なサッキュバスって、どうよ?
まあともかく。
「ぐだぐだいってんじゃねーよ。よこせ、おめーの力」
おれはマモンの一番奥に達した。チンポセンサーで子宮の入口を探る。
「あ……うっ……ズンズン当たるよお……っ」
ぬるぬるの汁をしたたらせつつ、マモンは快楽のうめきに喉を鳴らす。
「鍵は……あげる……よ。だから、い、いかせてぇ……!」
魔物の肉体は現世ではかりそめのものにすぎない。実体はちがう時空に存在しているのだ。だが、エクスタシーの瞬間には実体と直接アクセスできる。時空をこえて、物理法則さえ無視して、魔物の実体の居場所――魔人と神人、聖魔の領域――に触れることができるのだ。
チャネリング。異世界との交感。巷の巫術士ってのは死者の霊や雑魚の神を降ろす。イタコってやつだ。
おれの場合は、魔物とエッチしてよかせらせると、その魔物の能力を一時的に借り受けることができる――実体とアクセスしてそのパラメータをコピペするのだ。当然ながら女限定。ただし、そうそう多用できる技じゃない。
なにしろ、人間ばなれした魔物をいかせまくる必要があるからな。いくらおれでもホイホイとはできねえ。
だが、今は非常事態だ。
「おらあ、マモン、イけっ! イッちまえっ!」
おれはマモンの急所であるしっぽの先をにぎにぎしながら、子宮を突きまくる。
「うああああっ! いひぃっ! いいよぉっ! ジャリンっ! ご主人さまあっ!」
ご主人さまっていうな。
ったく、フランクに見えて、意外に主従の契約関係にこだわるからな、魔物ってやつは。
「ひぐぅ……っ! ひっちゃう、いひっちゃうよぉっ! マモン、いっちゃうよおおおっ!」
激しく羽根をばたつかせながら、高位魔神が達する。ふつうの人間相手には絶対に見せないアクメ顔だ。
子宮口が開く。
そのまま突っ込む。
射精開始。
ぶっかけまくる。
どばどば、びっちゅん。
中がたぽたぽになるまで。
「ん――っ! う――っ!!」
声なき絶頂。プロテクトがはずれて、邪掌の向こうに感触があらわれる。掌の内側で指を動かす――って言ってもわかんないだろーが、掌の中の扉の向こうに指を伸ばして、ふだんは触れられないものに触れている。
その間、おれの意識は向こう側とつながっている。
突然、映像がかわる。
過去かもしれない。未来かもしれない。この刹那でないともいいきれない。
答えのない謎々、最初からピースの欠けたパズル。
おれは没入しそうになる想いに制動をかける。そこにはどうせ辿りつけない。その場所はすでにない――あるいは――まだ。
意識を戻したとき、すでにマモンの姿はなく、カタナは腰のさやにもどっていた。抜き放ってみたが、刀身は、たださえざえとした光を放つのみ。
――マモンめ、これが意趣返しか。
おれは借り受けたマモンの力を解放して、宙に「眼」を飛ばした。
肉体はそのままに、感覚そのものを高みに上げて、周囲を俯瞰したのだ。
見える。
呪われし大地アルセアの全貌を見下ろせる。
峻険な山地に隙間なく囲まれた盆地だ。まるで檻のように。
自然だけがつくりあげたものとは思えない。
盆地は箱庭さながらのささやかさ。一面の森のところどころが切り開かれ、耕地と集落がつくられ、さらにそれらを結ぶ街道がある。
集落の数は多くない。
ただ、ひとつ、共通点がある。
塔だ。
いずれの集落にも、似通ったかたちの塔がある。
ヴィアーツァ伯爵の館と塔――
おれは眼をほそめた。
なるほどな。
よく見ると、おおきな図形が浮かび上がってくる。
塔を頂点にした――街道が描く――巨大な五芒星。よほどこのシンボルが好きらしい。
これは、まさに構造魔法だ。マナを異界から吸い上げ、土地そのものの魔力を高めるという――塔はいわば井戸のようなものだ。
たまりすぎたマナを逃がす仕組みまである。それはゲドラフ山峡の地下道だ。なるほど、こうして一定度にマナの濃度を保ち、異能者を生み出していたのか。
強すぎるマナは異形の者を引き寄せ、また進化変形もさせる。ゲドラフ山峡から漏れだしたマナが深き森に拡散し、半人半獣の獣人類を育てた、ということも考えられる。もしもそうだとしたら、アシャンティもアルセアに起源を持っているのかもしれない。
ヴィアーツァ伯爵の一族がこの仕組みを造ったのだとしたら、神人なみの力を持っていたとしか言いようがない。ドリーマーを輩出したっていうのも、納得できる。
百年前、アムリアが幽閉された「塔」っていのも、これらの塔のどれかだったのだろう。
それを、ザシューバがさらった――ほんとうだかどうだか――まあ、あの地下道にしばらくかくまっておいて、その間、噂を広めたんだろうな。たとえばロッシュのような、冒険者相手の酒場をやっているような顔役に情報が流れるようにして――
それも、詰まるところ、力のある冒険者をおびき寄せて、自分の研究の役にたつかを量るための試験だったってわけだ。
エメランディア――いや、ディーは、その審査役だったのかもしれない。ディーはシータの愛液の力を身をもって知った。なにしろ、それであいつは処女喪失したわけだからな。それで、役に立つと踏んで、おれたちをアルセアに導いた。
バイラルでアサシンを使っておれを殺そうとしたのも、ゲドラフ山峡の地下道でおれを襲ったのも、シータひとりがいれば事足りると思ったからだろう。
シータの愛液を使ってアムリアを果てしなく興奮させれば、ザシューバのヘニャチンでもイかせられる。イかせまくって、エクスタシーの果てに眠りにつかせることができれば、アムリアに、おのが望む夢を見させられもする、という腹だろう。
だが、そうは問屋がおろさねえ。
ザシューバがどんな夢をアムリアに見させようとしてるかなんて興味ねえ。だが、シータを濡らしていいのはおれだけだし、エメロンとエッチしまくるのもおれの特権だ。ねこ幼女をチンポじゃらしで遊ばせるのも、キースを開発しまくるのもおれでなければならない。つーか、世界中のいい女は全部はおれんだ。アムリアも含めてな。
理由は簡単、根拠は単純、おれがジャリンさまだからだ。
――なんてな。おれとしたことが、ちっと焦ってるようだぜ。
結界を無力化したら、塔は目と鼻の先にあった。もともと、広い森でさえないのだ。
おれは塔に踏み入った。
一階はホール状の広間だが、みごとに何もない。どうやら、母屋とここでつながっていたのだろうが、その部分は火事で焼け落ちてしまったのだろう。当時の惨状がそのまま残っている。
塔がよく残ったものだ。もっとも、塔というのは、城塞において最後に兵が籠もって戦うための建造物として発達したのだから、一番頑健なのかもしれないが。
階段は二種類だ。上か、下か。
ザシューバがいるのは上だろう。そうに決まってる。だが、先に下を押さえるのがマッピングの基本だ。少なくともおれのやり方ではそうだ。
階段を降りてゆく。
敵の姿はない。いたとしても、しょせんは村人だ。いまのおれなら、相手がこちらを認識する前に殺すことができる。あるいは、おれを見なかったと錯覚させることも。
だが幸い、だれにも会わなかった。いや、不幸にも、かもしれない。
階段を降りきると、そこは地下室だった。
牢獄か。鉄格子のはまった扉のある小部屋が並んでいる。片っ端から開けていく。いつもなら鍵を気にするところだが、マモンの力があれば、まったく意識することなく扉を開けられる。
どれも空っぽで、長い間使われていなかった様子だが、なんともいえずいやな臭気がこもっている。
無駄にする時間はない。マモンから借りた力は有限だ。それに、おれの体力自体、フルパワーとはいえなくなくっている。
一番奥まったところにある扉を、おれは開けた。鍵は一瞬で破壊している。
そこは、暗くて広い部屋で、饐えた匂いがした。壁に埋め込まれた鎖、手枷、足枷、それに責め道具――トゲつきの鞭、搾め木、錆だらけの鋸――昔の拷問部屋なのだろう。すべてが古い。だが、部屋を満たした粘性の高い空気には、淫靡な性臭とともに、まだ新しい血の匂いが加わっていた。
床に血溜まりができている。その真ん中に、ちいさな生き物が転がっていた。
まるで、子供が無惨に遊び尽くした人形のように――
それは毀れていた。