ジャリン戦記 第三話 仔猫モノ騙り(第六回)
銀色の光――女の動きは一瞬そう見えた。おれの動体視力は、新幹線ひかり号の通過駅の駅名表示の小さい文字でも読み取れるくらいなのだが――例えが世界観にそぐわないだと? じゃあ、ミッミィと鳴くかけっこの速い鳥の脚の動きを24分割のストロボ写真のように判別することができる――意味不明だと?――とにかく、おれの目でも捉えることが困難なくらいの速度だった。
「おわっ」
爪の一閃。
おれの頬に朱色の線が走る。
ステップが少しでも遅れていたら、おれのこの秀でて麗しいシューレイな顔が横に裂けていたところだ。
銀色の塊は音もなく床に着地していた。ネグリジェは跳躍の瞬間に脱ぎ捨ててしまったようで、素っ裸だ。
全身の産毛が逆立って、部屋のわずかな光を反射して光っている。そうやって見ると、産毛が模様を作っているのがわかる。シルバーの下地にやや濃いグレイのパターン。
うーん。手足のバランスは人間のものなんだが、身体のフォルムというか、姿勢から発散されるムードはまちがいなく猫科の猛獣だ。しなやかで美しく、危険な感じ。
女のシルバーアイズがおれを見つめている。
「あんた、だれなの。あたしの爪をかわすなんて……」
「ひとに素性を訊く時は、自分から名乗るもんだぜ」
「シルヴァイラよ。アシャンティはあたしの娘。あんたは?」
「ジャリンだ。チンポのサイズは二〇センチ以上。体調によって数センチの誤差がある」
「そんなこと訊いてないよ」
「大事なことだと思うが」
おれは自分の股間にちらりと目をやった。なあ、息子よ、お前もそう思うだろ?
「娘に、なにをしたの」
シルヴァイラが――アシャンティの母親が――言った。抑えた声だが、内心の烈しい感情のうねりが感じられる。おれは肩をすくめた。
「おイタが過ぎたもんだからな。ちょっとしたお仕置きを、な――しようとして逃げられた」
後半は実に残念な告白だ。
「どういうこと――? アシャンティが、あんたを狙ったの? なぜ」
おれは両手を広げた。
「あんたの代理だろ? ちがうのか?」
「そんなはずは――もしかして、ゾルドのやつ――」
シルヴァイラが目を細めた。瞳孔はとうぜん縦長に変化する。
だっ、と女がきびすを返した。扉のほうに向かう。逃げる気か――?
しかし、次の瞬間、シルヴァイラの身体が跳ねた。見えない壁にぶつかったかのように、扉に到達する寸前に跳ね返されたのだ。同時に電光――漂う電子精霊(オゾン)の匂い。
シルヴァイラは床に倒れてうめいていた。身体の一部――産毛が焦げているようだ。
おれは獣人女に近づいた。
女の首にはまっている首輪に刻まれた呪文の文字を確認する。
「ジェイルの魔法か――よっぽどあんたの力を怖れているんだな、ゾルドは」
魔法をかけた首輪によって、女が移動できる範囲を制限しているのだ。その範囲内では自由に行動できるが、扉や窓に近づけば見えない壁があらわれる仕掛なのだろう。
シルヴァイラは素早く身を起こした。牙をむいている。
爪がまたも目の前にひらめく。
こやつはどうやら我を忘れているようだ。これでは獣人というより、完全なケダモノだ。落ちつかせなければ、話もできない。
おれはネコ女の攻撃をギリギリでかわすと、その腕を掴みとった。
関節を極めにかかる。
「びゃあッ!」
シルヴァイラが吠えた。身体がくねる。しなやかな動きだ。
下肢がおれの延髄を狙って伸びる。腕を極められながら、蹴りをかましてくるとは。それも神速。
おれはなんとか蹴りをやりすごす。一刻の猶予もねえ。女の腕を固めたまま、床におしつける。
「しゃぎゃッ!」
空気の擦過音が女の喉からもれる。
じたばたと女は暴れる。腕を極めているってのに――よっぽど身体がやわらかいんだな。ともかく、いそがねば。
邪掌を女の尻にあてる。
逃げようとする尻を追って、邪掌をもぐりこませる。
「ひっ! ひぎゃああっ!」
シルヴァイラは絶叫する。
おれの左手から出る波動は女の性感帯を活性化させるのだ。
その効果が獣人のメス相手でも充分発揮されることは、昨日のガキで証明済みだ。
「うっ……は……」
獣人女の動きがのろくなる。
しめしめだ。おれは刀を鞘ごと腰から抜いて、傍らに置くと、左手を本格的に使いはじめる。床に置くときに刀身が鞘からちょっと抜けかけたが、とりあえず無視だ。
おれは、獣人女のやわらかい部分に強引に指をねじこんでやった。これは邪掌の持ち主であり、ハンサムでかっこよくて、しかも強いおれだからこそ許される行為だ。ふつうの男がこれをやったら確実に相手に嫌われるからやめておけ。
指三本を巧みに使い、土手を広げながら中心を刺激する。
「く……」
抵抗してもムダだと悟ったのか、シルヴァイラの身体から力がぬける。やはり、経験を重ねた女は賢いよな。
おれは極めていた腕を放し、それからおもむろにティムティムを出した。
しっかりと反り返っている。
シルヴァイラが首を曲げて、こっちを見ている。淫蕩な眼だ。邪掌の力ですっかりその気になっているようだ。
「じゃあ、入れるぜぇ」
おれは宣言して、尖ったモノをシルヴァイラのあそこにあてがう。ふむ。感触や濡れ具合は、人間でいえば十代後半だな。ガキを産んでいるとは思えん。
そのまま、まずは奥まで突っ込む。ぐいっ、とな。
「あうっ!」
シルヴァイラがうめく。内部は充分に熟れていて、かつみずみずしさも失われていない。いい道具ってことだ。
おれは女の尻に腰をこすりつける感じで、ぐりぐりと動かした。
「ひうっ! お……おおきい……」
だろ? だろぉ?
おれはいい気分で腰を使った。
「ああっ、はあ……気持ちいいっ、ああっ」
シルヴァイラが甘い声を出して尻をうねらせはじめた。
おいおい、やる気マンマンだな、この女。楽しくなってきたぜ。
「もっと、突いてぇ」
「よおし」
おれはシルヴァイラを抱えて体位を変えた。側位で獣人女の肢を抱え、ズンズン奥までえぐる。
この女、アサッシンとしてだけでなく、娼婦としても客を取っていたんだろうな。むしろ、そっちの方の凄腕だったんじゃないか? なにしろ、すごい密度のひだを感じるぜ。それが、まとわりついてきて、ああ、くそ、たまらん。
「んんん、いいわ……もっと」
シルヴァイラが腰を揺すって煽ってくる。
仰向けになったシルヴァイラに、おれは覆いかぶさった。
ふだんは女の欲する体位に応じるなんてことはせずに、やりたいカタチでやるのがおれのスタイルなのだが……気持ちいいぜ、ちくしょう。
「あっ、あん、あっ、あっ……あああっ」
耳元でいい声で鳴きやがる。
たおやかな腕がおれの首を抱き、それから背中にまわって甘痛く爪をたてる。身体を密着させる。心臓の鼓動がつたわってくる。そして、せわしない吐息。
おれは夢中で腰を使っていた。シルヴァイラの声が高くなっていく。オルガスムスを迎えようとしているのか。おれもその声と、強烈なひだのしめつけに、こらえようもなく高まっていく。
ああくそ、いい女だ、たまらねえたまらねえたまらねえ……
その時だ。おれの背中にまわっていたシルヴァイラの腕に微妙な力が加わった。ふっ、と後頭部に寒気が走る。
反射的に左手を伸ばし、刀の鞘をつかむ――右手は、女の身体を抱いていて、すぐには柄をつかめない。
シルヴァイラの唇がきゅうっ、と吊り上がった。
おれの首筋に爪が食い込んでいく――寸前。
「甘いな〜、ジャリン、甘すぎだよ〜」
小馬鹿にしたような女の声が響き、あたりに瘴気がうずまいた。