ジャリン戦記 第三話 仔猫モノ騙り。(第二回)


 バイラルの街に入ったのは、まだお日さまがサンサンと照っている時間帯だった。

 ゆうべ、むりをすれば街に入れたのだが、手前で早めに野営をしたのだ。理由はむろん、だれはばかることなくアニマルなセックスをシータとエミィあいてにくりひろげるためだったが、バカのせいでさんざんなことにあいなった。

 バカというのはマヌケな騎士モドキのことだ。

「おい、シータ、あいつはどうした? しばらく姿が見えないが」

「キースリングさんですか?」

 ホムンクルスの少女が小首をかしげておれを見る。魔法と遺伝子工学の融合が生みだした究極の人工生命体の、そのまた精華ともいうべきヴェスパー博士の手になるホムンクルスの逸品だ。おれの僕のうちの一人である。

「キースリングさんでしたら、バイラルの街に用事があるということで、朝早くに出られましたよ。いずれにせよ、そこで落ち合えるだろうから、と」

 シータがこたえる。おれは碧い髪に黄金の瞳を持つ少女を凝視した。

「あいつとしゃべったのか? おれに断りもせず?」

 まったく、律義というか――いや執念ぶかいというべきだろうな――あのバカ騎士は、おれたちにつかずはなれずつきまとい、夜は夜で、おれたちの天幕のそばをうろついていやがる。しかも、あやつめどうやらシータに興味があるらしく、なにかとちょっかいをかけてくるのだ。

「マスターは天幕でお休みでしたし。それに、キースリングさんとはあいさつをしただけです」

「あんなやつをさんづけする必要はない。騎士モドキで充分だ」

「へえ、ジャリンさんもヤキモチやくんですねえ」

 エミィがからかい口調でほたえたので、おれは見習い魔導士のメガネっ娘をにらみつけた。

「だまれ、エメロン! またケツからねじりこむぞっ!」

「ひええっ」

 おしりを手でおさえながら逃げる。小声で、エミィですう、とかつぶやいていやがる。

「ふん、ほんとうはアナル好きなド変態のくせに」

 おれは唇をゆがめた。そんなことありませえん、と遠くからエミィがゆっているが、アナルでイクイクと言うようになったのはまぎれもない事実だ。ゆうべはやりそこなったが。ちっ。

「それにしても、エミィさんがアルセア地方のご出身でよかったですね。道にこまることありませんもの」

 シータがとりなすように口をはさむ。

「まあな。エメロンを実家まで送りとどけてやるという護衛の仕事までセットになっているからな。効率のいいもうけ話だ」

「ちょっ、ちょっ、そんな仕事はたのんでないですう」

 わたわたとエミィが駆けよってくる。

 おれは眼を細めた。

「おいおい、凄腕の冒険者であるこのジャリンさまをただで護衛に使えると思っていたのか? そうだな、おまけして10万ドラルってとこだな」

「しょ、しょんなあ」

 エミィは泣きべそをかく。

「そんなおかねはありませえん」

「だいじょうぶだ。ご両親に家屋敷を売っぱらってもらえばなんとかたりるだろう」

 ついでに、かわいい妹とかいたら、オマケにつけてもらおう、などと考える。

「ひどっ、ひどいですう。毎晩のよーにエッチなことをわたしにしてるくせにい」

「ばっかだなー、おまえ」

 おれはエミィの頭をなでなでした。

「おまえはおれの女だ。自分の女にエッチするのは男の義務だろ? おれは義務を果たしているだけだぞ」

 エミィの顔が赤らみ、瞳がちょっとうるむ。こいつは、すぐうるうるっとなる。あっちも濡れやすい。それでいてキチキチで締まりは最高だ。

「んじゃあ、護衛のお金なんていらないですよねえ」

 あまえ声をエミィはだした。媚びるようにおれを見あげている。おれもそれにあわせて、にっこりと笑ってやる。

「それとこれとは、別だ」

「なんでですかあっ!」

「あのー、漫才の途中もうしわけないのですが」

 シータが控えめに割ってはいる。

「そろそろ、バイラルの街に入りますよ」

「おお、わかった」

 単調な旅はバカをからかって過ごすにかぎる。おれは鷹揚にうなずいた。

 バイラルの街はベルカーンツからおよそ一週間の道のりだ。距離としてはさほどではないのだが、整備された街道がないため時間がかかる。さらに、ここから先は人里がほとんどない原生林――<深き森>である。アルセア地方に行くためには、その先にある峻険なゲドラフ山峡を踏破しなければならないのだ。

 そのため、バイラルには冒険のための道具を売る店や、ガイドを紹介する酒場などがたくさんある。そういう意味ではルバルの街に雰囲気は似ていなくもない。だが、ルバルとは決定的にちがう点がひとつある。

 それは、通行している連中の姿がバラエティに富んでいることだ。それも並たいていのバラエティではない。

 歩いているのは人間だけではない。

 耳が立っているもの、しっぽが生えているもの、翼があるものも珍しくはない。

 <深き森>に暮している獣人族たちが街にやってきているのだ。

 獣人族というのは、その名のとおり、ケモノと人間のハーフみたいな存在だ。有名なところではワーウルフとかがいる。満月の夜などに出くわしたら、どんな高レベルの冒険者でもひとたまりもないというほど強い種族だ。

 もっとも、ワーウルフのような有力な種族は、人間とまじわることをよしとせず森にこもって独自の社会を築いている。

 しかし、そのほかの獣人は、けっこう人間の社会に依存して生きている。なにしろ、年々森は切り開かれているからな。人間に対抗しようにも、ワーウルフなどとはちがい、草食系の獣人は武装した人間にはかなわない。

 とくにウサギ系とかよわっちいやつは、もう人間の言うなりだ。人間と身体のつくりがそうかわらないことも不幸にはたらき、人間の男あいてに身体を売る獣人の娘も多い。

 そういった獣人たちが集まるのがここバイラルだというわけだ。

 ***

 まったくのところ、この街の通りっていうのは、人種の――いや種族のるつぼだ。

 人間なのか、獣人なのか、その両方が混じっているのか、とにかくいろいろな属性を持った連中がうろうろしている。

 しかし、立派な店をかまえていたり、通行人のなかでもきちんとした身なりをしているのは人間ばかりだ。一方、屋台で商売していたり、地べたに露天を開いているものたちはたいてい獣人か<ハーフ>だ。

 ようするにバイラルってのはヒトやらケダモンやらがごちゃぐちゃになっているが、やっぱり人間サマのほうがえらくて、ケダモン混じりはビンボーだっちゅーことらしい。

 しかし、街そのものには活気がある。

 さすが、貴重な動植物が多く生息する<深き森>に近いだけあって、希少価値のある商品の売買がさかんらしく、商店も屋台も露店もそれなりに賑わっている。

 たとえば、ロッシュの名なしの店で出しているゴラ酒の原料も<深き森>で取れるのだ。その他にも、魔法薬の材料になる数々の薬草や霊獣の肉や内臓の出物をさがしてか、魔道士らしき風体の者も少なくない。

 そういや、この街には魔道士ギルドの出張所もあったな。

「わあ、めずらしい薬草ですう。これがあればメギトの聖水が作れますねえ。久しぶりに作ろうかなあ」

 露店のひとつを覗きこみながらエミィが華やいだ声をあげる。もぐらハーフらしい黒メガネの男が愛想笑いをうかべて、エミィに商品を見せている。もっこりした地下茎を持つ植物で、小さな赤い花を咲かせている。甘い芳香がすばらしい。

「メギトの聖水? 健康にいいのか、それ?」

「飲んだら二秒で血を吐いて死にますう」

 にこにこ笑いながらエミィが言う。

「そんなもの作るな」

 おれは叱った。

 すぐにエミイはべつの露店に駆けていく。ええい、忙しいやっちゃ。

「あうーん、ロロルの樹脂がありますですう。これといくつかの薬草でアガデム香ができますねえ」

「どうせ血を吐いて死ぬんだろ」

「そんなことないですよお。全身がドロドロに溶けるだけですう」

「なんでそんなに嬉しそうに言う」

 どーも、エミイの専門は劇薬系らしいな。どうせなら、エッチな気分になる薬とか作ればいいのに。まあ、シータがいるから媚薬は不要だがな。うひひ。

「あれえ」

 エミィが立ち止まった。後ろを歩いていたおれはエミィにぶつかった。エミィが倒れないように背後から手をまわし、ついでに胸をもにもにもにっとつかむ。布ごしに乳首をつまんでやる。電気がはしったように、エミィの腰がはねる。

「はあん、だめっ、ですう、ジャリンさあん。それよりも、あれ、なんでしょう?」

 ほんとうはもっとしてほしいくせにエミイのやつ、真顔をとりつくろって通りの軒並みを指差す。

 ちょっとした大きさの酒場の店先で、男たちがなにかにむらがっている。

 ふぎゃあ、にゃあ、というネコの声が聞こえている。

 どーやら、ネコ獣人だかハーフだかを、男たちがとっつかまえたらしい。

 視力四・〇相当のおれの眼は、人間でいえば10歳相当の大きさのネコ娘の姿を完璧にとらえていた。トーモロコシっぽい色の髪の毛はふわふわのくせっ毛で、顔も人間のそれだ。しかし、ネコ型獣人の血を引いているのはその大きな耳と、ぴんぴこ動くしっぽからしてもまちがいない。

 そのネコ少女が、大柄で人相が悪い男たちに囲まれ、こづきまわされている。逃げようにも周囲をかためられて、思うにまかせないようだ。それでもけなげに髪をさかだて(それでもふわんふわんなのだが)、白い歯をむいて精一杯威嚇している。

「なんかかわいそうですう……。ジャリンさあん」

 助けろ、とでも言うつもりか、エミィがおれの顔をみあげる。

 が、おれはきっぱりと首を横に振った。

「おれはそこまでロリじゃない」

「あのお、助けてあげるだけでいいんですけどお」

「ばかな! 世の中はキブアンドテイクだ。たとえば、おまえだって、アルセア地方までの道案内をするだろ。そのおかえしにおれはおまえの護衛をする。そのおかえしにおまえは実家をたたき売ってでもおれに謝礼をはらい、かわいい妹がいればおれに差し出し、そしておまえ自身もおれのものでありつづける、というような公平な取り引きが前提だろうが」

「ぜんぜん公平じゃないですう……」

 エミィが弱々しく抗議するが、むろん、黙殺。

「そういう意味あいにおいて、あのハーフキャットを助けたかわりになにかを得られなければならん。カネが期待できん以上カラダということになるが、あそこまで小さいとさすがに使いもんにならん。以上、証明おわり」

 おれは胸を張った。エミィが恨めしそうな眼をする。

「でも、美人のお姉さんがいるかもしれませんよお」

「あんないたいけな子猫をいじめるとは許せんっ! 助けにいくぞっ!」

 正義の熱情に衝き動かされ、おれは走りだした。

 エミィが喜色をうかべながらついてくる。シータが肩をすくめながらつづく。

 おれは飛ぶように走りながら、刀のつかに手をかけた。そういや、しばらく抜いてないな、これ。こいつで斬るとあとがたいへんだからなあ、なんせ呪いがかかってるし。でも、この際だ。

 声もかけずに斬るのもなんだからして、剣を抜く前に、口上をのべるべく唇をひらく。

「そこな無頼、破落戸の徒め! なにゆえにそのような無力なる子供を囲みたるか! おのが良心に問うて恥を知らんや!? もしおぬしらに、すこしでも人らしき心があるならば、その子を解きはなち、早々に退散せよ!」

 ぱくぱくぱく。おれは口を動かした。

「ジャリンさん、かっこいいセリフですう。でも、ちょっと声がちがいますねえ」

 隣にきていたエミイが半ば感心、半ば不思議そうに首をかしげた。

「いまのはマスターがしゃべったのではありません」

 追いついてきたシータがこともなげに指摘する。

 その指の示す先には、白銀の甲冑をまとうた騎士がいた。

「わあ、キースさんでしたかあ」

「ちなみにマスターのセリフは『げへへ、にいちゃんら楽しそうなことしてけつかんな。ちいとわしにもやらせんかいな。なに? 引っ込めやと? だれにむかって生意気なことさらしとんじゃあ、われ、いてまうど、ぼけ』でした。声はでてませんでしたが」

 なんでわかるんだ、そんなことまで。

 ***

「なんでえ、てめえはっ!」

「すかしやがって!」

 男たちがキースに対してすごむ。とりあえずおれたちはまだ距離があるので無視するつもりらしい。男たちは六人ほどだ。半分は人間だが、残りはハーフ――クマ系、イヌ系、キツネ系といったところか。いずれもたいへん人相、風体がよろしくない。

 男たちは数をたのんでか、凶悪な顔をさらに歪ませた。身につけていた武器――短刀だの棍棒だの――を手に取り、臨戦態勢だ。酒場の主人や客たちはとばっちりを怖れてか、店の中からじっと様子をうかがっている。

「ふん、身のほどを知らぬ者どもが。いたいけな子供に狼藉をはたらくところといい、その頭の悪いところといい、まるでウニ頭と同類だな」

 ウニ頭だと? わはは、そんなヘンなやつがいるのか?

「マスターのことをあてこすっていますね」

 シータが言う。なんで指摘する、わざわざ。

「どうしてもケガをしたいならかかってこい」

 キースが笑う。女みたいなツラを不敵にゆがめている。性格悪そうだなあ。ぶっさいくだなあ。

「マスターよりは美形だと思いますが」

 だから、指摘すんなよ。テレパシストか、てめえはよ。

「さっきからマスター「」をつけるのを忘れてしゃべってるんですよ」

 げげ、そうだったのか……気をつけねば、よいしょっと」

 おれはカギカッコをセリフの後にぺったしとくっつけた。

「器用ですねえ、ジャリンさんってば」

 エミィが胸の前で両手を組んでおれを見あげる。

 ――感心するなよ。

 ***

 とかなんとか、およそ小説ではやってはならん文字遊びをしているうちに、キースにむかって、ならず者たちがむかっていく。

 囲みがとけたネコ少女は通りにむかって逃げた――と思いきや、一人のこっていた巨漢に襟首をつかまれてしまった。人間のこの男が、どうやらこの集団の親玉らしい。

「おっと、逃げられると思ったらおおまちがいだぜ。あのおっちょこちょいの騎士サマを片づけるまで、まっていな」

 こいつ、人間のくせに、いかつさからいったら、キースに向かっていた獣人ハーフの一人――クマ人間といい勝負だ。

 まあ、しかし、だ。このセリフの後半についてはおれも賛成だ。キースの野郎、おれはゆうべの恨みを忘れていないぞ。

 とはいうものの、だ。

「ヴュルガーを抜くまでもない」

 不敵に笑ったキースは、まず短刀で突きかかってきたイヌ男の突進をかわし、すれちがいざまに手刀を首筋に叩きこんだ。ぎゃひん、という悲鳴とともにイヌ男は昏倒する。

 さらに迫るキツネ男にはハイキックだ。うーん、まともにくらっているぞ。キツネのくせに頭を使わんか、頭を。

 クマくんはその重量感あふれる肉体をゆらしながら、華奢なキースを押しつぶさんと突進する。

 なんてゆうか、仲間がやられたのを見ていないのか、走り出したらとまらないタチなのか、一直線な突進だ。

 案の定、キースは軽快なフットワークでクマくんをやりすごした。勢いがついたクマくんはそのまま石造りの建物の壁に激突。店の窓ガラスが砕け、看板が吹き飛んだ。

「ちいっ」

 獣人ハーフたちに先行させた人間たちは、たたらをふんで立ちどまった。どうやら、キースの強さにびびったらしい。情けないな、獣人ハーフを先に行かせたこともふくめて。

 巨漢はと見ると、ものすごい形相で男たちを怒鳴りつけている。

「てめえらっ、たかがひとりの優男になにを手間取ってるんだ! とっとと片づけねえか!」

「しかし、ゾルドさん、こいつ、強いですぜ」

 びびり一号が言い訳がましく言い出す。

「そうですぜ、おれたちはネコのガキをとっちめるということで雇われたんですから」

 びびり二号、泣き言。

「きっさまらあ〜、カネかえせっ」

 ちゃりん、ちゃり〜ん、と音がして銀貨が数枚ころがった。びびり一号と二号が謝礼を投げすてて、ドロンしたのだ。あーあ、巨漢、まっさお。

「……しょせんはカネでつながった関係、もろいものだな」

 キースが巨漢に声をかける。

「さて、その子を放してやれ。そうすれば、おまえも無傷で逃げられるぞ」

「おまえ、なんで、このガキを助けようとする!? こいつがどういうやつか知っているのか!?」

 巨漢は少女の襟首をつかんだまま、左右にゆさぶった。

「にゃあ、いたいにゃあ! 騎士さま、アシャンティをたすけてにゃ!」

 少女は悲痛な声をあげる。ハーフキャットとはいえ、首のうしろの皮がそんなにあまっているようには見えないから、けっこう痛いのかもしれんな。

「子供に乱暴はよせ!」

 キースが怒りをあらわにする。

「いっとくがな、このおれ、ゾルドがこのあたりの獣人どもを仕切っているんだ。このガキもおれのシマに入った以上は、おれの言うことをきかせる。それが、この街のルールなんだよ」

 ゾルドと名乗った巨漢がすごむ。ようするに、こいつは獣人やハーフを組織して、ごろつき活動をさせたり、女だったら売春などをやらせているのだろう。たしかに、人間の世界では差別されざるをえない獣人たちは、そういう組織に属していないとなかなか暮らしにくいかもしれない。

「にゃあっ、アシャンティはなにもしていないにゃ! ただ、ひとをさがしていただけだにゃ!」

 ハーフキャットの子供が泣きわめいている。

「放してやれッ!」

 キースはヴュルガーを抜く。激怒している。いかんなあ。こいつは語尾がカタカナになると切れている証拠なのだ。

「やるのか? このガキがどうなってもいいというんだな?」

 巨漢が仔猫の首をつかんだ。大きな手だ。子供の首などかんたんにヘシ折ってしまいそうだ。

 しかし、キースに剣を引く様子はない。そのまま、相手をぶった斬りかねない。

 おれたはあごをしゃくった。

「おい、シータ」

「はい」

 シータはおれの仕草だけで指示内容を理解したらしい。

 半歩前に出て、指を唇にあてた。

 呪文を詠唱する。

 ――眠りをつかさどるまどろみの神ヒュプノスよ。その暗きマントをたれ、心乱れし者をおおいつくせ――

「スリープ!」

 シータが発声とともに、呪力をこめた指で宙に紋様をえがく。

 レベル20相当の眠りの呪文だ。しかも、ピンポイント。

「うがっ、が……ぐわあああ」

 巨漢は立ったまま熟睡だ。三日は醒めまい。考えようによっては危険な技だよなあ。三日間呑まず食わずで眠りこけていたら、ヘタしたら死ぬもんなー。まあ、だれかが起こすだろうが。

 キースは剣を鞘におさめた。

「どうもありがとう。もうすこしでむだな血を流すところでした」

 キースがシータにむかって頭をさげる。おい、それはおれへさげるべき頭だろうが。

 だが、キースめ、見事おれを無視して、爆睡中の巨漢の腕から仔猫を抱きとる。

「もう平気だ」

 やさしく仔猫に笑いかける。その横顔は息をのむほど美しい。さすがのおれも黙らざるをえなかった。

 ちっ、なんかむかつくぜ。