ジャリン戦記 第三話 仔猫モノ騙り(第十回)


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 ショックで虚脱したターンエーのヒゲと頭髪と眉毛を剃り、とりあえずおでこにV字アンテナを落書してから、おれはゾルドに向き直った。

 ゾルドは赤紫色の液体の入った小瓶をいくつか手にしていた。狂暴な、追い詰められた野獣の顔だ。こいつ、じつは獣人の血が少しまじっているのかもしれないな――

 と思った刹那、ゾルドが動いた。小瓶のひとつをおれに向かって投げつけたのだ。

 小瓶の栓は抜かれていた。液体をぶちまけながら、小瓶が迫ってくる。受け止めようかと思ったが、いやな予感がしたので身をかわした。

 液体が数滴ぶん、おれのマントに当たった。

 異臭がした。煙があがっている。

 たちまち、マントの生地が腐食する。

「わっ、わっ」

 あわててマントを外して投げる。凄まじい速度で繊維を食いつぶしていく毒液だ。

 床に落ちた液体は煙をたてていない。石造りの床までは溶かさないようだ。おそらくは、生命体に類するものに対してのみ作用するのだろう。マントの生地は、もとは蚕の糸だからな……。

「よくかわしたな」

 ゾルドが充血した目を見開いた。汚い歯を剥き出しにしている。

「だが、このメギドの聖水をいつまでかわせるかな?」

 なんか、聞いたことがあるぞ、それ。

「それも、ディーとかいうやつからもらったのか?」

「そうだ! ディー様は、おれにさまざまな力をくだすった! この身体も、店も――そして、おれをこのバイラルの長にしてくださると言った! ウニ頭の剣士を殺せば、な! だから、おれはおまえを殺す!」

 ゾルドは犬歯を剥き出しにしてわめいた。まさか、こいつ――

「死ね!」

 ゾルドが小瓶を続けざまに投げてくる。

 ちぃっ! よけるのは楽勝だが――よけたら、三角木馬にくくりつけられたガキにも飛沫が当たっちまう。

 どうする――ジャリン!?

 ――よけよう。

 と、おれが決断しようかな、と思った時だ。

「インビジブル・ウォール!」

 懐かしい声が背後から聞こえてきた。おやおや。

 目前に涼しい気が収縮し、次の瞬間、爆発的に拡散する。見えない力が強固な皮膜を作り出し、赤紫の液体を阻み、取り込み、中和する。

「ジャリンさん!」

 一番に部屋に飛び込んできたのはエミィだ。なにか呪文を詠じているのか、指が印を結んでいる。続いてキースだ。ヴュルガーを抜き放っている。すでに階上でひとわたり戦ってきたのか、闘気が刀身をつつんでいる。その後ろに、すましたシータの顔が見えた。

「ゾルドっ! 昨日は書類が整わず見逃したが、マジックギルド監察官の名においてきさまを捕縛する! 逮捕状もあるぞ!」

 キースが金属製のプレートを手に、ゾルドを一喝する。

「ギルドを騙っての暗殺行為、違法な獣人改造、度を越した残虐な見世物、罪状は山ほどある! 観念しろ!」

 なんだよ、なんだよ、こいつ、いきなり入ってきやがって……ギルド監察官だと?

 が、それどころではなかった。

 壁際に追いつめられたゾルドの様子があきらかにおかしくなったのだ。

「ぐ……るるう……る……で、ぃぃぃぃぃ、さ、まぁぁぁぁぁぁぁ」

 ゾルドはおれたちの方を見つめ、顔を歪め、歓喜なのか苦痛なのか、全身を苛むなにものかに耐えながら、声を絞り出した。

「お……れ……しゃ……べら……の……に……があああああああっ」

 ゾルドは顔をかきむしった。長くのびた爪が肌を引き裂き、血がしぶく。そして、全身からふつふつふつふつと毛が生えだして、そして顎が長く伸び、四肢の形が変わり――

「なっ、こいつ、獣人――それも、ワービーストなのか!?」

 ヴュルガーを構えつつも、キースが数歩さがる。

 ワービーストとは、狼男とか虎男とか、人間形態と動物形態のふたつを使い分けられる高位の獣人だ。その能力はふつうの獣人の比ではなく、よほどの魔導士か剣聖クラスの戦士でなければ歯が立たないほどだ。

 だが――

「ちがうようですよ」

 シータが冷静な声で言った。

 そうだ。

 さっきまでゾルドだったものは、いまでは――

「わん!」

 はっはっはっ、と荒い息をしながら、黒いつぶらな瞳を輝かせておすわりしている大型犬だった。

それから、それから!(キンキンの声で)

 ……ややあって。

「ワービーストではなく、魔法で動物を人にしていた――つまり、魔導によって作られた獣人さんっていうんですかねえ」

 首をひねりつつ、エミィが言った。大型犬に手を舐めさせている。なんか、犬になったら、めちゃくちゃ人懐っこくなったな、こいつ。

「しかし、これでは背後関係などをしゃべらせることができないな……」

 悔しそうにキースが言う。

 おれは優男の前に立って、腰に手を当てた。

「おい、これはいったいどういうことなんだ、説明しろ」

「ふん。変態性欲者に説明など」

「変態性欲者はどっちだ、てめえ!」

 おれの脳裏に昨夜の不愉快な音の記憶が蘇った。エミィの声、ベッドの軋み――

「ひとの女に手を出しやがって!」

「ひとの女――なんだ、それは」

 不思議そうにキースが首を傾げる。こいつ、とぼける気か?

「あんなでかい音たててたくせに、ふざけるな! エメロンを裸にして、てめーも裸になって、ベッドでなにしてやがった!?」

「なっ……」

 キースの顔が引きつり、それから真っ赤になった。

「バババババカなっ、そそそそそそそんなっ」

「エメロン、てめーもてめーだ。よくもおれさまの前に出てこられたな」

 おれはエミィの方に視線を向けた。おれ的にはこーゆー修羅場は大嫌いなんだが、ここまで煮詰まったらしょうがねえ。

「う、疑ったことはあやまりますですう……ねこちゃんがアサッシンだったってこと……キースさんが調べてくれて、ほんとだとわかって、それで……」

 エミィがぺこぺこ頭をさげる。おれは目をほそぉくした。

「ほー。おれの言葉は信じられんが、キースの言うことなら信じられると、いうことか」

「そっ、そでなくてっ! あのっ……」

「さすがは裸を見せあった仲だな。ああ?」

 と――エミィの眼鏡の内側に、大粒の涙が盛りあがっている。

「しょ、しょんな……ひどいです、ジャリンさん……」

「ひどいのはてめーだ、この尻軽クソ淫乱アナル大好きうそ泣き娘!」

 エミィの顔が絶望に歪んだ。ふるふると首を横に振り、そのままへたりこんでしまう。そのエミィを気づかうように、ゾルドだったムク犬が擦り寄って、鼻を鳴らしながら頬をなめる。

「言い過ぎです、マスター」

 氷つぶてよりも冷たくシータが言った。

「エミィさんは、今朝からずっとマスターを心配して探しまわっていたんですよ。この隠し部屋を探知できたのも、エミィさんがサーチの魔法を何十回も試したからです。精神力を使い切って、薬でもたせながら、ここまで来たんですよ」

 見ると、エミィは確かに憔悴しきっている。以前より眼鏡が大きく見えるくらいだ。

 だが、しかし。

「じゃあ、昨夜のアレはなんだ!? 気持ちいいですぅ、だの、身体が熱いですぅ、だの、しまいにゃベッドをギシギシ、ギシギシ……」

「ベッドを揺らしていたのはわたしです」

 シータがしれっと言った。

「なに?」

「ベッドに座って脚をぶらぶらさせていました」

「ばっ、ばかな! くちゅくちゅ、とか、いやらしい音もしていたぞ」

「それ、ガムです。エクササイズを見物するのも退屈でしたので、ガムを噛んでいたのですが、なにか?」

「エクササイズ、だと?」

 そこに、顔を紅潮させてキースが割って入る。

「そうだっ! わたしは、マジックギルド推薦の健康ヨガ体操第二を教えていただけだっ! どっ、どうしてわたしが、レディに、ふ、不埒な真似をするものかっ!」

「じゃあ、なんで、わざわざ裸になる必要があるんだ! おまえも裸だったんだろうが!」

「健康ヨガ体操第二は、裸になるのが本則なんだっ! そんなことも知らんのかっ!」

「知らんわっ!」

 その時だ。消え入りそうな声でエミィが言った。

「信じてくださあい。わたし、わたし……ジャリンさんしか……知りませぇん……。き、嫌わないで……くだ……びぇっ」

 そこまで言って、鼻水を噴出させた。そうだ。こいつは身体の水分が多いのだ。涙も愛液も鼻水も、出だすと止まらない。

 ――ったく、しょうがねえな。

 おれはエミィの側にしゃがんだ。

 緑色の髪に手を触れた。

「おい、エメロン。信じてやるから、もう泣くな」

「ひぐっ、ぐずっ、びひっ」

 汚い。

「いいか、今後はおれの許可なく、ほかの男に近づくな。乳を見せたりアソコを嗅がせたり、ケツ文字で『イ・イ・ワ・ヨ』とか書かないこと」

「ぞっ、ぞんなごどっ……じばぜん」

「あと、おれがしたいことはなんでもやらせること。いつでも、どこでもだ。いま、アナルフィストがしたいなー、と思ったら、全力でケツを開け、いいな?」

「しょ……しょんな……」

 じっ。

 へた、エミィの肩が落ちる。

「どりょく……しますぅ」

「きっ、きさま、なんという非道な……っ!」

 キースが喚きだすが、無視だ。無視。

「あと、おれがほかのどんな女とヤろうが、二度と文句を言うなよ。それが許してやる条件だ。どうだ、飲むか?」

 エミィは、大きな目でおれを見つめる。唇がひくひくと動いて、白い歯がのぞく。

「いやならここでお別れだ」

 おれは立ちあがりかける。

「わっ」

 エミィがおれにすがりついた。

「わかりましたぁ……もう、文句いいませんよぅ……だから」

「よっしゃ」

 おれはエミィの頭をひとなでしてから立ちあがった。

「みんな、忘れているよーだが、あのガキ猫のこと」

 三角木馬に固定されているアシャンティをおれはあごで示した。

「このままにしとくと、狂うぜ。なにしろ、めちゃくちゃな量の媚薬を使われているからな」

 おれは、自分の前を開きながら言った。

「イカせてやるのが唯一の治療だ」

それから、それから!(キンキンの声で)

「にゃっ、うにゃああああっ」

 アシャンティが身体をくねらせている。もう夢中だ。

 おれは、仔猫の尻の肉をつかんでこねながら、腰のねじり運動を続けてやる。

「いっぱいにゃ、にゃっ、にゃふぅぅっ」

 おれのでかいモノでも、しっかり収まるんだからディー様とやらのローソクもたいしたもんだ。もっとも、ギッチギチだがな。

「ああん、ネコちゃん、エッチですぅ……」

 傍らではエミィが、アシャンティのぺったんこの胸を唇と舌で愛撫している。そのエミィのあそこにはシータの舌が入っている。そのシータの股間はむろんおれがいじっている。

 いかにキースが「こんな外道な治療法、許せん」とかすごんでも、アシャンティを発狂から救うにはこれしか方法がないのだから仕方がない。

 それを認めたからこそ、エミィもシータも協力しているのだ。 あと、この部屋はいいな。エッチの道具だらけだからな。まさに、治療にうってつけだ。

 おれの提案した治療法に反対していたキースは、ムク犬ゾルドとその手下をマジックギルド支部に連行するため、ここを立ち去っていた。犬でもいちおう犯人として連れていかねばならないのだそうだ。まあ、お手とか仕込んでから無罪放免だろうが。 

「ふぁっ、ふぁっ、ふうううううぐるるるるるるるぅ」

 喉を鳴らしながら、アシャンティがふわふわの髪を振り乱した。きゅんきゅん締めつけてくる。

「にゃごるる、るふ、にゃふっ、ふっ、ひにゅぅ」

 全身を紅潮させている。産毛がきれいなパターンを見せて、ブチの存在が鮮明になる。

「はあ、ネコちゃんが、気持ちよさそうですぅ……」

 エミィまで幸せそうに頬を染めて、仔猫の唇を奪う。舌をからめる。

「ざらざらの舌が……気持ちいいですう」

「にゃるるる」

 おれはピストン運動を激しくしていく。

 シータがおれの背中にすがりつく。首筋に舌をはわせ、執拗に舐めてくる。シータもしばらく断食状態だからな、おれの精液が欲しくなっているのだ。だから、いつものクールさも失って、精液と共通の成分を含むおれの汗や唾液をほしがるのだ。

「シータ、ケツだ」

 おれは命じる。シータは無言でおれの身体の下にもぐり、おれの肛門に舌を這わせた。このケツ舐めは、今度エミィにも仕込もう。くくく。

「ほら、おまえは四つん這いだ」

 エミィを促して、アシャンティの上にかぶせ、獣のようにおしりを突き出させる。

 おれの顔の高さにエミィの尻の割れ目が来る。おれは指でエミィのアヌスをえぐりながら、舌を性器のひだに這わせる。

「んんうううっ、ジャ、ジャリンさぁん……す、すごい……ですぅ……」

「いくぞ、まずはニャンコの中に出すからなっ」

 おれは腰の律動のリズムを速めていく。何度か突くと、一度、ゆっくりとアシャンティの中に沈める。それを繰り返す。

「にゃっ、にゃっ、にやあああ、いくにゃ、いく……いく……」

 あとは声にならない。仔猫は初めての絶頂感に、痙攣するしかなくなっている。

「出すぞっ……」

 おれは深く深く挿入する。アシャンティの身体の半ばに達するくらいに。

「かはっ……」

 仔猫がのけぞり、ずりあがる。間違いなく、内臓が上に押されている。と、同時に――

 びしゅっ、びしゅしゅっ!

 媚薬の効能を消すのは、莫大な量の快感だ。絶頂につぐ絶頂だ。そして、圧倒的な満腹感だ。それを与えるのが、おれの精液の噴出なのだ。

「ひ……いいいいいいっ!」

 アシャンティは白目を剥いて、ガクガクと身体を震わせる。初めてのくせに、ふつうのセックスの何十発分かに相当するアクメだ。いい経験したな、ニャンコ。

「マ、マスターっ」

 切迫したシータの声がおれの股間から聞こえた。おれの尻の下に顔を入れて、アナル舐めをしていたシータだ。ごほうびをやるか。

 おれはアシャンティの中からチンポを引き抜いた。まだ射精は続いている。シータが口を開く。シータの顔に精液をぶちまけながら、その唇のなかに亀頭を持っていく。

 シータがまぶたを閉じて、幸福そうにおれのペニスを吸う。ふだんは絶対に見せない表情だ。母親に抱かれた幼女のような、満ち足りた顔――

「はあんっ、ずるいです、ネコちゃんとシータさんばっかりぃ……」

 エミィが身体を入れ替えて、おれの股間に顔をうずめてくる。

「わたしにもぉ……」

「はっはっは、順番だ、順番」

 と、その時だ。

「いーなぁ、ジャリンってば……三人もぉ」

 能天気な――それでいて鬼気をはらんだ声がした。おれの背筋がうすら寒くなる。

 ――忘れていた。

 おれはエクソシストばりに、ぐがぎぎぎと首を真後ろにめぐらせた。

 いた。

 長煙管を持った、すっぱだかの魔神が――傍らにシルヴァイラを従えて――ぱたぱた翼を動かしていた。

「ねえ〜ボクもまぜてよ〜い〜でしょ〜い〜よね〜ハイきまり〜」

「わわっ、なっ、なんですかこの人ぉ、飛んでるですぅ」

 エミィが驚いて腰を抜かす。

 シータは唇のまわりについた精液を舐めとりながら、冷たい視線をおれに向ける。

「お仲間ですか?」

 シルヴァイラは、アシャンティの側に跪いた。

 裸の胸を上下させている娘の髪にそっと触れる。

 匂いを感じたのか、小鼻がひくひく動いた。まぶたがゆっくりと開く。

 アーモンド型の瞳が、その存在を捉える。

「――かーちゃん、にゃ」

 その瞳の表面を涙のヴェールが覆い、そして、堤防が決壊する。

「かーちゃぁんっ!」

 アシャンティは一匹の仔猫にもどって、母猫の胸にすがりついた。

「あ〜だから〜そーゆー愁嘆場はどーでもいーから〜セックスしよ〜、ねー、しよ〜、セックスしよ〜よほほほおおおおん」

エピローグ

「それでは、かーちゃん、行ってくるのにゃ」

 背中に荷物をくくりつけ、ネコ耳を隠す帽子をかぶったアシャンティがシルヴァイラに敬礼した。

「ほんとうにいいの? せっかくお母さんと逢えたのに……」

 エミィがアシャンティの肩を抱きながら言う。

「いいのにゃ。独り立ちなのにゃ。もう、アシャンティは一人前の女なのにゃ」

 胸を張るが、外見は相変わらずチビでガキだ。

「いいのよ。この子には、この街以外の世界を見てほしいの。ゾルドがいなくなっても、深き森が近くにある限り、この街の獣人は人間に利用されるだけだしね……」

「そういえば、ゾルドさんを人間にして操っていた犯人の正体はわからずじまいだったそうですね」

 シータが言った。

 なぜかここに居合わせているキースがしかつめらしくうなずく。

「巧妙にマジックギルドの印章を偽造したり、強力な毒薬を作ったり、念話を使って殺し屋を雇ったりなど、かなり高位の魔導士だと思われますが……ディーという名前に該当する者は正規の魔導士名簿には見つかりませんでした。むろん、偽名ということも考えられますが……」

「てか、おまえは何者だっつーの!」

 おれは、ぐるぐる巻きに封印をほどこした刀を苦労して腰にたばさみながら――この封印には全員がかりで二時間もかかった――お邪魔虫キースに唾のしぶきを飛ばした。

「言っただろう、ウニ頭。わたしはマジックギルド監察官――魔導士がらみの犯罪を取り締まるために諸国をめぐる特命捜査官だと」

 生意気にもおれの唾攻撃をすべてかわして、キースが答えた。

「このバイラルには、ギルドを騙って暗殺者を雇っている者がいるという情報があったので立ち寄ったのだ。証拠固めが遅れたために、ゾルドをすぐに捕縛できなかったのが残念だったがな」

 それだけじゃないだろ、てめ。くそ。だが、キースを問い詰めても、いつものらりくらりと逃げられるし、シータとエミィの視線が険しくなるからな、ちっ。

 しょうがねえ、矛先をかえよう。

 おれは、視線を下に向けた。

「おまえもおまえだ。なんでおれたちについて来る」

 ただでさえ毎回メンバーが増えているのだ。ドラゴンなんとかじゃあるまいし、今に馬車に何人も控えメンバーを詰め込まなくてはならなくなるぞ。

 だが、しかし、金髪のふわふわ仔猫は動じる気配もなく、瞳孔を縦に細めた。

「当然にゃ。ウニ頭がアシャンティの初めてのオスなのにゃ。とりあえず、初めてのオスの子供を生むまでは一緒にいるのにゃ」

「なっ」

「ひえええ」

「ばっ、ばかなっ」

 おれとエミィとキースは三者三様に声を漏らしたが、言った本人とその母親とシータは平気な顔だ。

「だいじょうぶにゃ、にんちしろー、とか、よーいくひよこせー、とか言わないのにゃ。勝手に産んで勝手に育てるので、気にするにゃなのにゃ」

「ふつつかな娘ですが、よろしくね」

 なんちゅう親子じゃ。

「じゃあ、そろそろ行きましょうか」

 と、一匹のネコ少女の人生を左右するイベントがあったとは微塵も感じさせないフツーさでシータが促した。

 ぴょんこぴょんこ、アシャンティが飛び跳ねる。

「出発にゃ! ぼーけんの旅にゃ! ウニ頭とユカイな仲間たちなのにゃ!」

「ウニ頭じゃねえ!」

 おれは怒鳴った。

 仔猫がぴたりと動きを止めて、おれを見あげた。

 ややあって、質問する。

「じゃ、なんて呼んだらいいのにゃ?」

 おれはため息をつき、それから答えた。

「おれの名はジャリン。ただのジャリンさ」

 ――どうやら、パーティのメンツが、揃ってしまったらしい……。

「仔猫モノ騙り」おしまい