3 授業〜昼休み

 

  教室で、真由美は机に突っ伏していた。口の中がねちゃねちゃする。中出しされた精液は子宮や膣に残ったままだ。おしりも、いやだと言っても中出しされてしまう。

 もちろん、シャワーでできるだけ洗い流したし、トイレにも行った。それでも――残存感を完全には消すことはできない。

 白いねばねばが全身にこびりついている気がした。

「どうしたんだ、真由美?」

 声が降ってきた。あわてて真由美は顔を上げる。

 色事好男が真由美の机のそばに立っている。鳥羽美琴もいる。美琴は真由美の親友だ。

 二人とも心配そうな表情を浮かべている。なんでだろう、つきあっていると表情まで似るのだろうか。

 数週間前、美琴が好男に告白し好男はそれを受け入れた。

 変な話で、真由美は告白前には美琴から、告白後には好男から相談を受けた。

 美琴はもともと好男ではなく、別の男子のことが好きだったのだが、彼が転校してしまって――顔はおぼろに思い出せなくもないが名前はもう出てこない――それくらいの期間しかクラスにいなかったのだろう――好男のことを好きになったらしい。

「いいかな、真由美ちゃん、好男くんに――告白しても」

「なんでっ、あたしに断るかなっ!? あっ、あんなスケベバカっ、美琴にはもったいないよっ! いやっ、ちがっ! 逆っ!」

 大慌てで取り繕いながら、真由美は美琴の応援をすることを誓い、実際にお膳立てまでしてやった。

 そして、告白後、めずらしく思い詰めた様子の好男からは――

「あのさ……鳥羽とつきあうかどうかだけどさ……真由美はどう思う?」

「だっ、だから! あたしに聞かないでよっ! ってか、美琴みたいな可愛い子からの告白断ったら普通死刑よ、死刑!」

「そりゃおれだって鳥羽のこと、なんていうか、なんだか守ってやらないといけない気はするんだ、責任があるっていうか――なぜかわからないけど。でもさ……」

「でも?」

「おれはさ……その……ほんとはおまえのこと……」

 1秒後、真由美は神速の払い腰で好男を投げ飛ばしていた。その続きを聞くわけにはいかなかったから。

 それがだめ押しとなり、好男と美琴はつきあい始めた。

 真由美にとっては、依然として美琴は一番仲がいい友達だし、好男が幼なじみでケンカ友達であることは変わらない。

「朝練、キツかったの?」

 美琴が真由美に身を寄せてくる。同性ながら、白くて柔らかくていいにおいのする肌だ。だが、そのにおいの中に、好男のにおいに似たものを感じて、真由美は身体を堅くする。

「――だいじょぶよ。部活の練習なんて、強化合宿に比べたらぜんぜん楽。ただ、ちょっと早起きがこたえてねー」

 真由美は何でもないような表情を作る。

「無理すんなよ? 試合の前に身体こわしたら元も子もないし――」

 好男も本気で心配しているような表情で言う。なんで、そんなに優しくいうのかな、と真由美は思う。前とか、もっと乱暴だったじゃん。あたしのこと「オトコ女」とか言ってさ――けっこう傷ついてたんだぞ――でも、そんなことは言えない。

 そんなこと言う資格は自分にはない。

 

「な、大河原、いいだろ?」

「佐々木先輩、約束が違いますよ」

 昼休み、校舎裏に呼び出された真由美は、目の前の佐々木に非難の視線を向ける。

 佐々木は柔道部の前部長だ。三年生なので部活は引退している。

「あのことは、朝練で返すことになってるんですから――」

「わかってるけど、朝練なんてもう行けねえよ。今月、おれ本命受けるし。毎日勉強漬けなんだぜ」

 佐々木はすでに推薦入試に一校落ちていた。推薦にもかかわらず、面接で大失敗したのだという。

 それからは必死で受験勉強にいそしんでいるということだったのだが――

 少し見ないだけでずいぶんとやつれてしまっていた。

「やらせろよ、大河原」

 手を伸ばしてくる。

 真由美は体をかわす。佐々木も黒帯だが、完全になまっている。勢いあまってたたらを踏み、振り返って

真由美をにらむ。

「――バラすぞ、みんなに」

 低くくぐもった声だ。目つきも尋常ではない。

「先輩こそ、受験に問題出るんじゃないですか? 後輩脅してエッチしてたとかわかったら」

 佐々木の表情がくしゃっとつぶれる。

「大河原のこと、忘れられないんだよっ! おまえの身体のことばかり考えて、勉強が手につかないんだ!」

「そんなこと言われても――」

 真由美は困惑する。

「あのときっ、おまえが、おれたちを誘惑しなけりゃっ!」

 佐々木が人差し指をつけつける。

「おれは平凡な人間だ。どうせこのまま高校や大学に行って就職するとしても、たいした人間にはなれないし普通の女としかつきあえない。庶民ってやつだ。アイドルとか女子アナとかモデルとか、ああいう特別な女は金持ちとかプロ野球選手とか、そういうのとくっつくんだ」

 でもな、と佐々木は続ける。

「大河原、おまえみたいな可愛い女とヤレたんだ。童貞だったおれが、天才柔道少女、オリンピックに出るかもしれねえ有名人とヤったんだ。おまえを何回もイカせてやった。中にも出しまくりだ。はは、すげー、おれ。おれ、すげー!」

 けたたましく嗤う佐々木。その姿は奇怪であると同時に痛ましくもあるように真由美には思えた。

 自信を失っているのだ。佐々木は。初めての受験に失敗して、自らに絶望している。そこから抜け出るためにあがいているのだ。真由美を抱くことによって自信を取り戻せると思っている。というか、それ以外すがれるものがないのだろう。

 ――あたしはこの人を軽蔑することはできない。

 真由美は思った。自分のなかにどんなに汚いものがとどろっているか、ここ数ヶ月で思い知った。好男と美琴のことで、どれだけ卑劣に振る舞ったか。

「……一回だけですよ」

 ため息とともに、真由美は言った。

「大河原!?」

「昼休み、時間短いから……それと制服を汚さないでくださいね」

 

 トイレの個室で、真由美はスカートをたくしあげて、尻を突き出した。

 その尻に佐々木は顔をすり寄せ、匂いをかいだ。

「ああ……大河原の匂いだ」

「や、やめてくださいよ……」

「いやらしくて、あまい、匂いがする」

「し、しませんよ、そんな……」

「するよ。ここから、におってくる」

 真由美のヒップをなでながら、佐々木は陶然とした声をだす。

「ああ……もぅっ、時間ないんですから」

「わかった」

 佐々木は真由美の下着をずりおろし、尻をむき出しにする。白くて丸い真由美のヒップ。

 性器のワレメにいきなりむしゃぶりつく。

「あっ……!」

「大河原のマンコ……おいしい……」

「やめ……すわないで……」

 朝、部員たちに注入された精液の残りが出てきてしまう――

「すげ……どんどん出てくる。大河原のジュースだ」

「そんな……あっ! 佐々木先輩っ」

 真由美は個室のドアに額を押し当てながら、声を絞ろうと努力する。

「たまんねえ……入れるぞ」

 佐々木がごそごそと動く。ベルトを外し、ズボンとトランクスを乱暴におろす。

「せ、先輩、コンドーム……」

 無駄と知りつつ真由美は訊く。

「後輩とはナマでやってんだろ? おれにも中出しさせろよ」

 当然の権利のように言う。

「……わかりました」

 真由美はぎゅっと歯を食いしばり、挿入にそなえる。

 佐々木が入ってくる。乱暴で、自分のことしか考えていない動き。

「大河原のマンコ……っ! やっぱり気持ちいいっ!」

「くっ……」

 佐々木のペニスが急な角度で突き上げる。顔が個室の壁に押しつけられる。男子便所の個室の落書き――拙い性器の絵が描かれている。おそらくはホンモノを見たことのない少年たちの妄想。

 まんこ、まんこ、まんこ――

 少女たちはみんなそれを持っている。下着に包み、制服で覆い隠している。だが、その割れた肉の隘路は時に濡れ、木綿の布の中で蒸れている。

 少年たちは、日々熟れていく少女たちの性器の匂いを感じ取っているにちがいない。だから、悶々としている。10分おき、5分おきに性的な妄想にとらわれ、股間を固くさせる。

 学校は性臭に充ちている。

 だから、佐々木が真由美を求めるのもまた自然なことなのだ。

 少年たちの性欲に充ちた個室のなかで、好きでもない少年に膣をえぐられながら、真由美はそう思う。

「大河原、大河原っ!」

 佐々木が真由美に体重を預けながら腰をうちつけてくる。

「いっ……いた……っ」

 真由美の性器は精液と愛液がまざって、湿潤だ。それでも、きつい角度で子宮口を突かれると快感よりも痛みの方が大きい。

「大河原の、締め付けてくる……っ!」

 佐々木はあえぎながら最後の動きを繰り返す。

「いく、いくっ!」

 叫びながら、精液を放出する。

「……ふぅ……」

 憑きものが落ちたように佐々木は溜息をつき、それからそそくさと身支度をはじめる。

「す、すまんな、大河原、おれ、教室戻るわ。それと、これ……な?」

 手渡そうとするのは学食の食券だった。

 250円のうどん定食――