偉大なる助平FF(19)


 好男と朱理、そして美琴はからみあい、相互につながりあっていた。

 美琴を突いて声をあげさせると、次は朱理だ。美琴の愛液にまみれたペニスを朱理の窮屈な肉壺に押しこむ。そうすることで朱理のそこも少しずつ滑らかさを増していくようだ。

 一回目の絶頂は美琴の中で迎えてしまった。

「うあっ! 出るっ!」

「あっ――だめっ! 好男くんっ……! うううっ!」

 美琴がおしりを上下に揺すりながらうめく。

 どくどくどくっ、と精液を吐き出していく。

「いけね……」

「もお……好男くんったら。朱理さんの中に出してあげなきゃいけないのに」

 美琴は顔を染めながら好男を睨むと、朱理にわびる。

「ごめんね、朱理さん」

「ううん……いいんです」

 朱理はうるんだ瞳で首を横にふる。

 好男は頭をかく。ふたたび美琴は好男に目をむけると、眉をひそめる。

「わたしの中に出してどうするの? 赤ちゃんができたら、パパになってくれる?」

「う……それは……」

「冗談よ。さ、パパ、はやく準備して――二回目の」

 すっかり美琴は性格が変わってしまったようだ。これが例の《影響》とかいうやつなのだろうか。それとも、美琴の地なのだろうか。いずれにせよ、好男は困り果てる。

「でも……すぐには」

「だいじょうぶ」

 美琴はマット状の床に座りこんでいる好男の股間に顔を寄せる。

 放出したばかりで縮んだペニスに指を添え、裏側に舌を這わせた。

「美琴!?」

「二度めだもの――きっとうまくできるわ」

 二度めというのはフェラチオのことだろう。先週に一度、そして、今回――唇のなかに亀頭を吸いこむ。

「あっ……」

 美琴の口腔粘膜の柔らかさと温かさ――そしてぬるみを感じる。

 陰茎に流入する血液量が増えていく。

「朱理さんも――いっしょに」

「は……はい」

 頬はむろん耳たぶ――首筋あたりまで赤く染めながら朱理がうなずく。

 好男は手を後ろにつき、脚を伸ばした姿勢で、ふたりの少女からの舌による奉仕を受けはじめる。

 美琴と朱理が好男の股間に顔を入れている。同時に左右から舌で茎を舐めあげたかと想うと、亀頭のくびれ部分を舌先でくすぐるようにする。朱理は美琴のまねをしているので、わずかに時間差のあるシンクロだ。

「う……あ……」

 大きくなっていく。当たり前だ。とびきり可愛い女の子二人にこんなふうにされて、勃たない男はいない。

「朱理さん、くわえてあげて」

 美琴に促されて、朱理がおずおずと亀頭を唇ではさむ。

「舌で包みこむようしてあげるといいと――思う」

 朱理がアドバイス通りにふるまう。たどたどしい舌の動きに、好男はかえって興奮をおぼえる。北欧系タイプの朱理が顔を真っ赤にして懸命に舌を使っているのを見ると、それだけで背筋がぞくぞくする。

 美琴が朱理の顔の下にもぐりこんでいる。なにをしているのかと思ったとたん、さらに強い快感が下半身を痺れさせた。

 睾丸をおさめた袋を美琴が舐めているのだ。茎の根元の筋張った部分をマッサージしながら、睾丸を口中におさめて舐め、吸ってくれる。

 好男は天井を仰いだ。

「あ……すごい……気持ちいい……」

 どこでこういうテクニックを憶えたのだろう。先週までは間違いなく処女だったのに――意外に美琴は耳年増で、知識だけは貯えていたのかもしれない。

「好男くん――もうできる?」

「うん――充分」

 完全にサイズと硬さは回復している――いや、それどころか、さっき以上に大きく張り詰めている。ふたりのサービスのおかげだ。

「じゃあ、朱理さん、こんどは上になってみて」

 好男を仰向けに横たわらせながら、美琴が仕切る。

「おい、美琴……」

「だめ。好男くんは言うこときいて。これは――仕返しなんだから」

 美琴がほほえみながら言う。そして、好男にキスをする。ほとばしるような激しいキスだ。舌が入ってくる。

「しかえしって……」

 美琴のあまい唾液をのみくだしながら、好男は訊かずにはいられない。

「この前――助平さんとぐるになってわたしにしたことへの――これは仕返しなの」

「それは――ごめん……」

 好男としてはあやまるしかない。

「ちがうの。あやまってほしいんじゃなくて――」

 美琴が好男の顔にキスの雨を降らせながら囁く。

「わたしが感じたことを好男くんにも助平さんにも体験してほしい――それだけ」

「でも、助平はもう……」

 いない、と言おうとした時、朱理が好男の上にまたがる。

 自分自身で濡れた肉華の中心を開き、腰を落としていく。

「あっ!」

「ううっ!」

 朱理と好男が同時に声をはなつ。

 朱理の中に好男がずぶずぶもぐっていく。そそりたった好男の男根に、まるで朱理が刺し貫かれたように見える。

「お……く……まで……」

 荒い息をはきながら、朱理は自分で腰の角度をコントロールしている。

「とど……いてる……」

 小刻みに前後に腰を揺すっている。そのたびに変わる膣壁とペニスの密着度を確かめているかのようだ。

「あっ……ああ……これ……すごい……」

 朱理の声がうわずって、抑制がなくなっている。

「ここ――こすれると」

 腰を前にずらし、好男の陰毛でクリトリスのあたりをこする。

「あはっ!」

 のけぞる。おわん型の乳房がぶるんとゆれる。

 さらに腰を揺する。朱理の意志で、快感を受け取るために――そして、同時に好男に悦びをあたえるために。

「いい……気持ちいい……です……」

 朱理が鼻を鳴らしながら身体を動かしている。

 好男のペニスが少女の体内で圧迫され、摩擦される。より奥に、深く侵入して、ふたりの接続は密になる。そうすると、たかいの身体を流れる刺激も強くなるようだ。

「美琴さんも……いっしょに」

 朱理は美琴の手を引く。まぶたをふせてうなずく美琴は促されるまま、好男の顔をまたぐ。

 赤く充血した性器に好男は口をつける。両手でヒップの柔肉をつかんでマッサージする。肛門がぱくぱくと口を開いたり閉じたりしている。

「あっ……ああ……好男くん……っ」

「美琴さん……っ」

 好男の身体の上で動きながら、美琴と朱理がキスをする。

 三人が粘膜同士でつながっている。ペニスと膣が、唇と唇が、舌と陰核が――粘膜に集中する神経を通じて、さまざまなものが行き来する。

 言葉にならないいろいろなもの。でも、生きていくために必要な大切なこと。

 たぶん、それはおたがいの「価値」を交換しているのだ。

「色事さんのが――わたしのなかで跳ねてるっ」

「朱理ちゃんの中――すごくトロけてて――すごいっ」

「好男くんの舌が、わたしのあそこをかきまわして――ああっ」

 気持ちいい。気持ちいい。気持ちいい。

 もっと、もっと、もっと――気持ちよく――してあげたい――

「ああああっ! うあっ! あああっ!」

 朱理が美琴を抱きしめる。抱きしめながらのぼりつめていく。

「んうっ! ふううううんっ!」

 美琴もおしりを好男にこすりつけるようにして最後の階梯をかけのぼっていく。

「うっ! ああっ! 出るっ!」

 好男は、美琴の匂いに満たされながら、朱理の身体の中に快楽の固まりを撃ちだしていく。

「あああああああああっ!」

 三人の声が重なる。

 好男は朱理の膣奥に精子の塊を噴出し、朱理と美琴はそれぞれ絶頂のしるしを噴き出した。

 それぞれの体液にまみれながら、三人はゆっくりと崩折れていく。

 触れあいながら、抱きあいながら、睦みあいながら――

***

 好男は、美琴は、朱理は、たがいの身体を感じながら、快楽の余韻のなかを漂っていた。

「だれかに触わっていると気持ちいいね」

 美琴がささやく。

「触られているのって――気持ちいいよ」

 好男がこたえる。

「自分で触れるのとは――ぜんぜんちがう」

 朱理がつぶやく。

 美琴が好男の胸に顔をのせる。その髪を好男は撫で、好男の顔に朱理が唇をよせてキス――

 誰かがしゃべっている。それは美琴かもしれないし好男かもしれない。朱理が語っているようでもある。

「セックスって、痛かったり怖かったりして――そして気持ちよくて――でも、それだけじゃないんだね」

「自分がだれかになにかをあたえることができる――たぶん、いいものを――だからうれしいんだ」

「だから、きっと、男と女がいる。おたがいになにかを与えあうために。ひとりじゃできないことをするために」

「精子と卵子が出会えばたしかに命は生まれるけれど、それは試験官のなかで起こる化学反応と同じじゃない」

「あたりまえのことだけど――」

「あたりまえじゃない――」

 世界にひとつ、光がともった。

 その光は朱理のお腹からもたらされている。

「朱理さん――それ――」

 美琴が眼を大きくする。

「もしかしたら――」

「ええ」

 朱理がほほえんだ。

「わたしたちの赤ちゃん――たったいま――生まれたばかりの――」

***

「わたしたちの世界では、もうずっと昔から、男女のあいだで子供を作るということをやめていました。人は肉体が古くなるとそれを捨て、また新しい肉体を容れ物にして永遠に生きていく――死はむろん、苦痛や憎しみさえもない――なぜって、いやなことは忘れてしまえばいい。快の刺激を脳にあたえれば、永遠に幸福でいられるから――」

 朱理がゆっくりと浮かんでいく。

 そこはあたたかな渦のながれる世界で、好男も美琴もゆっくりと漂っている。

「でも、それは自分のなかで閉じた世界――脳神経が描き出した世界はたしかに本人にとっては真実だけど、それをだれかとわかち合うことはできない。閉ざされた永遠の幸福は、同時に永遠の孤独――」

 朱理は自分の身体を抱きしめた。

「だから、命はわざと自らを不完全に――男と女に――分けたのかもしれない。足りないもの同士がおたがいを慈しむことができるように――不幸になるかもしれないけれど、孤独ではなくなるように。わたしたちが失っていたのは、この不完全さ――だったのですね」

 朱理の腹部の光が強さを増していく。

「いまわたしのなかで生まれた命が――それを教えてくれました」

「おれの……子供……」

 好男は朱理のおなかを見つめる。なんと言ったらいいのかわからない。言葉にできない感慨――身体が震えて、泣きたいような気持ちがわき起こってくる。朱理のおなかに触れてみる。

「このなかに……いるのか……」

「この子が――わたしたちの世界を救ってくれるはずです――きっと」

 幸せそうに朱理がまつげを伏せる。

 優しい、穏やかな循環が、少し速さをくわえた。

 朱理との間に空間ができる。

「朱理ちゃん?」

 好男は手を伸ばしたがもう届かない。少しずつ、だが確実に距離が開いていく。

 朱理は優しく――でも淋しげにほほえんだままだ。

「もう、お別れしなければなりません。わたしたちの世界の因果律が変化しつつあります。この子のために――わたしたちの歴史の歯車が動きだしたようです」

「どういうことだ!?」

「わたしたちの世界と、色事さんたちの世界が離れつつあるのです。今後はそれぞれ別の時空の流れに沿っていくことになり、もう二度と重なることはないでしょう」

「そんな――」

 美琴が好男にすがりながら言う。

「もう、逢えないの?」

 朱理がうなずく。

「もともと、まじわるはずのない世界が接してしまったのです。わたしたちの世界からの干渉がなくなれば、助平勉という存在も――わたしのそれも――みなさんの記憶から急速に薄れていくでしょう。すべては夢に消えていきます」

「ううん、わたしは忘れないわ」

 美琴は静かにそう言った。

「いやなこと、悲しいこともあったけど――でも、助平さんや朱理さんのこと――そして、好男くんとのことをわたしは忘れない。だって、忘れてしまったら――悩んだり苦しんだりしたことも無意味になってしまうもの」

 好男は美琴の手を握った。

「おれもだ。と、いうより、少なくともおれだけは、自分のやったことを忘れてはいけないんだ」

「――好男くん」

 美琴が手を握りかえしてくれる。好男はそれが嬉しい。

 それをすこし羨ましげに見つめていた朱理は、ややあって口をひらく。

「みなさんの記憶を強制的に操作することは、もう、しません。未来は、けっきょくは人の意志に依存するのですから――」

「意志に――?」

「人は、自分の望む世界を作り出すということです。無数にある可能性のうちのひとつを選び出して、未来は確定していきます。真由美さんやほかの人たちがどういう世界を望むかで、未来自体が変容していくでしょう」

 朱理がほほえむ。不思議に、もう母性を感じさせる笑みだ。

「わたしたち次第、ということね」

 美琴の言葉に朱理はうなずく。

「美琴さん、最後の最後まで、ありがとうございました。そして――」

 朱理は好男を見つめた。

「わたしにこの子をくださったことを感謝します。さようなら――好きでした――たぶん、最初に会ったときから」

 穏やかな笑みをうかべた朱理の姿が薄れていく。腹部から放たれるあたたかな光だけが最後まで残り――そしてそれも消えていく。

「朱理ちゃん――」

 好男はそれを追いかけたい気持ちにおそわれる。自分の子供を身ごもった少女が去っていく。どうすればいいのかわからない――たぶん、ものすごく悔しい――なにもできない自分が。

 その好男を支えるように立つ美琴は、好男には聞こえないように、そっと唇を動かした。

 ――さようなら……わたしの初恋の人……だいじょうぶ、好男くんにはずっと内緒にしておくから……ね