「あれ? さっきもこのへん通らなかった?」
好男は現実に引き戻される。生々しい記憶のおかげで、股間が突っ張っている。カバンで隠しているが、情けなくも少し腰を引きぎみだ。
傍らで、ふんわりとした髪の少女が首を傾げている。
「おかしいなあ……このへんのはずなんだけど」
メモの番地と電信柱の表示とを見比べる。
最後の数字以外は一致しているようだが、あたりは空き家ばかりだ。
好男は周囲を見渡してみた。
まだまだ陽は落ちきらないが、なぜだかこのへんは薄暗い。
近くに高い建物があるせいかと思ったが、そういうわけでもない。まるで、黒いフードにすっぽりと被われているような感じがする。
人通りはまったく絶えていた。
「あ、こっちかも」
美琴が言い、せまい小路を覗きこむ。その声が明るさを増した。
「色事くん――あったよ」
好男は美琴が手招きする方に歩いていく。薄暗さが増していく気がする。まるで、闇の中心に近づいているかのような――
それは、錯覚だった。
掃き清められた石畳の小路が、主を失った豪邸の間を縫うように続いている。清潔で好感が持てる道だ。
その道をゆるやかに登っていった先に、助平家はあった。それまで見つからなかったのがうそのようだった。
助平――という名字は、もうどうしようもなくユニークだから、間違いようがない。たしかに表札にそう掲げられていた。
なんとなくイメージが違った――というのは、好男が想像する助平家というのは、マンガによく出てくるマッドサイエンティストの研究所のような建物だったからだ。実際の助平家は、純和風の造りだった。日本庭園があり、濡れ縁がある。たぶん、鹿脅しや池もあるだろう。
「すごいなあ……」
好男は嘆息した。好男の家は一戸建は一戸建だが、土地でいえば三十坪もない土地にひょろっと建てられた三階建だ。それに引き換え助平家は、色事家ならば楽に一ダースくらい建てられそうな広さがある。
ふと傍らを見たが、美琴はふだん通りで驚いた様子はない。そういえば、美琴の家も金持ちだったと好男は思い出す。
好男の胸が複雑にざわめいた。
――いいとこのお嬢さんなんだ、美琴は……
そのお嬢さんに加えた凌辱行為の記憶――そのフラッシュバックに好男はとらわれた。
「全部飲んでくれたお礼に、こんどはぼくが舐めてあげる」
助平が言う。だが、動くのは好男の身体だ。理性ではわかっている。こんなことはしちゃいけない。美琴が可哀想だ。だが、好男の本能はそうは言っていない。
美琴のあそこを存分にいじることができる。気が狂いそうだ。
好男は美琴の真っ白い太股に触れた。うっすらと汗をまとった肌が掌になじむ。つるつるの肌。むだ毛というものがない。
さっき助平の指で愛撫されていた場所だ。それを、今は好男の手が開いていく。肌に直接触れつつ、そのわずかな抵抗を感じながら、少女の股間を拡げていく感覚はたまらない。
「ひ……ろひら……さん……」
怖いのか、美琴の声が震えている。
「だいじょうぶだよ」
助平が優しい声をだす。好男は、一瞬、その声が自分の声帯を震わせたような錯覚に陥る。
だいじょうぶだよ、と声には出さず助平の言葉をなぞりながら、好男は美琴のその部分をあらわにする。
さっきより、さらに赤らんでいる。大陰唇も充血しているのか、ぷっくりとふくらんでいる。複雑にいりくんだ襞が内部からあふれる液体で濡れそぼっているのがわかる。繊細すぎる花弁の造形。
好男はたまらずにむしゃぶりついていた。
クラスメートの女の子のあそこに、だ。
「ああっ!?」
美琴が悲鳴じみた声をあげる。
その声が好男の理性を破壊する。舌を走らせて恥丘をしゃぶった。あわい陰毛を口におさめ、音をたてて舐めた。衝動にまかせて割れ目に舌を挿し入れる。
「あっ、はっ、ひろひらさんぅ、くううっ」
美琴の腰が上下に動いた。好男の舌から逃げるかのようだ。あまりに激しい舌の攻撃に快感よりも恐怖が勝ったか。
好男は美琴の太股を抱えて固定した。
「動かないで――大丈夫だから」
助平が穏やかに言う。だが、好男はその間も舌の動きを止められない。
「ひろひらさん――いま――」
美琴が目隠しの奥で目を見開いたようだった。
好男はやみくもに美琴の入り口を舌でまさぐり、そのままえぐった。
「ひあっ!」
美琴が身体をちぢこませる。
手が顔の近くに移動している。指が目隠しに触れる。
「だめだよ、取っちゃ!」
助平の叱責に美琴の身体がびくんと痙攣する。暗示だ。美琴は目隠しを取りたくても取れないのだ。
「でも……でも……」
美琴は股間を乱暴に舐められながら、その舐めているはずの相手に泣きそうな声を出して訴える。
「助平さん、どうしてしゃべれるの……?」
助平は肩をすくめて、傍らの好男を見下ろす。好男は美琴の入り口を指で開いて、内部を舐めている。膣口に舌先を入れて激しく動かしている。奥からあふれてくる美琴の愛液をすすっている。
「ねえ、もっとクリトリスを舐めてあげなよ。美琴くんはそこが一番感じるみたいだよ」
好男は、そうした。
「――っ!」
美琴が口を開いた。高い、悲鳴のような声だ。
顔をのぞかせている尖りに舌を当てて動かす。美琴の悲鳴がさらに高くなる。刺激から逃げようとする腰の動きが激しくなる。太股の内側の筋が浮き上がり、ヒップが持ちあがる。
「指、入れて」
助平が言う。好男は美琴のクリトリスをしゃぶりながら、中指を、内部に侵入させる。
「んくぅっ! うう……っ」
美琴の悲鳴が途絶え、それからは声なき声をあげつづける。
好男は指をくねらせた。ぬるぬるになった膣壁を指の腹で擦りながら、奥をえぐる。熱くて、肉が密着してくる。
「いっ……ひ……」
かすれた悲鳴が喉を鳴らし、美琴の鎖骨のあたりに深いくぼみができる。
細い腰が切なくわななく。
「指、ちょっと曲げて――つんつんしてみて……もうちょっと奥」
助平はまるで美琴の体内を透視しているかのように、指示を出した。もしかしたら、助平の視界には、CTスキャンの断層図のように、美琴の体内が見えているのかもしれない。
好男の指先が、膣壁の凹凸の微妙な一点をとらえた。
「はわあっ!」
美琴の腰がはねた。
「ひぃう……うううっ!」
絞り出すような声。その時、尿道口が開放される。
無色のしぶきが吹き出した。
好男の顔にもかかる。さすがに驚いて声を出しかける。
「それは、おしっこじゃないよ。医学的にはスキーン腺液というけど、潮吹きといった方が通りがいいかな? それにしても、美琴くんは敏感な身体をしているね」
解説する助平の口調は楽しそうだ。とはいえ、それは性的に興奮している男のそれではなく、実験が順調に進んでいる時の研究者のそれだ。
「美琴くん、いきそうだね?」
助平は美琴に囁きかける。美琴はのけぞり、腰を高く上げている。ふくらはぎに力がこもっている。肌はピンク色に染まり、何かを必死でこらえようとしているのがわかる。
「じゃあ、そろそろ入れようか」
好男に向かって助平は言った。
露出させた好男のペニスはもう爆発寸前まで高まっている。好男は自分で自分の股間の状態が信じられなかった。こんなに大きくなるなんて――
美琴と、やりたいんだ――おれの身体は。
好男の頭の中はぐちゃぐちゃだった。まずい、だめだ、という声がかすかに耳の奥で鳴っている。だが、腹の奥底が震えるような感覚が断続的に襲ってくると、その声はかき消された。かわって、激しい獣欲が全身を包む。
好男は美琴の太股をかかえて、前に倒す。皿に盛られた果実のように、割れ目があらわになる。さんざんいじり倒してせいで、内部の肉がこぼれでて、濡れて光っている。
ペニスの先端が触れる。粘膜が触れ合う、特別な感触。
「ひ……」
美琴の喉が笛のように鳴った。
「入れるよ、美琴くん」
助平は囁く。
美琴がうめく。何か、呪文を唱えるような口調で。
「ひらひらさんですよね……ひろひらさんしか……いませんよね……?」
そのとき、目隠しが、ソファの生地と擦れて、ずれた。
好男は、美琴と目が合った。
美琴の表情が、弛緩した。
その顔を眺めながら、好男は美琴の中にもぐりこんでいった。
美琴の処女地は好男の侵入を拒もうとした。
抵抗は、しかし、弱々しかった。すでに彼女の聖地は潤い、半ば恭順の意志を示していたのだ。
防衛ラインが悲鳴をあげつつ突破される。太い異物の侵入に引き裂かれ、防波堤としての役目を失う。
好男はさらなる侵食を進めた。深々と、性器を結合させる。
ほとんど根元まで突き刺していた。
好男はペニスから、美琴の体内の熱と圧迫の情報を受け取った。湿潤な粘膜がからみついてくる。
美琴の弛緩した表情が変化した。
「い、やぁぁぁぁぁぁっ!」
金切り声をあげた。小さな拳を握って、わななくように振りまわす。脚も激しく動かし、好男を蹴ろうとする。好男はペニスを抜いた。血液のまじった粘液が糸を引く。
「美琴くん、暴れないで」
助平が静かに命じた。凍ったように、美琴の動きが止まる。
「そのまま、じっとしているんだ」
それから、好男に向かって微笑む。「じゃ、続けて」
好男は、おとなしくなった美琴にのしかかり、ふたたび挿入した。容赦はしない。
「うっ……」
美琴がうめく。視線は好男を一瞬捉え、すぐに虚空を見た。その目に涙の玉が盛りあがっていく。嗚咽をかみ殺しているようだ。
好男は腰を打ちつけた。一度、男根の侵入を許した美琴の躯(からだ)は今度は従順だった。
荒い息をしながら、美琴の内部をえぐる。
深く挿入しつつ、下腹部をこすりつける。クリトリスを圧迫する。
美琴がまぶたを閉じる。涙の玉の均衡が破れて、つうと頬を伝わり落ちる。
「うっ……くう」
美琴が泣いている。その泣き顔を見ながら、好男は衝きあげてくるものをどうしようもなかった。
つながったまま、美琴を裏返しにする。いま、好男のペニスは、カリがまるで矢尻のように広がっていて、無理な動きをしても抜けないのだ。しかも、そこから伝わる快感の量はすさまじい。
美琴をソファの上で四つん這いにさせて、白い尻をつかむ。
めちゃくちゃに揉みしだいた。十四歳のヒップは素晴らしい弾力だった。それに、恐ろしいほど肌が美しい。この滑らかさの前には、特上のシルクでさえわら半紙同然だ。
肛門もみえる。色素が少ない体質なのか、この部分も見たことがない色合いだった。幼女のすぼめた唇を思わせる。
排泄に使われるにしては可憐すぎるその部位が形をかえるのを見つめながら、好男は美琴のヒップを突きあげた。
爆発が近い。
美琴をおしりから犯すことなんて、現実になるとは思いもしなかった。想像を超えた状況だ。コンドームもなしにナマ挿入した好男のペニスは、美琴の膣粘膜から直接刺激を受けて、さらにサイズと硬度を増して反りかえっていく。
「うっ……く……うう……」
美琴がソファに顔を押し当てて、むせび泣いている。好男の後頭部から鋭いパルスが走った。
この残虐な気持ちはどこからわきおこってくるのだろう。好男の麻痺した意識が、制御しきれない衝動にわずかにおびえを感じた。
もしも鋭い牙があったら、美琴の細い首筋に突きたててしまいたい。
この害意はなんなのだ。かわいいと思っているのに。すまないとさえ思っているのに。
めちゃくちゃに蹂躙してしまいたい――その衝動が好男を押し流してしまう。
腰の動きが自然に速くなる。激しく音をたてている。
「うっ、ぐっ、ひぅっ、いやあ……っ!」
美琴がくぐもった悲鳴をあげる。
ソファの表生地をつかんでいる。ふわふわの髪が、好男に突かれるたびに大きくゆれて、シャンプーと少女の汗の香りをブレンドしたものを周囲に放散する。
「おっ、おれっ、もうっ!」
好男の頭の中が白熱する。
もう、歯止めは効かなかった。美琴の身体の状態も何も関係なく、好男は射精していた。
射精しながらペニスを膣から抜いた。
勢いよく飛び出す精液が少女の膣口に当たり、そして、第二射は大きく弧を描いて美琴のヒップを飛び越え、背中に落ちる。
衝動の余韻に震えながら、好男はまだ精液を噴出しつづけているペニスを美琴の開いたままの入り口に押しこみ、そのまま体重をかけた。
荒い息をしながら、美琴の耳を舐めた。どくっ、どくっ、美琴の中で出ているのがわかる。
美琴はしゃくりあげていた。
「ふたり……とも……ひどい……よ……」
その訴えさえ、嗚咽にのみこまれて、まともな言葉にならない。
好男の意識が少しずつ昏迷から醒めていく。断裂していた意識と肉体の制御が復帰する。
なんてことを、おれは――
全身が冷えた。欲望の大波が終熄した後の虚しさが、巨大な罪悪感によって上書きされ、撹拌される。
助平を見あげた。これも、助平が書いたシナリオなのだろうか。いままでの「実験」とは明らかにちがう、破滅的な展開――
助平の目は哀しそうだった。
「記憶は操作するから大丈夫……。でも、実験は失敗したようだ」
しっぱい――?
「快感があらゆる感情を圧倒するはずだったんだ。きみたちの性衝動を強めるよう誘導して、交合させれば、ふたりの精神も解放されて溶け合うはずだった。でも、結果は、美琴くんにも色事くんにもネガティブな感情を発現させてしまった。性のシステムについてのぼくの仮説は誤っていたようだ……」
好男が初めて見る助平の苦渋に満ちた表情だ。
「おれも――操ったのか?」
好男は震え声を出した。
助平はうなずいた。
「きみの感情をモニターしていたら、一線を越えることへのためらいがあった。だから、事前にうめこんだ催眠指示を活性化したんだ」
だから、助平の指示には逆らえなかったのだ。
好男はさらに訊いた。自分のこと以上に、重要なことだ。
「美琴もか――美琴の気持ちを知ってて、美琴も操ったのか」
助平は静止した。聞こえるのは美琴の嗚咽だけだ。
好男は美琴を撫でさすってやることもできず――それをすれば、きっと美琴は最後の均衡も失ってしまうだろう――身体を離すこともできないでいた。
身体の一部はまだつながっている。だが、そこにはなんのあたたかみもなかった。ただ、生殖器が内部にもぐりこんでいる、だけだ。
「答えろよ、助平」
好男は言った。
「美琴くんの気持ちはわかっていた。だけど、ぼくには、彼女を満たしてあげることはできないんだ。なぜなら――」
好男は飛び上がっていた。助平のあごに拳を打ちこむ。助平の眼鏡が飛んだ。そこで記憶が途切れた。
気がついた時には、部室のソファに身体を投げ出していた。
美琴の姿はない。
助平の後ろ姿が見えた。
こちらを向くことはしないが、好男が目覚めたことには気づいたらしい。
「美琴くんは帰したよ。記憶を封印して、身体からも一切の痕跡を消しておいた。彼女はこの部室で三十分ほど雑談をしたとしか思っていない」
淡々とした口調だった。
好男は自分の身体を確かめてみる。どこも痛いところはない。てっきり殴りかえされて気絶したと思ったのだが、ちがうようだ。
「おれの記憶は封印しなくていいのか? どっちにしろおれは共犯だから、そんなことをしなくても黙っていると思っているのか?」
好男は声を荒げることなく言った。静かな怒りがたぎっていた。今まで自分が助平としてきたことを思いかえした。信じられない気がする。
はっきりと自覚できたのは、今まで自分は助平の実験用の素材――チンチンが生えた道具――でしかなかったということだ。
「色事くんにこれ以上なにかをするつもりはないよ」
助平は背中を向けたまま、静かに言った。
「今までありがとう。人間の性について、いろいろ学ばせてもらった。きみには感謝の言葉もない」
好男は助平の言い回しに引っかかった。
「なんだよ、まるで自分が宇宙人かなにかみたいに――」
後ろ姿しか見えないが、好男はその瞬間、助平が笑みを浮かべたと感じた。それも、寂しい笑みだ。
「なぜ、男が女を求め、女が男を求めるのか――真由美くんや美琴くん、そして色事くんのおかげで少しだけわかったような気がする――すこし、遅すぎたけど――」
「なに言ってるんだ。おれが言いたいのは、おまえが美琴のことを――」
ちゃんとしてやれば、まだ、間に合うはずだ。
そう、続けようとした。
だが、助平が出口に向かって歩きだしたので、続けられなかった。あわてて、後を追う。
「まだ話は終わってないぜ!」
助平の肩をつかんだ。意外な感触。
中学生ばなれした男性的な体格をしていたはずなのに、今の助平はほっそりしていて、頼りなげでさえあった。なにか、いけないものに触れたような気が好男はした。
「さよなら、色事くん。ほんとに――ごめん」
顔を見せないまま、助平が立ち去っていく。それ以上、好男は追いかけることができなかった。
ひとけのない廊下の奥に、助平は消えた。
「もしかしたら、あいつ――体調、悪かったのかもな」
好男は独りごちた。
最後に触れた、細くてなよやかな肩の感触がずっと掌に残っていた。
その翌日から、助平は登校しなくなったのだ。