「このへん、道いりくんでるね」
美琴が地図を見ながら半ば独り言のように言った。
自分の記憶にとりこまれていた好男は、はっとわれに返った。
歩くうちにラブホテルのような建物はなくなり、あたりは本格的なお屋敷街になっていた。それにしても、空き家が多く、さびれているのにはかわりがない。
好男は、電柱に貼りつけられている住所表示を見た。
「番地とか、どうなってる?」
このへんであることはまちがいないのだ。メモに控えられている助平の家の番地と照らし合わせれば、目的地のだいたいの場所がわかるはずだ。
「ええと、2の2361……7かな……?」
美琴がメモを凝視しつつ自信なげに言う。中条先生は、その外見に似合わぬ悪筆で、とくに数字がまぎらわしいのだ。
「どれ?」
好男は美琴が持っているメモを覗きこんだ。そのとき、ふうっ、美琴の髪の香りを感じた。どきり、とする。美琴のこの匂い、ぬくもり。
思わず好男は飛び退いてしまっていた。不思議そうに美琴が好男を見ている。
「どうしたの?」
「ええと……その……」
好男はしどろもどろになった。まさか、こんなことになるとは……。あの時、あんなことをしなければ。あの時、おれはこの子に――
遮蔽カーテンの向こう側の情景に、好男は見入っていた。
クラスメートの鳥羽美琴が全裸で、しかも股間をひらかれて、横たわっていた。
美琴の発毛はまだかすかで、髪の毛と同様に猫っ毛でふわふわだった。
恥丘の盛りあがりはまだまださほどでもなくて、子供っぽさが残っていた。
大淫唇の色づきも薄い。今はそれが左右に開かれているので、内部までよく見えている。
ぽろん、と飛び出している肉色の芽がクリトリスだ。思ったよりも立派だ。そして、小陰唇が薔薇の花びらのような複雑な構造を見せている。
その部分が、好男のいる場所からわずか数十センチのところにあるのだ。
助平がその部分を愛撫していた。
指先で円を描くように刺激している。
ゆっくりとした、単調な動きだ。それでも美琴には快感を与えているようだ。目隠しをしたまま、美琴は身体をよじり、甘い声をあげている。
だが、助平自身は表情もかえず、ただ淡々と作業をこなしている風情だ。
助平自身の欲望はどこにも感じられない。
美琴は、しかし燃えている。助平の愛撫のなくなった自分の胸に自ら手を伸ばしていた。
「あっ……は……ああ……」
自分で乳房を揉みしだいている。自分の身体についた炎をもてあましているのだ。
切なげな指の動きだ。美琴は、もっと責められたがっている。好男は自分のものをしごきながら、そう確信した。
(ああ、もう……!)
好男は左手を伸ばした。遮蔽カーテンをかきわける。美琴の肉体はすぐ側にある。
触れた。
「あっ、はああっ!」
美琴がえびぞった。好男の掌が胸に触れたとたん、電気が走ったようだった。
(なんて感触なんだ……)
好男は感動した。何度触れても、女の子のこの部分の柔らかさには心を打たれる。
たまらなかった。
美琴の乳房を握りしめる。
「あっ……い……いたっ……」
はっ、と思って好男は力をゆるめる。
「ごめんね、美琴くん。あんまりすてきな胸なんで、つい、力を入れすぎちゃった。でも、すこし乱暴にしても、いいよね?」
助平が優しくフォローする。助平の視界からすれば、なにもない虚空から腕が生えだしてきたように見えているだろう。だが、むろん、すべての黒幕である彼が驚いたりはしない。
「はい……助平さんが……そうしたいなら……」
視界をふさがれた美琴は素直に受け入れた。彼女のよりどころは、いまは聴覚と触覚だけなのだ。
ほっとした好男は、おずおずと指に力を入れた。
美琴の乳房の弾力がかえってくる。
ドキドキした。クラスメートの胸を触っている。
乳首にふれた。美琴がピクンと震える。固くなっている。指先で乱暴にこねる。
「んくっ……う……」
美琴が声をこらえている。痛みがあるのかもしれない。それでも、耐えているようだ。
指でつまんで、引っ張る。指の腹で押しつぶしてやる。それを繰り返すと、美琴の乳首は大きくふくらんだ。
(乳首、吸いてえ)
好男の欲求が高まっていく。もう、手だけではがまんできない。
そのとき、助平が遮蔽カーテンを開いた。首を突っ込んでくる。
助平は好男に笑いかけた。好男はペニスを握りしめながら、片手を伸ばしている情けない格好だが、どうしようもない。
「鳥羽さんには見えないから、色事くんも参加しなよ」
このカーテンの中の音は、外にはもれない。それでも開口部があるから、助平は小声だった。
「でも……さ」
好男は躊躇した。もともとは、傍観者に徹するつもりだった。正直、助平がどんなふうに美琴を抱くのか、興味もあった。いままで、何人もの「実験」を重ねてきたが、助平が女性に触れるケースは皆無といってよかったからだ。
でも、こんなシーンを延々見せつけられた上、美琴の肌に触れてしまった以上、もうこらえられなかった。
(これって、3Pか……すげえ……)
好男は生つばを飲み込み、そしてズボンを脱ぐために手をかけた。このカーテンから出てベルトをカチャカチャ鳴らすわけには、いかない。
好男は美琴の乳房に吸いついた。
(美琴のおっぱい……乳首だ!)
クラスの男子だけで集まると、どうしたって話題は女の子のことになる。とくにクラスメートの女子の品定めだ。「あいつ胸でけーよな」だとか「もう処女じゃねーだろ」とか「やりてー」とか、そういったたぐいのバカ話だ。そんな際に、人気が集中するのが美琴だった。クラスの男子たちの妄想で、美琴は何度も裸にされ、よつんばいにさせられて、すべての穴に精液を注ぎ込まれていた。
真由美を通じて比較的美琴と親しかった好男は、「おい、鳥羽のパンツ盗ってきてくれよ」などと話を持ちかけられたものだ。むろん、冗談である。
中にはマジメに「鳥羽とつきあいてぇ」と言うやつもいたが、けっきょく、まともに告白したやつはいなかったようだ。素直で優しい性格の美琴に対しては、少し距離をおいて見守ってあげる、という不文律が男子たちのあいだにはできていたようである。
なんだかんだいって、みんなどこかしらで美琴のことを大切にしていたのだ。
その美琴の乳房に――好男はむしゃぶりついていた。
乳首を吸った。
舌で嬲った。
美琴の白い肌にたちまちキス・マークが刻まれる。
「あん……ぃたっ……はあんっ……」
乱暴な好男のペッティングに、美琴は身体をよじり、それでも苦情は言わない。
「助平さ……ああっ」
自分の胸を蹂躙する男の頭を抱きしめようとするのを、助平がやんわりとおしとどめる。美琴の手首をつかんで、やさしく、囁きかける。
「ね、鳥羽さん、お願いがあるんだけど……」
「はい……なんでも……します」
「フェラチオ、してくれる?」
美琴がかすかに息をのんだ。いまどきの中学生なら、その言葉が意味するところは――わかっている。それは美琴のような奥手な少女でも変わりはない。
ややあって、うなずいた。
「します。助平さんのなら……」
助平は好男の方を見て、優しげな笑みをうかべる。
(美琴に……しゃぶらせるのかよ……)
好男はぞくぞくする感覚が背筋を這うのを感じた。
好男は美琴の顔にまたがるようにした。屹立したものが美琴のほっぺたに当たる。
「つば、いっぱい出た? じゃあ、あーん、して」
助平が好男の顔の横で言う。
美琴は従う。
かるく、助平が好男の肩を叩いた。行けよ、のサインだ。
好男は手で美琴の顔をはさみ、開かれた唇の奥に、猛り立った部分を押し込んでいった。
「んっ……むうう……」
美琴が呻きながら、それでも好男の男根を口にふくむ。唾液がからみつく。柔らかくて温かいものが触れてくる――美琴の舌だ。
「舌を――動かして? さあ」
助平が言葉で美琴を操る。口がふさがっている美琴は、ふっふっ、と鼻からの呼気でなんとか服従の意志を伝えてくる。
「う……」
好男は声をもらしかけて、歯を食いしばった。ここで声を出してしまったら――でも、美琴の必死の舌使いは、あまりにも刺激的だった。
「いいよ……美琴くん」
助平が囁いている。それが、美琴の羞恥心やためらいを融かしてしまうらしい。美琴は懸命に舌を動かす。
「手で添えて、棒を下から舐めあげて」
美琴は言われた通りにする。好男の男根を細い指でささえて、舌を裏筋に這わせる。
「睾丸もお願いするよ。一個ずつ、舐めてね」
はむはむと美琴が口を動かす。好男の陰嚢がまるで甘い飴玉であるかのように、慈しみつつ舐める。
「あ……ううっ」
好男は天をあおいだ。声をこらえるのが苦痛なほどだ。こんなに気持ちのいいフェラチオは初めてだ。助平の「研究」につきあったおかげで、それなりに体験は重ねたつもりだったが、ここまで快感は知らなかった。美琴の技量が優れているわけではない。むしろ稚拙だ。なのに、こんなに感じてしまう。それは、なぜなのだろう。
はぷっ、と美琴は口を離した。ちろり、あかい舌をのぞかせて、その唇が笑みをつくる。
「助平さん……だいすき」
目隠ししているから、表情はわからない。が、好男には、その瞬間の美琴の微笑みが見えるようだった。
好きな人を気持ちよくさせている悦び――それが、美琴の舌から、指から、あふれ出しているのだ。それが、ものすごい快感をもたらしていたのだ。
「美琴くん、ぼくも、きみが大好きだよ」
助平がセリフを読みあげるように言った。
「さあ、出すから、ぜんぶ飲んでね」
好男の心臓がはねた。いいのかよ、と思った。
こいつは、この美琴を見て、なにも感じていないのだ。自分に対して精一杯の恋心をぶつけてきている女の子をだまして、べつの男のチンポをしゃぶらせている。
助平の手が好男の肩に触れた。その瞬間、好男の身体に電気が走ったようになって、身体の自由が効かなくなった。
そのまま、美琴の開かれた唇に男根を突き入れた。
美琴が必死で舌をからめてくる。好男はなにもわからなくなった。夢中で腰を動かしていた。美琴の首ががくがくと揺さぶられる。んふー、んふー、という息づかいと、唾液まみれの粘膜同士が触れ合う粘着質の音だけがあたりに響く。
「うあっ!」
好男は、決壊した。
クラスメートの口の中で、激しく何度も噴出した。
身体に戦慄が走った。恐ろしいほどの快感だ。魂まで蕩けて、揮発してしまいそうだった。
美琴の口からペニスをぬいたとたん、白い粘液が唇の端からこぼれ落ちた。それほどの量が出ていた。
「飲んで……美琴くん」
助平が囁く。ほのかに口許をやわらげ、美琴を見つめながら。
「ん……」
美琴ののどがこくん、と鳴る。
口一杯に溜まった精液を飲みほしていた。
「どう? おいしい?」
助平が訊く。純粋な興味から質問している、ようにさえ聞こえる口調だった。
美琴は答える。幸せそうに。
「助平さんのだから……おいしい……」