偉大なる助平
SUPER
番外編
199なつやすみ
by うづきはじめ
15

「うわああ」

 美琴は子供のように声をあげた。

 ヨットのキャビンに案内されて、目を見はった。

 その豪華さは、テレビのその手の番組――世界の大富豪特集!とかなんとか――でもなかなかお目にかかれないほどのものだった。

 キンピカ、という意味ではない。まったく逆だ。

 木目ばりの壁に、品のいい調度類、ふかふかのソファに床に固定されたテーブル、すべてがいやみのない趣味のよさを感じさせる。

 美琴もじつのところそれなりのお金持ちの家の娘だから、こうしたものを見分ける目はそなわっている。何百万もする壺だとか、掛け軸だとか、胸像だとか、そういったたぐいのものが家にもたくさんある。家具もすべてイタリアから取り寄せたものだ。それでも、美琴は、自分の家にある調度類がまるでベニヤでできているかのような感覚を持った。

「すごいですね……これ……」

 テーブルも天然木の一枚ものだ。まるで幹から彫り抜かれたかのような造形の美。

「ああ、それ。自分で作ったんだ」

「ええっ!?」

 美琴は驚いて助平を見る。冗談なのか本気なのかわからない。助平はただ微笑んでいる。

「この船にあるものはたいてい手製なんだよ」

 とてもではないが信じられないことを助平は言う。

「えーと、コーヒーはと……」

 キャビンに隣接しているミニキッチンに助平は移動した。

 キッチンもちゃんとした作りだ。オーブンや冷蔵庫もある。たしかに、ここなら生活することも可能だろう。

「あれえ、ないなあ」

 戸棚をあちこち開いて、助平はつぶやく。

「船倉にたしかまだあったな。コロンビアで積み込んだやつが」

 コ、コロンビアへも行ったんですか? と訊きかけた美琴だったが、言葉をのみこんだ。助平という男のやることなすこと謎めいている。でも、そこがいいのだ。いちいち問いただすようなことはやめよう。

「ちょっと、待っててね」

 助平は言いおき、下の階層へおりるハシゴにむかった。

「あ、手伝います」

「いいから、お客さまは座ってて」

 にっこりと微笑まれると、なにも言えなくなってしまう美琴であった。

 助平がいなくなったので、美琴はソファにちょこんと座った。水着はもうかわいているから失礼にはあたらないだろう。

 すばらしいかけごこちのソファだった。革の手ざわりもいい。なんだろう。不思議な感触だ。

「革……じゃないのかな」

 合成素材だとしたら、あまり一般的なものではないのだろう。すくなくとも美琴はいままでこれに似た素材に触れたことはない。

 革よりもしなやかで、感触がよくて、あたたかみさえあって、たぶん、すごく丈夫そう。

「ほんとうに手製なのかしら」

 疑うわけではないけれど。

 と。

 キャビンの前方、すなわち操縦室がある方向から電子音が聞こえた。

「なに?」

 美琴は立ちあがり、操縦室をのぞいた。

 そこは無人である。

 席はふたつあり、それぞれわけのわからない計器やボタン類がならんでいる。方向舵を動かしたり帆をコントロールしているらしいハンドルがだれも触れないのに勝手に動いているのがなんとなく無気味だ。

 しかし、音はそこからではない。

 どうやら無線機らしい機械だ。マイクとスピーカーがついている装置のランプが点滅し、電子音が聞こえている。

 と、それが突然、言葉らしいものになった。

『東風羅ま訶言おう悉汝惓鵬渠く……湖謠紫デン佳肴態勅し澱花……卉跨エま栖渦忌声痲棲カこチ羅……』(作者註:文字化けにあらず)

「はあ?」

 発音は明瞭だが、まったく意味のとおらない言葉がスピーカーから流れだした。

 英語ではない。フランス語でもドイツ語でもない。中国語ともちがうようだ。

 英語だったらちょっと受け答えしてみようかな、などと思ったのも一瞬、美琴はパニックにおちいった。

 しかも、声は女性で、すこし切迫している感じだ。

『オ有為紗ンダ詰汚音ら有為……津パ我門尾凸パシ魔慕御……機御憑ケく堕彩怒羽角ウ化!』

「ど、どうしよう」

 迷ってもしょうがない。まずは助平を呼びにいくことだ。

 美琴はキャビンにとってかえし、下の階層につながるはしごにとりついた。

 その階層が最下層かどうかはわからないが、たぶん、そうだろう。そんなに大きい船ではない。

 天井が低く、薄暗かった。ここだと、なんだか船に乗っているという実感がわく。

 ひと一人がやっと通れる通路があり、左右にドアが並んでいる。たぶん、これのうちのどれかが船倉なのだろう。

「あ……あの……助平さん……」

 美琴は声をだした。あんまり大きな声で呼ぶのは恥ずかしいな、と思った。ひとつひとつノックしていこうかしら。そんなに数もないし。

 美琴は身近なひとつをノックしようと手をのばした。

 その時だ。

 風の関係か、波がかぶったのか、大きく船がかしいだ。

 美琴はノックしようと思ったドアとは反対側のドアに身体を押しつけられた。

 とっさにバランスをとろうと手をのばしたところがノブだった。

 ひねっていた。

 鍵は、かかっていない。

 ドアがひらいた。その方向に船は傾ぎつづけ、美琴の身体を部屋のなかに押しこんだ。

「ひゃんっ」

 悲鳴とともに美琴は床に倒れていた。

 揺りもどしがある。

 ドアが閉まった。

「あいたた」

 美琴はぶつけた肘をさすりながら、床にすわりこんだ。

 ようやく部屋の様子に気がつく。

「ここは……?」

 ぼんやりと明るい部屋だ。むろん、窓はない。電灯もついていない。なのに明るいのはなぜだろう。

 美琴は壁一面に埋めこまれている発光物に目をむけた。

 どうしてこんなにモニターがあるのか。

 まるでどこかテレビ局の調整室のようだ。壁一面をモニターと機器類がうめている。

 これがヨットの一室だとはとても思えない。しかも。

「……っ!」

 美琴は絶句した。

 映っているのは、無数の男女が裸でからみあっている姿だった。

 屋内もあるが、大半は屋外だ。砂浜、岩場、ところかまわず。

 映像はくるくるかわっていく。

 アダルトビデオなのか?

 いや、それにしては容姿も年齢もバラエティに富みすぎている。

 中年も、老年も、逆に若すぎる者たちも。

 性的に成熟していない年齢の子供たちさえ。

 水着を取り去り、たがいの未発達な性器をさわりっこしている。

 しかも、それがどうやら槍倒島のライブ映像のようなのだ。場所に見覚えがあるし、ビーチで見かけたような気がする人の顔もある。

「なに……いったい」

 そして美琴はそれを見た。

 モニターのひとつだ。

 色事好男が見知らぬ少女にのしかかっている。

 ショートカットの、一見少年に見えるが、バストが立派な女の子だった。さらしを胸にまいていたのか、それがほどけてボールのような乳房がこぼれでている。少女はまるで自分の手がブラジャーであるかのように乳房を握り締め、いななくようにあえいでいる。

 好男は夢中で腰をつかっている。

 その周囲には何人かの少女が裸で倒れている。股間をだらしなくひらき、陰部から白い粘液をたれ流しにさえしている。快感のあまり気でも失っているのか。

「色事くん……」

 呆然とした。

 そして、つぎに映像が切り替わったとき、美琴の意識は完全に弾け、腰から力がぬけた。

 真由美ちゃん……

 そう。モニターのなかでは、大河原真由美が二人の少年によって凌辱されていたのだ。

16

「うーっ、もうしんぼうたまらんっ」

 あたるは自分の股間をおさえた。小さな水着から亀頭がはみ出ている。すでに、腹にくっつくほど勃起している。

「なんだ、また貴様からヤるつもりじゃないだろうな」

 面堂が日本刀を引き寄せる。

 あたるは両手をあげた。

「入れるところはすくなくとも二か所はあるぜ。なかよくやろうや」

「二か所だと?」

「おくち、と、あそこ、だよ」

 あたるのにやけた顔がさらに間延びする。

「フェ、フェラチオ、か」

 面堂の顔も同様に伸びる。

「正確にはイラマチオだな。むりやり口につっこむんだから。でも、気持ちいいらしいぜ。どっちがいい? えらばせてやるよ」

 面堂は真由美の顔をじっと見た。息が荒くなっている。

 気を失っているとはいえ、身体に加えられた刺激のために頬は赤らみ、唇もぬれている。

「この子の口のなかで……」

 面堂の声がかすれた。想像したらしい。股間を強くおさえつける。

「ぼくは、口のほうだ」

「きまり! じゃ、はじめよーぜ」

 あたるはまゆみの股間に顔を入れた。

 ワレメに口をつけて、ひだに舌をからめる。

 粘液がぴちゃぴちゃと音をたてる。

 一瞬のけぞった真由美だが、気持ちよさそうに唇をなめる。あたるはそのままクンニリングスを開始する。

「よ、ようし……」

 面堂は自分の男根をとりだし、おもむろに真由美の口許に押しつける。

 感触による刺激か、あるいは匂いか、真由美の唇がひらく。

 かぽ。

「おおっ、すごい、舌が……」

 面堂は白目をむいた。

「にゃはは、意外と気づかないもんだな〜」

 あたるは真由美の大陰唇を左右にひらき、その内部を舌先でいじっている。

「修羅場になるかと思ったけど、このままいけば和姦成立かもな」

 女の子の部分を舌でかきわけながら、都合のいい展望をあたるは口にする。根っからの能天気者だ。

「なんかどんどんおつゆが出てくるぞ。感じまくってんな」

「無意識でフェラするくらいだから、よほどの淫乱なんだな」

 面堂が軽蔑するような視線を真由美の顔にむけた。真由美は面堂のペニスの先端をたんねんにしゃぶっている。

「ふん、メス犬め、ぼくのチンポをもっとしゃぶれ! わははっ」

「なにをいばってんだか」

 胸を張っている面堂を横目で見ながら、あたるは本格的に真由美を犯しはじめる。

 まずは指で、だ。中指と人さし指の二本をそろえ、奥のほうまで思いきって差しこむ。

 真由美の腹筋がうねる。異物の侵入にたいして、身体が反応しているのだ。

「キュウキュウだけど、中はやわらかいな〜」

 あたるは指を抜き差ししはじめる。

 湿った音とともに、真由美の分泌物でぬれたあたるの指が前後に動く。

 それに迎合するように、真由美の腰が上下に動いている。

「んっ、ふっ、んっ、ん」

 口がふさがっている真由美はさらに顔を上気させて、鼻息だけで快楽の嗚咽をもらしている。

「おっ、あっ」

 面堂がうめく。

「なんか、吸いこみが強く……あっ、ううっ」

 真由美の手が面堂のものをしごいていた。そうしながら、先端を口全体をつかって刺激している。

「すごいな〜。指がちぎれそうだぜ。この子、なんかスポーツやってんのかな〜」

 あたるも舌をまいている。きれいな腹筋の形が真由美の呼吸とともにうかびあがる。

 面堂は目を閉じて天をあおいでいる。

「よ〜し、そろそろおれも」

 あたるは指のかわりに男根を真由美の柔肉に押し当てる。先端が真由美の中に埋められていく。ペニスの先端からにじみでるカウパー液が真由美の愛液とまざりあう。

 腿を押し広げて、ぬるぬるのワレメにペニスをこすりつける。

「にょほほ、気持ちいい〜」

 亀頭がクリトリスにぶつかるたびに、真由美の身体がびくんっ、と反応する。腹筋が収縮している。きっと、膣を締めあげているのだ。

「もうほしくてほしくてたまらないって感じだな〜。よしよし、いまあげまちゅからね〜」

 あたるは先端を真由美の入り口にあてがい、先端をもぐりこませていく。

 そのとき――

 真由美のまぶたが動いた。

 目がひらいていく――

17

「……う?」

 真由美はうっすらと目をあけた。

 さっきから激しい波に翻弄されている夢をみていた。

 すごい波だった。もみくちゃにされた。乳首がいたいほどはれあがり、股間が燃えそうなほど熱い。

 それでも、その波が心地よくて、もっとほしくて、何度も腰をつきあげた。

 身体のなかにも入ってきてほしい。そう思った。

 だから、口許に波が押しよせてきたとき、迷うことなくほおばった。それは熱くて固くて、そして海の匂いがした。ぬるぬるした。押しこんできては引いていく。まさに波だ。

 波はいまも真由美を襲っていた。

 それは――波には――顔があった。

 見知らぬ――いや、かすかに覚えている――顔だ。二枚目ぶった、名前も知らない高校生ふうの――が、顔をゆがめ、真由美の頭をつかんで腰を動かしている。

 波だと思っていたのはこの男のペニスなのだ。

「うぐ……むうっ」

 反射的に吐き出そうとした。

 だが、強引に喉まで突きいれられる。嘔吐感がこみあげる。

「ううう……」

 涙がこみあげた。なにが、なにが起こっているのか。

「気がついた?」

 にやけた声が耳にとどく。

 もうひとりの男。最初に真由美にちょっかいをかけてきた男だ。

「わかるぅ? いま、きみのおまんこに入れるところだよお」

 その言葉に視線を動かす。頭を固定されているからちゃんとは見えない。だが、自分がいま大きく脚をひろげられていることはわかる。おしりにあたる砂の感覚からすると、なにもはいていない。胸もむきだしだ。

 いやっ、いやあっ!

 レイプされてる。あたし、レイプされてるんだ。

 真由美は叫びだそうとした。暴れようとした。だが、口はふさがれている。身体も動かない。

「暴れないんだね。やっぱ、気持ちよかったんだあ」

 にやけ男が笑いながら真由美の胸をつかんでくる。

 おさないふくらみをもみしだき、かたくはりつめた乳首を指でいじめる。

「んくっ、くふっ」

 ふとい男のものを口におしこめられて、真由美はただ鼻を鳴らすことしかできない。

 きもちいい――

 そんなはずない、と思った。

 でも――

 股間に電流が走った。クリトリスにペニスが当たったのだ。おしつけられた部分から言い知れない快感が衝きあげてくる。

 真由美はおしりを浮かせていた。

 ――もっと、してほしい

 まぶたをとじた。不思議な香りが意識をくもらせる。この匂いは、あれだ……色事くんのかばんにあった、コロンの……

 お腹のなかになにかが入ってきた。おおきな、熱いかたまり。

 真由美は身体をそらしていた。その侵入するものをしっかりと受けとめるために。

「入ったよ、オチンチンが」

 男の笑い声が聞こえる。

「すごく締まる、ねえ」

 動いている。見ず知らずの男のものが真由美のなかを侵略している。

 すごい。

 突きあげられるたびに意識が灼ききれそうだ。

 気持ちいい。とても、いい。

 腰が勝手に動いてしまう。

 舌もだ。いやなはずの男根がいまはとても愛しい。

 これは夢なのだ。

 いやらしい自分の願望がかたちになったのだ。

 こんなふうに男の子にされたいと思っていた。どこかで。

 コロンの香りが侵食してくる。真由美の心を溶かしている。

 音が聞こえた。波の音だ。リズミカルな潮騒。

 その音のなかに、真由美は身近な少年の声を聞いた。

 ――真由美の中、気持ちいいよ

 ああ、よしお、くん。

 真由美は夢に堕ちた。

 幸福だった。