「あのー、ほんとーのほんとーに、いーのですかー?」
背後に立ったシンダラーがためらいがちに訊いてくる。
真奈は強いて声を強くする。
「くどいです。いいといったらいいんです。これは練習なんですからっ」
「それでーは、しつれーしまーす」
背後から大きな手が回ってくる。覚悟はしていたものの、真奈はドキッとする。
「あの、ぜったいに目をあけたらだめですからね」
真奈は念をおす。念のためにターバンを解いて、目隠しにしている。
「でーも、それだーと、どこをさわっているかー、わかりーません」
「わたしが誘導します、から」
ぎょく、と真奈は唾をのみこみ、シンダラーの浅黒い筋張った手をとった。
「おー、マーナの手はあたたかくて気持ちいいでーす」
「無駄口はたたかない」
真奈はなぜだか教師のような口調になっている。極度に緊張していた。
「こっ、ここを」
真奈はブラジャーを押しあげているふくらみの部分に、シンダラーの両手を触れさせた。
「おーう」
シンダラーが奇声をあげる。
「どう……わかる?」
真奈は心臓がバクバクいっているのを自覚しながらつとめて平静を保とうと努力した。
胸に、シンダラーの掌が触れている。大きな掌だ。すっぽりとふくらみを被ってしまっている。
「わかりまーす。やわらかくて、ぷにぷにでーす。これーがマーナのオパーイなんです、ねー」
感動したようなシンダラーの声だ。
「でーは、指をうごかしーて、いーですかー?」
「えっ」
「モンでーも、いーですかー?」
「はっ、はえ」
声が裏返った。たしかに、もむところまで行かなければ、慣れるもへったくれもない。しかし、真奈としてはここまでにして逃げだしたくなった。
「ああ……カンドーです。二七年間生きてーきて、こんなしあわせーなことーはありまーせん。こーんなすばらしーものを触れるなんーて」
「シンダラーさん……」
感極まったシンダラーの声に、真奈は「ここまで」とは言えなくなった。
もみっ。
「はうっ」
もみもみっ。
「あはあっ」
もみもみもみもみっ。
「いやっ」
「おー、マーナ、いたかったですーか」
シンダラーが心配そうな声を出す。
「い、いえ、べつに」
真奈は平静をよそおう。しかし、とあらためて思う。
よく考えたら、真奈自身、他人に胸をこんなふうに触られるのは、初めてではないか。
くすぐったいのではないか、と思っていたが、実際はぜんぜんちがった。
――気持ちがいい。
シンダラーも力を加減して、やさしくやさしく扱ってくれている。そのせいだろうか。それとも、シンダラーの身の上話を聞いているうちに情が移ってしまった、そのせいだろうか。
「つづけて、いーですかー?」
「あ、はい……」
真奈は答えていた。シンダラーの掌がふたたび動きだす。
胸全体をつつんで、マッサージするような動きだ。
「あー、チャパティをこねるときのよーでーす」
チャパティというのはインド料理でつかわれるパンの一種だ。パンを作るときと同じように、小麦粉を水で溶いてこねて作る。その要領なのだろうか。
「ん……は」
真奈は、大きな掌が自分の白い胸をこねているのを見ていた。まるで自分の胸のようではなかった。形をかえて、ぐねぐねとうごめく。いやらしいオモチだ。
身体があったかくなってきた。マッサージ効果だろうか。
ブラがよじれて外れそうだ。
ぎゅむっ。
シンダラーが少し強くもんで離すと、右の片乳がぽろんとこぼれた。
「やんっ」
そのむき出しの乳房をシンダラーが握りなおす。
「おうっ、感触がちがいますでーす。しっとりーと、掌に吸いついてくるでーす」
「やっ、ちょっ、シンダラーさん、待って……はうんっ」
ブラごしと、じかにもまれるのとでは、影響度がまったくちがう。肌同士が触れ合い、汗がまざる。それだけではなく――
「おおうっ、これは……この感触は……なにか、尖ったものが掌に当たるでーす」
乳首だ。
シンダラーの右掌が乳首をおしこむ。離れると、ピコンともどる。
「ふしぎーでーす。こんーな、やわらかーいもののなかーに、固いものがあるでーす。えいっ」
「ひゃあっ」
シンダラーが感触だけを手がかりにして、乳首を指でつまむことに成功した。
「コリコリしてるでーす」
「だめっ、もう、シンダラーさん、おしまいに……」
真奈は腰が砕けそうになる。視線をおろすと、シンダラーの指につままれた乳首がきゅんと引っ張られている。痛みもあるが、それ以上に強烈に押し寄せてくる感覚。
「こっちーも、あるのでしょーかー」
シンダラーはどうやら探求心のとりことなったようだ。ブラの下に手をもぐらせ、左の乳首も探しあてた。
「おー、やっぱりでーす。人間のからーだは左右たいしょーですーから」
「もお、ダメだったらあ……」
左右とも乳房があらわになり、乳首を引っ張られている。どうかなってしまいそうだった。
「あー、見たいでーす。どんーな色をしてるーのか、ここをこうしたーら、どんーなふーにカタチが変わるーのか」
指先で乳首をいじり倒しながらシンダラーが言う。
「だめっ、そんなことしたら、出血死しちゃ……う」
ちょっと見るだけでも体内の三分の一くらい噴出してしまうのに、こんなシチュエーションで血管が弾けたらどんな惨状になることか。見せるのはだめだ、見せるのは……。でも、べつのことならば……。真奈は曖昧な意識のなかでそう思う。
「でも、もっと知りたいでーす」
乳首を指先でピンピンと弾くようにシンダラーはする。
「はっ、あっ、やんっ、あ……」
真奈の膝が笑う。もう立っていられない。
「そうーだ、マーナ、見るのがだめなーら、口でしらべさせてくださーい。舌ーは、すぐれーたセンサーですかーら、見なくてーも、いろいろなことーがわかりーます」
「う……うん……」
真奈はもう抗う気力が失せていた。