らんま1/2
その朝に……(仮題)
「なっ、なんだよ、ここはっ!」
さるぐつわをようやく外されて、らんまはわめいた。
そこは薄暗くてだだっ広い空間だった。いたるところに袋が積まれている。どうやら港湾にある倉庫の内部らしい。日曜日であるためか、人気はまったくない。
らんまは穀物が詰まっているらしい袋が寝台のように形作られている場所に転がされている。手足はロープでしっかりと縛られている。
意識を失いながらも、船に揺られている感覚はあった。ということは、シーサイドにあるホテルからずいぶんと離れてしまったのだろうか?
式までの時間を知りたかったが、腕時計を見ることもできない。
「乱馬、あかねとの式は諦めるよろし」
シャンプーがらんまの側に立っている。深いスリットからは太股がほとんどあらわになっている。
「せや、乱ちゃん、お願いや」
らんまの視界にもう一人の誘拐犯人が姿を現わす。和服姿の右京である。格好としては披露宴出席スタイルだが、手にしているのは特大のコテだ。いまにもモダン焼きを作りそうな雰囲気である。
「ウっちゃんまで……」
らんまは歯噛みする。
「――まさか、小太刀も……」
今にも、ホーホッホッホッという声が聞こえてくるような気がした。だが。
「小太刀はおらへん。小太刀なら今ごろ――」
右京が言いかけるのをシャンプーが手の動きだけで制する。
「そんなこと、どうでもいいね。乱馬、もう一度だけ訊くある。あかねとそんなに結婚したいか?」
「べつに結婚したくてするわけじゃ……」
つい、反駁してしまう乱馬だ。条件反射に近い。
「なら、結婚しないか!?」
シャンプーと右京の表情が一瞬明るくなる。
だが、らんまは続けざまに怒鳴った。
「こんなふうに強制されてやめるなんて、もっといやだ!」
「乱ちゃん……」
右京が動揺したように、一瞬シャンプーを見る。
シャンプーは表情を強張らせたが、すっと目を細める。
「――なら、しかたがないね。手荒なことはしたくなかたけど――」
「なっ、なんだっ、やるのか、シャンプー!」
らんまは縛られながらも、なんとか防御的な姿勢をとろうとする。
と、シャンプーは自らの手でチャイナドレスを脱ぎ去った。
その下は、全裸である。
「てっ、てめえっ――なんだ?」
「右京、見張っているある」
「――しゃあないな」
振袖姿の右京は悔しそうに呟く。
「なんでウチは肝心なときにいっつもじゃんけん負けるんやろ」
言いつつも、倉庫の扉の方に向かう。通行人が近づかないようにするのか。
「な、なんのつもりだっ!」
シャンプーの裸身を目前にして慌てたらんまの声が裏返る。
「あかねに取られる前に、わたしが乱馬をいただくある」
本気の目でシャンプーが笑う。
「今までのようにはいかないね。わたしは本気。それに、少年誌じゃないから規制もないある」
少年誌でさえさんざん全裸で乱馬に迫ってきたシャンプーである。
「よせっ、やめろっ!」
シャンプーは、らんまのタキシードの胸もとをさぐる。
現在のらんまは、むろん、女の姿である。ドレスシャツのボタンがはじけてとぶ。もともと、らんまの胸がはちきれんばかりに押しあげていたのだ。
ブラなんかしていないから、大きなバストが零れ出す。
「女らんまのオッパイは大きいアルな」
シャンプーは自分の胸を下からささえて、らんまの胸に近づけた。
「おいっ、いまのおれは女なんだぞ! それでもいいのかっ!?」
「学習効果ね。男乱馬に今まで何度も迫ったけど、うまくいかなかた。女らんまならば力も弱いから抵抗されても抑えられるね」
シャンプーが不敵な笑みをうかべて、唇をなめた。
*
*
あかねは多幸感のなかにいた。
鏡のなかのウェディングドレス姿の少女に恋をしてしまいそうだ。それがナルシズムだということもわかっているが、喜びがわきおこってくるのをどうしようもない。
「なかなかですわよ」
係員が腰に手を当てて言う。心なしか悔しそうな声になったようだ。
「でも、ちょっと胸のサイズが合ってませんわね」
あかねは現実に引き戻される。
「ええ……すごく気に入ったのに、なんとかならないかなあ……」
「もしもよかったらだけど……マッサージで一時的に胸を大きくすることができるかもしれませんわよ」
「ほんとうですか?」
あかねとしては、もうこのドレスを脱ぐことなど思いもよらない。どうしても、このドレスで式を挙げたい。係員の提案に飛びついた。
「じゃあ、お願いします!」
「それでは、失礼して」
係員はあかねの背後にまわり、あかねの胸に手をのばした。
ぺろん、ドレスの胸元をずりさげられてしまったが、なんのひっかかりもないのが悔しい。ブラはフロントホックだから、かんたんに外されてしまう。
あかねのふくらみがあらわになる。
「まあ、かわいらしい胸だこと。子供みたい」
係員の言葉にあかねはムッとする。いくらなんでも子供ということはない。でも、背後にぴったりと寄り添った係員の胸の感触を背中に感じて、そのボリューム感に反駁の気力をそがれる。
それに、いまは気分がいいのだ。ふつうなら、いくら専門家が相手でも、こんなふうに胸をさらしたりはぜったいにしないはずだ。
――どうしたんだろう、あたし……
あかねがふわふわとした感覚のなかでふしぎに感じているあいだに、マッサージは始まっている。
どうやらオイルを掌にまぶしているらしい。芳香が鼻孔にとどく。
あかねの視界では、自分の胸が繊細な指でもみしだかれている光景が映っている。
バストのオイルマッサージ。しかも、女性の柔らかいタッチ。リズミカルな指の動き。
予想しない心地よさだ。
指先が乳首に触れる。
「はうっ」
思わず声が出てしまう。
「あら、痛かったかしら?」
背後から係員が笑いを含んだ声で訊く。
あかねは首を横に振る。
「いえ……へいき……です」
「そう。この部分を刺激すると、胸全体がボリュームアップするんですのよ」
言いつつ、係員の指が乳首を集中的に責めはじめる。
「うっ……はあん」
こらえられない。甘い声がもれてしまう。
「ほうら、こんなに乳首が立って、全体に張りがでてきましたわ」
ピンク色のあかねの乳首は、左右ともふだんの倍のサイズになっている。
「まあ、この胸は後で殿方にたっぷりもんでもらうのでしょうから、このへんにしておきましょ」
「やだ……」
あかねは顔を真っ赤にする。
「このドレスのバストラインはブラなしのほうがきれいに出ますわよ、ほら」
係員がドレスの胸元を調整すると、たしかにブラをつけていたときよりもドレスの布地と密着して、バストアップしたように見えた。ただ、布地を押しあげるポッチもあからさまだ。
あかねは鏡のなかの自分を見つめて、うっとりとした。乳首を浮き出させたピンクのウェディングドレス姿の少女。すごくかわいらしくて――エッチだ。
「すてきですわ……では、そろそろ、特製下着の機能を使いましょうか」
係員は微笑むと、ポケットから小さなボタンがついたペン型の装置を取り出した。あかねの足元に伸びているコードを拾いあげると、装置につないだ。
「このコードは、花嫁さんの下着から伸びているんですのよ」
「え?」
あかねは係員を振り返ろうとした。その時だ。
下半身に甘い衝撃が走った。
「ああああっ!?」
あかねはこらえきれなくて、腰を落とした。それを、係員がだきとめる。
「どうされました?」
底意地悪そうな係員の声。片手ではスイッチを押し込んでいる。
「し……した、下着が、震えて……ああっ!」
股間のホックの部分が震動していた。ちょうど、ワレメの、とくに敏感な場所に直接触れている。その部分がまるで生き物のように蠢動しているのだ。
ドレスのすその中からモーター音が聞こえている。
あかねは下着を外そうと手をドレスのすその下からさしいれる。
だが、きつい下着はかんたんには脱げない。
「あらあら、せっかく着けた特製下着、そんなにかんたんにお脱ぎになってはいけませんわよ」
言いつつ、係員はさらに深くスイッチを押し込んだようだ。
震動が激しくなり、あかねはのけぞった。
そんな部分に、こんな刺激を受けたことがない。初めての経験だ。自分の体になにが起こっているのか、よくわからない。
痙攣的に腰が動いた。前後にビクンビクンと跳ねてしまう。そのたびに、電撃的な快感が背筋をのぼりくだりする。
「とって……とってぇ……」
あまりの刺激に呼吸が苦しくなりながら、あかねは訴えた。だが、係員は無情にも手をあかねの股間に差し入れて、下着の震動部分をぎゅっと押さえた。きつく密着するその部分がモーター音とともに破滅的な刺激をあかねにもたらす。
ふつうじゃない。この感覚は。
あかねは係員の腕の中で背中を弓なりにそらした。胸がこぼれだし、ぷるんと震える。
「あ……あああ……あああ……」
「そう、天道あかね、イキそうなのね。イキなさいな。ラブクリームとバイブの相乗効果で、天国まで」
係員はマスクとサングラスを外した。
紫のルージュを塗った唇がぬめぬめと光り、真っ赤な舌が動く。精緻な人形を思わせる整った容貌だが、白目がちな双眸がぎらぎらと光っている。
「……あ……あなたは……?」
あかねは朦朧とした目をかろうじて動かして、係員であった女の顔を見ようとする。
そのあかねの唇を九能小太刀は奪い、舌をぬるりと侵入させる。
同時に、あかねの下着のホックを外す。
「ん、くうッ!」
舌を吸われながら、あかねは腰を突き上げる。突然訪れた圧迫からの解放。そして――小太刀の指の侵入。その瞬間、世界が白く光った。
「んんんんんッ! んうーッ!」
嵐に翻弄され、あかねは大地に叩きつけられたかのような衝撃を受けた。
「――ほうら、イッちゃった」
小太刀が楽しそうに笑った。
そして、ドアの方に目をやって、言う。
「いつまで覗いていらっしゃるの、殿方たち。花嫁の準備はもう充分ですわよ」
その声に尻を叩かれたように、ドアがおずおずと開く。
そこには、九能帯刀と良牙の二人が、顔を赤くし、股間に見事なテントを作って立っていた。