「もお、お母さんったら、張り切って洗濯してくれたのはいいけど……」
イサミは股間に違和感を感じつつ、玄関を飛びだした。
梅雨のあいまの晴天の朝。花丘家の庭には大量の洗濯物がひるがえっていた。
母・玲子のセクシーなランジェリーやイサミのかわいらしいショーツ類など、色とりどりのお花畑。中には観柳斉のフンドシという毒花も含まれてはいたが、なかなかに華やかな光景だ。
といっても、イサミにとってはたまったものではない。
あろうことか、玲子は家中のすべての下着を洗濯してしまったのだ。
「だって、せっかくのお天気なんですもの。一日くらいがまんなさいな。学校から帰ったころにはみんな乾いているから」
能天気に言いつつ、玲子はさっさとテレビ局へ出勤してしまった。というか、ノーブラ・ノーパンでテレビに出るつもりなのだろうか。たまにぶっとんだ行動をする母である。
イサミはブラをまだ必要としないから、そちらはいいとして、下は困る。ズボンのたぐいも洗濯されてしまっていて、まさかノーパンでスカートというわけにもいかず(それにもともとスカートはほとんど持ってない)、素肌にスパッツを着けて登校することになってしまったのだ。
「やだなあ、歩くと食い込んじゃう」
薄手のナイロン生地がぴっちり貼りついてくる。歩くたびに、きゅっ、きゅっ、と股間に刺激をもたらす。縫製の盛りあがった部分が、微妙に擦れて、へんな感じだ。
「んもぉ」
思わず内股になってしまう。
そこに。
「おはよう、イサミちゃん」
「おっす」
ソウシとトシが合流する。
「あ、トシ、ソウシくん――おはよ」
イサミは手で前を隠すようにしながら、二人にあいさつを返す。
ソウシはそんなイサミの態度を訝しく思ったようだ。
「どうしたの、イサミちゃん、前かがみになって……お腹が痛いとか?」
「また、へんなもんでも食ったんだろ。梅雨時はくいものが傷みやすいしな」
トシがまぜっかえす。
「そ、そんなことないわよ」
イサミはノーパンであることを気づかれまいと、つとめて明るく声をはりあげる。
「さ、急ぎましょ、遅刻しちゃうわ!」
それについてはトシもソウシも異論はなかったらしく、三人は元気よく通学路を走りはじめる。
その日の最初の授業は算数だった。
けっきょく、遅刻ギリギリで教室に飛び込んだイサミの胸の動悸はまだおさまっていない。
(なんか……ヒリヒリする……)
走ったせいだろうか、股間に疼痛があった。といって、トイレに駆け込む暇もなく、そのまま授業に突入してしまったのだ。
担任の高木はるか先生が今日はお休みで、教頭が代理で教壇に立っている。教頭の授業は気の抜けない厳しいものなのだが、今のイサミはとても勉強どころではない。
教科書を机に立てるようにして、顔を伏せる。椅子の上で脚を開いて、スパッツのその部分がどうなっているかを確認する。
薄手のナイロン生地がワレメにピッチリ食い込んでいる。指で直そうとしても、汗を吸った生地が肌に貼りついていて、かんたんには元に戻らない。
腿をもぞつかせると、ざらりとした感触が股間の亀裂部分にあって、変な感じだ。もっとそれを感じていたい――ような。
(とにかく、くっついている部分をはがさなきゃ)
イサミはこっそりと指を股間に当てた。教頭の声が教室に響いている。みんな、授業に集中しているようだ。指先でワレメに貼りついているスパッツの股ぐりの部分をつまもうと試みる。
なかなかうまくいかない。それくらいピッチリと食い込んでいるのだ。確かに、このスパッツ自体、ちょっと古いもので、最近のイサミのには小さめだった。だが、ほとんどの衣類が洗濯されてしまっていて、これしかなかったのだ。
それでもなんとか爪で布地をつまむことに成功した。ゆっくりと引っ張ると、布地がよじれて、股間の一点に強く当たった。
「あっ」
思わずイサミは声をあげてしまっていた。
かつて体験したことのないような感覚――
「どうしました、花丘さん」
訝しげに教頭が訊いてくる。クラスメートたちもイサミの方に視線を集めている。
「い、いえ、なんでもありません」
あわててイサミは顔をあげる。むろん、股間をいじっていた素振りなど見せるわけにはいかない。布地から指を放していた。
(ん……っ)
イサミは声をこらえる。伸縮性に富むナイロンの布地は、さっきの反動でさらに深くワレメに食い込んでしまったようだ。
「授業中はちゃんと集中するように」
教頭に注意され、イサミはうなだれた。
授業が再開される。
だが、イサミのムズムズはさっきよりもさらに強くなり、耐えがたいものになっていた。
(ああ……どうしよう……さわりたいよぉ……)
教頭がかん高い声で教科書を読みつつ、生徒の机の間を歩いている。
イサミは耐えきれず、また、手指を股間にひそませる。
ぞくっ、ぞくぞくっ!
股の合わせ目から鋭い刺激が駆け抜ける。思わず背中を丸めてしまう。
(なに……これ?)
布地の密着度合を調節するという本来の目的から離れて、イサミの指がたどたどしく動く。
むずがゆさが閾値を超えて、甘い快感に変化する。もどかしさに急きたてられるように、イサミは指を自らのワレメにめり込ませる。
「うっ」
声がもれる。
指先でスパッツの生地をこすりたてる。しっとりとした感触の向こう側に、熱くて、湿ったイサミ自身の器官の存在を感じる。
(も……もっと……硬いもの……)
それが本能なのだろうか。イサミは自分の指が与える刺激とは異質なものを欲した。
机の上に転がったシャープペンシルに目がゆく。
ほかの生徒たちは、教頭の声に聞き入っては、ノートに鉛筆やシャープペンシルで文字を書きつけている。なのにイサミは。
手にしたシャープペンシルを自分の股間に押し当てて――
ぐりっ!
ぐりぐりっ!
(き、気持ちいい……っ!)
プラスチックの細長い物体がワレメの中で、その角張った形状と硬度を存分に主張している。痛みの奥にひそむ心地よさがイサミの幼い性感を呼び起こしている。
(と、止まらないよぉ……)
小刻みに腿をこすりあわせて、シャープペンシルの軸を強くはさみ込む。
金属製のホルダー部分が、特に敏感な部分に当たって、たまらない。
こつこつこつ、とイサミの上履きの底が床を鳴らした。無意識的に足踏みをしてしまっていた。
生徒たちの視線が、教科書から引きあげられて、イサミに集中した。
トシもソウシも不思議そうにイサミを見ている。
「花丘さん、どうしたんですか?」
教頭の声が思わぬ近さから聞えてきて、イサミは思わず背筋を伸ばした。
「なっ、なんでもありませんっ」
シャープペンシルを慌てて引き抜く。
その拍子に、ある一点に鋭い感覚を覚えた。漠然としかわからなかった快感のポイントに、シャープペンシルの先端が当たって、引っ掻きあげるように――
「あひぃっ!」
思わぬ大声がイサミの唇からもれる。
「ど、どうしました、花丘さん」
すこし驚いたように教頭が近づいてくる。イサミは身体の震えを抑えられない。
(な、なんだろう……いまの……)
休み時間になったとたん、トシやソウシの呼びかけにも答えず、イサミはトイレに駆け込んだ。
個室に入って、股間を調べてみる。
スパッツの布地が明らかに湿っている。紺色でなければ、濡れていることがわかってしまっていただろう。
「さっきのあれ……このへんだったよね」
好奇心に駆られて、イサミは指でその部分に触れてみる。
びりっ
確かにこの感じだ。胸がドキドキする。イケナイことをしている気分がわきおこる。
指先に、ぷっくりとした膨らみを感じた。ふだんは、おしっこをする時に紙で拭くくらいで、意識さえもしない場所だ。
それが――ナイロン越しのせいかもしれないがも妙に固く大きくなっているような気がする――むろん、女の子のその部分も「勃起」するだなんて、イサミにはわかっていないのだ。
「あ……あ……へんだよぉ……ここ、触ってると……」
指が勝手に動き出す。個室のなかで、他人の視線から遮断されているだけに、今度は遠慮会釈なしに、自分の肉体に見つけた不思議なボタンを押しまくる。
お腹のなかになんだかよくわからない疼きが生まれてくる。
腿の筋肉がひくついて、立っているのも難しくなる。イサミは個室の壁に背中をもたれかけさせて、さらに指による刺激を続ける。
「き……気持ちいい……よぉ」
その時だ。
授業の始まりを告げるチャイムが鳴った。
イサミはハッと我にかえった。
次の時間は体育だ。
「ど……どうしよう……」
イサミはスパッツの股間を見た。
その部分は濡れて、色が変わってしまっている――