「ポコ太、愛のために走れ」より
Aprilfool
うづきはじめ
野々原姫子は十四歳の中学生。胸はまだまだないけれど、ショートカットで活発で、スポーツだって男の子に負けない元気少女。
でも、姫ちゃんにはひとつ大きな秘密がある。
髪につけてる赤いリボン。これが実は魔法の国のお姫さまエリカのプレゼントで、これと魔法のペンダントをつかって、姫子はだれにでも変身することができるのだ!
姫ちゃんに渡された魔法の力はそれだけではなくて、自分の分身を作り出したり、小さくなることだってできちゃうんだ!
さて、そんな姫ちゃんの最高の親友はぬいぐるみのライオン・ポコ太だ。そのポコ太のガールフレンドはピンクちゃんというんだけど、なんてこったあ! ぬいぐるみにまちがわれて、おもちゃ屋さんの店先に並べられてしまった!
なんとかしてピンクちゃんを取り戻そうとする姫ちゃんだったけれど……
「ごっ、五千円!?」
姫子は思わず叫んだ。
魔法の世界のピンクちゃんがぬいぐるみとして売られており、姫子としてはポコ太のためにそれを買い戻してやらねばならないのだが、姫子の持ち金はわずか200円。とても買えない。
「お父さんに頼んで前借り……あーん、無理だよ、お父さんロケでいないんだもん。お母さんに言っても絶対だめっていわれちゃうし……」
姫子の父は娘には甘い。ねだればなんとかなるが、母親はそうはいかない。経済観念がしっかりしているだけに、なまなかな説明では納得してもらえないだろう。とはいえ、事情をすべて説明することはできない相談だ。
「姫ちゃん……」
ポコ太が不安そうな目を姫子に向けている。
これはなんとかしてやらねば。姫子は心を決めた。ポコ太は姫子の無二の親友なのだ。そのポコ太を悲しませることだけはしたくない。
姫子は無理に笑顔を作った。
「だいじょうぶ! あたしに任せといて! ぜぇったい、ピンクちゃんを買い戻してあげるから!」
姫子は太鼓判を押した。
「だから、ここでちょっと待っていてね!」
姫子はポコ太に言い聞かせると、再びおもちゃ屋の扉をくぐった。
おもちゃ屋の主人は四十代のおっさんだった。頭はバーコード状にはげており、腹も突き出している。唇が妙に分厚い。
姫子はおっさんに何度も頭を下げた。
「お願いします! 必ずお金は持ってきます! だから、あのぬいぐるみを譲ってください!」
主人は鼻で笑った。
「ばかなことを言ってもらっては困るよ、お嬢ちゃん。どこの世界に、金もないやつに商品を渡す馬鹿がいるものか」
「あたしにできることは何でもします! だから……!」
「何でも……? 信じられないね」
主人は姫子を値踏みするように見た。
「本当です! どんなことだってやります!」
姫子は真剣な眼で言った。
主人の視線が姫子の身体をすばやく探った。
口元にかすかな歪みが生じる。
「きみは中学生……だな?」
「え、ええ」
姫子は中学2年生だ。
「じゃあ、こういうことはできるかね……? わたしのモデルになることは?」
主人の申し出は唐突だった。
「モデル……ですか?」
姫子は戸惑った。
「なに、わたしはビデオや写真に凝っていてね、子供を撮るのが好きなんだよ。子供好きが高じておもちゃ屋を始めたくらいだからね」
姫子はカチンと来た。
「それって、あたしが子供っぽいってことですか?」
「そう」
主人はうなずいた。
「今度の日曜日にモデルになってくれたら、モデル料の代わりにぬいぐるみをプレゼントしよう」
「ほ、ほんとに?」
姫子はその条件に飛び付いた。単純な性格なのだ。
日曜日が来た。
姫子はおもちゃ屋との約束をすっかりさっぱり忘れており、まなみやいっちゃんたちとの約束を入れてしまっていた。
「あっちゃー」
姫子は思い出して狼狽した。
「どうしようかな……あ、そーだ」
姫子は膝を打った。
「こーゆー時にこそ、あれを使うべきよね、うん」
姫子はコンパクトを取り出し、自分の分身を呼び出した。
分身は姫子の半分の体力、性格も半分になっており、たいへんおとなしい。
「じゃ、あなた、おもちゃ屋さんに行って。モデルだっていってたから」
「モデルですかぁ……わたしにできるでしょうか?」
分身はモジモジして言った。
「大丈夫だって! おもちゃ屋のおじさんって子供好きなんだって。ちょっとムッとはするけど、多分楽なモデルだと思うよ」
「は、はぁい……それなら……」
分身姫子は辛うじてうなずいた。
「よく来たね」
おもちゃ屋の主人は、にこやかに姫子(分身)を出迎えた。
「よ、よろしくお願いしますぅ」
姫子は丁寧にお辞儀した。
おもちゃ屋の主人はちょっと目をみはった。
(こんな感じの子だったかな? もっと活発な……というより、やかましい子だったような気がするが……)
主人の視線におびえたのか、姫子は身体を縮こませた。
その仕草がいかにもいじらしく、主人の目には映った。
(そうか……撮影ということで緊張しているのだな……ふふ、その方がこちらの方としてもやりやすい)
主人は店の奥に姫子を案内した。
店は日曜日だが、あえて閉めた。
この建物は主人の住居も兼ねている。この男、四十になるが、いまだに独身であった。
その理由は……じきに知れる。
店の裏はスタジオになっていた。
スタジオはコンクリートの打ちっぱなしで、冷たい壁が剥き出しになっている。床には絨毯が敷かれており、クッションがいくつか置かれている。部屋の奥にはダブルサイズのパイプベッドまである。
機材がすごい。
プロ仕様のビデオカメラが何台もセットされている。カメラはアームに固定され、いろいろなアングルから被写体を追えるようになっているらしい。
スチルカメラも数台ある。むろん、ライティング機材も充実している。しかも、それらはどうやらリモートコントロールが可能なようだ。すなわち、照明技師がいなくても最適なライティングが可能ということだ。
「すごいんですねぇ」
姫子は周囲を見回しながら素直に感心した。
「じゃ、早速はじめようか」
主人はスチルカメラを手にとり、調整しながら言った。
「えと、あと、何をすれば」
「そうだな。まず、立ちポーズから始めよう」
主人は照明の調整を行うと、茫然と立っている姫子を撮り始めた。
姫子は主人の求めに応じ、ためらいつつも幾つかのポーズを取った。
少しずつ、主人の要求が怪しくなっていることに、分身姫子は気付かない。ただでさえ勘の鈍い姫子の、そのまた半分しか勘が働かないのだ。
「こ、これでいいですかぁ」
姫子はベッドの上に座り、膝を抱えた。
短めのキュロットの裾がパンティから覗いていることに、姫子は気付いていない。
「そう、もうちょっと脚を開き加減で、すねた感じを出して……」
「は……はい」
すねた感じもなにも、表情など作れない姫子であった。
「次はビデオを回したいんだけど。服を着替えてもらえるかな」
ひとしきりシャッターを落とした後、主人は言った。
「着替え……ですか?」
「ああ。約束だ。やってもらえるよね」
「あ……はい」
分身姫子は気が弱い。少しでも高圧的に出られると従ってしまう。
着替えは部屋のコーナーでしろ、と言われた。コーナーはカーテンで仕切られている。
姫子は服を脱いだ。
指定されたのはレオタードだった。レオタードなんて、と尻ごみした姫子だったが、怖い顔で睨まれて、やむなくOKした。
下着をつけるな、と釘を刺されたので姫子はブラジャーとパンティも取った。
パールカラーのレオタードを身に着けた。
この生地が薄い。
身体の線がはっきりと出てしまう。
乳首の形すらわかってしまいそうなのだ。
それに、タイツの着用は禁じられたので、脚も剥き出しだ。
脚の間が、きつい。
食い込む感じがする。
下の部分のカッティングが急なのだ。
おしりは半分以上剥き出しになっている。
「こんな……はずかしい」
姫子は泣きたくなった。
その時、カーテンが引き開けられた。
「なにをグズグズしているんだね?」
おもちゃ屋の主人が立っていた。
「あっ……!」
姫子は胸を抱えて、主人に背中を向けた。
あらわになっているお尻の山が震える。白い。
「撮影を始めるよ、いいね」
命令口調で言う。
「は……はい」
姫子は消え入りそうな声で答えた。
撮影はきわどさを増した。
ビデオを同時に何台も回しながらの撮影だ。主人もハンディカメラを持っている。
強いライトを浴びせ、姫子はいろいろなポーズを取らされた。大胆なポーズばかりだ。
「そうだ、そのまま床にお尻を落として……脚を開いて」
姫子は恥じらいに身を震わせつつ、指示に従う。
カメラは姫子の股間を狙っている。
ハイカットのレオタードの股間だ。
盛り上がった姫子の丘の両端は露出している。
きわどい線が縦に走っている。
レオタードの生地は薄い。特に股間は目が荒い感じがする。姫子の淡い発毛も、透けて見えている。
「四つんばいになって―――グズグズするな!」
「はい……」
姫子は泣きそうになりながら、命令に従った。
四つんばいになり、尻を上げる。
カメラが接近した。
姫子の尻を舐め上げるように撮る。
「動くなよ」
主人はきつい口調で言う。言いながら、片手をカメラから離し、姫子の尻を掴んだ。
「ひっ……!」
姫子は身体を固くした。
主人は姫子の尻を揉んだ。揉みながら、山を外に開いてゆく。
レオタードの股の部分が紐のように細くなる。
主人は、その紐状の部分をつまみ、ちょっと横にずらす。
姫子の股間の秘められた部分が半分露出する。
アヌスが見えた。
それをカメラが接写する。
「いやっ!」
姫子は逃げた。四つんばいのまま、逃れようとした。
叱責が飛んだ。
「動くなと言っただろう!」
姫子は金縛りになった。
恐怖が胸を満たしていた。
(姫ちゃん……助けて)
自分のオリジナルである姫子に縋りたい想いだった。