薫が気がつくとそこは倉庫のような場所で、手足を拘束されて転がされていた。
煌々とライトが輝き、薫のまわりに光の輪を落としている。
逆光になっていてわかりにくいが、男が複数人取り囲んでいた。年齢も体型もさまざまだが、一様にゴーグルのようなサングラスをかけ、人相をわからなくしている。
「誰だっ! くそっ、葵! 紫穂!」
親友の姿を探す。だが、光の輪の外側は明暗の差が大きすぎて、ほとんど見て取ることができない。
「お友達は別室でお休みいただいていますよ」
サングラスの男の一人が笑いを含んだ声で言う。その声に薫の記憶が刺激される。
「あっ、てめっ! さっきホールであたしらをハメたやつ!」
「はて? 何のことでしょうか?」
広報担当者として、薫たちに応対していた男だ。その時はスーツ姿だったが、今は他の男たちと同じ黒の戦闘服の上下を身につけている。
「このやろ!」
サイコキネシスで拘束を引きちぎり、男を床にたたきつけようとして思いとどまる。E−ECMが現在も使われているのは間違いない。その状況下で超能力を使ったらさっきの二の舞になってしまう。
「葵と紫穂を返せ! 捕まえるならあたしだけでいいだろ!」
「そうはいきません。特務エスパー、しかもレベル7のザ・チルドレンともなると、VIP待遇をしませんとね」
ねっとりとした口調で広報担当官――実際はそういう役職ではないのかもしれないが――は言った。
「二人には手を出すな! するならあたしだけにしろ!」
「しろ? いったい何を、ですかな? 特務エスパーの明石薫さん?」
「くっ……」
こいつらのやってきたことはわかっている。エスパーの女性を捕らえてはレイプし、その様子を全世界に公開する。
目的はわからないが、すでにB.A.B.E.L..の仲間も被害に遭っている。
「このペド野郎。やりたきゃやれよ。いっとくけど、おまえたちゲスどもに何されたってあたしはへいっちゃらだからな!」
虚勢とともに声を張る。
「身体は犯せても、心までは犯せねーぜ!」
ひゅーっ、と広報担当者は口笛を鳴らす。
「小学生のせりふとも思えませんな。エスパー女は子供の頃から淫乱だという証左ですな」
いかんいかんと言うように首を横に振る。
「これはおしおきですなあ。国民に審判を下してもらいましょう。淫乱なエスパー女は子供の頃からどう躾けるべきか?」
ポケットから携帯電話を取り出す。素早くボタンを操作し、どこかと接続する。
「こちらA班。準備完了。スレッドの状況は? 盛況? それは何より。こちらでもモニターしつつ、作業を進める。全体統括とスレッドの誘導は頼む」
そして男は携帯電話のブラウザを立ち上げ、薫に見えるように突きつける。
「さて、これが審判結果ですよ?」
それはどこかの掲示板で、リアルタイムにものすごい勢いで描き込みが増えていた。
テーマは「エスパー小学生を拉致ったけど、何する?」
カオスのような書き込みの数々。
>>小学生まんこ! ハメハメ!
>>エスパー少女に強制種付け!
>>ヤッちまえ! ヤラれる前に、ヤッちまえ!
>>おれたちノーマルのチンポはおいしいですか?と訊いてみたいカモ
>>楽しいレイプの時間です。
>>ほのぼのレイプ〜
>>エスパー女への判決? んなの決まってら
>>犯せ!
>>犯せ!
>>犯し尽くせ!
下品で無責任な文字の羅列に、薫は打ちのめされる。
これはきっとノーマルの大人たちが書いているのだろう。ふだんは物わかりがよさそうな顔をして、エスパーにも一定の理解を示そうとして……だが、匿名の世界ではこんなにも自分勝手でいやらしくて、欲望にまみれている。
薫はむしろ耐性がある方だ。人間には欲望がある。だから、それを無理に押さえつけるべきではないと思ってもいる。薫がオヤジ趣味なのも、自分の興味があることに対してストレートでいたいと思うからだ。
だが――これは、あまりに……
しかし、それこそが普通人の本音なのかもしれない。エスパーに対して抜きがたい劣等感と、その裏返しの攻撃衝動、征服への欲求――薫はこのとき、そこまで考察を進めたわけではない。だが、その書き込みの数々から救いがたい悪意の渦を感じたのは事実だった。
「さて、餓えたオオカミさんたちに燃料を投下しましょうかね」
男は、仲間に目配せする。その男は高性能なカメラを持っている。動画を撮影しながら静止画も撮れるタイプのものだ。しかも、カメラからネットワークに接続して、データをアップロードできる。
カメラマンが構える。
薫は、はっ、とする。スカートがない。上は制服をそのまま着ているので気づくのが遅れたが、下半身は下着だけだ。
失神しているうちにはぎとられたのだろう。薫の今日のパンツは何の変哲も無地の女児パンツだ。やや薄いピンクだが、ワンポイントさえない。
「ちょっ、ちょっ! これなし! こんなガキパンツ穿いているって見られたら困る! 家にはもっと可愛いのが!」
抵抗するポイントを間違っている気が薫自身もしたし、実際に家に帰って取ってくるわけにもいかないが、しかし、いずれにせよ間に合わない。
シャッター音のないままにスチルが撮られ、すぐさま転送される。
「ははは、すごい反応だ。薫さん、あなたなかなか人気ありますよ? やっぱり小学生は無地のパンツに限る、縞パンやレースつきは邪道……とのことです」
(縞パン!? レースつき!?)
薫は直ちに今日の出動前に確認した葵と紫穂の下着を思い出す。(日課なのだ)
「おまえらっ! 葵や、紫穂にもっ!」
「だから、別室で休んでもらっていると言ったでしょう。でも、これ以上進かどうかはあなた次第ですよ。どうしますか?」
ニヤニヤ笑いながら広報担当者は言う。
「あたしが、するから……絶対に二人に手を出すな」
薫は相手を睨みつける。
「約束はしません。いずれにせよ、あなたは抵抗できない。超能力を使ったら、ただ気持ちよさが倍加するだけですしね。ただ、暴れられても厄介ですのでね――善処しましょう」
「絶対だぞ!」
薫は無駄かもしれないと思いつつ、そう叫ばずにはいられない。葵と紫穂だけは守りたかった。皆本との約束もある――別れ際の。
『あたしたちが、もし、しくじったら、その時は――』
『わかってる。ぼくがすべての責任をとる』
皆本はうなずいた。思いつめた――だが真剣なまなざし。
(ちくしょう……このままじゃ……皆本との約束が……)
「じゃあ、おまたがよく映るように、脚を広げてもらいましょうかね」
男が指示を出す。
薫は自ら脚を広げ、股間をその視線にさらしていった。