第一部 はじまり
「はあ、はあ、はあ」
少女は息を切らせながら走っていた。背負ったランドセルがガシャガシャ鳴っている。マスコット人形がはげしく揺れる。
恐怖にこわばった表情のまま、眼鏡ごしに視線を後方へとむけた。
暗い帰り道、学校裏の林。でも、学校のすぐそばだし、危険なことはなにもない。
なにもないはずだった。
――だが。
おおきな掌が少女の肩にかかり、ぎゅうとつかむ。
「きゃあっ!」
ちいさな身体はかんたんにとらえられ、草の上に組み敷かれた。
「いやっ! やめてっ!」
六本の腕のうち二本が少女の肩をおさえ、二本が太股にまきついてその自由を奪った。スカートがめくれて、白いパンティがあらわになる。そのパンティに手をかけたのが残りの腕だ。三人がかりでの凌辱。
「やだあっ! おかあさあん!」
容赦なく腕は動き、パンティをはぎとる。
まったく発毛の気配さえない、少女の刻み目があらわになる。
「ああっ!?」
あおむけのまま動きを封じられた少女は涙でかすんだ視界にそれをみた。
闇にちかい空を背景に、あやしく光る三枚のカード。
その文様を見つめながら、少女の意識は薄れていった。
さくらはリビングでテレビドラマを見ていた。
そろそろ午後十時になろうかという時間だ。
玄関の鍵がひらく音がして、ただいま、という声が聞こえた。
「あ、おかえりなさい、おとーさん」
仔犬のようにさくらは玄関まで迎えに出た。
「あれ、おにいちゃんも一緒だったんだ」
「ああ、駅前で会ったんですよ」
靴を脱ぎながら、さくらの父親の木之本藤隆が言った。さくらの兄の桃矢はすでにスニーカーを脱ぎ捨てて上がってしまっている。
「あっ、おにいちゃん、ちゃんと泥とか落としてからあがってよ。夕方、ちゃんと掃除したんだからあ」
「お、すまん」
桃矢はすまし顔でリビングに入ってしまう。歩いたあとがわかるくらいに泥まみれだ。無造作に脱ぎ捨てられたスニーカーにも土と、草の種らしきものがくっついている。
「なんのバイトだったのお? 草むしりかなんか?」
「おまえにはカンケーないだろ」
声だけが聞こえてくる。テレビの音がかわって、スポーツニュースになる。
「あ、ひどいよ、おにいちゃん、ドラマみてたのにい」
その頭を藤隆の手がやさしくなでる。
「さくらさん、そこをどいてくれないとあがれませんよ」
「あ、ごめん、おとーさん……」
ふと、藤隆のスラックスの裾に目をとめてさくらは絶句した。
そこにも少量の土と、やはり草の種らしきものがついていたのだ。
「奈緒子ちゃん、今日おやすみなの?」
翌日、学校でさくらは友人の利佳と千春に話しかけた。利佳も千春もさくらとは仲良しで、奈緒子もふくめた面々でよく一緒に遊んでいる。
奈緒子はメガネがよく似合うおとなしい女の子で、すこし身体が弱い。だから、たまに学校も休むことがある。さくらは奈緒子の体調を心配したのだった。
「さくらちゃん……」
利佳は少し青ざめていた。千春もだ。教室のなかをちらちらと見まわして声をひそめた。
「知らないの? 昨夜の事件」
「事件?」
さくらはすっとんきょうな声をだした。教室にいたクラスメートたちが一斉にさくらたちの方を見る。みんな、興味津々といった顔つきだ。さくらはすこし気圧された。
「どうした……の?」
「ここじゃ話せないから……」
利佳と千春はさくらの手を引いて教室を出た。
廊下の隅で、人気がないことを確認してから、利佳が切り出した。
「あのね、奈緒子ちゃん、ゆうべ、変質者に襲われたんだって」
「ええっ!?」
さくらは大声をだした。だって、そんな。
「学校の近くの林で、奈緒子ちゃん、みつかったのよ。それで、噂にもなったみたい」
千春は涙ぐんでいる。
話によると、奈緒子は全裸で、ロープで縛り上げられたまま、放置されていたらしい。
「三人がかりだったんだって。口と、あ、あそこと、おし……に出された跡があったって」
さすがにすべては口にできず、利佳も口ごもった。
「ひどいよ……そんなの……」
さくらはあまりのことに声がかすれた。涙がこみあげてくる。
「……犯人は?」
「わからないんだって。奈緒子ちゃんも覚えていないんだって。でも、似たような事件がここのところ続いているって話よ」
「うそ……」
さくらは絶句した。
「みんな、お見舞いにきてくれたの?」
奈緒子は意外に元気だった。
まだベッドに寝たままだったが、顔色もいつもよりいいくらいだった。
「あの……奈緒子ちゃん……だいじょうぶ?」
放課後になるのを待ちかねて、利佳と千春といっしょに奈緒子の家にやってきたものの、さくらはどういう言葉をかけたものかわからなかった。
線のほそい子だ。ショックで自殺でもしかねない、とさえ心配していた。
だが、奈緒子は笑みさえうかべていた。
「平気よ。ぜんぜん」
「……ほんとに?」
「ほんとよ」
「ほんとにほんと?」
「ほんとにほんとだってば」
「ほんとにほんとにほんとお?」
「さくらちゃん、しつこいってば」
利佳に止められてしまった。
だが、さくらには信じられない。
「でも、奈緒子ちゃん、ひどい目にあったね。犯人はまだつかまってないの?」
千春が鼻をすんすん鳴らしながら言った。
「犯人? ああ――三人とも知っている人たちよ」
「ええっ!?」
さくらたちは全員声をあげた。
「だったら、すぐに捕まえてもらおうよ。ねえ」
奈緒子はかるく首をかしげる。まるでうつつから切り離されたかのような、ぼうっとした瞳。
「知っているんだけど、言えないの。思いだせないの。それに、ぜんぜんひどいことじゃなかったわ。すごくステキだったの」
「奈緒子ちゃん……」
三人はあっけにとられた。
「最初はこわかったわ。でも、目の前に三枚の黒いカードがただよっていて、気が遠くなって……目がさめたとき、あたし、裸だったの。パンツも取られてた。そして、三人ががりでエッチされて……すごく気持ちよかった……」
奈緒子の頬にぽおっと紅がさす。
眼鏡の奥の大きな瞳がこころなしかうるんでいる。
「奈緒子ちゃん、どうしたの!? へんだよ」
さくらは奈緒子の肩をつかんで、ゆさぶった。
奈緒子がさくらを見た。トロンとした眼だった。
「さくらちゃんも体験すればわかるわ。すごいのよ。おっぱいの先っちょをチュウチュウ音をたてて吸われると、頭の奥がじいんとしちゃうの。脚をめいっぱい開かされて、ワレメを指でひらかれるの。そして、その中もペロペロしてくれるの。すごいの」
くちゅくちゅと音がしている。
奈緒子の身体がもぞもぞと動いている。
利佳と千春は顔を見合わせた。
さくらは必死で奈緒子を正気に戻そうとしていた。
「どうしちゃったの、奈緒子ちゃん……」
「あのね、さくらちゃん、おしりの穴もさわってもらったの。なめてもらったの。すごくよかったの。ウンチが出るところなのに、そこにベロを入れてもらったの。そして、かき回してもらったの。だから、お礼にオチンチンを舐めてあげたの。すごく大きくて、お口にはいりきらないの。それでも、いっしょうけんめい舐めたわ。だって、すごくおいしいんだもん。男のひとのアレって。そしたら、とっても甘いジュースが出てきたの。ぜんぶ、のんだわ。精液。もっと、のみたい」
奈緒子は脚をけって、毛布をはねのけた。
「うそぉ」
利佳がのけぞった。千春が利佳にしがみついている。
「な……おこちゃん……」
「ああ、入れてほしいの。大きいのを、おまんことおしりに。お口にもほしいの。あれから、ずっとずっと、ほしくて、たまらないのぉっ!」
奈緒子の下半身はむきだしだった。膝をたてて、脚をひらき、腰をうねらせている。そして、両手をつかって、股間を自分で慰めている。
くちゅくちゅという音は、奈緒子が自分で粘膜をいたぶっている音だったのだ。
指を膣とアヌスに沈め、激しく動かしている。粘液があふれだしてきて、シーツにしみを作り出している。ずっと、ずっと、奈緒子はオナニーを続けていたらしい。
「奈緒子ちゃん……どうして? どうしてええ?」
さくらは絶叫した。