あずまんが大ヨE

ぬいぐるみ喫茶でGO!GO!GO!

3 大ピンチ!? 在庫切れを乗り越えろ!

 ゆかり先生発案の、ぬいぐるみお色気ぼったくり喫茶は大繁盛していた。

 飛ぶようにドリンクや軽食が売れた。

 値段は高いものの、際どいコスチュームの女子高生が隣に座ってくれたり、お酌してくれたりするのだ。しかも、巷間のキャバクラ嬢にはない初々しさがあるし、小学生かと見紛う女の子までいると来ている。

 ふだん、娘とは断絶しているお父さんたちにしてみれば、涙がでるほど嬉しい趣向だ。

「3番テーブル、ブランデーのミルク割りの追加と、ミックスサンドね!」

「6番テーブルにオンジエードハイと健康緑茶焼酎割お願い!」

「1番さんもミルク割り、よろしく!」

 厨房というか、教室の隅にある調理コーナーにはひっきりなしに注文が舞い込んでくる。特に、アルコールの匂い消しのためか、ミルクの消費量がはなはだしい。

「うわー、牛乳やばいかも」

 調理コーナーを仕切っていた暦が、紙パック容器の残量を確認しながら声をあげる。

「かおりん、智と大阪が外にいるから、買いにやらせて」

 封筒に入った仕入れ用の資金をおかっぱ頭の同級生に渡す。

「急ぎで頼む」

「わかった」

 かおりんがミニスカートをひるがえして、戸口に向かう。

 その時、新たな入店者とばったり出会った。

「いらっしゃいま……うっ」

 頭をさげかけたかおりんの動きが凍りつく。

「やあ、かおりん」

 片手をあげた長身の男は、かおりんの顔をじいっと見つめている。

「き……木村先生」

「いい出し物だね、実にいい……」

 木村は店内を見渡しながら、感に堪えぬようにつぶやく。

「おやっ、指名もできるんだね。じゃあ、かおりん、君を指名だ」

「えっ、ええ〜!?」

 凍りつくかおりんの肩を木村は抱えるようにしながら、席に向かう。

「あのっ、私、用があるんですけどっ……」

 細い声で主張しようとするが、木村はすでに聞いていない。

 そのころ、外では――

「あっち向いてホイしようか、大阪」

「ええでー」

「じゃんけん」

「い〜んじゃん」

「いんじゃんってなんだよ」

「えー、大阪ではいんじゃんってゆうよ?」

「いーじゃんって、ハマっ子か、おめえはよ」

「ゆわへん?」

「とにかくっ、じゃんけんっポンっ!」

「い〜んじゃ〜ん、ほい」

「あっ、大阪っ、後出しだ! でも、私の勝ち! あっち向いて、ホイっ!」

「ほーい」

「なんで、私の指が動いてから、しかも、そっちの方を向く? 勝負にならないだろ、それじゃ!」

「私な、隠しとったけど、あっち向いてホイ、弱いねん」

 と、漫才をしていたのだった。

**

「よみ、三番さん、ミルクセーキが遅いって、クレームが」

 ウェイトレスの一人が、顔を青くして暦に泣きついてきた。

 暦は小さく舌打ちする。三番テーブルにはさっきからうるさ型の客が三人連れで管をまいている。しかし、高額のオーダーをしているので、むげにはできない。

「ったく、智と大阪のやつ、いつになったら牛乳買ってくるんだ? かおりんも戻ってこないし」

 その暦の視界からは、大型ぬいぐるみの裏側に設置された一番テーブルにかおりんが拉致されているのは見えないのである。

「しょうがないな、私があやまってくる」

 ウェイトレスが片手拝みをしているのを横目に、ため息をつきつつ暦は言った。

 三番テーブルの客たちはかなりできあがっていた。ゆかり先生の策略で、意識的にアルコール度数を高めたせいかもしれない。

 もとは、生徒の父兄の真面目なおとーさんだったかもしれないが、今ではシャツの前もゆるめて、酔っぱらいモードに突入している。

「あの、ちょっと牛乳切らしてしまって……」

 暦は頭を下げた。

「なに? 品切れだ? いつの話だ? もう三十分くらい待たされてるんだぞ?」

「うんにゃ、一時間くらいだでない?」

「おれは一年くだいまっでるど、だはは」

 オヤジたちは、酒くさい息をまきちらしながらわめいた。

「切れてるなら、すぐにすみませんと言うべきだろう、責任者を呼べっ!」

「そうだそうだ、ソーダ水、なんちて」

「だはは、そうだとソーダ水をかけて……うまい!」

 うまくない。

 暦はうんざりしつつ、フロアの隅にいるゆかりに視線をやった。

 ゆかりはブロックサインで指示を出してくる。

「お、き、ゃ、く、さ、ま、に、さ、か、ら、っ、ち、ゃ、だ、め、!」

 しょうがない。暦はもう一度頭を下げる。

「本当に申し訳ございませんでした」

 その姿勢になると、ユニフォームの胸の谷間が強調される。男たちは、暦の胸元を凝視した。

「ほ、ほんとうに反省しているんならな……あ、あんたのミルクで勘弁してやるぜ」

 男の一人が、ひっつれた声を出した。

「はあ!?」

 暦は大声を出す。

 男たちの顔に興奮のふるえが走る。酔いの力をつかって、常識の枠を破壊し、日常から非日常の世界へとダイブする。

「あんたのおっぱいだよ。そんなにでかいんだ。乳くらい出るだろうがよ」

 男たちの声が引きつれる。

「出るわけないだろう!」

 暦が怒声を放つ。そりゃそうだ。

「おっぱい〜」

「ミルクのませろ〜」

 酔漢が暦に近づいてくる。こういう輩が飛行機を強制着陸させてしまうのだろう。

「冗談じゃない!」

 暦はその場から立ち去ろうとした。

 だが、その暦を背後からはがいじめにする悪の力が存在した。

「先生!?」

「だめよ、水原さん。お客さまのリクエストにはちゃんと応えなきゃ」

「あのねぇ」

 暦は拳を握りしめる。

「知らないの? 適度なバストへのマッサージは身体の引き締め効果があるのよ? ダイエットにもいいんだけどなあ」

 暦の目がレンズの向こうで光る。

「マジ?」

「マジよ、マジ!」

 ゆかり先生が軽々しく保証しつつ、暦の制服の前のボタンを外していく。

 男たちが、おおお、とおめきつつ、暦を取り囲む。

「はぁい、お客さま、並んで並んで! あわてないで! 現役女子高生・水原暦さんの生乳は、特別料金五千円ですよ!」

「払うっ!」

「払うぞぉっ!」

 新渡戸稲造があちこちで舞う。

「ちょっ、ちょっ、まだ心の準備が」

 暦は慌てる。だが、ゆかりの手は、すでに暦の前をはだけて、ブラにかかっている。

 ぐいっ!

 ブラが上にずらされる。ブラのカップに抑圧されていた暦のバストが解放され、ぶるんとこぼれでる。

「わっ! わわっ!」

 思わず手で隠そうとするが、ゆかりがそれを許さない。

「水原さん、ダイエット、ダイエット」

「うう……」

 暦は目を閉じた。接近してきた男の下卑た表情にたえられない。

 乳房がつかまれる。大きな、あたたかい掌だ。ぐんっ、と膨らみが持ちあげられる。

「でっけ〜」

 男が声がうわずっている。

「乳首もきれーだな、さすが、女子高生」

 きゅっ。

 乳首をつままれた。こねられている。

 ちょっと、痛い。

「はいはい、おさわりはそこまで。女の子の胸はデリケートなんですからね」

 ゆかりが注意する。そのへんの口調はさすがに現役教師。説得力がある。

「じゃあ、吸わせてもらいまぁす」

 男が宣言した。暦は乳房を下から持ち上げられ、そして、乳首がなにか温かいものに包まれるのを感じた。

「あっ」

 思わず声が出てしまう。

 乳首を吸われている。

 ただ、文化祭の模擬店にやって来ただけの、見ず知らずの男に、だ。

 ちゅう、ちゅう、ちゅう――

 暦はまぶたをそっとあげる。

 自分の父親と同じかそれよりも年配の男が暦の胸に吸いついている。ぶあつい唇がもぐもぐと動いて、そのたびに乳首を未知の感覚が襲う。

(おっぱい、吸われてる……ホントに吸われてる)

 混乱と動揺が暦の意識をゆるがせる。

 当初感じた違和感と嫌悪感は、くすぐったさの入り口を経て、今はべつの様相を取り始めている。

 心臓が苦しい。マラソン大会の比ではない。これは、ほんとに――効くかもしれない。

「水原さん、おっぱいはふたつあるのよ」

 ゆかりが背後から囁きかける。

 暦は自分の前に男たちが列をなしつつあるのに気づく。

 暦は自分の手で、空いている片側の乳房を握りしめ、こねた。乳首に触れてみる。

 吸われていないほうの乳首もみるみる勃起していくのがわかる。

 声がうわずるのを自覚しながら暦は列の先頭の男に声をかけた。

「次のお客さま……どうぞ……」

 男はよだれをたらさんばかりになって、暦のバストに食らいつく。

 二人だ。同時に暦の乳房を賞味している。

 やりかたはそれぞれちがう。

 一人はやわやわと揉みながら、ひたすら乳首を吸っている。まるで、乳を絞り出そうとしているかのようだ。

 もう一人は、吸うよりも、舌をからみつかせて、ぴちゃぴちゃと音をたてつつ、唾液をなすりつけてくる。

 いずれも、おいしそうにしている。暦は不思議に誇らしい気分になる。同時に、ぞくぞくと気持ちよさが背筋を這いのぼってくる。

 きゅりっ、左側の乳首をくわえた男の歯が食いこんでくる。痛みとともに、煙草くさい唾の匂いが暦の鼻腔に届き、暦はなぜかくらくらした。

「噛まない、で……くふっ! やはあっ!」

 暦は中年男に乳首を嬲られながら、身体をのけぞらせ、声を放った。

 男たちの手が暦のヒップにまわってくる。二人の男の手がたがいに牽制しながら、自分の領分を確保して、尻の山をなでる。

「ああ、だめよ、お客さん。そっちは別メニューだから」

 ゆかりは笑みを含んだ声で言う。

「でも、水原さんも調子でてきたみたいだから、メニュー追加も大丈夫そうね」

「新メニュー!?」

 並んでいた男たちが色めきたつ。

「そう。今度は女子高生特製のシロップよ。おひとり一万円!」

 ゆかりの言葉に男たちは「うおおお」と唸り、こんどは福澤諭吉が宙を舞った。