あずまんが大ヨE
ぬいぐるみ喫茶でGO!GO!GO!
「え〜、2年3組のおとぎの茶店で〜す」
「かわいいぬいぐるみとウェイトレスさんがおるで〜」
けっきょく、智と大阪が外で呼び込みをやることになったようだ。
ふたりして、胴間声を張りあげる。
「お金持ち大歓迎〜」
「ぼったくりやあらへんで〜」
言うな、大阪。
「あら、あんたたち」
通りかかったみなも先生が、ふたりの珍妙な呼び込み隊に声をかける。
「あ、にゃもちゃん」
「敵の総大将や」
大阪が屈託なく言う。みなもは首を傾げた。
「え?」
智が大阪を肘で小突く。
(バカだな、大阪。警戒させちゃだめじゃん)
(あ、そーやったー)
偏差値も同程度の二人が顔をつきあわせてヒソヒソやっている。
だが、人の善いみなもはそんな二人に気づかず、3組の飾りつけに見入っている。
「へー、凝ってるじゃない。調子はどう? お客さん入ってる?」
(ほら、やっぱり偵察にきたんだ)
(スパイやな?)
「お茶でも飲んでいこうかしら。売り上げに貢献してあげるわ」
その言葉に智と大阪は動揺する。
(ど、どういうこと!?)
(もしかしたら、あれちゃう? ある程度、稼がせといて、後で総取りってゆう……)
(そ、それだ!)
「――どうしたの?」
みなもは、自分のことを物凄く複雑な表情で凝視している女生徒たちを覗きこんだ。
「あ、先生」
教室内から着ぐるみちよが、よたよたと出てきた。
「うわー、かわいー」
みなもの目が丸くなる。
「どーぞ、お茶でも飲んでいってください」
「うん、そうする。ゆかりは中?」
ペンギンちよにいざなわれ、みなもが教室に入っていく。
(あ、スパイされてまうで、ちよちゃん、とめな)
(しっ、ちよちゃんのことだ、きっと策があるにちがいない)
(そうか、捕らえて逆に相手の情報を訊きだすとか)
(洗脳してカウンタースパイにするのかも)
(さすがや、ちよちゃん……)
と、バカふたりはいつまでもヒソヒソ話を続けていたりした。
てゆうか、仕事しろよ。
「へー、盛況ねえ」
教室内を見渡して、みなもが感心したような声をあげる。あちこちにぬいぐるみが配置され、飾りつけもファンシーだ。それに、ウェイトレスのユニフォームも猫耳帽子で統一されている。
「でも……なんか……違和感が」
みなもの表情がわずかに曇る。
どうも、客層が店の内装と乖離しているような気がする。ぬいぐるみとは無縁そうな年齢の高い男性ばかりだ。要するに、オヤジ系しかいない。それに――
「えーと、なんになさいます?」
ちよが注文をうながした。
「そうねえ……」
みなもは卓上のメニューを取って、品目を目で追う――とその表情がかたまる。
「この、ワンドリンク三千円ってなによ? 税・サービス料別? サービス料って」
「それは……ゆかり先生が……」
ちよがもじもじする。
みなもはもう一度教室内を見回して気がついた。
店内で働いているのは女生徒だけだ。男子生徒はすべて裏方に回っているらしい。しかも、女生徒のウェイトレスたちのスカートはひざ上15センチ――もっといっているかもしれない。ちょっと歩くたびに、下着が見えそうなほどだ。
さらには、客の席に付いて、お酌っぽいことをしていさえしているではないか。
みなもは席を立った。
「ちょっと、ゆかり! こっち来なさい」
みなもは声は高くして、教室の隅でフロアマネージャよろしく各員に指示を送っていたゆかりを呼びつける。
「あら、にゃも、いらっしゃい」
客商売らしい満面の笑みを浮かべて、ゆかりがやってくる。みなもはその耳元に口を近づけて、低く、だが強い口調で言った。
「あんた、いったいなに考えてんの!」
「あら、ニーズに応えるのがサービス業の鉄則よ。生徒たちもそうやって資本主義のなんたるかを学ばないと」
「あのね、こんなことバレたらやばいわよ」
その時、ひとつのテーブルについた客たちがバカ笑いをあげた。そちらを見やったみなもはあっけにとられる。
「校長……それに、PTA会長……?」
ゆかりの方に視線を戻すと、勝ち誇った表情のゆかりと目が合った。
「まー、今日は無礼講ってことで、いいじゃない。ここは私がおごるわよ」
みなもはゆかりに席に押し戻された。ちよがドリンクを運んでくる。カルピスのような白色の飲み物だ。
みなもは眉をしかめながら、飲み物を口にする。その眉間が開く。
「あら、美味しい」
「でしょ? 特別製よ」
にっこり、ゆかりが笑う。と、ちよに顔を向ける。
「ちよちゃん、七番テーブルにお願いね。指名が入ってるから」
「あ、はい」
とたとたとペンギンの着ぐるみがテーブルに移動する。
待っているのは、ひょろっとした眼鏡の中年男だ。アニメの柄の入った紙袋を傍らに置き、首からはカメラをぶらさげている。
それを訝しげに見送りながら、みなもはグラスを飲み干した。
「いい飲みっぷりじゃない。おかわりあげるわよ」
ゆかりに勧められるままに、二杯目に口をつける。
「――もしかして、ゆかり、これ、お酒はいってるんじゃ……」
その時、ほかのテーブルで客たちがまた下卑た笑いをあげた。明らかに酔客っぽい。
みなもの表情が、やられた、という形に変化する。飲んだ状態で、学内をうろつくわけにはいかない。
「ほらほら、毒をくらわば、って言うじゃない」
ゆかりが意地悪い表情で言った。