流れるプールでぷかぷか。浮き輪につかまって、こうしていると、なんだか眠りたくなってしまう。
傍らには美耶子がいる。不機嫌そうだが、おれから離れるのは不安なのか、ぴったりくっついている。
美耶子のクラスメートたちもすぐ近くにいる。ビニール製のいかだを浮かべて、それにつかまって、バタ足をしたりして遊んでいる。
品のよさげな男の子がやっぱり窪塚くんで、イモっぽいのがイッペーだった。ユカちんというのはツインテールのちょっとおしゃまさん風で、フキタさんは勉強ができそうな感じ。この二人はどうやら窪塚くん狙いらしく、さっきから二人して窪塚くんの隣のポジションを競り合っている。だが、窪塚くんはあまり乗り気でない様子で、さっきからしきりに美耶子のほうを気にしている。おれと美耶子が接近しすぎているのが気に入らないらしく、たまにおれに非難がましい視線を向けてくる。
くくく。なんかかわいいなあ。
「おい、みんなといっしょに遊んできていいんだぞ?」
おれは、半ば目をつむりながら美耶子に話しかける。美耶子は唇をとがらせた。
「そんなの、行けるわけないでしょ」
「あの窪塚っての、彼氏?」
「ちがう」
「でも、おまえのほうばっかり見てるぞ。たまにおれのこと睨んでくるし」
「そんなこと……ないって」
声が小さくなる。おれはニヤニヤと笑う。
「おまえ、けっこう男子にもてるんだな。女子には嫌われてそうだけど」
「うるさい」
まあ、黙ってれば美少女といってもおかしくはないしな。性格にはかなり難があるとはいえ。
ばしゃばしゃばしゃと水音がして、誰かがクロールで近づいてくる。おれたちの浮き輪の手前でぷはっ、と顔をあげたのは、噂の窪塚くんだ。
「蕗田たちがうるさいから、逃げてきた」
美耶子に白い歯を見せる。次いで、おれのほうに視線をあわせて、ちょっと目礼する。おれは寝たふりをしている。
薄目をあけて、小学生グループを見ると、窪塚がいたポジションにイッペーがちゃっかり入っていて、女子にさかんに話しかけているが、どうやら無視されているっぽい。なんか同情するなあ。がんばれ、イッペー。
「ひさしぶりだね」
窪塚くんが美耶子に話しかけてくる。美耶子は微妙に視線をそらす。
「夏休みだもん」
「今日は、妹は一緒じゃないんだ?」
「一緒に来てるけど、はぐれた」
「そうなんだ」
美耶子のそっけない返事に少年は困ったように微笑する。美耶子のやつ、もっと愛想よくすりゃあいいのに、照れてんのか?
しゃあないな、お兄さんがとりもってやろう。
「窪塚くんだっけ――きみ、うちの美耶子と、どういう関係?」
おれは目をあけるなり質問する。「うちの」ったって、べつにおれは美耶子の血縁とかではないんだが、まあ雰囲気で。
窪塚くんが目を丸くする。美耶子があうあうと口を動かして無言で猛烈に抗議。窪塚くんの前でなければキックくらってるな。
少年の顔にためらいと――それから静かな決意のようなものがひらめく。なんとなく、剣道の試合でたがいに蹲踞の姿勢をとった時の表情を思わせる――ような。ちょっと難しい比喩だったかしらん。
「クラスメートです――まだ、いまは」
まだ、いまは、ね。ガキのくせに持ってまわった言いかたをするやつだなあ。
「てことは、まだつきあってはいない?」
少年の顔が赤くなる。美耶子の顔もそれにシンクロする。信号機のようだ。
「告白は? なんか、したっぽいな」
美耶子が水面下で小刻みなパンチ。痛みをこらえておれは少年に笑いかける。
少年はためらいながらうなずいた。
「一学期の……終業式の日に」
へえ、いまどきの小学生はそーゆーのもやるんだ。おれのときはまだ楽勝でスカートめくりとかしてたけど。
「美耶子の返事は?」
ぐぼ、とコークスクリューのきいたパンチがみぞおちに。ムカつくので、美耶子の身体を脚で拘束。顔はむろん、穏やかなままだ。なにしろ恋のカウンセラーだからして。
水面下の暗闘に少年はまるで気づいていない。ゆだったタコのように顔を火照らせて、浮き輪にのの字を書いている。
「その……返事はもらってないデス」
「そりゃあいかんなあ、美耶子。ちゃんと返事してやれよ」
美耶子はなにか言いたげに口をひらきかけたが、いつもみたいに「だまれ、遊一、このクソ野郎!」などの罵詈雑言は発声できないようだ。意外にこいつ内弁慶なんだな。
「まじめそうで、かっこいい男の子じゃないか。美耶子にはもったいないくらいだ」
おれは美耶子の胴をはさみつけながら、笑いかける。美耶子も笑いかえす。かなり引きつっておるな。
「お、おにいちゃんには、関係ないで、しょ?」
「関係がまったくないわけじゃないだろ? いちおうひとつ屋根の下で暮しているんだし、妹みたいなもんだ」
おれは片手を水中におろし、美耶子の胸のあたりをまさぐった。
「またまた、おにいちゃんったら……」
笑顔はそのままに、視線で「コロス」のサインを送ってくる。むろん、圧倒的に優位な立場にあるのはおれのほうだ。無視して、乳首をつまむ。
「お、お兄さん」
思いつめたように窪塚くんが話しかけてくる。どうやらおれを味方と認識したらしいな。
「ぼく、まじめに交際を申し込んだんです。ほんとうです。でも、宇多方さん、男子にすごく人気があるから――」
「ほほう……そうなんだ」
乳首クリクリしつつ、美耶子を覗きこむ。美耶子が顔を赤くしているのは照れのせいか、それとも乳首を刺激されているからか――どっちかな?
「だれか好きなひとがいるのかって聞いたら、『いる』って言われて……何組のやつか訊いても教えてくれなくて……でも、つきあっているわけじゃないらしくて……返事はけっきょくもらえなくて……」
おうおう少年、悩んどる悩んどる。かわいいなあ。
それにしても、美耶子のやつもなかなか男心をもてあそんでいることよ。
「おい、美耶子、好きなヤツって誰なんだ? 窪塚くんじゃダメなのか? おまえ、ぜいたくだぞ?」
刺激を続けたせいで大きくなった乳首を指先で弾きつつ、おれは美耶子に問いかける。美耶子はもの言いたげに口を開いては閉じ、最後に小声でバカ、と言った。ムッカー、だれがバカだ、だれが。頭にきたのでストレートにいじめてやることに決定。
おれは美耶子の脚の間に指を入れた。むろん、直に股間に触れる。
「あ……っ」
美耶子が声をあげる。いやいやするように脚をバタつかせるが、傍からみていれば、水中でバタ足をしているようにしか見えないし。
クリの位置を指で確かめながら、強めに指を動かした。
「やんっ、ゆうい……」
美耶子は声を途中でのみこんだ。なにしろ、五〇センチたらずのところにクラスメートの男の子がいるのだ。
「どうしたの、宇多方さん」
「な、なんでも……ない」
平気をよそおう美耶子の急所をさらにくすぐる。美耶子は顔の下半分を水につけて、ぶくぶく息を吐く。声を出すまいとしているのだ。
「窪塚くん――美耶子と交際するとしたら、どんなふうにつきあっていくつもりだい? 保護者のかわりとして、気になるな」
「えっ……あっ、はい……それは、いっしょに勉強したりとか、映画に行ったりとか」
しゃちほこばって少年は答えた。なんだか面接っぽくなってきた。窪塚という少年はきっと優等生で、大人から可愛がられて来たんだろうな。世の中には邪悪な大人もいるってことを認識していないらしい。くすくす。
「ほんとうにそれだけかい? すぐ手をつないだり、キスしたりするんじゃないのか?」
おれは美耶子のむき出しの性器に指をこじ入れながら質問する。美耶子はもう暴れる余裕もないらしく、浮き輪にしがみついて声を殺している。
「きききき、キスだなんて、そんな――ぼくら、小学生ですし」
「今時の小学生は早熟だっていうからねえ。きみだって、体育の着替えのときに、美耶子のことを盗み見たりしているんじゃないの?」
「そそそそ、そんなことは……」
美耶子の隘路がおれの指を締めつけてくる。濡れて、熱をおびてきている。反応しているのだ。おれが指摘したとおりだ。最近の小学生、ませすぎ。
「でも、美耶子がそういうことをしたいって言ったら、どうするよ」
――と言いつつ、美耶子の入口をこじあける。美耶子は脚を水中でゆるやかに広げている。力がもう入らないみたいだ。
「ええええ、そんな仮定は……」
窪塚くんはうろたえて、美耶子を見る。美耶子はうるんだ眼でぼうっとしている。その表情を窪塚くんがどう理解したのかはよくわからないが、さらに落ち着きをなくしたことだけは確かだ。その間におれは美耶子と下半身を接触させる。浮力のおかげで、けっこうむりなく腰を重ねることができる。水泳パンツはちょっとずらすだけでいい。
「なあ、美耶子もけっこうそういうのに興味あるんじゃないのか?」
片手で美耶子の腰を抱き寄せる。そりかえったおれのペニスを美耶子の股間にあわせる。
「どうなんだ、黙ってたらわかんないだろ?」
入口にペニスをあてがう。美耶子がぴくんと反応。
「き、興味、ある……かも……」
ふだんはもっと時間をかけてほぐさないと膣には入らないのだが、今日はずいぶんすんなりだな。水のおかげか?
「あんぅ……くぅ……」
「ど、どうしたの、宇多方さん」
美耶子が突然身体を震わせたのに驚いて、窪塚くんが声をあげる。
と、流れるプールが激流ゾーンに入った。激流といってもたかがしれているが、波発生機の働きで上下のうねりが発生する。周囲の子供たちの嬌声がさらに大きくなる。美耶子も叫びだした。それは、上下動のおかげでピストン運動が発生したからなのだが。
でも、これはなかなかいい具合だ。衝きあげてくる波動が身体をつきぬけていく。上昇と下降、そして横揺れ――それらが絶妙の密着感をあたえてくれる。
「んあっ! あふぅ――いひっ!」
美耶子はもう声をこらえられないようだ。浮き輪にしがみついて、身をよじっている。窪塚くんは口あんぐりだ。
「どうしたの、宇多方さん、気分でも悪いの?」
心配して、美耶子の手をつかむ。いまの美耶子はもう夢中だから、窪塚くんの手にすがりついてしまう。
「う、宇多方さん?」
まぶたまで朱に染めて、窪塚くんがうろたえる。嬉しいような怖いような――どうしたらいいのかわからず、ただ美耶子に引きずられて水中に沈むまいと浮き輪だけは手放さない。
おれはといえば、美耶子を抱えて、腰をまわしている。なにしろ、水中では足場がないので、自力ピストンができない。そのもどかしさが気持ちよかったりもするのだが――
美耶子が窪塚くんにだきついて、あえいでいる。その美耶子の中におれは挿入している。激しい波の上下動に翻弄されて、おれのペニスが美耶子のなかで暴れまくる。抜けないようにするのがせいいっぱいだ。
「ああっ、もう、だめぇ……だめっ……んくううううっ」
美耶子は苦しげに声を放ち、反射的にすぐそばにあった唇に吸いついた。
「むぐっ!? んうう?」
窪塚くんが目をぱちくりさせる。告白した相手に抱きつかれてキスされたのだから、そりゃあ驚くだろう。
声はおれたちの後ろでも発生した。ビニールいかだにつかまっていた美耶子のクラスメートたちである。
「美耶子ちゃんが――」
「窪塚くんに――」
女の子たちが悲鳴をあげる。
だが、美耶子はそれどころではない。おれもそうだが。
美耶子の身体の奥に挿しこんだペニスが爆発する。こんなパブリックな場所で、まわりをたくさんの人に囲まれて射精したのは、いかにおれでも初体験だ。
美耶子の中にたっぷり放出してからペニスを引き抜く。だが、あわてていたので、射精のなごりが亀頭から糸を引いて流れ出す。
精液の塊が水中を漂う。むろん、回収する方法はない。
波のしぶきとともに、おれの精液が、後続の女の子の顔を直撃する。
「いやーん、なにこれ、鼻水ぅ?」
などという悲鳴が聞えてくる。おれはなにくわぬ顔をして、ペニスを水泳パンツのなかにしまった。
ただちに脱出。
小走りに走りながら、美耶子は股間からたれてくる精液に四苦八苦していた。しかも、水中でいろいろやったので、マジックが一部落ちていた。途中ですれちがった人々のうち、何人かが表情を変えたから、ちょっとバレてしまったかもしれない。
なんとか脱衣所裏にもどり、後始末。そして美耶子の怒濤の蹴りがおれを襲った。
「なんてことすんのよ、ばかばかばかっ! 遊一のアホっ! 変態っ! 犯罪者っ! 信じられない信じられないなに考えているのよぉっ!」
「でも、おまえも気持ちよかっただろ?」
「それはそうだけど……じゃなくてっ! それに、どーしてくれんのよ、窪塚くんに……キス……しちゃったじゃない!」
そういえば、窪塚くん大丈夫かな。美耶子にキスされたあと、鼻血を出して医務室に運ばれていったが。まあ、いきなりディープキスだもんなあ。小学生には刺激が強すぎたんだろう。
「いいじゃないか。つきあえば。目撃者もいるし、こりゃあ公認カップル誕生ってやつだ」
おれの言葉に美耶子は傷ついたような表情を浮かべる。
「遊一はそれでいいの? あたしがほかの男とつきあっても――」
「もちろん」
ニヤニヤ笑いながらおれは答えた。
「いいわけないだろ、ヴァーカ」