エレクトリック・マッサージ! って言うとなんか全然技っぽくないけど。
電気あんま。
おれは気恵くんの脚の間に右足を突っ込んだ。柔らかい気恵くんの股間を小刻みにキックする。
「あ、あ、あ、あ、あ!?」
声が震えている。
小ぶりな乳房をぷるぷる震わせて、気恵くんが上体をひねっている。なんとかして電気あんまの攻撃から逃れようとしているのだが、おれもかんたんには離したりしない。
正直いって、おれは電気あんまについてはかなりのテクニシャンだ。美耶子相手に毎日のように練習を繰り返しているということもあるが、どうもおれの足にはいい感じのバイブレーションの神が宿っているらしいのだ。
「やややめめめてててえええっ」
気恵くんがビブラートのかかった悲鳴をあげる。
「ぎぎぎぶぶぶあああっっっぷぷぷすすするるるうううう!」
「気恵! こんなことくらいで参ったするのか!? キューティ鈴木の霊にどう言い訳するつもりだ!?」
まだ死んでないけど。
気恵くんの顔にまた闘志が宿った。いい顔だ。
躍り食いに供される海老のように激しく身体をひねり、その反動でおれの身体を一回転させる。藤原組長の全盛期を思わせる見事な返し技だ。
顔からふとんに落下したおれの髪を気恵くんがつかんだ。
「このやろぉぉぉぉっ!」
女子プロっぽいかけ声だ。
おれの腕をつかんでロープに振る――といってもロープなんかないから壁に激突する。後頭部を打ってふらふらと膝をついたところに、おれの膝をジャンプ台にしてのニーアタック! シャイニング・ウィザードだ。たぶん前歯だと思うが、白いものが視界を舞う。
かなり痛い。だが、声も出ない。視界もおぼろだ。
「おらおらおらおらぁ!」
こんどはコブラツイストだ。あばらに肘をぐりぐりとこすりつけるオプションつきだ。骨がミシミシと鳴る。
「とどめだああ、ばかやろぉぉぉぉっ!」
気恵くんの怒濤の攻めのクライマックスは抱えあげてのジャンピング・サイド・スラム――いわゆる秘技・エメラルドフロウジョンだ。
受け身もとれないままに敷きぶとんの上に叩きつけられる。
そのまま気恵くんがかぶさってくる。カウントが入る――ワン・ツー・スリー!
ゴングが打ち鳴らされる。やりました、気恵選手、デビュー戦を鮮烈な白星で飾りました――って、おれなんで実況してるんだろう、失神してるのに。
「ありがとう、遊一……やらしいことをいろいろしてきたのも、ぜんぶわたしに本気を出させるためだったんだね」
おかげさまでコルセットと包帯に身体を固定され、身動きもできなくなったおれのところに、気恵くんが見舞いにやってきた。
鼻のあたまに絆創膏を張っている、まるで男の子のようなヤンチャな感じがする。ものいえぬおれの視線に気づいてか、気恵くんは照れたように絆創膏を貼った部分をかいた。
「これ? 入団テストでちょっとすりむいちゃって。でも、筋がいいってほめられたんだよ。入団は中学卒業まで待てって言われちゃったけど、練習生としてなら合格だって」
そりゃあよかったでやんすね。
おめでとうと言ってやりたいのだが、なにしろ歯が折れたりアゴが外れたりアバラにヒビが入ったり肩を脱臼したりしているので、なんとも言ってやれないし手を握ってやることもできない。
それでも、まあ、目の前で気恵くんが屈託なく笑っているところを見たら、痛みなんて吹きと……ぶわけねえだろっ!
くあああっ! プロレスなんか大っきらいだぁっ!