うたかたの天使たち 外伝

美耶子のお仕事シリーズ Part5

 「びっちな美耶子の一週間!」

  

 [火曜日] てんまのめんま(バラエティ)

 バラエティの収録はドラマとはずいぶん雰囲気がちがう。

 ドラマは監督(ディレクター)のものだが、バラエティは司会者のものだ。

 司会者がすべてを支配する。ゲストをどういじるかも、司会者の技量次第だ。

 その番組は放送開始から二十年間、トークバラエティとしてはトップクラスの人気を保っている。関西出身の大物コメディアン・白馬亭(ぺがさすてい)てんま師匠が仕切っている「てんまのめんま」だ。

 美耶子をゲストに、というのは広告代理店側からの熱烈なオファーだった。「てんま師匠がぜひにと」と言ってきた。そういえば喜んで応じると先方は思ったかもしれないが、美耶子は女優であってタレントではない。タレントを別に低く見ているわけではなく、「演技」をしない素の美耶子は単なるおバカな小学生にすぎない。タレント的な当意即妙のトークなど望むべくもない。なので断った。

 だが、向こうは執拗で、ついには窪塚プロデューサーまで動かしてきた。芸能界での美耶子の後見人とも言える窪塚氏に頼まれたらさすがに断れない。

 美耶子自身は、「わお、めんまちゃんに会えるやン」などと怪しげな関西弁で喜んだ。めんまというのは番組のマスコットの着ぐるみキャラだ。

 そんなわけで収録に臨んだわけだが。

 初っぱなからてんま師匠はトバしてきた。

「小学生でエッチしてるんちゃうん、じぶん、めっちゃエロいな!」

 さっそくのぶっちゃけエロトークだ。

 この国のテレビの「常識」では、初潮前の少女にペニスを入れても性交とはみなされない。まあ、そんなわきゃあないのだが、テレビで「パチンコは賭博だ」とは口が裂けても言えないのと同じことだ。

 そのために、その手の質問はマナー違反といえる。もちろん、事前に申し入れ済みのNGワードにも含まれている。

 だが、この番組は、プロデューサーもディレクターも、てんま師匠のイエスマンにすぎない。誰も止める者がいない。

 すべては、てんま師匠の思うがままだ。

 てんま師匠は、UNDER12のアイドルがお好みらしく、ツイッターでも美耶子をはじめとするジュニアアイドルに粘着していて、気持ち悪い書き込みを繰り返していた。それもあって、美耶子を出演させるのは気がすすまなかったのだ。だが、てんま師匠が大手広告代理店に強く働きかけ、それが窪塚プロデューサーに波及し、どうしても断り切れなくなってしまった。大物タレントの横車、おそるべし、である。

 そうして出演させたら、このざまだ。

 生放送にもかかわらず、てんまは美耶子に性的な質問を連発する。

「おっぱいとかペッタンコやろ? ちょっと見せてみい」

「いままで、何人くらいとエッチしたん?」

 さすが、「セックス」を「エッチ」という言葉に置き換えることで、ゴールデンのバラエティ番組で下ネタを成立させただけのことはある。イヤらしい質問を巧みにぶつけてくる。

 対する美耶子も、

「オッパイですか? はい!(チラッ)」

 とか

「てんま師匠は今まで食べたパンの数覚えてますか?(にこっ)」

 などと切り返す。いや、真っ向から答えてしまっている気もするが。

「なんやそりゃ、ビッチやんけ、ひゃっひゃっひゃっ! じぶん、そないにエッチ好きなんか?」

 てんま師匠はご機嫌だ。

「好きかどうかはわからないけど、お芝居で必要なことは全部やりたいんです」

「でも、感じてるんやろ? ドラマでも毎回、潮ふいてるやん」

「あ、見ててくださるんですか! うれしーです(にこっ)。えと、感じてるとか、演技に入ったら夢中になっちゃうから、よくわかんないですー」

「いままで、エッチして一番気持ち良かった男優は?」

「ゆーいち!(即答)」

「だれやそれ! おい、だれやねん、それ!」

 そこで、てんま師匠はしばし荒れて暴れだす。

「ゆういち」が「おにいちゃん、だいすき!」での兄役の名前であることがわかり、てんま師匠は少し落ち着いた。

 実際はおれのことだが、役名のことにしておかないとおれがタイーホされるからな……未成年とプライベートでセックスするのは、今でも違法なのだから。でも、これでドラマで「ゆういち」を演じた亀垣がまた増長するな。これまでの美耶子の無邪気な発言により、「ゆういち」は子役相手のベッドシーンが巧いという評判がたち、いまや押しも押されぬ演技派俳優として活躍しているのだ。

 てんま師匠のセクハラトークで十五分、後半の十五分はてんまのゴリ押しで、美耶子はパンツ一丁でてんまの膝の上に乗せられることになった。「ドラマ撮影の再現」というていで。

 ゴールデンのバラエティで女児の裸が放送されたばかりでなく、てんまは美耶子にヘビーペッティングをおこなった――ただし、それでもテレビコード上は問題ない。セックスではないから。

 胸を両手でさすりながら、

「ほんまぺったんこな乳やなあ」

 とからかう。この場合は、文字通り、イジっているというべきか。

 それに対して美耶子は、

「だって十歳ですもん」

 と返しつつ、ちょっと唇をとがらせる。

 まあ、同年代の子より発育はちょっと遅いかもしれない。だが、多少の膨らみはあるし、美耶子の肌は絹のようになめらかですべすべだから、手触りはいいはずだ。

「先っちょ、かたくなってるやんけ」

 指で、乳首をくりくりする。たしかに、勃起している。

「だ、だって、師匠がさわるんだもん……えっち」

「子供の乳首やぞ? エッチなことあるかい。こんなん、ただのスキンシップや」

 言いつつ、てんま師匠の顔はだらしなく歪み、さらなる好奇心に駆られたようだ。

「で、パンツのなかはどないなっとんねん?」

「え、えええっ!? パンツもぉ?」

 うろたえる美耶子の反応に、さらにてんまは興奮し、美耶子のパンツに手をかけた。

 美耶子は絶妙な身のこなしで、カメラ的にいちばんおいしい、「かわいいおしりがつるん」と出る絵を作り出す。

「やだああ、もぉおお」

 と言いつつ、てんまの腕のなかですっぽんぽんにされた。

 おそらく視聴率はぐんぐん上昇中だろう。子役タレントの全裸はもう珍しくないが、てんま×美耶子の組み合わせはインパクトがある。

 てんまは自分の膝の上で美耶子を開脚させた。

「なんや、自分、めっちゃ濡らしてるやんけ」

 美耶子の性器を指で広げ、クリトリスをいじくる。

 全国放送で、公開される美耶子の性器。

 てんまはカメラに接写を命じ、膣口に容赦なく指を出し入れする。

 それでも美耶子は気品を失わない。

「はぁ……あ……てんまさん、じょおずぅ……」

 相手を立てることも忘れない。

 問題は、てんまがその気になって、おっ勃ててしまったことだ。

 番組終了間際になって、興奮のあまりズボンを脱ぎ始めた。ペニスを露出させる。

 くどいようだが、大人の性器は依然として放送禁止だ。猥褻物にあたるからだ。

 番組キャラクターの着ぐるみ「めんま」が身をていして、てんまの陰部を隠さなければ、放送事故になっていたところだ。

 もっとも、それも込みの演出だったら、さすがというべきだが――

 いや、ちがうか。

 放送終了のテロップが出ても、てんま師匠は美耶子に襲いかかろうとしていたからな。さすがにスタッフに制止されていたが――

 まあ、グダグダな終わり方だったが、視聴率はとてもよかったらしい。長寿は誇るものの最近は低空飛行を続けていたその番組が久々に叩き出した高視聴率だった。

 そのおかげで、美耶子にはバラエティ番組出演のオファーが大量に舞い込むことになった。

 てんま師匠からも個人的なお誘いが美耶子あてに何度もきた。

『おっちゃんのテクニック、よかったやろ? ええもんこうたるから、デートせえへんか?』

 といったメールが日に何度も着信しているのを、笑いながら美耶子が報告してきたので、てんまの所属事務所に抗議と警告をおこなった。

『お忘れかもしれませんが、芸能活動以外で未成年者と性行為をするのは犯罪です』

 以来、てんま師匠からのセクハラメールはやんだが。師匠は美耶子をあきらめていなかったようだ。

 この事件がきっかけで、夏の29時間テレビ・てんま師匠の深夜の恒例コーナーへの美耶子の出演が決まるのだが、それはまた別の機会に……

 

 水曜日につづく