「できない? できないってどういうこと?」
苛立ったように桃山園が言う。
撮影はインターバルに入っていた。
美耶子は楽屋に戻った。シャワーとメイクのやり直しも含めて、わずかばかりの休憩だ。
今はCMと用意された番宣映像が流されている。5分の先行時間を別にしても、撮影再開まで10分もない。
台本では、第一話のクライマックス、亀有と美耶子のセックスシーンの「さわり」を演じることになっていた。もちろん、直前までおれはそれを知らず、知った瞬間、「NO!」と叫んだのだ。
「いくらなんでも、そんなの生で流すとか、正気の沙汰じゃない! そ、それに、ほ、本当にテレビドラマでセ……セックスシーンを撮るつもりなのか!? 美耶子は10歳なんだぞ!」
「はっ、なにを今更」
桃山園が肩をすくめる。
「これまでのドラマでも、さんざんヤッてきたことでしょ? て、ゆーか、今どき、子役のセックスシーンって珍しい?」
珍しいわ!とツッコみたいところだが、実際は桃山園の言うとおりだ。局部さえ映らなければ法的なおとがめナシで、視聴率はガッツリ取れるということが桃山園の所業で知れ渡ることになり、今や子役は脱げるだけでなく、濡れ場OKでないと成立しないくらいになっている。
その先駆者も、美耶子、なのだが。
はじまりは「おにいちゃん、大好き!」第一シーズンだ。この連続ドラマで、美耶子はヌードになり、さらに撮影時、スタッフやキャストと性行為におよんだ。最初は半ばレイプのようなものだったらしいが、美耶子のホンバン行為を巧みに編集した桃山園は、ドラマを大ヒットさせ、DVD、blu-rayのボックスセットや会員制ビデオ配信サイトでタネあかしをしていった。
それがさらにヒットを加速させ、シーズン2が制作決定。シーズン2ではアナル描写や放尿、布越しの性器接写などが話題を呼び、放送コードを破壊しながらさらにヒットは拡大していった。くわえて、美耶子とその同級生をターゲットにしたどっきり番組がちょっとした社会現象になり、「子供の性は文化だから放送してもOK」という風潮ができてしまった。
各局が競うように子役を脱がし、子役も自ら脱ぎ始めたのもその流れの中での話だ。
倫理の物差しは時代とともに変わる。
司法上、満13歳未満の子供の裸はわいせつではないという最高裁判例も出て(この世界での話)、放送コードの範囲内であれば、実際には子役とセックスしていようが問題なしとなっていたのだ。
いまや、アイドルも、子役も、13歳未満のうちに脱がないと売れないと言われている。男の役者も、子供相手にホンバンができないと仕事がないと言われているのだ。市役所広司でさえ、今回のドラマにアサインされているということは、そういうことなのだ。
そんなことは知ってる。美耶子が仕事でいろいろな男優とカラミを演じていることも知らないわけはない。
それでも、おれは、おれ自身は、自ら美耶子とカメラの前でセックスすることは――できない。
「監督! CMあけます! やばいです! ストックのVもあと1分しかありません!」
ADの切迫した声。
「時間ないのよ! 美耶子はもうスタンバってる! おにいちゃんと初めて結ばれるシーンだから超はりきってるのよ!」
桃山園が甲高く怒鳴る。
それでも――おれは――
桃山園が深く溜息をつく。
「……しょせんは素人ね。見誤ってたわ」
小声でつぶやく。バカにしたように。
「ま、知ってたけど」
そう嘯くと
「シナリオ変えるわよ! 市役所との濡れ場に変更するわ!」
現場がどよめく。
「第一話の構成を変えるの。亀有くん演じるおにいちゃんの自転車のタイヤがパンクして、一足先に市役所さんの担任が家に到着するの。おにいちゃんだと思って出迎えた美耶子を、担任教師が――」
――犯すの。
桃山園がニタリと嗤う。
全国ネットで。
美耶子のレイプシーンが流されてしまう――
その変更を伝えられた美耶子はただ一言
「わかりました」
と答えた――と後から聞いた。
おれの目の前で、美耶子と桃山園がセックスしている。
いや、演技のはずだ。
熱にうかされた小学生の女の子と、見舞いに来た担任教師。
塗り薬を塗り込み――少女がお漏らしをし、パンツを穿きかえさせ、肛門で熱をはかる――そこまでのはずだった。その後、兄が担任教師を追い出し、二人だけの甘い時を過ごす――はずが、兄は再び外出し、その隙に担任教師が戻ってきて――
言葉巧みにヒロインを誘惑し、子供らしい無知につけこんで、兄の愛撫ですでにとろとろになった ヴァギナに――
中年ペニスをナマ挿入する。
セックスシーンでは、桃山園の性器は映せない。大人の性器はわいせつだからだ。
だから、ワイプでビデオ的に処理される。
そのために桃山園のペニスには塗料が塗られている。その塗料の部分を黒いのっぺりしたモノに置き換える。
だが、美耶子の性器はばっちり映っている。
大人ペニスで広げられたヴァギナがハイビジョンで撮影される。
初潮前の子供のまんこは性器扱いをされない――それが桃山園の主張だった。だったら、映しても問題ないんじゃない?
その穴にいくら精液を流し込んでも赤ちゃんはできない。
だから、それはたんなる排泄だ。
便所のようなものだ。
モザイクをかける必要などない。
そう、桃山園は結論づけた。
もちろん、これは業界初の試みだ。
これまではさすがに子供とはいえ性器をもろに映すことはしなかった。
今回の番宣でも、ここまでは性器は隠していた。
だが、それは伏線だった。ライバルを突き放すための。
このドラマでは、子供の性器を完全露出する――それがウリなのだ。
ちゃんと台本を読み込んでいればそれに気づけたはずなのに――もう後の祭りだ。
結果、美耶子の性器は大開きされ、穴の奥まで映されている。
これはこれでセンセーションだろう。
10歳の女性器の全国放送だ。
今回のドラマの最大のウリは、子役のガチセックスシーンをお茶の間に――。
小学生の乳首やアヌスで喜んでいた視聴者がどう反応するか――それもこのナマ番宣でわかる。
「あっ! はっ! あああっ、先生っ!」
美耶子が叫ぶ。
全裸で、ベッドの上で、脚を開かされた状態だ。
桃山園は、結合部をこれ見よがしにカメラにさらすようにして、ペニスを出入りさせる。
くどいようだが、桃山園のペニス以外は、すべてテレビ放送される。
桃山園のペニスだけ、黒いシルエットになっているが、それがペニスであることは間違いなく伝わるだろう。
どういう基準か、陰嚢はスルーで映っている。
美耶子のアップと、結合部を交互に映す。まるで、「CGじゃないよ、リアルだよ」と宣言するかのようだ。
桃山園は、挿入しながら、美耶子のクリトリスを刺激する。
「あんっ! はああっ! いひぃっ!」
さすがに地上波で、ここまであからさまに小学生女児のセックスシーンを映したのは初めてだろう。
隠れているのは桃山園のペニスの茎の部分だけで、それ以外は完全にノーカットだ。
ズポズポとペニスが出入りする膣穴までハーフHD画質で(地上波なので)撮られている。
それでも恐ろしいのは芸能界。この放送の翌日には、子役少女の生セックスシーンがいくつもの番組で流されることになるだろう。
誰かがブレークスルーすれば、ただちにフォロワーが現れる。
追随してくる。カリスマを追って。
そう。宇多方美耶子は今やカリスマなのだ。
13歳未満の子役のヌードやセックスシーンをあたりまえにしてしまった。
そういう時代なのだ。そして、その時代の最先端に美耶子はいる。
四十男のペニスに貫かれ、喜悦に震える10歳児として――
わずかな時間差をおいての生放送だ。
反響がほぼリアルタイムでつたわってくる。
おれはスタジオの隅で呆然としていたが、スタッフの慌ただしさから、それがわかる。
「もの凄い反響です! 電話鳴りっぱなし! 賛否は9対1で苦情ですが、ネットではまったく逆です!」
「バーチャル視聴率(ネットの実況スレの反応から視聴率を類推する技法・的中率95%以上)で30パー超えです! この局ではこのクール最高です!」
「総務省から問い合わせありました。子役の同意書を提出しろって話ですけど――型どおりのヤツですね!」
「放送前からドラマのblu-rayボックスの予約が殺到してるそうです! 過去最高のペースだと!」
子供の生SEXがテレビ的に受け入れられている。いくら何でもそんなはずは――
「あああっ! 入ってる! おまんこに、先生のオチンチン、おっきいの、入ってるぅ!」
スタジオに美耶子の声が響く。
ライトに照らされながら、ベッドの上で、代役の桃山園に後ろから抱きすくめられ、ペニスを入れられている。桃山園がヘコヘコ腰を使っている。黒く塗られた極太ペニスが美耶子の狭隘な膣に押し入り、出たり入ったりを繰り返す。
「ああっ! ぐちゅぐちゅって! おまんこをおっきいオチンチンでかきまぜられて……っ! おまんこ! おまんこ、すご……すごいよぉ……!」
従来ならば放送禁止のワードを連呼する美耶子。
「いいわよ、美耶子! あんたの『ピー(まんこ)』、キツキツで、今日もいい味してるわ!」
桃山園のセリフには『ピー』が入る。大人がその言葉を使うのは現在もNGだ。しかし、子供ならばお咎めなし――それも現在のルールだ。子供は伸び伸びと、言いたいことを口にしてOK,というのが、現在のゆとり教育なのだ。
「あ、あああ、あっ! 奥まで……奥はキツイよぅ!」
桃山園のペニスは、直径は太いが、決して長竿ではない。それでも、美耶子の子供サイズの膣だとすぐに天井に届いてしまうのだ。
「なにいってるの! あんた、自分で奥までキュッキュ締めてきてるの、自覚してないの?」
この予告編では、すでに監督による演技指導、というネタばらしをしているので、桃山園も平気で声を出している。
オンエア中の画面ではテロップで、「天才子役・美耶子ちゃん、監督とベッドシーンの練習中!」と出ている。
きらきらピンクに映像処理された桃山園のペニス――実際には塗料を塗っただけの生ペニスが、美耶子の子供穴に出たり入ったり――結合部からあふれる愛液のジュースが白く泡だって、美耶子のアヌスのくぼみまで濡らしていく。
「うぅ! オチンチン……気持ちいい……っ! おまんこの奥が……あついよ……っ! ふわわっ! あああああっ!」
美耶子がいきそうだ。演技ではない。
「も、もう少し、がまんするのよ! あ、あたしもそいろそろ、出そうだからね!」
ピストン運動のピッチをあげる桃山園。
「ああっ! あああっ! イッ……いっちゃう!? それ、すぐイッちゃうよおっ!」
テロップが『いよいよ発射!? 続きはCMの後……!』と変わり、CMに入る。