■11
少年たちは緊張する。もちろん、全員、股間は痛いほど張り詰めている。大半の者は精通を迎えている。何をどうすればいいのかも、美耶子の身体でさんざん予行演習をしたところだ。指や舌のかわりに、ペニスを入れればいいだけだ。そのときの気持ちよさを今の彼らは容易に想像できる。
「わ、わかった、やってやる」
田中が言う。
だが、さすがにここでは無理だ。ネットにぶら下がってる状態では。
「お、下ろすか?」
「だめだろ、下にはみんないるし」
さすがに多少の騒ぎになっているらしく、下にはちょっとした人だかりができていた。
引率の教師も遅ればせながら駆けつけようとしていた。先導しているのは窪塚くんだ。
「あの真面目野郎」
鈴木がつぶやく。
ただ、少年たちの身体が壁になって、美耶子に何をしていたかは、具体的には見られていないはずだ。声から雰囲気は伝わっても、子供同士のイタズラで済むかもしれない。
少なくとも少年たちはそう思った。子供だから、自分たちが罰せられることはないと――されたとしても体罰は法律で禁止されているからお説教だけだと――
それよりも未知の体験、セックスへの興味が勝った。
「上でやろうぜ」
「順番だぞ」
「時間ないしいっぺんにやろうぜ」
「まんことケツでか」
「それ、兄貴のエロマンガで見た。に、にけつぜめとかいうんだぜ」
ぐったりした美耶子を数人がかりで押し上げていく。ネットの残り1メートルを数分かけてのぼっていく。のぼった所は平坦になっていて、次のアトラクションへは一方通行の通路でつながっている。だから、下から次の参加者がやってこないかぎり、数分の間はそこは無人だ。数分では全員セックスすることはできないが、そこまでちゃんと考えている者はいない。とにかく美耶子のヴァギナにペニスを突っ込むことしか頭にない。
「ついた――」
まず美耶子の身体を頂上に上げる。つづいて、田中、鈴木、宮田、そして他の少年達、五年二組のメンバーが登り切って、頂上に立つ。
快感にとらわれてイきっぱなしの美耶子はごろんと転がったまま小刻みに震え、あえいでいる。股間が見えている。いやらしく本気汁を噴き出している。
少年たちは憑かれたようにズボンを脱ぎ、パンツを下ろした。全員皮をかぶっていたが、屹立していた。手を使わなくても射精できそうなくらいに切迫していた。
美耶子に殺到した。
ぐったりした美耶子をうつぶせにし、尻を掲げさせた。
「おれからだ!」
小学生でもオスの中での順列はある。田中がまず宣言し、美耶子の尻をわしづかみにした。濡れきって湯気さえ出している美耶子の性器があらわになる。
「どっちにしようか」
と、迷うくらい、美耶子の穴は二つとも蠱惑的だった。アナルに挿入しても問題なく射精できることが本能的にわかった。だが、その本能が膣を選ばせた。受精させたい――オスの無意識の願望だ。
「宇多方のまんこで……おれは男になる!」
田中はペニスを美耶子の膣口にこすりつけた。ここまで来ればどうすればいいかはわかる。押し込めば、ペニスが入口をかきわけ、美耶子の膣を征服する。そこは指や舌でとっくに自分たちのものになっている。これは単なる仕上げだ。
ひくん、美耶子が反応した。意識が戻ったらしい。田中を振り返る。目が合う。涙目だ。田中の胸がすこし痛む。宇多方美耶子。ものすごくかわいい同級生だ。最近では子役としてテレビにも出るようになって、お高くとまりやがって、と思ったこともある。だが、その姿を見るだけで胸がどきどきしたのは事実だ。好きなわけではない。でも気にはなっていた。まぶしかった。だから、あられもない美耶子を見て、どうかしてしまったのだ。
――こんなことまで、するつもりじゃなかった。
その時、美耶子がおしりを動かした。ペニスの当たる位置を微調整したのだ。よりすんなり挿入できるように。
『きて――』
美耶子がそう言った気がした。受け入れてくれる、美耶子は。何回も気持ちよくして、イかせてやったからだ。おれたちを、いや、おれを好きになったんだ。これは美耶子が望んだことだ。
田中は喜びと誇りをもって、腰を進めた。ぬちゅ――粘膜が亀頭に吸い付く感覚があり、田中は膣壁の脈動を感じながら、自らの長さ――十センチぶん、押し込んだ。
――天国をみた。
おまんこに挿入した。童貞ではなくなった。
10年の人生で最高の快感。なにかが衝きあげてくる。
そして、固まった。
そこには警官の制服に身を包んだ大人たちがいた。
突然現れたわけではないだろう。数秒前にはその行動があったはずだ。一方通行の通路を逆行してきたのだ。
だが、美耶子に入れることに夢中になっていた田中は気づかなかったのだ。
ほかの少年たちはすでに直立し、呆然としている。
先頭の一人、背広に汚いコートを着た中年の男が一歩進み出て、手帳と、書類のようなものを見せた。刑事だろうか。
「きみたちを婦女暴行未遂の現行犯で逮捕する」
次の瞬間、田中はペニスは柔らかいモノに包まれた。温かくて、弾力があって、想像を超える気持ちよさだ。美耶子の膣圧。ヌルつく感触、そして適度なざらつき。
だが、その感触は次の瞬間痛みに変わった。よく覚えている感覚。ついさっきも喰らった美耶子のキック。
抜ける。亀頭が美耶子の膣壁を擦り、とてつもない快感に変わる。
えびぞりになりつつ田中は空中で射精していた。それが実は彼の人生初の射精だったことは、たぶん本人だけの秘密だ。
■12
イエスロリータ、ノータッチ。
という格言を知らない少年たちはパニックに陥った。
女子へのイタズラなんて日常茶飯事だ。スカートめくりやパイタッチなんていつものこと。美耶子や珠子、宇多方姉妹は美形すぎるが故に(あとはオカルト的に)標的になることは少ないが、でも、まあ、それに似たような……似たような……
「未成年の女子への性的暴行は特に重罪だ。いくら未成年でも実刑はまぬがれんぞ」
だって、宇多方が裸で、すげーえろくて、みんなおかしくなって――そんなことほんとはするつもりじゃなかったんで――
「ここへ少女を連れてあがって何をするつもりだったんだ?」
言い訳のしようがない。全員ペニスを丸出しにして――いまはしぼみきっているが――ギンギンにさせていたのだから。ましてや股間を押さえて悶絶している田中にいたっては先っちょくらい入れていたかもしれない。
悶絶しているとはいえ、田中の表情は人生最高の快感を得た瞬間のまま固まっている。
「警察署に同行してもらおうか。親御さんにも連絡して、来てもらわないとな」
親を呼ばれると知って、少年たちは泣きはじめた。いろいろなことが壊れてしまうと悟ったのだ。そして自分たちがおこなったことの重大さも。
「勘弁してください……」
「ぼくらが悪かったです……」
「それは我々にではなく、被害者の少女に言いたまえ。彼女にわびたところで君たちの罪は変わらないが、反省の度合いによっては情状酌量の余地も――」
刑事が言い終わるより早く、少年たちは美耶子の前に土下座した。悶絶していた田中も意識をとりもどし、訳もわからないままそれにならう。
「宇多方、ごめん!」
「ほんとにごめん!」
「おれたちのこと、許してくれ!」
「ご……ごめん……すぐに出しちゃって」
そう言った田中は他の少年からこづかれた。
美耶子は無表情だった。快感に泣きむせんでいた少女の面影はない。そこにあるのは冷徹な怒りと復讐の意志だけだった。
「あんまり宇多方のこと、かわいくて!」
「そうだ、おれたちおかしくなっちまったんだ、あんな格好見せられて――」
「やめようとおもっても、できなかったんだ! あの匂いをかいだとたん――」
美耶子の頬に朱がさす。恥じらいではなく、怒りの色だ。
「ほんと、ごめん! 宇多方の――いや、宇多方さんの言うとおりになんでもします!」
「おれも、約束する――いえ、します! なんでも言うことをききます!」
「ぼ、ぼくも、約束するよ、美耶子ちゃんの奴隷になってもいい!」
「えと……おれも……なんでもする……します!」
全員が額を地面にこすりつけ、誓いの言葉を叫んだ。
美耶子は目を閉じた。無言で静かに呼吸する。断罪の言葉を練っているようにも見え、赦しを与えるために心を落ち着けようとしているようにも見えた。
誰もが固唾をのんだ。警官の制服に身を包んだ者たちも、刑事らしき人物も、同じだ。
全員が美耶子を注視していた。
そして、美耶子は目をひらいた。
唇が、うごく。
「どっきり大成功〜!」
どこからともなく「大成功」と書かれた看板を出した美耶子は、それを掲げてかわいらしく微笑んでいた。その表情は紛れもなくお茶の間で人気の美少女子役・宇多方美耶子のものだった。
ファンファーレがどこからともなく――スピーカーが仕込んであったらしい――流れてきた。
同時に、警官ふうの制服を脱ぎ捨てたエキストラが拍手し、刑事風の男が拳銃を取り出し引き金を引いた。万国旗が銃口から飛び出してきた。
■13
「今回の趣向はねえ、以前に自分がやられたネタの意趣返しでもあったの」
打ち上げの席で桃山園が気分よさげに語っている。
「ほら、美耶子って、エロいじゃない。本人は自覚ないみたいだけど、まわりの男どもはきっと悶々とさせられてると思ったのね。でも、ガキじゃない? やっちゃったらア○ネス来るし。あたしも、まあそれでちょっと干されてたってこともあるし」
まったく悪びれた様子もなく言う。この業界、成功さえしていれば少々の悪事はもみ消せてしまう。今の桃山園なら、かつて美耶子を脅迫して変態的なカメラテストを受けさせたあげく強姦寸前までいったことも、笑って語れる過去なのだろう。
「だから、美耶子にエロい格好させて、男どもをたきつけて、きわどいところでバーンってやろうって思ったわけ。ロリータには手を出しちゃいけない、レイプはダメ、ゼッタイ、って社会的なメッセージにもなるし。まあ、小学生の坊主どもがかかるとは思わなかったけど、青少年犯罪への啓蒙って当局のお墨付きもとれて、けっこうギリなところまで修正ナシでいけたから結果オーライね。合法的に小学生のエロを描くには、ドキュメンタリータッチが一番よ、それとバラエティを融合させるなんて、あたし、天才!」
周囲の太鼓持ちたちが桃山園を褒めそやし、桃山園はオホホホと笑いながら、あちこちと乾杯しまくっている。
結局、美耶子が出演した「超どっきり! スーパー子役まじかるテレビ」は未曾有の反響を呼び、視聴率は40%を超えた。サッカーの日本代表戦だとか、紅白だとかに匹敵する数字だ。単発のバラエティ特番でこんな数字を叩き出せば、社長賞は確実、担当プロデューサーは昇進間違いなしだ。企画立案・ディレクションした桃山園にも当然大きな報償がもたらされる。すでにつぎの特番のオファーが、美耶子とセットでいくつも来ているらしい。
「ゆーいちっ」
会場の隅っこでビールを飲んでいたおれの側に、いつの間にか美耶子がたたずんでいた。今日は黒のゴスロリファッション。ツインテールを結ぶリボンも黒のフリルつきだ。
「お偉いさんの相手はいいのか?」
「も、あつっくるしくて、逃げてきちゃった。だって、あいつら、やたらべたべた触ってくるし、『ノーカット素材見たよ〜』とか言ってきて、セクハラしまくり」
「オンエア版もたいがいひどかったけどな」
ビールを呷る。
「まあ、胸とかおしりはしょうがないよ、仕事だし」
しれっと言う美耶子。こいつにとっては、裸身をさらすことも「女優」の仕事なのだ。バラエティであっても、決して素を見せず、女優でありつづけようとする。
「DVDとかだと、ワレメとかも見せてるじゃん」
ちょっと酔っているせいか、恨みがましい口調になる。
「契約だもん。ワレチラは何カットか入れなきゃ売れないんだって。でもちゃんと自分でチェックしてるから、ほんとにヤバイのは出さないし」
「――ちぇ」
残ったビールを飲み干す。空のグラスを美耶子がもぎ取るようにして、通りかかったウェイターに渡す。おかわりは、と訊いてくるウェイターに美耶子が笑顔でノーサンキューを告げる。
「飲み過ぎちゃだめよ、ゆーいち。明日は大学(がっこ)でしょ?」
「おまえだって小学校(がっこう)あるだろーが――って、あいつらどうしてる?」
ふと思い出す。「どっきり」にハメられた美耶子の同級生たち。「どっきり」とわかって、失禁したり、惚けたりしていた。特にあの田中くんってのが心配だな。インポテンツにならなきゃいいが。小学生のインポテンツって心配すべきなん?という疑問もあるが。
「ああ、田中たち? うん、つかってるよ――学校で、いろいろ便利だし」
ぞくっとするような口調だ。いま、ちょっと女優の美耶子が入ってたな。
使役(つか)ってる、て文字が思い浮かんだぞ。
彼らは美耶子の奴隷となる誓いをした。そっちの方は「どっきり」ではなく、しっかり有効らしい。まあ、放送では少年たちの素性は特定できないようにボカされていたが、美耶子がその気になればすべてバレてしまうからな……
「使うって、何にだよ……」
「んー、いろいろ、だよ。だって、学校にはゆーいち、いないんだもん。命令する相手が必要でしょ」
おれのかわりにあの少年たち、何をやらされているんだろう……あまり想像したくないな。
「それよりっ、ね、抜けよ?」
おれの手に指をからめてくる。
猫のようなアーモンド型の目を軽く細める。
「抜けるって、主役がいなくなったらまずいだろ?」
「へーきよ、監督さんがあたしの分までしゃべりまくるし」
実際、桃山園の自慢話はとどまることをしらない。
「美耶子だって、要するにあたしの作品よ? ずぶの素人に、演技のイロハから、オマンコの締め方まで教えてやったんだから――後半のアレはジョークよお? ア○ネスいないわよねええ? オホホホっ!」
でかい声で淫語言いまくってるな。
「……あんなこと言ってるぞ」
「誰もあんな酔っ払いの話、真に受けたりしないよ。それに後半のアレについては、あたしに仕込んだのは、ゆーいち、でしょ?」
おれの手を握る美耶子の指が絶妙な強弱のパルスを送ってくる。それが美耶子の胎内の圧力を連想させ、思わず催してしまう。
ゆっくりとおれたちは会場を横切っていく。
みんな、談笑しながら、次の金儲けのネタはないものか、必死に肚の探り合いをしている。その横をゴスロリ少女とその付き人がさりげなく通り過ぎる。目を留められたら、確実に話しかけられる。宇多方美耶子は今回のことで、「大金を生みだす素材」と認識されるようになったからだ。誰もが美耶子と組みたがる、使いたがる。コネクションを得ようとしている。
「ああいうの、嫌い。あたしもこと、ちゃんと見ようとしないもん。見てるつもりで、お金のことしか見てないの、わかるもん」
でも、と美耶子は続ける。
「ゆーいちは別。ちゃんとあたしを見ててくれる――あの時も」
「知ってたのか」
「珠ちゃんに聞いた。でも、わかってたよ、変装カメラマンのどれかがゆーいちだって。あたしが本当にヤバかったら、番組をぶちこわしてでも助けてくれるって――わかってたから――」
そうだ。おれが桃山園に出した条件――それはカメラクルーとして参加させてもらうことだった。桃山園は実にいやぁな笑みを浮かべて了承した。「それも趣向のひとつよねえ」などと言いながら。
そしておれはできるだけ美耶子から目を離さないように心がけた。お化け屋敷では見失ってしまったが――
あのとき――田中のペニスが美耶子の中に潜り込もうとした瞬間、美耶子は、田中の背後からカメラを回していた「おれ」を見た。番組に賭ける美耶子の意志を尊重し、ギリギリまで手を出さなかったおれを――そして最後の一瞬に我をわすれて飛びだそうとしたおれを「制した」のだ。「もう大丈夫」と美耶子は告げていた。「だから、最後までちゃんと撮って」と。
すでに「どっきり」の最後の仕掛けが終わっていたことを美耶子は知っていたのだ。一クルーに過ぎないおれは知らなかったが、それなりに番組の流れは決まっていたらしい。まあ、桃山園と、そして美耶子のことだから、その場のノリで決めた部分も多かったろうが。
「思い出したら濡れて来ちゃった」
歩きながら、はしたなく裾を腿まであげる美耶子。人気のない廊下に出ていたからいいものの、もしも他人に見とがめられたら、今日、美耶子がドレスの下に何もつけていないことがばれてしまう。
そして、その内股がすでにヌルヌルになっていることも。
「やばかったんだもん、アレ……みんなに見られながら同級生によってたかって、っていうシチュエーションは、あんまり想定してなかったから――」
ぜんぜん、でも、まったく、でもなく、「あんまり」か……まあ、オナニーネタとしてはあるかもね。覚えがある人も多いでしょ? 小学生がそんな妄想するかどうかはともかく。
この建物で、とりあえず人がこなさそうな場所をさがして、美耶子はおれの手を引いて駆ける。
そんな場所が見つかったら、速攻でおれは美耶子を立ちバックで犯すだろう。
ゴスロリ衣装のすそをまくって、小さな白い尻を引き寄せて、美耶子の潤んだ子供の性器に、欲望にたぎった大人チンポをねじりこむだろう。
ねがわくば、その瞬間に、「どっきり大成功」のファンファーレが鳴ったりしませんように――