うたかたの天使たちXI

秋風の十字路

-珠子編-

 正解は、比較的(3)に近かった。

 立っていたのは珠子だ。ただ、いろいろオプションを装備していた。

 全身が青白く光り、周囲を火の玉が飛び交っている。耳をすませば、ひゅ〜どろどろどろ、っていう音さえ聞こえてきそうだ。

「暁美――いたずらだね」

 珠子が、珠子でない声で言った。

 暁美の表情が一変する。

「ど、どうして――その声」

「ほんと、心配ばかりかける子ねえ。でも、無事でよかったわ」

 艶めいた、おとなの女性の声だ。それでいて、さっぱりとした気性がうかがい知れる。珠子がどんな演技派であったとしても、ここまで人格をあらわす声はだせない。

「ママ!?」

 信じられない、というように暁美は目を見開く。

「暁美が心配でね、ついつい迷い出ちゃったよ」

 珠子が笑う。少女の初々しい笑みとはちがう、母性に満ちた微笑みである。

「……ママなのね、ほんとうに」

 暁美はおずおずと珠子の手をつかみ、その肌の匂いをかぐ。

「ママだ……ママのにおい」

 おれは目をこすった。珠子の輪郭がぶれて、別の人物の姿が見える。どうやら、珠子が「まとって」いる霊体そのものが現れているらしい。

 それは、暁美によく似た面差しの、美しい女性だった。二十代後半とおぼしいが、幽霊とは思えないほど生気に満ちている。いや、もうほとんど生身といっていい。珠子自身が、その女性の姿になったようにしか見えない。

 そういや、降霊術の総本家の高位の術者は、降ろした霊の生前の姿そっくりに変身できるという話を聞いたことがあるが、珠子のこれも、そのパクリ――じゃねえ、それに近い能力なのかもしれないな。

 おっと、異議あり! はナシだ。

「ママあ!」

 暁美が母親にしがみつき、嗚咽をあげはじめる。依り代の珠子の方が身体が小さいので、すこし不自然な姿勢になるが、本人は気にならないらしい。

「どうして死んじゃったんだよう! 暁美、ずっと独りぼっちになっちゃったじゃない! パパは仕事ばかりで、あたしのこと見てもくれない!」

「暁美の泣き虫は治らないのね……」

 珠子は――いや、暁美の母親は目を細めながら、娘の泣き顔に手をあてた。

「おとうさんはね、ほんとうは暁美のことを大切に思ってるのよ。ただ、ちょっと不器用なだけ」

「そんなのうそよ。だって、ママが死んだときだって、病院にこなかったじゃあないの! あたしが誘拐されたって、そう! 仕事のほうがママやあたしより大事なんだわ!」

 だが、珠子は――いや、珠子の身体を借りた暁美の母はやさしく諭すようにいった。

「たしかにあなたのおとうさんは仕事人間よ。気が弱いところもあるしね。でも、とても責任感の強いひとなの。自分の家庭の幸せより、会社の従業員の家庭を守ろうとする。だから目先の仕事に飛びついてしまうの」

「それは……」

「自分のことよりも他人のことを優先する――あなたのおとうさんはそういうひとなのよ」

「うん、知ってる。わかってるけど……さびしかったの……」

「暁美――ひとりで頑張っていたものね。でも、大丈夫。おかあさんが見てるから。守ってあげるから」

「ママぁ!」

 暁美は珠子の胸に顔をうずめた。

 ――ええ話や。

 おれが鼻をすすっていると、暁美のママがおれのほうに視線を向けているのに気づいた。

 ぞくっとした。もしかしたら、暁美に働いた狼藉を糾弾されるのだろうか。

 だが、その視線はおれの股間に貼りついていた。色っぽい視線だ。つーか、エロい。

「暁美――タカオくんは満足させてあげたの?」

 急にそんなことを言い出す。

 それには暁美も不意を突かれたようだ。

「え? あ? そ、その……きゃっ」

 今更ながら自分がそれまでなにをしていたのかを思い出したようだ。毛布をたぐりよせて身体を隠す。

「だめよ。タカオくんにはいっぱい迷惑かけたんだから、ちゃんとおわびをしないと」

 母親らしくたしなめる。だが、いいのか、その教育指導は。

「でも……」

「しょうがないわね。おかあさんがかわりにおわびするわ」

 暁美のママが――その肉体は珠子なのだが――おれににじり寄り、そっとおれの股間に手をそえた。

「ごめんなさいね、うちの娘が迷惑かけて――タ、カ、オ、く、ん」

 おれを見上げる。口元に笑みが浮かび。耳元に直接声がとどく。

『はじめまして。わたしは依子、暁美の母です。タカオくんに、ほんとそっくりなのね――遊一さん』

「えあ!? は、はじめまして――って」

 おれは混乱する。

『珠子ちゃんがこの身体を貸してくれるときに、遊一さんのことを教えてもらいました』

 あ、そ、そうですか。

『ほんとにごめんなさいね、うちの娘のせいで』

 こ、これはごていねいに。

『せめてのおわびに――』

 依子さんはおれのチンチンに手をあてがい、口で――おあ、あ、そんなこと!?

 肉体は珠子のものだが、それを操っているのは依子さんだ。おのずからテクニックがちがう。

 つーか、巧い。

 さすが、人妻、一児の母。

 舌べらをつかって亀頭を刺激し、適度な吸い込みで変化をつける。バ、バ、バキューム!

 おれのモノはたちまち大きくなってしまう。

「ふふ――若いのね」

 依子さんが目を細める。いろっぽすぎる。

「おくちに出す……? それとも――」

 熱い息をおれの股間に吹きかけつつ、依子ママがささやく。膝を開いている。なんてこった、ツルツルのはずの珠子の股間に、こんもりとヘアが――

 真性ロリ属性だったら泣き出しかねないシチュエーションだが、おれの場合は熟女でも三十代までなら大丈夫だ。つーか、依子ママは十分若いし、問題なくストライクゾーンである。

 本来は珠子のスジまんが、今は熟れた淫唇と化している。それにしてもいやらしい色と形だ。たまらんな。

「し、しんぼうできましぇ〜ん!」

 おれは依子ママを押し倒した。

 

 

 依子ママを四つん這いにして――人妻とはするときはバックに限る――おしりを広げて侵入した。

 す、げ、え。

 ぬるぬるで、深いぞ。

 いつもの珠子とは味がちがう。

 つか、珠子だと、キチキチで、浅い。その切ないまでのおさなさが魅力でもあるのだが、だが、どちらかというとそれは精神的な快感だ。ちいさい身体でおれを受け入れてくれるけなげさに打たれるのだ。

 だが、これは、依子ママのこれは、純粋に牡としての欲望をストレートに満たしてくれる。

 なにしろ思い切りピストンしても血がでない。ぬるぬるきゅっきゅっで、もう最高だ。

 これが人妻の味なのカー?

「あ……ひさし……ぶり」

 ママンも喜んでるぞ。

「おしり、動いちゃう……」

 熱い息をはきながら、依子ママが腰をうごめかす。

 うおっ、奥さん、そんなにひねっちゃ、だめだって。

 くっあー、絞られるぅ……!

「ママ……」

 暁美が呆然として、母の痴態を眺めている。

 おれは暁美の視線を意識しつつ、依子ママの尻を両手でつかみ、ぐっと広げた。その中心にむけて肉棒を突き上げる。つながっているところを娘に見せつけるために。

「あああ……オチンチン、きもちいい! ああん……ああ」

 珠子の肉体をつかって、人妻の魂がよがりごえをあげている。

 暁美が唾をのみこんだ。

 顔が赤い。

 指はどうやら股間に入ってるようだな。

「母の幽霊」が「初恋の相手にして奴隷かつ誘拐犯(のそっくりさん)」とまぐわっているのをみてオナニーか。

 複雑だな。というか、滅茶苦茶のような気がする。

「暁美……」

 依子ママが快楽にむせびながら、娘を見やる。

 手を差し伸べた。

「あなたも……いらっしゃい」

 暁美がおずおずとちかづいてくる。

 股間を隠しているが、そこがすごいことになっているのは間違いない。

「これがセックスよ。初めて見た?」

 暁美がこくんとうなずく。

「してみたい……?」

 うん、と暁美はうなずいた。おれと依子ママがつながっているところを凝視している。口で息をしている。小さな胸がぷるると震えて、切なそうだ。

 依子ママが暁美のために場所をあけてやる。毛布のうえに、暁美はぺたんと座った。

「暁美……」

 依子ママが暁美を抱きしめた。暁美に口づけをし、舌を吸い出す。ママとディープキスするって、どういう感じなのかな。まあ、肉体的には赤の他人だから、倫理的な問題はないが。

 舌先をちろちろとなめ合う。ママの指は暁美の乳首をやさしくいじっている。ささやかな丘陵の頂点のさくらんぼうが、ぽこっとふくらんで、背伸びをしている。

「ああ……ママぁ」

 泣きそうな声を暁美はだした。

 このままレズモードに入られてもなあ、と思っていたら、ママが暁美を促して、毛布に横たわらせた。

 立てたひざを開かせる。

 おお。

 さっきは、おれの侵入をこばんだヴァージンの谷間が目の前に。

 その割れ目に、ママの指が入って、クリトリスをやわやわとマッサージしている。

「あ……ん……ママ……気持ちいい……」

 暁美が声をあげる。おしめを替えてもらっていた頃の感覚を無意識のうちに思い出しているのかもしれない。まるで赤ちゃんのようにリラックスして脚を広げている。

『遊一さん、どうぞ』

 依子ママがおれにだけささやきかける。

 いいのか、やっちゃって? 暁美ちゃんはタカオとおれをまちがってるんだろ。

『いいのよ、顔おんなじだし』

 アバウトな母親だな。

 まあ、おれもいまさらいい人ぶってもしょうがないな。

 せっかくだから娘もいただくとするか――これも親子どんぶりになるのかな?

 

つづく