うたかたの天使たち・外伝

南国のパラダイムシフト

第4話


断章 ロリーナ王国素描(3)

 ロリーナ人の死生観は、日本人のそれとはずいぶん違っている。彼らの宗教には「地獄」という概念がない。みんな死んだら天国に行くのだ。
 そもそも地獄があるのは、「生きている時に悪いことをすれば死後には地獄におちるぞ。だから悪いことはするな」という、一種の脅し、治安を守るための抑止力とするためだ。
 過酷な環境で発達した宗教は、特にこうした戒律が厳しい。厳しい環境――たとえば砂漠――では、人は生きるために他人から奪い、殺す――そうせざるを得ない状況がある。だが、それを許せば社会が成立しない。だから戒律で人を縛り、行動をコントロールするのだ。
 性についてもそうだ。過酷な環境で発達した宗教は性に関する締め付けが厳しい。それは人間の行動は多く性によって左右されるからだ。社会に秩序をもたらすためには、性行為を規制するのが有効なのだ。
 だが、ロリーナでは、太古の昔から、相互の問題を解決するために性交をさかんにおこなっていた。その結果、世界でも唯一無二ともいうべき楽園が誕生したのだ。この世界には生前にも死後にも「地獄」は不要だ。
 だが、もちろん、人間が作っている世界だから、誰もが幸福で満ち足りているわけではない。そこには不幸もあるし、犯罪だって起きる。それでも、ロリーナ人は概して明るい。
 たぶんそれは、老若男女、富める者でも貧しい者でも、セックスのパートナーを得ることができるからだろう。

 ロリーナは、世界最古の女性の職業とされる売春がないことでも知られる。性行為でカネを取るという発想がないからだ。セックスは気持ち良くて幸せなこと。誰もがそう思っているから、ロリーナは平和で幸福度の高い世界なのだ。

第4話 珠子のハッピーデイズ

 珠子は、宇多方姉妹の中では最も寡黙で、最もなにを考えているかわからない。
 ふだん、しゃべらないし、感情をあらわにすることもない。
 だが、ロリーナに来てからすっかり変わった。
 明るくなったし、よく笑うようになった。
 正直、声をたてて珠子が笑うところなんて、今まで見たことがなかったから驚いた。
 それは生まれたときから一緒にいる美耶子も同じだったようで、「あんな珠ちゃんはじめて」と言っていた。
 珠子は毎日のようにニコニコしながら外出する。そして夜まで糧ってこないことがしばしばある。
「ゆういち、あんた、珠ちゃんの様子、ちゃんと見てて。あたしは撮影のお仕事があるから無理だけど……」
 美耶子にそう言われて、おれは珠子の行動を監視することにしたのだが……

 珠子はマイクロビキニにパーカーを引っかけただけの格好でビーチを歩いていた。
 ふだんの珠子ならあんな露出の高い格好で出歩くことは絶対ない。
 まあ、ロリーナのビーチでは標準的な姿ではあるのだが。郷に入りては、というやつだろうか。
 珠子は超美少女なので、十メートルも歩かないうちにナンパされる。ロリーナでは、十歳は楽勝でナンパ対象だ。六歳から結婚できるお国柄なのだ。
 人見知りな珠子はナンパからはすぐに逃げる――と思いきや、けっこう楽しそうに会話している。着いて行きはしないが、馴れ馴れしく肩を抱かれても逃げもしない。
 おしゃべりをして、それからまたね、という感じで離れていく。うまく断ったのだろう。断られた男達も怒ることなく楽しげだ。
 あんな如才なさ、いったい、いつ学んだのだろう。

 ビーチでは、すぐに友達を作って、いっしょに遊んでいる。性別も、年齢もバラバラだ。日本では、家族と、おれくらいしか話す相手はいなかったというのに。
 珠子が楽しそうなのはいいことだ。でも、それをなぜ、おれや家族の前ではなく、赤の他人と一緒の時に見せるんだ。おれは少し悲しくなった。
 と、かなり仲良くなったらしい褐色の肌の青年と珠子がビーチで二人並んで座った。身体をぴったりとくっつけ、何やら話し込んでいる。近い近い。耳元で青年に囁かれて、珠子が身体をくねらせる。
 あやしい雰囲気だぞ?
 やや!
 青年が珠子の肩を抱いて、顔を近づけていく。
 キス、するのか? 珠子に、キスする気なのか?
 おれは身を隠していた繁みからすっくと立ち上がった。
「おうおう、兄ちゃん、おどれ、ワシの女になにしてけつかんねん!」
 というセリフはさすがに吐かなかったが、珠子に大声で呼びかける。
「おーい、珠子! こんなところでなにしてるんだ?」
 珠子がびっくりしたように振り返る。
(見つかっちゃった……)
 とでもいうように、舌を出し、それでも悪びれることなくニッコリする。
 なんという余裕。浮気未遂が見つかったというのに。
 おれは珠子のところまで進んでいき、褐色の青年を追い払った。
 といっても青年の方も何の罪悪感も持っていないようで、珠子にバイバイと手を振って、その場を立ち去った。すぐに他の女の子に声をかけている。さすがロリーナのヤングマンだ。
 他人の恋人だろうがなんだろうが、双方の同意があれば、その場限りのセックスを楽しむ、それがロリーナ流だ。そういう意味では、おれの方がイケてないヤツということになる。ロリーナでは、恋人同士であっても、相手に貞潔を要求しない。NTRジャンルが成立しない文化圏なのだ。
 しかしながら、おれは珠子を誰にも譲る気はない。おれは日本人だからな。これでいいのだ。
 珠子の隣に腰をおろす。
 珠子はだまって海を見ている。美しい紺碧の海だ。そして、砂浜で笑いさんざめく水着の男女たち。珠子くらいの子供も混ざっている。彼らのうち、気が合った者同士はそこかしこで抱き合ったり、キスしたりしている。さすがにおおっぴらにセックスしている者はいないが、ちょっとした物陰を覗いたら、漏れなく即席のカップルが励んでおられる。そういう場所なのだ。
「珠子、今の男だけど……」
「しらないひとだよ。今日ここではじめてあった」
 さらっと珠子が答える。ううむ。セリフがワンセンテンスじゃない。文章になっている。
「キスされそうになったけど、だめっていったよ」
 そうだったか? 受け入れ準備万端だったような気がするぞ。
「おにいちゃんがいるのわかってたし。それに約束だから」
 そう言うと、珠子はおれを見上げて、微笑んだ。
 超絶美少女の珠子にそんなふうに笑われると破壊力高すぎる。ふだんは無表情だから余計にだ。
「ヤキモチ焼いた?」
 おう、そう来たか。男心をもてあそぶテクまで身に着けたのか。いったいこの島で、珠子の身になにがおこったんだ?
「やっぱり、興奮もしてるね」
 珠子がさりげなく身体を寄せて、おれの股間に手を乗せる。
 さっきから珠子の髪の匂いと潮風がまざって、えもいわれぬ香りが鼻孔をくすぐってくる。さっきの青年じゃないが、これはキスのひとつもしたくなる。十歳のくせに、とんでもないエロスだ。
「おにいちゃん、えっちしよ?」

 珠子からそんなふうに誘われて、抗えるわけがない。

 
 近くの海の家まで珠子の手を引いていく。
 ロリーナは日本文化大好きなので、ビーチには必ず海の家がある。だが、日本のそれと違うのは建物が立派。白亜の宮殿のような建物で、二階はテラスつきの休憩室になっている。
 まあ用途はお察しの通りだ。
 ロリーナにおいてはおれたちはトップクラスの客人なので、一番いい休憩室をあてがわれた。海が見えるテラスと、陶器製のバスタブ、開放的なキングサイズベッドが置かれている。
 おれは珠子のローブを脱がせ、マイクロビキニ姿のまま、バスタブにざぶんする。
 ベロチューしながら、珠子の細い身体をまさぐる。
 ここのところ外で遊んでいるせいか、珠子も少し日焼けをしている。
 マイクロビキニのブラジャーをずらすと、白い肌とのコントラストがあざやかだ。こういう健康的な珠子もいい。乳首も可愛い。
 ので吸う。
 ちゅうちゅう、ぺろぺろ。 ふくらみを一口で味わえるサイズ感がたまらない。

 

「ふふ……おにいちゃん、あかちゃんみたい」
 ママのような優しい視線でおれをみおろす珠子。
 いつもの小動物のようにおびえる珠子もたまらないが、こういうのも悪くない。
 お風呂でのいちゃいちゃを楽しみ、それからおれと珠子は、空が見えるテラスのベッドに移動した。
 おれも珠子も全裸になっている。
 建物の中だとはいえ、空も海も見える開放的な空間で、生まれたままの姿の珠子を鑑賞するのはたまらない。
 世界中で最も美しいかもしれない少女の、人生でいちばん美しいかもしれない時間を独占できる。こんな幸せがあるだろうか。
 くもりないピンクの粘膜。ちょこんと顔を覗かせている小粒のルビー。尿道口も膣孔も小作りで繊細だ。
 第二次性徴を迎える直前の奇跡のような一瞬。
 どんな言葉で称えても足りない。
 だから、口で、直接――
 ねぶる。
 
 

「あっ……おにい……ちゃん……」
 珠子の嬉しげな声。待ちかねていた、とでもいうような。
 そういえば、この島に来てから、おれはやたら忙しくて珠子の相手をしてやれなかったな、と今更ながら気づく。
 いや、日本にいた時だって――なかなか珠子との時間を作ってやれなかった。
 その穴埋めをするように――おれは舌を珠子の膣に差し込んでいく。
「あっ……あっ……ああぁ……」
 珠子の声が甘く蕩けていく。
 気持ちいいときでも声をこらえるのが珠子だったが、今日は違うようだ。
 そのまま快感を受け止めてくれている。
 たっぷりと舌で愛撫した珠子の性器はすっかり仕上がっている。
「おにいちゃん……せつないの……おねがぁい……」
 腰を持ち上げて、せがんでくる。
 もちろんおれも準備はできている。
 勃起したペニスの先端を珠子の膣の入口に押しつける。
「きて……きて……おにいちゃん……ッ!」
 珠子の声がくぐもる。
 おれのペニスの侵入を感じたからだ。
 珠子の性器は、何回、何十回となく味わっても、最高さがゆるがない。
 平均的な十歳よりもむしろ狭いはずなのに、窮屈さの先に包み込むような優しさがある。奥も、幼いわりに深い気がする。
 要するに、気持ちがいい。名器なのだ。
 ちっちゃな子とのセックスは、つまるところ思いやりだ。
 乱暴に扱ったら壊してしまう。
 優しく、ゆっくり、ていねいに。
 そう、しないとちっちゃな子を感じさせることはできない。
 そう、心がけることで、自分自身も気持ち良くなれる。
 優しさの相乗効果だ。
 もしかしたらロリーナ王国で、幼少期からの性行為が推奨されているのも、こうした優しい気持ちを国民に醸成するためかもしれない。
 もちろん、一般常識からは外れている。それでも、今おれは、おれの恋人を心地良くさせるためならどんなことだってしたいと考えている。
 その気持ちに偽りはない。
「おにいちゃん……すご……い……こんなの……こんなの……」

 

 珠子は泣いていた。気持ち良すぎて、涙腺が開いているのだ。
 開いているのはそこだけではなく、膣もおれのものを受け入れて限界まで広がり、子宮口まで喜んでむせび泣いているようだ。
 ちゅくちゅくちゅく、おれの亀頭とキスを繰り返して、随喜の涙を流している。
「すごいよぉ……これ、すごいよぉ……珠子ちゃんっていつもこんな……」
 珠子の表情が快楽に塗りつぶされていく。
 おれは最後のスパートをかける。
 腰を強めに叩きつけていく。
「あっ! あうんっ! ひゃっ! ひゃあんっ! ひういいい!」
 珠子が白目をむくようにして、登りつめていく。
 絶世の美少女があられもない声と表情でアクメっていくのはいつ見てもいいものだ。
 だが――
 腰の動きは緩めない。
 突いて、突いて、突く。ここまで来たら、優しさだけではなく、力でわからせる。女の官能を最大限まで引き出す。子供だって女だ。だから女に仕上げてやる。
「いくっ! いくっ! いくよおおおっ! ああああああっ!」
 珠子が絶頂に達する。そのタイミングを見きわめながら、おれも射精する。珠子の身体のいちばん奥の底――子宮に内膜に精液を叩きつける。
 ビュッ! ビュビュビュッ! ビュルッ!
「はあああああああああ!」
 珠子がわななく。
 すごく、イッているようだ。

 で、だ。
「おまえは珠子じゃないな! だれだ?」
 セックス後のピロートークでおもむろにおれは訊いた。
「え、いまさらぁ……?」
 満ち足りたセックスの後のゆるやかな表情で、珠子は笑った。
 いや、珠子ではない。
 たしかに身体は珠子のものだ。だが、別の人格に操られているのだ。
 珠子は霊媒体質だ。さまざまな霊を引き寄せてしまう。
 今、珠子の身体を使っているのは、珠子以外の人格だ。
「河原崎依子――さん、だよな」
「え、うそ? 憶えてたの?」
 珠子の身体を操っていた霊が驚いたように言った。
「『秋風の十字路』以来の登場だったのに? いったい、何年ぶりよ?」
 作中ではそんなに時間経ってないんだよ。ドラえもん時空だしな。あと、タイトル言うな。
 依子さんは、珠子によく取り憑く不良おばさん霊だ。既婚・子持ちだがセックス大好きで、珠子の身体を乗っ取ってはよからぬことをする。
「おばさんって失礼ね。まだ20代よ」
 死んでからの時間も含めれば大台乗ってるだろうが。まあ、幽霊は歳をとらない、ということなら、そういうことかもしれないが。
「あんた、そもそも地縛霊じゃなかったのか。なんで、こんなところにいるんだ」
「もう地縛霊じゃないのよねえ。現世での恨み辛みはもうほどけたしね。今はフリーの浮遊霊ライフをエンジョイしてるってわけ」
 何がエンジョイだ。
「あたしねえ、ロリーナ王国ってずっと憧れてたの。フリーセックスの本場だしね。だから、珠子ちゃんがロリーナに行くって知って、着いてきちゃったってわけ」
 憑いて、の間違いだろうが。いったい、どうやって来たんだよ。
「珠子ちゃんの鞄の中にこう、きゅっと。ほら、霊魂って形がないからさ。なんとかなるのよ。重さも21グラムくらいしかないし」
 なんだよそのリアルな数値は。
 まあ、死体は生前から21グラム軽くなるって話もあったしな。
「ここに来るの、夢だったのよね。究極のフリーセックスの世界だからねえ。ほんと憧れてたの」
 だからといって珠子の身体を使ってんじゃねーよ。とっとと出ていけ。
「あら、ごあいさつね。珠子ちゃんとはちゃんと話がついているのよ? あたしが身体を使うことついて」
 うそつけや。なんで、珠子がおまえに身体を貸さなきゃいけねーんだよ。
「あんたねえ……いちおう珠子ちゃんの彼氏なんでしょ? 察してあげなさいよ」
 は?
「珠子ちゃんもね、ロリーナで楽しみたいのよ。こんな季候が良くて、自然がきれいで、人の心にも毒が無い世界なんてないのよ? 悪霊もいないから、珠子ちゃんも集まってくる霊に気を遣わなくても良いし」
 一匹、居るけどな、とびきりの悪霊が。
「失礼ね。とにかく、珠子ちゃんは、あたしが適度に楽しむことはOKしてくれているの。さすがに見ず知らずの男とセックスするのは駄目だけど、おしゃべりしたりビーチで遊ぶのはだいじょうぶなの。珠子ちゃんも無意識状態だけど、あたしが楽しんでいることを感じて、いっしょにリゾート気分になっているのよ」
 なんだと?
「あんたが珠子ちゃんをほったらかすからいけないのよ。むしろ、あたしが取り憑いてなかったら、珠子ちゃん、流されて他の男とえっちしまくっていたかもしれないわよ?」
 まさか……そんな……。
「とにかく、バレちゃったから、珠子ちゃんに身体を返すわ。あんたも、珠子ちゃんのことが好きなら、このロリーナで、珠子ちゃんに素敵な思い出のひとつでもつくってあげなさい。いいわね?」
 お姉さまはウィンクして――そして消えた。
 見えないだけで、霊体はどこかにいるんだろうけど。
 依子さんが去った珠子は、ただ眠っているようだ。
 天使はここにいるんだ、そう思った。
 おれはその唇にキスした。
「……おにいちゃん?」
 珠子が目覚めていた。
「依子さんは……あ、そうか……」
 周囲を見渡して、いろいろ悟ったようだ。
「おにいちゃん、みつけてくれたんだね……よかった」
 にこにこにこーっとした。

 

 はっとした。
 珠子は、おれに、みつけてほしかったのか。
 ずっと、みつけてほしくて、依子さんに身体を貸して、島をうろついていたのか。
 時間がかかってごめん。
 おれは珠子の身体をぎゅーっと抱きしめた。
「おにいちゃん……どうしたの?」
 それでも嬉しそうに珠子が訊いてくる。
 ごめんな、珠子、ほっておいてごめんな。
 そう言うかわりに唇を奪った。
 思うまま吸った。
 舌でかきまぜた。
 愛している、と伝えたかった。
 伝わったかはわからないが、拙い舌の動きで応えてくれた。
 おれは、珠子を愛した。愛しまくった。
 二ラウンド目、じゃない。
 さっきは珠子の身体だけを愛したが、今度は違う。珠子のまるごとを愛した。貪った。

  

 

 膣、口、肛門、あらゆる穴を舐めすすり、男根で貫いた。
 射精した。
 射精した。
 射精した。
 珠子が可愛くて、愛しくて、どうしようもなかったから。
 珠子は、いつものように、声を上げずにイッた。
 それでもいい。それが彼女のスタイルなんだから。


 事が終わった後、二人で抱きあったまま南国の空を見上げた。
「わたし……ここにずっといたいな」
 珠子がつぶやくように言った。
 え?
「だって、ここなら、わたし、おにいちゃんに、好き、って言えるもん。抱いてほしい、って言えるもん。こんなふうに、おにいちゃんと愛し合うこともできるもん……」
 おそらくは珠子の人生で最長のセリフだろう。
 その価値は永遠に値する。
「結婚、することだってできるでしょ?」
 その言葉を発した珠子の可愛さは言葉では表現しようがない。
 一生をもって贖うしかないほどに。
「珠子……」
 おれに無限の精力があれば、ここからさらに愛して愛して愛し抜くところだが、さすがに打ち止めだった。
 そのかわり、キスをした。
 誓いであり、契りであるキスを。
 でもなあ……
 おれも珠子も分かってはいるのだ。
 日本でだと、珠子とおれは結婚することはできない。少なくともあと六年は無理だ。よしんばそれまで待てたとしても、日本では重婚は犯罪だ。一人とだけしか結婚できない。
 美耶子はどうする?
 苑子はどうする?
 気恵くんは、一子ちゃんはどうする――?
 その問いには答えを出すことはなく、おれと珠子は時間いっぱい、睦みあったのだった。



つづく

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