山椎体育教師(33歳)が体育倉庫に入ってくる。はっと身体を硬くする滑縄。ぱっと喜色に満ちた智子、声を出そうとする。
「せん、ム―――ッ」
智子の口を滑縄おさえる。智子を引きずって、奥の暗がりに連れていく。抵抗する智子だが、力ではかなわない。滑縄、智子を抱きすくめて跳び箱の影に身を潜める。
「妙だな……確かに声がしたようだったが……」
調べ始める山椎。智子、必死で山椎の注意を引こうとじたばたしている。それを抱きすくめて身をちぢこませている滑縄。
「気のせいか……それにしても橿原のやつ、当番のくせにちゃんと片付けもせずに帰ってしまったのか、けしからん」
ぼやきつつ、山椎、倉庫を出かける。絶望的な智子の眼。
「む……そう、そう」
ふっと気付いて山椎引き返す。
「一応、チェックしておかないとな……おや、縄跳びが足りないな」
智子の手首を縛っているビニールロープのアップ。
「橿原の奴、適当に放り出していったな……」
探し始める。少しずつ跳び箱の方に近付いてくる。
「おや 」
山椎、何かに気付く。ひやりとする滑縄。
「こんなところに五百円玉が……ラッキー」
床から硬貨を拾い上げる。山椎、なに食わぬ顔をして、硬貨をポケットにねじ込み、出口に行きかける。そのとき、ドタン、と智子が必死で脚を振り回して音を立てる。
「なんだ、いまのは……あっ! お前たち」
山椎の視線が滑縄と智子を捉える。智子、滑縄の手を振り払って叫ぶ。
「先生、助けてください! 滑縄くんが、いきなり、あたしを」
「見たな……」
山椎の表情、ドス黒い。
「せん、せい……」
呆気の智子。
「見たよな、お前ら、さっき俺がしたことを」
滑縄と智子、仕方なく頷く。
「何をした……? 俺は」
「五百円を……あのぅ」
滑縄が頭かきかき言う。
「それ、ぼくが落としたやつかも知れません」