悪魔――天野貴之という男を表現するのに、それ以上ぴったりくる言葉はないだろう。
おもての顔は品行方正な紳士だ。アメリカ社会において、日本人というハンデをものともせずに成功し、市民団体の有力者でもある。経済的にも社会的にも一級の成功者だ。
だが、その皮膚の裏側には、とてつもないサディストの血が流れている。
欲望を満たすためなら殺人をもいとわない。そのへんはアメリカじこみなのかもしれない。闇のルートともコネクションを持ち、自分の手をけっして汚さない。このわたしも、かつてはその手駒のひとつだったわけだ。わたし自身は対等のパートナーだと思い込んでいたのだが、現実は奴隷のようなのだ。
いまも、奉仕させられている。
天野貴之の妻、雪江の肛門をなめさせられている。
五十になろうかという大年増のケツをなにがかなしくてなめねばならないのか。その粘膜はすでに紫を通りこして茶色に近い。吐きそうになるのを必死でこらえ、聞きたくもない雪江のあえぎ声を聞かされている。
貴之が悪魔だとしたら、このババアはさしづめ魔王だろう。このババアが実質、貴之のボスなのだ。たいていの悪事はこの女の腐った脳細胞から生み出されているらしい。
かつては才色兼備の女性実業家として鳴らしたらしいが、いまは見るかげもない。莫大な費用をエステにかけ、さらに何度も整形手術を受けているようだが、外見の若さ、美しさは、やはり一皮むけばむなしいものだ。肌はたるみ、分泌物は異臭をはなっている。
「もっと! しっかり、舌をうごかしなさい! ヘタくそ!」
においにめげて舌をはなしかけると、すぐに罵倒の言葉がふりそそぐ。
「あんた、コドモじゃないと立たないの? なさけない」
そうではない。おまえのケツがくさすぎるんだ、と叫びたいのをこらえる。
「ほうら、あれをみなよ。うちの娘が、パパに遊んでもらっているよ」
意地わるい声で雪江が言う。
見たくはないのに、ついそちらに目をやってしまう。
まゆが押さえつけられている。
脚をおおきく開かされ、その上に貴之がのしかかっている。
「どうだ、パパのペニスは? ああ? おおきいだろ? 気持ちいいだろ? ああ?」
腰をはげしくうちつけながら、貴之が言う。
まゆの小さな身体がその動きにたえかねて壊れそうに見える。
「ああっ、パパっ! パパの、パパの、大きいっ!」
だが、まゆは応えている。腰をたどたどしく振りながら、貴之のピストン運動に変化をあたえている。
「いってみろ、まゆ! パパに犯されて最高だっていってみろ!」
「ひうっ! パパ……パパにおかされて……最高っ!」
むろん、本当の親子ではない。だが、貴之は完全に入りこんでいた。
「ふふ、これであの人の夢がひとつかなったわね」
うつぶせのままで雪江が笑った。
「知ってる? あの人は近親相姦が夢だったらしいのよ。児童虐待のいろいろなケースをあの人は扱ったけど、なかでも父親が小さな娘を犯すシチュエーションがお好みだったらしいわ。そういうケースの実態を調べて、問題を提起するのが役目なんだけど、その後がたいへん。わたしに子供のかっこうをさせておしりからするのよ。パパのは最高だろって何度も訊くのよ」
想像したくないシチュエーションだ。だが、露悪趣味を開花させた雪江は話をやめない。
「で、そのあとは、ぎゃくに子供になって犯してくれって泣き叫ぶの。だから、バイブをアヌスにねじこんであげるのよ。それで、やっと満足するわけ。ふふ」
貴之ならやりかねない。
彼はサディストであると同時にマゾヒストでもあるのだ。ペドフィリアに対して、ふだん攻撃的なのも、自分自身に対する嗜虐の意味もあるのだろう。自分の同類を罰して喜ぶ性癖。自分のことを棚にあげるようだが、それはなんとも魔女裁判をおこなった中世の審問官に似ている。
「舌をとめるんじゃないわよ! ん……そうよ、もっと、えぐるようにね」
「……あんた……どういう……つもりなんだ……ダンナに……ああいうこと……たのしいのか?」
苦痛にみちたアニリングスのあいまに、わたしは質問を発した。
「んふう……わたしはオモチャがほしかったのよ。たとえば、七瀬聖美のようなね」
聖美というのは、まゆの母親の名前だ。
「あの女、ムカついたわ。ちょっと若くて、顔もいいとかなんとかで、まわりの男たちをたらしこんだのよ。英語もうまくなくて、あたしが教えてやったくらいなのに。でも、まあ、いいオモチャだったわね。ウソのパーティ会場をおしえて、黒人たちに犯させたこともあったわね。でも、聖美は自分が聞き間違えたのだとばかり思ってたのよ。おなかをおさえて、真っ青な顔をして『夫には内緒にしてください』って言ったのよ。おかしいったら」
「そうだ。わたしのところに相談にきたよ。口のかたい産婦人科を紹介してほしいってね」
まゆを犯しながら、貴之が罪の告白ショーに参加した。だが、この告白には、罪の意識はみじんもない。いや、むしろその罪の深さを楽しんでいるのだ。
「あれは、あたしが言ったのよ。貴之に相談しなさい、悪いようにはしないからって」
「まあ、産婦人科と組んでひと芝居うつのはかんたんだったな。薬をつかって正体不明にして、ナマで何発もやらせてもらったよ。まあどうせあとで堕ろすんだから一緒だな。聖美も、気持ちいい検査だとしか思っていなかったろうよ。だけど最高の具合だったな。子持ちとは思えないほどの締まりだった。ただ、アナルは未開発でね。そっちはできなかった。七瀬のやつめ、アナルくらい開発しておくべきなのに、ダメなやつだ」
「よかったわね、古くからの親友――ライバルかしら?――の若い奥さんをオモチャにできて。あなたは昔から七瀬に対抗意識を燃やしていた。そして、いつも勝てなかった。いまの事業にしても基盤はすべて七瀬が築いたんだものね。あなたは七瀬の友情にすがることでいまの地位を手に入れたのだものね」
「う……うるさい」
だが、その声は弱々しかった。貴之は雪江を本気で叱責することなどできはしないのだ。
その鬱憤はどこへ向かうのか。貴之はドス黒く変色した顔を下に向けた。
「ほら、まゆ、うつぶせになって、そうら、ケツをあげるんだ。まゆのママがしてくれたようにな」
「あんた、その後も聖美と寝たんだでしょ」
雪江がわざとらしく訊く。どうせ知っているのだ。こいつら夫婦は、夜の生活で、たがいの悪事を報告しあってさらに快感を得ているにちがいない。いま、こうしているように。
「ああ。何年か前、逗子の別荘に遊びに行ったときにな。おまえを連れて七瀬が町に行った隙にな」
「まあくやしい」
ニヤニヤ笑いながら雪江が言う。
「産婦人医のことを持ち出したら、一回だけなら、とオーケーした。まあ、こっちには写真とかもあったからな。まゆはちょうど昼寝をしていた。その場で押し倒したよ。よかったぜ」
まだ六つか七つのまゆが寝息をたてているその側で、貴之は聖美の服をはぎとり、そして……
「バックからやったら驚いてねえ。七瀬のやつは正常位でしかやったことがなかったらしいんだな。口でもやらせたが、むろんフェラなんて知らない。どこの姫君かと思ったよ。でも、感度はよかったな。ダンナとのやわなセックスじゃ味わえない気持ちよさだったんだろう。むせび泣いてたぜ。ごめんなさい、ごめんなさい、と繰りかえしながらイっちまった」
「たしかにね、彼はヘタだったわ」
すまし顔で雪江は言う。寝たことがあるのか。だが、この女のことだ。なにがあっても驚きはしない。
「でもな」
貴之の声がくらい。かかげさせたまゆのアヌスをいじりながら、低い声で言う。
「あんなによがってたくせに、おととしは、拒みやがった。一度きりの約束でしたってな。夫にいうだあ? 夫婦は秘密をわかちあうものだあ? ふざけるなっ! あんなままごとのどこが夫婦だってんだ!」
「で、キレた、と」
雪江が糞便の匂いのするガスをもらしながら言う。わたしはもう気分が悪くてどうしようもない。
「そこで、あんたの出番よ、神村。んん、なめるほうじゃないわよ――でも、ちゃんとなめなさいね」
そうだ。わたしは貴之にもちかけられた話に乗ってしまった。それもこれも、まゆの写真を見せられてしまったからだ。わたしは少女がたまらなく好きなのだ。社会的な立場を考え、結婚もしたし、子供もできた。ふつう、娘ができるとそういう趣味は減退するというが、わたしの場合はそうはならなかった。むしろ、実の娘に欲情するのがこわかったのかもしれない。
だから、外に娘がほしくなった。いやらしい要求にはなんでもこたえる従順な娘がだ。
まゆは、いままでわたしが知った少女のなかでも飛び抜けていた。かわいいだけではない。素材としても最高だった。まゆはわたしの傑作だった。
「たいした調教ぶりだぜ、神村。おまえさんに預けて正解だったな」
貴之が、まゆのアヌスを広げながら言う。そこは、容易にひらくのだ。
「おまんこの具合は母親ゆずりとしても、アナルもフェラもばっちり仕込んであるとはな。ちょっといないぜ、ここまでのは」
その部分に、貴之がペニスをしずめていく。
「うう……うあっ」
まゆがたてる声は、しかし、痛みを訴えるものとはちがうようだ。
「もしも、あの青年、沢なんとかっていうのが預かっていたとしたら、どうするつもりだったんだ」
「ふふ、簡単なことさ。やつはおれの系列の会社につとめているんだ。つまり、おれの意志には逆らわない。しょせん、雇われ人だ。ただ、そいつのところだと、こんなふうには仕立ててくれなかったろうな」
「わかんないわよ。意外とうまく仕込んだかもね。純愛路線でさあ」
雪江がまぜっかえす。
「かもな……うっ、すごい締めつけだ」
ぐいっ、と貴之が奥にねじこんでいく。
「あ……あ……はああ」
まゆの身体からは湯気がでそうだった。それくらい上気し、芳香をはなっている。
「まゆが感じているにおいがするぞ? まゆ、おしりの穴にパパのが入って、気持ちいいのか?」
言うなり、乱暴な腰使いでまゆをかきまわす。
「う、は、あっ! きも、きもちいい、パパ……パパのがぐりぐり気持ちいいよおッ!」
まゆが絶叫した。
貴之はけたたましく笑いだした。
「感じてやがる、ガキのくせに! ケツに入れられてよがってるぜ!」
よだれをたらして声を張りあげている。これが名士の正体なのか。高額所得者、上流階級、エスタブリッシュメントの表層に対応する潜在層の発現なのだろうか。わたしは、自分自身をふりかえって戦慄した。
貴之がこちらを見た。目がふつうじゃない。だが、けっしてそれは狂っているのではない。
たのしんで、いた。
「おまえたちもこいよ。まゆと遊ぼうぜ。なにしろ、今日の夜の便で出発するんだ。神村は、なごりを惜しんでおけ。特別におまんこに入れさせてやろう」
「あたしはどうすればいいのよ?」
雪江が不満そうに言う。
「だいじょうぶだって。神村のヘニャチンも、まゆのに入れればすぐに使えるようになるさ。それをたっぷりしぼってやればいいだろ」
貴之の言葉に雪江が笑う。こっちを流し目で見る。ぞっとする。
「ほうら、まゆ、ごろーん」
貴之は、まゆのアヌスに入れたまま、ベッドの上をころがって、自分が下になった。
よほど深々とささっているのか、そんな動きをしても抜けない。
「まゆ、弁護士のおじさんのチンチンをおまんこに入れさせてあげようね。バイバイのしるしにね」
「うん……おじさま……いれて」
まゆが自ら手で性器をひらいている。もうだれに命じられているわけではない。
新しい養父母が嬉々としておのが悪行を語るのを聞いてさえ――いや、もはやそういうことを判断することもできなくなったのか――まゆは快楽をもとめようというのか。
わたしは、はじめて見せられた写真に映っていた無垢な少女の笑顔を思いだそうとした。
だが、できなかった。わたしのペニスは屹立していた。雪江がのどを鳴らすのが聞こえた。
まゆの秘肉が誘っている。
突き入れた。
直腸には貴之のペニスが入っている。
それがわかった。
「おい、おれはまゆを支えているから動けない。おまえが動け」
貴之に命じられるまま、わたしは腰をつかいはじめた。
「ああっ、すごっ、うあああっ」
声質はどう聞いても子供のものだ。その声で、まゆがよがっている。小さな身体に大人のペニスを二本も受け入れて、感じている。
そんなばかな、と思う。ありえない、と思う。
だが、その快感はわたしの肉体にふりそそいだ。
「パパのが……おじさまのが……こすれるよおっ、あはあっ!」
まゆの愛液に、赤いものがまざっている。少女は痛みをさえ快感にかえてしまっているのだろうか。
「まゆ、すごいぞ……」
貴之の声も裏返っている。この男もまゆの肉体に魅了されている。
それについてはわたしと同じだ。
「あっ、あっ、あっ、あんんっ、あっ、あああッ!」
高まっていく。
「おっ、おうあっ」
貴之も。
「ううっ、まゆ、いくよ、いくからね」
わたしも。
「ちょっと、なによ……。まあ、時間はたっぷりあるからいいか」
ひとり蚊帳の外の雪江だが、その口調はあきらかに面白がっている。
「――あっ!」
まゆが痙攣した。膣がきゅうっ、と収縮する。
なんという。
わたしは射精していた。貴之も同時に放っているのが感じとれた。
失神しそうな快感だった。天国というのは――この瞬間がそうなのだ、と思った。
くずおれた。わたしも、貴之も。
そして、遠ざかる意識のなかで、女たちふたりがかわす声をぼんやりと聞いていた。
――これでよかった? ママ
――よくできたわ、まゆ……わたしの娘