五日目(The fifth day) 

「まゆ、おすわり」

 わたしは、首輪につけた鎖をひいて、まゆをうながした。

 むろん、服などは与えない。全裸だ。

 部屋のなかは適度にエアーコンディショニングされており、かぜをひく心配はない。

 まゆはおとなしく床に腰を落とした。横すわりのような格好だ。

 わたしはいきなり鎖をひいた。

「ひぐっ」

 首が一瞬しまったのか、まゆは悲鳴とともに腰をあげる。

「そんなすわりかたがあるか。ちゃんと膝をたてて、脚をひらいてすわりなさい。まゆのおまんこがちゃんと見えるようにな」

「はい……おじさま」

 まゆはおずおずとひざをひらいてしゃがむような格好になった。

 立て割れが、肉づきのうすい太股の奥に見えた。

 ぱくう、と口をひらいた部分から、ピンク色の器具がのぞいている。

 モーター音が聞こえている。

 そこにはローターを入れてあった。昨日から、ずっとだ。それを抜くのは、わたしの男根を埋める時だけだ。

 まゆの膣は狭い。むろん、それが得がたい味わいでもあるのだが、長時間楽しめないという問題がある。なによりまゆが痛みのあまり失神することがあった。

 膣壁を拡張し、また、まゆにその感覚を覚えこませる必要があった。

 わたしは、手をのばし、ローターのスイッチを強にした。

 ぶいいいん、とモーター音が高まり、まゆはおしりを床から浮かせた。後ろに手をついて、のけぞるようにする。

「うあああ、あ」

 愛らしい声でまゆが鳴く。

「気持ちいいだろ? ああ?」

 指でまゆのクリトリスをつねりながら訊いてやる。もうそこは、昨日から充血しっぱなしで、おどろくほど大きくなっている。

「う……あ……」

 痛みのせいか、それ以外の感覚があるのか、まゆが涙目でわたしを見上げる。

「もっと、してほしいのだな?」

 意地わるく言うと、まゆは必死で首を横にふる。

「うそだな。うそつきには、おしおきだ」

 わたしは、ペニスを手で添えて、まゆの口許にちかづける。

 まだ半立ちだ。しかし、わたしの年齢を考えれば、昨日から幾度も射精を経て、まだ立つ気配があるのは驚異的だろう。体力が続くうちに、一定の調教は終えておかねばならない、という使命感のなせるわざか、はたまた、まゆの幼い身体にひそむエロティシズムが欲望をかりたてるのか。

 まゆは、なかば条件反射のように、わたしの男根を口にふくんだ。まゆにしてみれば、休憩できるのはわたしが放出した後の限られた時間だけだ。積極的に舌を動かし、わたしの精液を吸い出そうと努めている。

「ずいぶん上達したぞ、まゆ」

 カリの部分にまといつく小さな舌先の感触を心地好く味わいながら、わたしはほめた。

 まゆの目が細くなる。うれしいのだ。ここでは、評価される技術は性技のたぐいだけだ。人間はだれかに認めてもらうことで快楽を得る。性技以外の評価が存在しない世界に隔離された少女の脳髄に刻みこまれていくのは、すなわち淫靡な技法ばかりとなる。

 わたしが教えたとおり、まゆは男根の舐めかたをマスターしつつあった。カリの付け根を舌先で刺激したあとは、先端を口でつつみ、ちゅうちゅう吸いはじめる。舌で鈴口をれろれろとなめ、先走りの液体をのみこむ。つばをたっぷりとためた口中に、亀頭をすべて迎え入れ、さらに茎の上部までをすいこむ。

 じゅぽじゅぽ音をたてながら、まゆが頭を前後に振っている。

 だが、どうしても口と喉のサイズから、ディープスロートはむりだ。それでも、先端がまゆの喉に当たる感触が伝わるたびに、ぞくぞくと快感がはいのぼってくる。

「まだ、だめだ。タマもちゃんともまないと」

 まゆの手がわたしの睾丸をさわりはじめる。最初のおずおずとしたさわりかたとはずいぶん違っている。ちいさな指が、やわやわとわたしの男のありかを愛撫している。

「う……いいぞ」

 射精にはまだ程遠いが、それでもうずうずするものが身内に起こりはじめていた。

「……よし、もういい。まゆ、フェラは合格だよ」

 ああん、と大きく口をひらいたまゆは、ほっとしたような表情をうかべる。

「では、よつんばいになってねおしりをあげなさい」

 びくっとした様子でまゆは肩をすくめる。

「はやく」

「はい……」

 消え入りそうな声でまゆは言い、身体をくるりとまわすと、小さなヒップをついとあげた。

 かわいいアヌスがまる見えだ。その下には、ローターを飲みこんだ性器がおずおずと顔をのぞかせている。

「まゆはおしりの穴にオチンチンを入れてもらったことがあったかなあ?」

 そのピンクの肉の穴を指でいじりながら、わたしは質問した。

「いえ……」

 まゆはかたい声で言う。

「おしりは指しか入れてもらってません」

 むろん、そう答えろと仕込んであるのだ。

「オチンチンを入れてほしいかい?」

 わたしは、中指をまゆのアヌスにねじこみながらさらに訊いた。

「あうっ、うっふっ、あ……」

 ぐりぐりぐり、と指をねじりこむ。根元ちかくまで挿入すると、指の先端になにか当たった。糞便かもしれない。

「どうなんだい? まゆチャン」

 チャン、の部分をひっぱりあげるようにして発音した。

「あ……はい……入れて、入れてほしいです……」

 くぐもった声でまゆが言う。

 わたしはいきなりまゆのヒップを叩いた。むろん、力いっぱいだ。

「ひうっ!」

 笛がこわれたような悲鳴がまゆの喉を鳴らす。

「こんな、ウンチでいっぱいのおしりに、わたしのモノを入れろというのか? まったく、図々しい、淫乱な子供だな、まゆは!」

 わたしは、指でまゆの直腸をかきまわしながら怒った声で言う。

「ご、ごめんなさい、ごめんなさい……うう」

 あやまりながら、まゆは身体を痙攣的に震わせた。わたしの指が奥をえぐるの同時に括約筋を締めている。むろん、括約筋をしめれば膣もしまるから、ローターの刺激がさらに強くなる。

 まゆのおしりのなかがこころなしかしっとりとしてきたようだ。

 そろそろ、この部分も調教すべき時が来た、ということなのだろう。

「ふん、淫乱でフンづまりのまゆのおしりに入れるためには、つまったウンチを出さないとだめだな」

「え……?」

「浣腸してあげようね、まゆ」

 わたしはやさしい声をだした。

 2

 まゆをベッドに仰向けに横たわらせた。むろん、その下にはビニールシートを敷いてある。シーツやカーペットを取りかえるのは造作もないが、業者をあまり部屋に上げたくない。とりあえずの自衛策というところだ。

「さあ、おしりをあげて、そう、赤ちゃんのようにね」

 オムツをかえるような姿勢をまゆにとらせ、しばらくその姿を鑑賞した。

 愛らしい人形のような顔を赤く染めて、少女は股間を無防備にさらしていた。

 ローターを埋めこまれた膣は激しく愛液を分泌し、モーター音とともに、ひくひくとヒダを震動させている。その下にあるアヌスも、つやつやと光っている。色素の沈着のまるでないきれいなピンク色の粘膜だ。

 昨日から何度となく、指で、舌で蹂躙してきたが、ここに浣腸液を注ぎこむ段になると、やはりさらなる興奮を感じた。

 大型の注射器を取り出した。むろん、針はない。黄色っぽい浣腸液が150CCも入っている。

「これを、まゆチャンのおしりに入れるんだよ」

 これみよがしに、まゆの鼻先に注射器をひらめかせた。当然、まゆの顔が恐怖にゆがむ。なんというかわいらしい顔だろう。この顔をもっと見たい。もっと怖がらせて、泣き叫ばせたい。

 わたしの興奮は急速に高まっていった。

「ほうら、先っぽをあてがうよ。こらこら、力を入れちゃいかん」

 わきあがる笑いをこらえつつ、わたしは注射器の先端でまゆのアヌスを突いた。そのたびにまゆの腰が逃げるのを追いかけていく。

「ほれほれ、入れるぞ、ズブっといくぞ」

「おじさま……うっ、うっ」

 まゆは半泣きだ。

 完全に泣かれると困る。わたしは、からかうのはやめにした。

「よし、入れるよ」

 先端をアヌスにねじこんでいく。

「はうっ……」

 冷たいガラスの感触にとまどってか、まゆが声をあげる。

 浣腸液が奥まで届くように、注射器の先端をまゆの体内に沈めていく。

「あああ」

 異物感にさいなまれているのだろう。まゆは虚空をみていた。

「注入、開始」

 ピストンに圧力をかけていく。浣腸液が押し出されていく。

「ひうっ、つめたあい……」

「どうだい、まゆチャン、浣腸のお薬がどんどん入っていくのがわかるかい?」

「……はい、わか、ります」

「すぐに効いてくるからね」

 浣腸液を注入しおわった。

「でも、おしりのアナに栓をしないとね。お薬がぜんぶでてしまう」

 ちょうどいいものがあった。わたしはまゆの膣からローターを引き抜いた。

「うあうっ……!」

 まるで自分の内臓の一部を引きずられたかのような苦痛の声をまゆはだした。

「ほら、これをおしりに入れて、と」

 ローターをアヌスに埋めこんでいく。やわらかくなっているまゆのアヌスは、ローターをかんたんに受け入れた。

「ちょうどいいな。うん。これならお薬がもれることはないね」

 そして、わたしは、まゆの性器を観察した。

 長時間ローターによる刺激を受けていたためか、その部分はいい感じに濡れている。

「まゆチャン、おまんこがさびしそうだね。ウンチをするまでのあいだ、おじさんのを入れてあげようか」

「……んん」

 浣腸液がきいてきたのか、まゆの額に汗がうかんでいた。

「どうした、まゆ。どうして質問に答えない?」

「おじ、さま、おトイレに行かせて……ください」

「だめだめ。まだ、クスリしかでてこないよ。もっとおなか全体に行き渡らせなくてはね。そのためにも、おまんこに固くて太いものを入れて、かきまわした方がいいんじゃないかな?」

「ああ……おなか、いたい、いたい、よお」

「まゆ」

 わたしは、まゆの頬を指ではさみ、ねじまげた。

「ちゃんと言いなさい。おじさまのオチンチンをおまんこに入れてくださいと」

「うっ……入れて、ください、おじさまのオチンチンを、おまんこに……」

「かきまぜてください、と」

「かきまぜて、ください……」

「ウンチがよく出るように、と」

「よく出るように……」

「なにが?」

「ウ、ウンチが」

「まゆのウンチはどんな匂いがする?」

「……くさいです」

「そうか。まゆのウンチはくさいのか。いっぱい出るといいね」

「はい、いっぱい、出したい、ですっ……あっ、早く、トイレに」

 まゆは泣きベソをかいて、身体を揺らしはじめている。むろん、逃げられないようにおさえつけている。

「ほら、ちゃんと、おまんこを指でひらいて」

「はい……」

 まゆはしゃくりあげながら、自分の性器を指でひらいていく。

 ピンク色の襞が、緊張してぷるぷる震えている。

 わたしは、その部分にペニスをうずめていく。

「かはあっ」

 まゆの括約筋がゆるみ、アヌスに埋めたローターが外れそうになる。黄色い液体が少しもれ出す。だが、これはまだ浣腸液が逆流したにすぎない。

「締めろ! ギュッと締めるんだ! シーツを汚したら折檻だぞ!」

 わたしはまゆのやわらかな頬をつねる。力は入れない。が、まゆの顔が恐怖に歪むのがわかる。

「はひっ、ふうう」

 わたしのペニスが肉の壁に締めつけられる。痛みさえ感じる。

「いいぞ、まゆ。おまんこをかきまわしてやる」

 わたしはまゆの細い太股を抱えるようにしながら、真上からおおいかぶさって、腰を叩きつけた。

 ぐるぐる回転させるように、まゆの狭い部分を掘りかえしていく。

「いひいい、うふうう!」

 まゆが歯を食いしばっている。

 そろそろ便意が突きあげているころだろう。

 それをがまんしようとしているところに、直腸と壁一枚でへだたっているだけの膣をかきまわされているのだ。額に油汗をうかべて、まゆは顔をしかめている。その表情から、まゆの苦痛が伝わってくる感じがして、戦慄に近いこころよさが背筋を走りのぼる。

「いや……いやあ……うううっ!」

 まゆが顔を左右に小刻みに振る。涙目になって、下腹の痛みに耐えている。

 わたしは、上からのまゆのやわらかなお腹を押してやる。

 腹筋が引きつり、どういうわけか乳首がピンと立つのがわかった。

 ぐいぐいとお腹を押しながら、自分の腰はひねる。

「うあっ、もう、でちゃう、お、おじさま」

 まゆが訴えかける。わたしの腕を小さな手でつかむ。

「行かせて、トイレに行かせて、でちゃうう」

「だめだな。おじさんのものをちゃんと気持ちよくさせないと、トイレには行かせない」

 わたしの顔は残虐にゆがんでいたろう。鏡で見られないのが残念なほどだ。

「やああ」

 まゆが必死の形相で腰をうねらせる。便意をこらえているだけではない、彼女なりにわたしをいかせようとしているのだ。これはいいトレーニングになるな、とわたしは思った。たいした締めつけだ。入り口だけではない。膣奥にも絞りを感じる。

「まゆは名器だな」

 褒めてやった。だが、まゆの耳には届いていない。ただひたすら襲ってくる排泄の欲求にあらがっている。

「あっ、あっ、もう、もうっ、ああっ!」

 その切ない顔を見ているだけで、わたしの官能は刺激された。ぞくぞくぞくとはいのぼってくる甘美な感覚。

「さあ、まゆ、そろそろ仕上げだ」

 わたしは、まゆを抱きあげた。ベッドのビニールシートの上にすわり、その上に小柄な少女のからだを乗せる。むろん、挿入したままだ。

 対面の座位のかたちだ。姿勢の変化により、さらに便意がつのったか、まゆが喉奥でくぐもった声をもらす。わたし、小刻みに震えているまゆのヒップに手をのばし、きつく閉じられているアヌスに指を当てた。

 ローターが、なかば飛び出しかけている。わたしは、それを指で押し込んでやりながら、もう一方の手で、リモコンをさぐった。

「さあ、まゆ、いくんだ。おじさんも、いくから、ね」

 わたしは、腰を激しく上下にゆすりながら、リモコンのスイッチを入れた。

 ビィィィィ

 ローターが震動を始め、まゆの身体に電気が走ったかのように、激しくのけぞる。

「うああああっ! ひぃっ、ううっ! でる、でちゃう、でちゃうよおおおっ!」

 ひときわ強い締めつけがわたしのペニスを襲い、睾丸から精液が吸いげられる。輸精管を走った精液は、すこしの躊躇もなく、尿道を歓喜の歌とともに駆け昇っていく。

 医学的にはちがうのかもしれないが、まさにそんな感じだ。

 ポンっ、という音がして、ローターが抜けた。

「いやあああっ! ああっ!」

 まゆが悲鳴をあげ、わたしの首にしがみつく。おしりを突き出して、飛沫を避けるかのように。 

 熱いしぶきがわたしの足にかかる。汚いという感覚はない。

 わたしも出しつづけている。まゆのなかに、白い体液をぶちまけている。

 その代償として、まゆの肛門からは黄金色の汚物がほとばしっているのだ。

 湿り気をおびた、粘膜が震える音とともに。

「やだあ……ああ……」

 まゆがしゃくりあげている。わたしに抱きついたまま、泣いている。

 部屋には悪臭がたちこめていた。まゆの出したものの匂いだ。

「なんてくさいんだ、まゆ。鼻がまがるよ」

「ごめ、ごめんなさい、ごめんなさい、おじさま」

 まゆは心底おびえて詫びていた。わたしは喜悦のあまり、逆上していた。

「この、クソもらし! 折檻だな!」

 わたしは、まゆの身体も、自分の身体も汚れるのをいとわず、少女に襲いかかった。

 まゆの尻をつかみ、アヌスに指を入れる。

 そこは、大量の糞便を通した直後のせいか、とてもゆるやかだった。

 指をぬき、かわりにペニスをねじこむ。

 なんということか。つい先ほど射精したばかりだというのに、すでにそこは固くはりつめていたのだ。

 わたしは年齢を忘れていた。

 まゆのアヌスはわたしを受け入れた。

 最高の感触だった。熱くて、強烈にせまい。

 ちいさなヒップをわしづかみにしながら、わたしは激しく腰を叩きつけた。

 まゆは声もだせず、顔を自らの汚物にまみれさせながら、わたしの凌辱を受けつづけていた。

「よくがんばったね」

 ビニールシートをかたづけ、シャワーを念入りに浴びたあと、わたしは裸のまゆの頭をなでた。

 まゆの身体は水滴に濡れてきらきらと輝いている。肌に鼻をつけても、香るのは石鹸とシャンプーの芳香だけだ。

 うつろな目をまゆはしていた。ことが終わったあと、ずっとこの調子だった。無反応な人形のようだった。

 だが。

 わたしは軽くかがんで、まゆの股間に手をのばした。

 指を、ワレメにかける。

「はうっ」

 まゆが反応する。抵抗はしない。

 指を動かすと、すぐに濡れはじめるのがわかった。

 命じれば、この場でもはいつくばり、膣でも、開発されたばかりのアヌスでも差し出すだろう。

 しかし、さすがにもう今日はだめだ。絞りつくされた。

「まゆ、ごほうびをあげる」

 わたしは、用意していたものを脱衣かごから取り出した。

「今日から、パンツのかわりにこれをはくんだ。いいね」

 それは、革製の貞操帯だった。内側にむかって、突起がふたつある。むろん、膣と、アヌスを調教するためのものだ。サイズは、まゆに合わせた特別製だった。懇意の業者に特別に作らせたのだ。むろん、こうした依頼が初めてというわけではないその業者はだまって注文どおりの仕事を突貫でしてくれた。

 まゆはそれに対してもさほどの反応は示さなかった。まゆの身体にフィットさせ、鍵をしめたとき、少しだけ哀しそうな顔をした。

「この鍵は自分ではあけられないよ。いいかい? まゆチャンの身体はおじさんのモノになったんだからね。勝手に自分でいじったりしてもいけない。すべておじさんの許可をえるんだよ」

 まゆはこっくりとうなずく。すべてをあきらめきったような透明感が少女には漂いはじめている。

 それがまた愛らしいではないか。わたしは自分の「作品」を目を細めて鑑賞した。

 と、その時だ。リビングの電話が鳴った。

「電話……?」

 わたしは訝しく思った。この部屋の電話番号は他人にはほとんど教えていない。

 かかってくるとすれば、特別な相手からに限られる。

 わたしは内心の動揺をおさえながら、リビングに向かった。背後には、無感情な瞳のまゆが突っ立っている。

 リビングで、電話を取る。

「もしもし」

『やあ、ひさしぶりだな……ずいぶんお楽しみのようじゃないか』

 抑揚もなにもない、まるで薄い金属板のような声。

 ――やつだ。

 わたしは首筋に刃物を押しあてられたような気がした。

「電話をかけるな、と言っただろう。どうして、じっとしていない」

『ふざけてもらってはこまるな。あんなくだらん不動産や有価証券がなんだというんだ? あんなもの、しりふき紙のかわりにもならん。あんたがあのガキを仕込み終わるのを待っていたのさ』

「な、なんだと」

『あんたのことだ。さぞかしいい音色が出るように仕上げたんだろ?』

「……ばかなことを。まゆはわたしの取り分だろう。そういう約束だからこそ……」

『書類を偽造したり、いろいろなところに手を回したりしたわけかい? それこそ犯罪だ、いかんねえ、弁護士が』

 電話のむこうの声は楽しんでいる。だめだ。こいつは心底のサディストなのだ。すこしでも弱みを見せたら、相棒でもなんでも食らいつくしてしまう。

「とにかく、いまはまずい。あとで携帯の方に連絡をくれ」

『近々、収穫に行くからな。よくケツを洗わせておけよ』

 引っ張るような笑い声が尾をひいて、唐突に電話は切れる。

 わたしは汗ばむ掌で受話器を握り締めていた。

 悪魔が来た――

 そう思わずにはいられない。

 わたしは恐怖が喉元にせりあげてくるのを感じていた。