MA−YU 学園編
目覚めゆくもの
或いは「まゆの危険なアルバイト」

  

 まゆは天井を見あげていた。薄い目隠しごしに天井の蛍光燈の光のかたちがわかる。

(これから、知らないヒトたちに、まゆのアソコ……いじられちゃうんだ……いっぱい、いっぱい……)

 不思議な倦怠感が身体をつつんでいる。こうなってしまうのではないかと、おしりの穴を触られたときから予感していた。いや、もしかしたら、もっと早く――教務課の前で鏑木と顔をあわせた瞬間に、「それ」は始まっていたのかもしれない。

「伊藤くん、陰核を触診して、状態を確認してください」

「はい」

 別の学生の指がまゆのクリトリスの先端に触れる。

 電流が走った。

 びくっ

 まゆの背筋が軽く収縮する。

「勃起しています。包皮にまだ隠れていますが……」

 伊藤の指がふたたびまゆのクリトリスに触れる。包皮を動かすようにする。

 まゆは必死でがまんする。

 指の腹が剥きだしのクリトリスをなぞりあげる。

「うっ」

 声が漏れる。伊藤にもそれが聞こえたのだろう。まゆの顔をうかがうように見る。

 伊藤は、まゆが完全に目隠しされていると思っているのだろう。まゆの顔を凝視しながら、指を動かしはじめる。

 調べる、というより、まゆに刺激を与えようとする、ねちっこい動きだ。

 包皮ごしにつまんでくる。くりくり、と指の間に挟んでこするようにする。

「ぐく……っ」

 まゆは歯を食いしばった。感じているところを、見られている。

「じゃあ、包皮を剥いて、陰核亀頭を露出させてみてください」

 鏑木の指示。伊藤は従う。

 伊藤の指でずらされた包皮から、赤くて尖ったクリトリスが飛び出す。むろん、まゆは自分のその部分を見ることはできないが、伊藤の表情の変化でそれがわかる。

「状態を報告してください」

「はい。すでに勃起しています。直径は五ミリ程度で、長さは――」

 伊藤がその部分をつまんで引っ張り出す。

「ひっ……ぐぅ」

 まゆの喉が鳴る。

「一センチ弱ですね」

「よろしい、伊藤くん。露出した状態を維持して、指を離してください。あ、中沢くん、それも写真に撮ってくださいね。興奮した陰核亀頭の標本として、ファイルしておいてください。学生がみんな見られるように」

「はい、先生」

 記録係の生徒がデジカメで接写する。勃起したまゆの肉芽の映像が、複製可能なデジタルデータに変換される。

「ついでに膣口も撮っておいてください。それも興奮状態がよくわかる標本になるから」

「わかりました」

 接写。

 おそらく、膣の内部の粘膜の様子まで映っているだろう。

 さっきも撮られたが、こんどは充血しきって、愛液で濡れそぼっている状態だ。もしかしたら、「平常時」「興奮時」とキャプションをつけられて並べられるかもしれない。

 これらの写真が鏑木研究室の記録ファイルに掲載されるのだ。『被験者M.N. 13歳』などとラベルを貼られて……

「じゃあ次は、膣内部の触診に移りましょう」

 職業的な冷静さで、鏑木がカリキュラムを進行させていく。

 

 

「Mさんには処女膜がありませんので、指による触診においても特に問題はありません」

 鏑木がしゃべっている。

「健康な膣壁は常に汗をかいているような状態です。ひだを感じるかもしれませんが、これには個人差、また経年変化があります。よく触って確かめるように」

 茶髪の学生が真剣な面持ちで中指をまゆのなかに侵入させる。

 潤ったまゆの隘路は、つるりとそれを呑みこんでしまった。見ず知らずの学生の指を。

 診察台の上で、まゆは軽く背中をそらした。異物が奥に侵入してくる。

「背骨側の膣壁をさわってみてください。そちらが直腸です」

 硬いものがまゆのなかで回転する。ぞくぅっ、とまゆの背筋が震える。

「その反対側の壁にはGスポットがあります。グランフェルブルク博士の業績ですね。入口から数センチ入ったところに、少しざらっとした感触の部位があると思いますので、探してみてください」

 その言葉に誘われるように、また学生の指が回転する。

 試行錯誤の末、まゆのその部分に到達する。

 膣内でもっとも敏感な部分を触られて、まゆはびくびくっと震えた。学生にもその反応が伝わったらしく、面白がるかのようにこすりはじめる。

「あ……あっ……」

 ぴくんぴくん、まゆは足の指を動かした。

「壁のむこうに袋のような感触があるでしょう? それが膀胱です。言うまでもなく、尿をためるところですね」

 学生が得ている感触を自らも共有しているかのように鏑木が言う。

 指がその部分を強く押す。まゆは、突然衝きあげてくる尿意におびえを感じた。

(おしっこ……出そう……)

 まさか、こんな姿勢で漏らすわけにはいかない。

「じゃあ、次のひと」

 なごり惜しそうにその学生は指を抜いた。続いて、次の学生がポジションにつく。

 有無をいわさず指を挿入。

「んっ……」

 まゆはあえぐ。また、膣をいじくられてしまう。Gスポットを重点的に責められる。尿意がますます強くなっていく。

「なんだか、襞がふくらんできたような……」

 学生が好奇心を剥き出しにして言う。

「そうですか? それでは、もっと刺激を加えてみてください」

「はい」

 まゆはたまらない。その部分をつつかれるたびに、膀胱が刺激されて排尿の衝動がおそってくる。

 漏らすまいと、括約筋を締める。それは同時に学生の指も締めあげることになってしまう。

「きゅっきゅって、絞られるみたいです」

 学生が驚いたように言う。

「ふうむ。それは、Mさんも快感を得ているのかもしれませんね」

 鏑木の言葉を、まゆは心のなかで必死に否定する。

(ちが……ちがうよぉ……)

 否定したい。おしっこをがまんしているだけだ。でも、膣内をいやというほどいじくられて、感じないわけはない。むしろ、高まる尿意とシンクロして、刺激に対する感覚が過剰に高められてしまう。

 まゆの性器は充血し、愛液があふれるほどに分泌している。学生の指が抜き差しされるたびに、とぷとぷと液がこぼれ出すほどだ。

(出ちゃう……もれちゃうよぉ……まゆ、もう……)

 尿意と快感がごっちゃになっている。荒い呼吸が鼻声になって、漏れ出てしまう。

「んっ、んふっ、んんぅっ……!」

 明らかな睦声に、学生もさすがに困惑したようだ。

「あの先生……ボランティアの人が……苦しそう……なんですけど」

「あ、それは生理現象ですから。気にせず実習を続けてください」

 鏑木があっさりと言う。

「時間もないし、膣の触診と――直腸の触診も同時平行でやっちゃってください。あ、もちろん、性器に雑菌が入らないよう、気をつけてね」

(あそこと……おしり……同時に……?)

 まゆは信じられない。そんなことされたら、自分はどうなってしまうのか。

 だが、指導官の指示は絶対だ。学生たちは二人一組になって、まゆの膣と直腸に指を挿しこんだ。

「あう……う……」

 まゆは息がつまる。

「膣と直腸は薄い組織を隔てて隣り合っているんです。そのことがわかるでしょう?」

「わかります」

「ほんとうだ。これ、本多くんの指?」

 学生たちは明るい声を出しあった。

 膣と直腸を隔てる薄い壁が二本の指でマッサージされていた。今まで経験したことのない圧迫感が断続的に襲いかかる。

(前と後ろを……同時に……されちゃってるぅ……)

 まゆを犯しているのは単なる指ではなかった。まゆの秘部をあまさず精査し、記録し、分析しようとするセンサーだ。

 その動きは緻密であり機械的であり、情け容赦というものがない。

「あと、陰核の裏側あたりの膣壁をチェックしてみてください」

「はい」

 まゆの中で指が動く。頭が爆発しそうになる。恐ろしいほど気持ちのいい部分だ。

「そのあたりをこすると、陰核も動くでしょう。その部分の神経がつながっていることが実感できますよ」

「こうですか?」

 本多という名の学生が、まゆの膣のなかを執拗にいじくる。

「ひあっ! ああっ!」

 ものすごい量の電流が走りぬける。まゆは断続的に腰を突きあげ、本多の指を締めあげた。

「いてっ」

 学生が声をあげる。

「すごい締めつけだなあ……」

「同調するように陰核亀頭が動いてますね」

 別の学生が、まゆの肥大したクリトリスをつまんだ。指のあいだで、血色の肉豆が形をかえる。

 クリトリスと膣と肛門で、それぞれの指が動く。三人がかりでまゆの性感帯を責めたてはじめる。 

(そ、そんなっ……そんなに、されたらっ……!)

 耐えられない。がまんできない。腰の動きも、声も、もうコントロールできない。自分の愛液がたてる音を聞きながら、おしりを回しはじめる。

 気持ちいい――というよりも、自分で肉体を統御できない恐ろしさがこみあげてくる。

 同時に、こらえていた尿意に抗するすべもなくなってしまう。

 白いかたまりが身体のなかで爆発し、まゆはまゆでなくなってしまう。もうなにもわからない。

「ひぐぅ……い……ぐ……いっいいいい!」

 激しく腰を揺すりながら、悦びの叫びを放つ。よだれが唇を濡らし、頬にまでたれているが、それを気にする余裕などケシ飛んでいた。

「いっ……いっ……ううっ!」

 背中を懸命にそらし、腰を持ちあげる。学生の指が体内で曲げられている。それを締めあげながら、まゆは昇りつめていく。

「いくっ、いくぅぅぅぅ……っ!」

 まゆは絶叫しつつ気をやりながら、尿道口からしぶきがほとばしらせた。こらえにこらえたものが弾けたのだ。

「わっ! もらした!?」

 学生たちは指を引きぬきながら悲鳴をあげる。

「刺激に対する反射で排尿が始まったようですね。せっかくですから、最後までさせてあげましょう」

 鏑木から指示をうけた学生があわてて金属製のトレイをまゆの股間に置いた。

 まゆの股間から噴出した温かい液体が、トレイに受けとめられる。

「あ……あ……あ……」

 陶然としながら、まゆは放尿を続けている。

 膀胱にたまっていた液体が尿道を通って外界に排泄されていく。灼けつくような感覚――なんという気持ちよさだろう。こんな快感があったなんて、信じられない。

(ああ……みられてるぅ……まゆがイクところも……おしっこしてるところも……ぜんぶ、ぜんぶぅ……)

 オルガスムスのなかで、まゆは放尿を続けた。ぽちゃぽちゃという水音がしばらく続いた。

 

 

 放尿のあとも、学生たちの指による触診は続いた。実習だから、全員が一通り手順をこなすまで終わらないのだ。まゆは何度も絶頂を迎えさせられた。息もたえだえになるほどに。

「これで終了ですね」

 学生の触診実習が一巡したのを確認して、鏑木が言った。

 半失神状態のまゆは、診察台の上でぴくんぴくんと腰をひくつかせていた。股間は泡立った愛液でベトベトになっている。肛門からも、直腸粘膜を通じて分泌された汁が漏れ出ていた。

「それでは、今日の実習のまとめです。席について」

 まゆを診察台に放置したまま、鏑木はホワイトボードに文字を書きつけていく。学生たちは席にもどってノートを取りはじめる。

 ほどなく、講義の終了を告げるブザーが鳴った。

 鏑木は学生を見渡して言う。

「次回は浣腸の実技です。被験体には引き続きMさんになっていただける予定です」

 その声を聞きながら、まゆは漠然と思っている。

 

 ――おにいちゃん……待ってて……プレゼント……もう、すぐ……持っていくからね……

 

 走っている。包みを抱えて走っている。

 高級ブランドものとはいかないけれど、作りのしっかりとした革靴を選び、箱にリボンをかけてもらった。

 夕闇せまる街の通り。待ち合わせの場所を目指して、急ぐ、急ぐ。

 自分がしたことを後悔していなわけではない。澱のように沈殿した罪悪感は、心が揺れるたび、痛みをともなって立ちのぼる。

 良明に明かせない秘密が増えてしまった。

 それでも――

 プレゼントを渡して、良明が喜ぶ顔を見られれば、きっと救われる。まゆのなかの大切なものが守られる。

 そう信じていた。祈りにさえ近い――願い。

 街灯の下に、見覚えのある人影が身じろぎする。良明だ。まゆに気づいたらしい。軽く手をあげる。

 思いきり抱きつきたいけど、人通りもあるし、包みも持っているから、それはできない。まゆは歩みをゆるめて、包みを後ろ手に隠した。

 知らず知らずに笑顔が浮かんでしまう。どんなふうにして渡そうか――良明の反応をいろいろと想像してみる。

「どうしたんだ、まゆ。いきなり会いたいなんて。どっちにしろ、うちで会えるじゃないか」

 スーツ姿の良明が訝しげにまゆに問いかける。不思議そうな表情を浮かべてはいるが、仕事場に突然連絡を入れたことに対しては怒ってはいないようだ。まゆはちょっとホッとする。そういうことに良明はうるさいのだ。

「だって……おにいちゃん、ずっと帰りが遅いし……たまには外でも会ってみたかったんだもん」

「それでも、その制服だとなあ……」

 良明は困ったように視線を動かす。実際に、良明とまゆのカップリングは傍目からすれば少し違和感があるようで、道ゆく通行人たちも好奇心にかられた一瞥を投げかけていく。

「いいじゃない、そんなの」

 まゆは唇をとがらせる。そんなふうに「常識」をあてはめていったら、まゆと良明の生活など、すぐに毀れてしまう。

 そんなことよりも、もっと大事なことが今のまゆにはある。良明のために買ってきたプレゼントを渡すのだ。そして喜んでもらう。そうすれば、まゆが犯した過ちも、すこしは浄化されるだろう。 

「おにいちゃんに、渡したいものが――」

 まゆは言いかけて、良明の足許を見た。

 ちがう。

 今朝までのボロ靴ではない。

 黒光りする、真新しい靴だ。

 まゆの視線に良明も気づいたらしい。

「ああ、これか? 今日、社長と外回りしててさ、おれの靴、底が抜けちまったんだ。それじゃあ客先に行けないからって、社長が買ってくれたんだよ」

 ――そんな。

「けっこういいだろ? 社長の見立てだけどさ。高いもんじゃないけど、まあ、ちょっとしたボーナスっていうか、ラッキーっていうか」

 良明が笑っている。嬉しそうに。

「そこそこ仕事もうまくいっててさ。こんどのボーナスもちゃんと出るみたい。この分だと、思ったよりはやく引っ越しもできるかもしれないし――」

 ――そんなの、ないよ。

 まゆの背中で、包みが冷たく、重くなっていく。

 良明が笑顔で仕事について話している。充実感に満ちあふれている。話すことは、仕事のことと社長のことばかりだ。けっこう、ウマが合っているらしい。

「だからさ、融通もわりときいてさ、特別に定時で退けさせてもらったんだ。今日は外でメシを食おう。久しぶりにさ」

 まゆは小さく首を横に振った。

 良明の笑顔がつらかった。自分がしたことを痛烈に思い出す。手にした包みが汚らわしく思えた。投げ棄てたい。だが、良明のいる前でそれはできない。

 罪そのものを抱いている気がした。

「わたし、先に、帰る、から」

 良明の返事を待たずにまゆは走りだす。

 背後から良明の声が聞こえた。驚いて、呼び止めようとしているらしい。

 それでも、まゆは止まらない。駆けながら、心のなかでさけぶ。

(帰りたいよ……帰りたい!)

 帰る、といっても、良明のもとに戻るしかない。でも、いまは良明の顔を見たくない――いや、見ることができない。

 じゃあ、いったい、どこへ行けばいいのか――

 なぜか、鏑木の顔が浮かんだ。微笑んでいる。

(なぜ……なぜ……?)

 自分で自分がわからない。

 わからないまま、まゆは、学校への道を走りつづけた。

第2話 おわり